ガンダムシリーズの宇宙世紀作品を横断する新作アプリ「機動戦士ガンダム U.C.ENGAGE」。本作に携わったバンダイナムコエンターテインメント、サンライズのキーパーソン4名へのインタビュー企画の後編となるこちらの記事では、今作で新たに描かれる物語や、新キャラクター、新MSといったオリジナル要素について伺いました。
宇宙世紀を描いた『ガンダム』シリーズ作品を網羅的に楽しめるスマートフォンアプリ「機動戦士ガンダム U.C.ENGAGE」(以下、「ユーシーエンゲージ」)。
その開発経緯や宇宙世紀の魅力などを中心に語っていただいた前編に続き、後編では本作で新規アニメーションとともに描かれるシナリオや、本作のオリジナルキャラクターであるペッシェ・モンターニュやオリジナル機体のエンゲージゼロなどについてお話を伺いました。
藤原 康則
バンダイナムコエンターテインメント所属
國安 秀隆
バンダイナムコエンターテインメント所属
「スーパーガンダムロワイヤル」、「ガンダムブレイカーモバイル」など『ガンダム』関連のゲームスマートフォンアプリのプロデュースを手がける。「ユーシーエンゲージ」では藤原と共に企画・開発・運営を担当。
仲 寿和
サンライズ所属
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダムNT』といった近年の宇宙世紀に関わる作品を制作してきたサンライズ第1スタジオでプロデューサーを務める。「ユーシーエンゲージ」では初映像化となる『機動戦士ムーンガンダム』を含む新規アニメーション制作を担当。
福嶋 大策
サンライズ所属
日本ロボットアニメの金字塔『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン・アニメーションディレクターの安彦良和氏が手掛けた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』等のアニメーション作品を制作したサンライズ第5スタジオで多数の新作アニメーションの制作を担当。
アニメ化によってより魅力を引き出せるシーンを映像に
――本作の目玉ともいえる新作シナリオはアドベンチャーパートとショートアニメパートから成り立っていますが、こだわった部分を聞かせてください。
國安:まずアドベンチャーパートですが、こちらはアニメで見せるよりもテキストとして読んだほうがいいだろう、という部分を割り当てています。イラストについてもサンライズさんに制作していただいているので、リッチなクオリティに仕上がっています。また、スパインという2Dアニメーションソフトを使い、アドベンチャーパートでもキャラクターが喋りながら動くようになっています。
藤原:動きの見せ方にもこだわりました。スパインの他にLive2Dという2Dアニメーションを作るツールもあるんですけど、スパインはより工数がかかるぶん本格的にアニメーションを作り込めるんです。そういう意味でも見栄えはよくなっていると思います。
――ショートアニメパートについてはいかがでしょうか?
國安:ショートアニメについては、新作として追加するシナリオの中で一番アニメ映えするシーンをサンライズさんに選定していただいて、そこをアニメ化しています。例えば“ソロモンの悪夢”では、ガトー(※1)が最後に一騎当千の活躍を見せるシーンをアニメにするなど、かなり見ごたえのあるものになっていると思いますので、楽しみにしていただければと思います。
※1 アナベル・ガトー:『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場するエースパイロット。過去の戦いで地球連邦軍に多大な損害を与え、“ソロモンの悪夢”という異名で恐れられている。
福嶋:もちろんゲームパートにも戦闘シーンはあるので、アニメ部分とゲーム部分とでシーンをどう割り振るか、みたいな部分は両社の話し合いで決めていきました。派手に動く戦闘シーンに限らず、よりキャラクターの感情表現をしっかりと見せたいシーンの場合はそこをアニメパートで表現することでより魅力を引き出せるように心がけています。
“ジブラルタルの決闘”のアニメは『THE ORIGIN』のスタッフが制作
――『機動戦士ムーンガンダム』や本作オリジナルの機体・エンゲージゼロが登場する新作シナリオもありますが、そのほかにはどのような新規アニメが観られるのでしょうか?
