いちファンから『テイルズ オブ』シリーズプロデューサーに。「好き」を原動力に、周囲への敬意を作品に還していく“社会人力”とは?【SPOTLIGHT】

今回の【SPOTLIGHT】シリーズでは、バンダイナムコエンターテインメントのアシスタントプロデューサー 石川結貴さんに焦点を当てます。

「困っているときに『仕方ないな、助けてやるか』と思ってもらえるかどうか、これは社会人としてすごく大事な力だと思うんです。手を差し伸べてくれる人が多いほど、その結果が作品に還っていくと思うので、そういう“社会人力”は大切にしていますね。」

学生時代から『テイルズ オブ』シリーズに熱中していた縁で入社したものの、入社直後はまったく異なる部署に配属された石川さん。そこからどのようにシリーズの仕事につながっていったのか、多くの人と関わるプロデューサー業だからこそ意識していること、過去にやってしまった失敗談やそこから得た教訓などを伺いました。

【SPOTLIGHT】とは?
ファンファーレ編集部が、今気になるバンダイナムコエンターテインメントの社員に話を聞く連載企画。仕事に取り組む社員の素顔に【SPOTLIGHT】を当てて、これまでの経験や思い、本人のキャラクターを紐解きます。本シリーズを通して、これからのエンターテインメントが作る未来を照らします。

従来のシリーズ作品からビジュアルやシステム面を大きく刷新した『テイルズ オブ アライズ』。新規ダウンロードコンテンツ『テイルズ オブ アライズ – Beyond The Dawn』(以下、『Beyond The Dawn』)も配信された本作のアシスタントプロデューサーを務める石川結貴さんにインタビューを行いました。

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石川 結貴

バンダイナムコエンターテインメント
第2IP事業ディビジョン 第2プロダクション チーフ

『テイルズ オブ アライズ』アシスタントプロデューサー。リマスタータイトルの宣伝に関わるほか、IP総合プロデューサーの富澤祐介とともにプロモーションにおけるIPとしての監修を行う。

その日ごとにやることが変わるのがプロデューサーの仕事

――まずは石川さんの現在のお仕事について教えてください。

石川:今は『テイルズ オブ』シリーズのプロデュースを行っています。2019年から『テイルズ オブ』チームに加わって、直近では『テイルズ オブ アライズ』の『Beyond The Dawn』という大型ダウンロードコンテンツをプロデュースしています。

ざっくりと言えば、そのタイトルを製品としてどう売り出すかを考え、そのためにかたちを整えたり販売戦略を練ったり、ということをしています。

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『テイルズ オブ アライズ』アシスタントプロデューサーの石川さん

――日々の作業におけるルーティンのようなものはあるのでしょうか?

石川:新卒採用のイベントでもたまに聞かれるのですが、全然ルーティン化されていないんですよね。もちろん朝のメールチェックは毎日行いますが、1日ごとに作業が違ってくるのがプロデューサーの特徴かなと思います。音声収録で1日中開発会社のスタジオにこもる日もあれば、テレビCM用の映像をずっと編集している日もあって、かと思えばひたすら打ち合わせをする日もあります。

――石川さんは学生時代からの『テイルズ オブ』シリーズファンということで、その出会いについて教えてください。

石川:中学時代にサッカー部の同級生が勧めてくれたのがきっかけでした。元々RPGは好きで遊んでいたんですけど、そのころは周りがやっていないようなゲームをするほうが大人っぽいと思っていて、アニメらしい絵柄の作品にはあまり触れていなかったんです。

ただ、当時放送されていた『涼宮ハルヒの憂鬱』や『灼眼のシャナ』といった深夜アニメはよく見ていたんですね。友達とアニメの話をしていた時に「それなら『テイルズ オブ』シリーズも合うはずだ」と、『テイルズ オブ ジ アビス』を貸してもらったんです。それでどれどれ、と触ってみたら……ものすごく面白くて。

――そこからほかのシリーズ作品にも興味を持たれたと。

石川:『テイルズ オブ ジ アビス』は友達に返した後も自分でソフトを買って何周もしましたし、それ以前の作品や最新作にも並行して触れていきました。高校を卒業するころには、過去作から最新作まで全作品を制覇していましたね。

椅子に座っている男性たち

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さまざまな作品や職種を経験し、満を持して『テイルズ オブ』シリーズ担当に

――シリーズガチ勢と言っても差し支えないかと思いますが、入社時にもそのあたりはアピールされたのでしょうか?

