『テイルズ オブ』シリーズのマーケターがいちエンタメファンとして取り組む「寄り添いマーケティング」【SPOTLIGHT】

今回の【SPOTLIGHT】シリーズでは、バンダイナムコエンターテインメントでグローバルマーケティングを担当する東村遥さんに焦点を当てます。

「自分自身もエンタメから元気をもらっているファンなので、やってもらったらうれしいことに取り組みたいと思っています。」

アイドルに夢中だった学生時代から、多角的な展開の可能性を秘めたIP(※1)ビジネスに惹かれ、バンダイナムコエンターテインメントに入社した東村さん。ファンコミュニティ運営に携わる立場として意識していることや、社内のメンバーを巻き込んで動くうえで心掛けていることなど、バンダイナムコエンターテインメントのマーケターとしての日々を伺いました。

※1 IP:Intellectual Property=キャラクターなどの知的財産

『テイルズ オブ アライズ』のダウンロードコンテンツ『テイルズ オブ アライズ – Beyond the Dawn』(以下、『Beyond the Dawn』)を広めるために行われた「フルルのBtD宣伝大作戦」など、『テイルズ オブ』シリーズのマーケティングを手がける東村遥さんにインタビューを行いました。

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東村 遥

バンダイナムコエンターテインメント
NE事業部 グローバルマーケティング部 チーフ

『テイルズ オブ』シリーズのマーケティング担当。『テイルズ オブ』シリーズを含むフリー・トゥ・プレータイトルのテレビCMやWeb広告、SNSアカウント運用やイベント運営など、ゲーム外の展開を手広く手がける。

アイドル好きが高じてエンタメ業界へ

――まずは、東村さんの現在のお仕事について教えてください。

東村:現在はフリー・トゥ・プレータイトル(基本プレイ無料のゲーム)のマーケティングを担当しています。ポータルサイトである「テイルズチャンネル+」の企画・運営などが主な業務です。「テイルズチャンネル+」では、会員向けの施策やコンテンツの立案、システム面、サイトの運営など、多岐にわたって関わっています。

『テイルズ オブ』シリーズのマーケティングを担当する東村さん。シリーズとの出会いは学生時代、『テイルズ オブ』シリーズファンの友人が黒板を使った講義形式でその魅力を教えてくれたことでした。

――「テイルズチャンネル+」では会員向けのプレゼントなどもありますが、そういった景品も考えられているのでしょうか?

東村:そうですね。私たちで考えたものを制作しています。社内のメンバーも『テイルズ オブ』シリーズが好きな人が多いので、ファンの反応を見るのはもちろん、「自分ならこんなアイテムが欲しい」といった部分からアイデアを出しています

東村さんのアイデアで生まれた、「テイルズチャンネル+」のポイント交換でもらえるスノードーム。

――入社前の就職活動では、どんなことを軸にされていましたか?

東村:元々アイドルファンだったので、好きなことを仕事にしてみたいと思い、エンタメ企業を中心に受けていました。さまざまなエンタメに触れる中で、キャラクターなどのIPを軸にしたビジネスに可能性を感じたんです。

なので「アイドルに関わりたい」というよりは、キャラクターを扱う仕事がしたいと考えていました。

――キャラクターを軸にしたビジネスへの可能性は、どのようなタイミングで感じられたのでしょうか?

東村:キャラクターは、シチュエーションを大きく変えられるじゃないですか。

例えば、いきなり王子様のような格好をすることもできるし、宇宙飛行士になって宇宙に行くこともできますよね。そういう幅の広さはキャラクターならではの部分だと思います。

――バンダイナムコエンターテインメントに入社を決めたポイントは何でしたか?

東村:やはり、キャラクターやIPを軸に最適なタイミング、幅広い商品・サービスでファンとつながれることです。バンダイナムコエンターテインメントだけでなく、バンダイナムコグループには玩具、映像、音楽、アミューズメント機器などを展開する会社もあるので、キャラクターの強みをさまざまな角度で活かせるところが魅力だと思います。

社内表彰を受けた「フルルのBtD宣伝大作戦」では「ホッホーゥ!」がトレンド入り

――2023年度には、東村さんが関わった『テイルズ オブ アライズ』(以下、『アライズ』)の「フルルのBtD宣伝大作戦」が社内で表彰を受けたと伺っています。こちらについて、まずキャンペーンの概要を教えてください。

東村:「フルルのBtD宣伝大作戦」は、『アライズ』のダウンロードコンテンツ『Beyond the Dawn』を多くの方に届けるために企画しました。『アライズ』ファンの方々に作品の良さを発信していただいて、まだプレーしたことがない方や、『Beyond the Dawn』を買うか迷っている方の背中を押していただきたいと思ったんです。

X(旧Twitter)で投稿したら1フルルポイント、『Beyond the Dawn』の動画を再生したら1フルルポイント、というようにポイントをためていき、そのポイントで景品を手に入れたり抽選に参加したりできる企画でした。

――このキャンペーンで特にこだわったのはどのようなポイントですか?