國安:このインタビューが公開されるタイミングですと、“0079 ソロモンの悪夢”や『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)をもとにした“0079 ジブラルタル”、あとは本作のオリジナルキャラクターであるペッシェ・モンターニュに関するシナリオの前編が出ています。
仲:あとは、PVでもチラッと登場していますが、ジョニー・ライデン(※2)も映像化されています。ゲーム作品では何度も登場しているキャラクターですが、公式にアニメ化されるのは今回が初なので、そのあたりも注目のポイントになると思います。
※2 ジョニー・ライデン:『機動戦士ガンダム』をベースに、プラモデル関連書籍や雑誌で展開されたメカニカルデザイン企画である“MSV”(モビルスーツバリエーション)に登場する、“真紅の稲妻”の異名で知られるエースパイロット。
――“ソロモンの悪夢”や“ジブラルタルの決闘”など、既存の人気キャラクターに関連するエピソードはリリース前から話題になっていましたが、これらのシナリオはどういった理由で選出されたのでしょうか?
福嶋:新たに制作したいシナリオのリストをバンダイナムコエンターテインメントさんからいただいて、そのなかでサンライズでも実現したいと思っているものを選定していきました。“0079 ジブラルタル”は『THE ORIGIN』でも映像化していなかったので、動かしてみたいよね、ということで決まっていきましたね。“0079 ソロモンの悪夢”については、やっぱりガトーの活躍をアニメで観たい、とファンの方も思ってくださるだろうと打ち合わせの場で盛り上がったのも大きいかなと思います。
――サンライズ側のスタッフさんたちも乗り気になったシナリオが出ているわけですね。ちなみに、“0079ジブラルタル”のアニメパートは『THE ORIGIN』に関わっていた方々が制作されているのでしょうか?
福嶋:そうです。『THE ORIGIN』でメカ作画監督を務めていた鈴木卓也さんが“0079 ジブラルタル”でも同じポジションに立ってくれていますし、同様にキャラクターデザインを務めていたことぶきつかささんがキャラクターの作画監督として、ほかに演出などでも『THE ORIGIN』のスタッフが関わっています。
紆余曲折のなかで主役となったペッシェ・モンターニュ
――本作オリジナルのキャラクターやモビルスーツが登場する新作シナリオですが、そもそもこちらはどういった経緯で生まれたのでしょうか?
藤原:これも紆余曲折あって、元々新作シナリオはひと続きのものではなくオムニバス形式だったんですよ。でも宇宙世紀を網羅するのであれば時代をまたぐようなキャラクターを出したいという話になっていきました。
福嶋:「ユーシーエンゲージ」の公式サイトで公開しているペッシェとエンゲージゼロについての動画でも触れられていますが、元々ペッシェは別のシナリオに登場していたオリジナルキャラクターのひとりだったんですよね。でも時代をまたぐキャラクターを出そうという話のなかで、急遽主役に格上げされていきました。
國安:そもそも、当初の企画ではエースパイロットたちの話を作ろうとしていたんですよ。だからガトーやジョニー・ライデンの話が出ていたんです。でも、ゲームの顔となるオリジナルシナリオを作りたいと考え、サンライズさんに「ゲームオリジナルのガンダムを作りたいです」とお伝えし、エンゲージゼロが作られることになりました。
――ゲームオリジナルのガンダムやキャラクターを生み出したいという想いが集まり、エンゲージゼロやペッシェが誕生したと。
國安:そうですね。オリジナルキャラクターを出すにしても、サイドストーリーの主人公で終わらせるのではなく、宇宙世紀の歴史をまたぐキャラクターとして肉付けをしていった結果、今のペッシェ・モンターニュというキャラクターが生まれました。
――『ガンダム』作品、特にアニメ化される作品のなかでは女性主人公というのは珍しいようにも感じますが、今のお話を伺うに最初から女性主人公を立てようとしていたわけではないのでしょうか?
仲:そうですね。女性を主人公にと意識したというよりは、すでにあったエピソードのなかでペッシェはその先が描きやすいところがあったので、彼女を主人公にしました。
――ペッシェとエンゲージゼロに関する動画のなかで出たデザイン画を見て、一部ではエンゲージゼロに使用されているパーツに関する詳細な考察をしているファンもいました。こういった反応を見てどう思われましたか?
