アニメ『ソードアート・オンライン』の10周年を記念して、2022年11月21日にリリースされたスマートフォンアプリ『ソードアート・オンライン ヴァリアント・ショウダウン』。プレイヤーが主人公となってアクションを楽しめる本作について、ユニークなプロモーションなどを中心に、制作チームにお話を伺いました。
同名の人気小説を原作としたアニメ『ソードアート・オンライン』(以下、『SAO』)。その10周年を記念して制作されたのが、アクションゲーム『ソードアート・オンライン ヴァリアント・ショウダウン』(以下、『SAOVS』)です。
今回は本作のプロデューサーである竹内智彦さんと制作チームの江藤和輝さんにインタビューを行い、制作の経緯やOPアニメに込められたこだわり、作中の新聞を再現した配布物や等身大のキャラクターたちが登場したエキナカ広告など、ユニークなプロモーションなどについてお話を伺います。
竹内 智彦
バンダイナムコエンターテインメント
第1IP事業ディビジョン第2プロダクション
江藤 和輝
バンダイナムコエンターテインメント
第1IP事業ディビジョン第2プロダクション
『SAOVS』制作チーム。好きなキャラクターは「ユージオ」。
OPアニメに込められた制作チームが描く未来
――今回の『SAOVS』が開発されることになった経緯をお聞かせください。
竹内:2022年はアニメの『SAO』が10周年を迎える年でもあり、かつ原作内の時系列でも2022年11月6日に物語の発端となる「SAO事件」(※1)が起きていたので、『SAO』のゲームとしても盛り上がりを作るべきタイミングという意識はありました。そこから構想していき、キリトが『SAO』に初めてログインした年に、プレイヤーの皆さまもキリトと同じく主人公のような体験ができるゲームをコンセプトにしました。
※1 SAO事件:原作内で、2022年11月6日にVR・MMORPG『ソードアート・オンライン(SAO)』が正式サービスを開始。主人公のキリトが初めてログインした日でもある。
――『SAOVS』はスマートフォンアプリのゲームでありながら、OPアニメが特に好評を博していますが、このアニメに込められたこだわりを伺えればと思います。
竹内:大前提として、『SAO』のアニメをずっと制作していただいているA-1 Picturesさまに依頼することは決めていました。とても高いクオリティで仕上げてくださった部分は、A-1 Picturesさまにこだわっていただいたところですね。これはゲームを宣伝するうえでも本当にプラスに働いていたと思います。
映像を見ていただくと、本編では戦わないキャラクター、味方同士が戦っているんです。この部分は、ゆくゆくPvP(※2)のバトルロイヤルという機能を開発しようと考えていたので、その要素を絵コンテの時点で盛り込んでいたんです。それ以外にも公開時には未発表キャラだった、オリジナルヒロインのライラや、彼女に関連するエピソードの要素を盛り込んでいるので、また改めて注目していただけると幸いです。
※2 PvP(Player vs Player):プレイヤー同士が対戦を行うゲームシステムのこと
原作側と密な連携が取れるからこそできる多彩なプロモーション
――『SAOVS』はさまざまなプロモーションを行われていますが、特に印象的だったのはどの施策ですか
竹内:僕は、湊あくあさん、さくらみこさん、紫咲シオンさんといったホロライブ所属のVTuberさんとコラボして実況配信をしたことですかね。実は、これは江藤の発案だったんですよ。自分からは出てこないアイデアでした。
――江藤さんはどういったきっかけでVTuberさんとのコラボを思いついたのでしょうか。
江藤:元々、入社前から湊あくあさんの配信を見ていたんです。ご本人も『SAO』がすごく好きというお話をされていて、その中で竹内さんから届けたいユーザー層のイメージを伺った時に、これはもしかしたら、と思って提案しました。
竹内:10周年により広いファンの皆さまにアプローチしていくためにも、これまでとは違う見せ方をしたかったんです。新しい方々にも届いて、かつ『SAO』との親和性も高いVTuberさんとのコラボというのは、大きな知見になりました。
――そのほかに印象的だったプロモーションを挙げるとしたら何になりますか?