石川:そうですね。『テイルズ オブ』シリーズが好きという話もしましたし、よくある「学生時代に力を入れたことは?」という質問には6歳から続けているサッカーの話をしました。でも、入社して1年目に配属されたのが「機動戦士ガンダム」シリーズと『プロ野球ファミリースタジアム』のプロダクションチームだったんです。

ただ、仕事で関わるからにはと「機動戦士ガンダム」シリーズは第1作目から当時最新作だった『機動戦士ガンダムUC』まで全部見て、野球もスポーツニュースをチェックするようになりました。2年目ですぐに営業部に異動となってしまったんですけど、営業でも「機動戦士ガンダム」シリーズ作品の販売を担当することがあったり、営業先での雑談に野球の知識が活かされたりしました。

営業部に異動した年に発売された『テイルズ オブ ベルセリア』を売り出すときには、2時間ある商談のうち1時間50分くらいは『テイルズ オブ ベルセリア』の話をしていました(笑)。

営業を4年間経験した後、社内公募に手を挙げて、当時新設された『テイルズ オブ』シリーズのIP(※1)ルームに異動してライセンスビジネスに携わりました。ライセンス活動は営業をする側でもあり、受ける側でもあったので、営業の経験がすごく活きましたね。当時はジョブローテーションの良い側面を実感できました(笑)。

※1 IP:Intellectual Property=キャラクターなどの知的財産

助けてくれる人が多いほど、その結果が作品に還っていく

――紆余曲折あってシリーズのプロデューサーとなったわけですが、改めてプロデューサーとはどんな仕事だと思いますか?

石川:たくさんの人にお願いをして回る仕事だと思っています。私はイラストや映像の専門技術があるわけではないので、全体を俯瞰しながら製品としてベストなかたちに持っていく役割を担っています。製品として良いものにするには、作品自体のクオリティを上げるのはもちろん、販売に向けた体制を整えることも大事です。

ゲーム音楽の作曲家などのクリエイティブを制作してくれる方だけでなく、営業やマーケティングのチームとも相談しますし、時には北米や欧州の担当者とも話をするので、本当にさまざまな分野のプロにお世話になるんですよ。

何かの分野においてのスペシャリストなプロデューサーも活躍しています。でも私みたいに、何かに秀でているわけではないならば、なるべく多くの人を巻き込める人が向いている仕事かな、と。

製品作りにはスタッフロールに載っていない方も含めて本当に多くの人が関わっていて、各部署の社員が力を合わせてくれるからこそ、ゲームというものが世に出ていくんです。それを自覚しながら働く力が、製品を背負って立つプロデューサーには必要なのかなと思います。

黒いシャツを着ている男性

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――多くの方とやりとりをされる中で、特に意識されていることがあれば教えてください。

石川:みんなに気持ちよく力を貸してもらえるように、「ありがとう」と「ごめんなさい」をしっかりと伝えるようにしています。曖昧にしてしまいがちな瞬間もあるかもしれませんが、自分に非があればきちんと認めて、助けてもらったらちゃんと感謝をするのは大事だと思います。

困っているときに「仕方ないな、助けてやるか」と思ってもらえるかどうか、これは社会人としてすごく大事な力だと思うんです。手を差し伸べてくれる人が多ければ多いほど、その結果が作品に還っていくと思っているので、そういう“社会人力”は大切にしていますね。

幅広い知識をつけるために、流行っているものは常にチェックしています。映画『RRR』はブームになる前から観に行って、周りの人に「つまらなかったらお金は返す!」と言って布教するくらいハマりました(笑)。

――お仕事をされる中で「これはやってしまった」という失敗談はありますか?

石川:営業時代に、大きな発注を取り付けたのに生産担当の方に連絡するExcelに発注本数を入力し忘れてしまったんです。発送日になってゲームが届いていないという連絡を受けた時は、体の穴という穴から汁が出ました……。

私も発売日のワクワクを知っているので、商品が届いていないから買えませんと言われたときの気持ちを考えたら、本当にとんでもないことをしてしまったと思いました。幸いどうにか間に合わせることはできたんですけど、あの時は「ごめんなさい」と「ありがとう」を一生分くらい言ったのではないかと思います。

――その失敗をきっかけに意識が変化した部分もあったのでしょうか?