國安:かなりこと細かに考察されている方もいて、本当に衝撃を受けました。このパーツを使っているから時代的にもこのあたりに入る機体だ、とまで書かれていて「この人はすごいな」と。
仲:あれは驚きました。そういう方とサンライズでぜひ一緒に働いてみたいんですよね(笑)。
國安:あの映像だけでもそんな考察が出ているので、見る人が見ればどういう風に生まれた機体なのかという経緯はわかっていただけるかと思います。
藤原:ストーリーはあくまでペッシェの話で、エンゲージゼロの開発秘話みたいなものではないので、物語のなかではそこまでエンゲージゼロについて細かく描いてはいないんですよ。
國安:宇宙世紀を年代で分けていって、当てはめやすいところにペッシェを登場させるようにして、じゃあその時にはどんな機体が出せるのか、という風にストーリーと一緒に機体が組み上げられているんです。だから装備も時代ごとに変わっていきます。
――キャラクター主体でストーリーとしての読みやすさもありつつ、マニアックな考察のしがいもあるわけですね。ちなみにペッシェの物語の見どころを挙げるとしたらどんな部分でしょうか?
福嶋:彼女はとにかく悲劇的なキャラクターで、シナリオを読んでいると本当にかわいそうなんですよね。それを見どころというとまたかわいそうなのですが、ペッシェの物語の印象としてそういった面が強いと思います。
藤原:本当にそうなんですよね。泣いているシーンがかなり多いので、宇宙世紀に虐げられた悲劇みたいなものが見られるかと思います。
宇宙世紀という深い世界を楽しむ入り口として
――最後に、「ユーシーエンゲージ」は宇宙世紀をダイジェストで振り返ることができる作品ということで、本作から『ガンダム』に触れる人たちに向けたメッセージをお願いします。
福嶋:新作シナリオを含めキャラクターにフォーカスしているので、そういった部分を少しでも楽しんでいただけたらと思います。あくまであらすじではありますが、全宇宙世紀作品を網羅できますので、そこで試しに見てもらって、興味がもてたらアニメ作品にも入っていただけるとうれしいですね。
『閃光のハサウェイ』はリリースのタイミングではまだ入っていませんが、そこにつながる作品はすでに収録されているので、そういった物語も楽しんでもらえるとうれしいです。あとは単純に、ガトーがかっこいい、みたいなところからでもぜひ『ガンダム』に興味をもってほしいですね。
仲:宇宙世紀の『ガンダム』作品は本数も多いので、一つずつ観るのはたいへんだなと思う方も多いと思います。でも「ユーシーエンゲージ」に触れていただき、興味をもってくれたらありがたいですね。そうして触れるなかで、このキャラが好き、このエピソードが好きみたいなものを発見してくれたら、本作を今の形式にした意味もあるかなと思うので、それぐらいの軽い気持ちで触ってもらいたいです。
國安:普段忙しい方でもそんなに時間を取られないゲームとして、時間がない人やアクションゲームが苦手な人でもマイペースに楽しめるタイトルになっているので、そういった方々にもぜひ遊んでいただきたいです。
藤原:今回はスマートフォンタイトルということで、裾野が広いですよね。ここをきっかけに宇宙世紀を好きになる人を増やしたいという想いを込めた作品でもあるので、ぜひ宇宙世紀の入り口として楽しんでいただきたいと思います。
本タイトル以外にも宇宙世紀の戦場で実際にモビルスーツを操作して楽しめる「機動戦士ガンダム バトルオペレーション2」のような作品や、宇宙世紀を生きたキャラクターの物語を追体験できる「機動戦士ガンダム バトルオペレーション Code Fairy」のようなタイトルもあるので、本作は宇宙世紀という深く楽しめる世界への入り口として手に取ってもらえればと思っております。
「ユーシーエンゲージ」の開発経緯やゲームとしてのコンセプト、宇宙世紀の魅力の魅力などを伺った前編はこちら⇣
「機動戦士ガンダム U.C.ENGAGE」宇宙世紀の入り口となる作品に込めたこだわり【前編】
「機動戦士ガンダム U.C.ENGAGE」が気になった方はこちらをチェック!
©創通・サンライズ
取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。
フィーチャーフォン時代からスマートフォンに至るまで『ガンダム』関連のアプリに携わり、「スーパーガンダムロワイヤル」や「ガンダムブレイカーモバイル」など12年以上に渡り多数のタイトルを手掛ける。「ユーシーエンゲージ」ではプロデューサーを担当。