東村:世界観作りですね。こういったキャンペーンはほかのコンテンツでも行われているので、その中でも『アライズ』のファンが参加したくなる、参加して楽しいと思ってもらえるものにしたかったんです。そこで、すごく愛されているフルルというフクロウをモチーフとしたマスコットキャラクターに登場してもらいました。

加えて、単に好きなところを発信してほしいと言われても迷ってしまうと考え、オリジナルのフクロウを作れる「ダナフクロウメーカー」というものを用意し、「ホッホーゥ!」という鳴き声の下に、カッコ書きで自分なりの意味を書き込めるようにしたんです。

――確かに、この形式だと参加すること自体が楽しくなりそうですね。

東村:参加者の一人ひとりに満足していただけるキャンペーンを目指しました。自分自身もエンタメから元気をもらっているファンなので、やってもらったらうれしいことに取り組みたいと思っています

当時、「ホッホーゥ!」がX(旧Twitter)のトレンド入りをしたのは、想像の斜め上の結果でしたが、ありがたかったです(笑)!

プロデューサーの仕事を知ったからこそ生まれる「寄り添いマーケティング」

――マーケティングを行ううえで、ファンが求めているものを汲み取ることが大切かと思います。こちらはどのように探っているのでしょうか?

東村:とにかくインプットですね。完全にファンの方の気持ちになりきるのが難しい場合も、まず最大限のインプットはするようにがんばります皆さんから発信されているものにも、なるべく目を通すようにしていますね。SNSでの書き込みもそうですし、今はファンの方が動画を上げてくれているので、YouTubeなどもチェックしています。

そのうえで、どうしてもわからなければ、やっぱり人を頼ります。誰に聞くのがベストか、普段からアンテナを張っておいて、一緒に良いものを作れそうな人を探すように努力していますね。

――マーケティング職に就かれるまでの経験で、これは活きたなと思うものはありますか?

東村:2年目まではスマートフォン向けゲームアプリの事業推進部やプロダクションでの業務に携わっていたんですけど、プロデューサーの大変さを少しでも経験できたことは大きいです。自分で言うと恥ずかしいんですけど、以前上長に「寄り添いマーケティング」と言ってもらったんですよ。

――「寄り添う」というのはファンに対してでしょうか?

東村:ファンに寄り添う努力もしていますが、自分がプロデューサーの経験を少しできたからこそ、プロデューサーにも寄り添えると思っています責任を抱える立場のプロデューサーに寄り添って、実現したいことを叶えていったり、時には一緒に悩んだりするようにしています。

――IPを取り巻く人たちに寄り添いながら、マーケティング課題に向き合っていくうえで意識していることは何ですか?

東村:ビジネス上の利益の最大化と、ファンの期待に応える部分の最大公約数を取るバランスは、強く意識している部分であり、難しい部分でもあります。ひとりだと考えが偏ってしまうので、社内の人に意見を聞くようにしていますね。マーケティングはいろんな人の目に触れるからこそ、絶対に自分ひとりでは判断したくないと思っているんです。

ただ、たくさんの意見を聞いていく中で、全部を取り入れると尖りのないものになってしまうので、ひとつの芯が通せるように自分の考えを持つのは意識しています。

――新しい施策を仕掛けていくうえで、周りを巻き込むために意識していることは何ですか?

東村:やはり、結局のところ動いているのは人だということです。もちろん、みんな社会人なので割り振られた仕事は全うするんですけど、一言でやる気がなくなることもあれば、モチベーションが上がることもあるじゃないですか。なので、頼む側も頼まれる側も、「よし、一緒にやろう!」と気持ちよく思えるようなコミュニケーションは心掛けています

そのため、というわけでもないんですけど、私は自己開示をすることが多いかもしれないです。私はこれをやりたいけど自分ではできなくて、あなたが助けてくれたらできるだろうし、もっと大きなこともできるかもしれないから、一緒にやろうよ、みたいに言うことは多いです。

――いわゆる一般的なマーケティングとバンダイナムコエンターテインメントでのマーケティングで、違うところはありますか?

東村:いわゆるマーケティングの正攻法や流行りのロジック、得られたデータなどを使って成功確率が高くなるように戦略を組むのは共通する部分かなと思います。ただ同時に、それが通じないのがバンダイナムコエンターテインメントのマーケティングの難しさであり、楽しさでもありますね。

単に正攻法で動くだけだと、すでに世の中にあるものと似たようなものができあがってしまうじゃないですか。でもンタメは、これまでにはない、想像の斜め上を行くのが楽しいものなので、そこはバンダイナムコエンターテインメントならではかなと思います既存のフレームワークにのっとりつつ、ときにはそこから踏み出す勇気も必要かなと。エンタメの力を信じているからこそ、挑戦し続けたいです。

――今後、社内でやってみたいことはありますか?

東村:これからもファンやプロデューサーの気持ちを汲み取りながら、コンテンツの新たな届け方を考えていきたいです。以前社内で相談したときに、ファンコミュニティづくりは単年でなく中長期的に考えてもいいのではないか、というお話をいただいたこともあったので、今後は長くファンと向き合うプランも立てられるようにしたいですね。

【あなたは未来のエンターテインメントをどのように照らしますか?】
東村:私は、プロデューサーが作るコンテンツがベストなものだと信じています。舞台に立つ役者は良いはずなので、その役者にどんな衣装を着せて、どんなスポットライトを当てたら一番輝くのか。チケットをどんな風に売り出せばより多くの人に届くのか。それを考えるのがマーケティングの仕事かなと思っています。役者が一番輝く条件を探しながら、今後も照らし続けていきたいです。

【取材後記】
今回お話を伺っていて印象的だったのは、周りに助けられていると何度も語られていた東村さんの周囲に対する敬意と真摯さです。できないことを単に誰かに投げるのではなく、自分にできることをやれるだけやったうえで力を借りるという姿勢で相手を頼られているのだな、というのが伝わってきました。気持ちいい頼まれ方をされたら力を貸す側も気分よく動けるというもの!

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。

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