石川:改めて徹底したのは、5分以内にできる仕事は最優先で片付けることです。何か質問を受けたときに、すぐ返せるからと言って後回しにすると、簡単に忘れてしまうんですよね。

1週間や1か月かかる仕事であれば、途中で誰かしらが確認してくれたりして助けてもらえるじゃないですか。でも5分、10分単位の仕事にはそれがないからこそ、油断せず最優先で片付けることを心がけています。LINEなども爆速で返信をするようにしていて、周囲からは「女子高生みたい」と言われています(笑)。

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ファンも制作陣も、『テイルズ オブ』シリーズが好きだという意味では同じ仲間

――仕事として『テイルズ オブ』シリーズに関わるうえで、特に意識されていることはありますか?

石川:ファンをひとくくりにしすぎないことですね。同じ作品が好きでも、キャラクター性が好きな人やアクションゲームとして好きな人、みたいに細かな違いがあるじゃないですか。

私自身も経験があるんですけど、特定の層にしか向けていない施策を見ると、疎外感みたいなものを感じてしまうんですよね。最大公約数のファンに喜んでもらうことを考えつつも、多様なファンを大切にするバランス感覚は大事かなと思います。

――ご自身がファンだったからこそ思い付いた企画などがあれば教えてください。

石川:25周年企画で過去作を紹介するアバンタイトル(※2)や周年記念アートなどを作ったんですけど、どうせだったら過去作のファンが見てニヤっとするような仕掛けを入れたい、というのは考えた部分ですね。

※2 アバンタイトル:アニメのオープニングに入る前に流れるプロローグシーン

例えば『テイルズ オブ ジ アビス』のルークには彼と関わりが深いアッシュの要素をイラストに忍ばせました。また、各作品を本という概念に落とし込むときにも、「このタイトルなら裏表紙をこんな模様にしよう」みたいな仕掛けを作りました。全作品を遊んでいたからこそ楽しく考えられたところかな、と思います。

『テイルズ オブ』シリーズ25周年記念アート画像

――ファンならではの愛が詰まっていますね。

石川:私もそうですし、バンダイナムコスタジオのメンバーも本当に『テイルズ オブ』シリーズが好きなんですよね。テュオハリムはファンの間で「テュオさま」と呼ばれることがあるんですけど、実は開発中はスタジオのメンバーたちもそう呼んでいたんです。キャラクターや物語に対する愛が強いチームなんですよね。

動画に対するコメントや作品のレビューなどを見ていると、ファンからも同じ愛をたくさん感じます。プロモーションをする側、受け取る側という多少の違いはあるんですけど、同じ『テイルズ オブ』シリーズのキャラクターや作品が好きな仲間というか、同じ光のほうを向いているんだな、と思います。

――最後に、石川さんは学生時代から好きだった『テイルズ オブ』シリーズにお仕事でも関わっているわけですが、「好き」を仕事にするために大事なことは何でしょうか?

石川:鉄板ですけど、好きだった気持ちを忘れないことですね。よく「仕事にしたら好きじゃなくなってしまうのではないか」と言われるんですけど、そんなことはないんですよ。人間同士で軋轢が生まれることはあるかもしれないですけど、それは作品やキャラクターには関係ないじゃないですか。

自分なりに感じて、自分なりに考えていることがあれば、例えばシリーズに20年間関わっているような人にも説得力がある意見を言えるので、「好き」という気持ちを持ち続けることが大事だと思います。

【あなたは未来のエンターテインメントをどのように照らしますか?】
石川:プロデューサーとしての私がスポットライトを当てる対象は、ゲーム作品そのものです。そのゲームがきれいに、力強く見えるように、より広く輝いていけるように、適切なタイミングで適切な光量を出していくこと。それがプロデュース業だと思っていますので、今後も精進していければと思います。

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【取材後記】
石川さんのお話で特に印象的だったのは、失敗談とその教訓です。ちょっとした作業を後回しにした結果忘れてしまって冷や汗、というのはけっこうな人が体験した、あるいはしかけたことがあるのではないでしょうか。短時間で済むから後回し、というやりがちなことを徹底して潰すというのはミスを防ぐうえではとても大切なことに思えます。爆速返信は実際大事!

面接でも『テイルズ オブ』シリーズ好きをアピールしていたのに配属されたのは別の作品、というのもあるあるかもしれませんが、機会を活かして「機動戦士ガンダム」シリーズなどについてもしっかり勉強された、というお話も印象的でした。自分が知らなかっただけでおもしろいはず、という姿勢で新しいものを取り込めるのはそういった場面で非常に強みになりますね!

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。

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