江藤:昨年9月に展開した新宿駅メトロプロムナードに掲出したエキナカ広告ですね。実際に現場にも足を運んだんですが、一瞬見ただけでも記憶に残るインパクトの強さでした。『SAO』を見たことがなさそうな年代の方でも、やっぱりチラッと見て通ってくださったんです。
写真を撮られているファンの方もいらっしゃって、そういった反応が直に見られたという意味でも印象に残っています。遠くから広告を見守るっていうとちょっと不審者っぽいんですけど(笑)。
――アニメにもバンダイナムコエンターテインメントが製作委員会(※3)として関わっていることもあり、原作側との連携の取りやすさのようなものはあるのでしょうか。
※3 製作委員会(方式):コンテンツの作成において、複数の企業や団体が出資する形式。
竹内:そうですね。過去のゲームタイトルの時代から、連携はかなり密に取らせていただいています。イラストコンテスト『Drawing my SAO』ではコミカライズなどを手がけている公式のクリエイターさんにイラストを寄稿していただけましたし、『SAOVS』以外の既存タイトル向けには、小説版の挿絵を描いているabec(アベシ)さんにパッケージビジュアルや衣装デザインをしていただいたりもしています。いつか『SAOVS』でも……と思っています(笑)。
江藤:『SAOVS』をリリースしたタイミングでは、原作側にミニエピソードも作ってもらいましたよね。
本作のリリースが昨年11月21日でしたので、その21日の時点で浮遊城アインクラッドの世界(『SAO』の舞台となるオープンワールド型の仮想空間)に何が起きていたのか、それを『SAOVS』にも関連する、ある登場人物を主人公にして語る物語を作っていただいたんです。スタートを盛り上げるものとして、公開させていただきました。
ゲームの枠を超え、『SAO』という作品自体を広める
――プロモーションを行っていくうえで重視されているのはどのような点でしょうか。
竹内:やはり、ゲームのことばかりを発信するだけでは、ゲームが好きな人にしか届かないと思うんです。なので、ゲームの枠を超えて、『SAO』という作品そのものを広めていく、というのを基本方針として立てています。
2022年であれば『SAO』が今年すごいことになるんだよ、みたいなアプローチで作品の認知を進めて、そのうえでゲームもあるよ、というふうに進めてきました。それもあって、VTuberさんとのコラボやエキナカ広告なども含め、これまでにない規模の展開ができたのかなと思っています。
――ユニークなプロモーションとしては、2022年10月22日に映画『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ』が公開された際、作中のSAO事件を報じた架空の「東玉新聞」が配布されていました。あちらはどのような意図で制作が行われたのでしょうか。
竹内:やっぱり、2022年11月6日という原作中での日付が、現実の日付としてもあるという存在感を出したかったんですよね。なので、アニメに出てきた新聞が手に取れる体験というのは、アプローチとしておもしろいなと思ったんです。
江藤:中身にもすごくこだわって、かなり時間をかけて校正しましたね。実際に手に取っていただいた方からの反応も良くて、配布が終了してしまったことに対して、SNSで惜しんでいただく声が多かったです。
――ちなみに、新聞に盛り込んだ要素で、特にイチ押しのものを挙げるとしたらどこでしょうか。
竹内:「エギル」というキャラクターがいるんですけど、彼のスイーツのレシピが新聞に載っているんですよ。ここもしっかりとこだわっていて、書いてあるとおりに作れば由緒正しきスイーツがちゃんと作れるようになっています(笑)。
――『SAO』は海外にもファンが多い印象ですが、海外を意識したプロモーションなどはありますか?
竹内:ユーザーコミュニケーションのひとつとして、Discord(※4)に公式のサーバーを開設しました。海外の方も含めてファンの方々が自由に発言できる場所です。現在(2023年1月時点)で登録者が1万人近くいて、そこで出る発言からゲームの問題に気づけたり、ファンが求めているものを探る手掛かりになったりしています。
※4 Discord(ディスコード):メッセージをやりとりするチャットサービスや音声通話機能、画面共有機能などを兼ね備えたコミュニティアプリ
「ファンとの対話」で水面下に隠れている声まで拾い上げる
――今後こんなプロモーションもしてみたい、といった考えはありますか?
竹内:やはりファンの方々との対話ですね。『SAOVS』はタイトルの規模が大きくなっていたことや、コロナ禍に重なってしまったこともあって、これまでそういったことはしていなかったんです。リアルな場でファンの方々と会話する、配信でコメントを拾いながらコミュニケーションをする、みたいなことはしていきたいですね。
江藤:SNSなどの声はもちろん拾いやすいんですけど、そこに出てきていないであろう、水面下にある声も行動分析などから特定して、裏付けのある施策作りをしていきたいと思っています。
竹内:今後バトルロイヤルの開発も本格化させていきますが、ユーザー同士でも何かしらの交流ができるようにはしていきたいですね。あと、今はどうしても開発チームの顔が見えないままファンの方々にものを届けている状況なので、そこは変えていきたいと思います。
――では最後に、『SAOVS』を遊ばれているファンの方々、あるいは興味があるけどまだプレイしていないという方に向けたメッセージをお願いします。
江藤:アクションゲームとしておもしろい作品に仕上がっていると思いますので、ぜひプレイしてみてください。今は触りにくいような部分もこれからもっと遊びやすくしていきますので、すでに遊ばれている方は今後の展開にご期待いただければと思います。
竹内:現段階では、我々としても課題に感じている部分はたくさんあり、ユーザーの皆様にご迷惑やご心配をおかけしている部分があります。その点を解消しつつ、アクションゲームとしてより広く楽しんでいただけるように運営していきます。また、2023年は『SAO』ゲームの10周年記念ということで、本作をはじめ各タイトルがさまざまな展開を予定しています。本作に限らずシリーズ全体で『SAO』を盛り上げる年になると思いますので、楽しみにしていただければ幸いです。
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【編集後記】
原作小説やアニメの他、コミック、各種ゲームと広く展開する『SAO』。今回はアニメ10周年記念作品である『SAOVS』についてお話を伺いました。個人的にはOPアニメに未実装の要素を入れ込む、というのはゲームならではの遊び心ある取り組みだと感じました。
また、ゲームはゲームの宣伝を、となるのではなく作品そのものの認知を広めた先でゲームを提供する、というプロモーションの進め方も原作のある作品ならではですね。SAO事件があった2022年を迎え、今後どのような展開を見せてくれるのか期待が高まります!
取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。
©2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project
©Bandai Namco Entertainment Inc.
『SAOVS』プロデューサー。『ソードアート・オンライン インテグラル・ファクター』のプロデューサーも務める。好きなキャラクターは「エギル」。