TVアニメと連動で2月に配信がスタートしたスマートフォン向けアプリゲーム『荒野のコトブキ飛行隊 大空のテイクオフガールズ!』(以下、テイクオフガールズ)と、1月に発売された家庭用ゲーム『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』。「空戦」をテーマにまったく異なる魅力が体験できるこの2作品の制作秘話やプロデューサー論ついてお話を聞いてきました!
同期入社Pが語る、それぞれの作品に込めた想い
「自分より優秀な人と仕事をすることが大切」。2人が見つけたプロデューサー論
――伊藤Pと下元Pは同期入社だそうですが、それぞれどんな経緯でプロデューサーになったんですか?
下元: 2人とも全然経緯が違うんですよ。僕はもともとゲームプランナーとして入社して、最初に『エースコンバット』シリーズに配属されました。その後色々な業務を転々として、別会社に行ったこともあったんですが、今回『エースコンバット7』のプロデューサーとしてシリーズに戻ってくることになりました。
伊藤:一方、入社時はスーツを着て家庭用ゲームソフトの営業をしていたので、僕はそもそもゲームを作る側の人間ではありませんでした。その後プロデューサーチームに配属されて様々なプロジェクトで経験を積んだ後、今回『大空のテイクオフガールズ!』を担当しました。
――プロデューサーになる経緯は、人によってずいぶん違うんですね。
下元:プロデューサーによって得意分野も全然違うんですよ。プロデューサー同士で話すと、「どうしてそんなことができたの?」と思うことが多いです。たとえば、伊藤くんは入社した時から同期をまとめるような人と人を繋いだり、取りまとめるのが得意な人で。『大空のテイクオフガールズ!』のようにTVアニメとほぼ同時にはじまるゲーム作品を仕掛けるのは人と人、会社と会社の調整が非常に難しいことだと思うんです。伊藤くんだからこそ最後まで調整しきったんだな、と感じました。
伊藤:僕から見た下元くんは、軸が全然ブレない人なんですよ。色々なキャリアを経て今回シリーズに戻ってくるブレなさもそうですし、長年人気シリーズをリードしている『エースコンバット』のブランドディレクター河野さんと渡り合うメンタルの強さもすごい。
下元:今の言葉、2人で河野さんに怒られる前提で残してもらいましょう(笑)。大先輩と渡り合えているかどうかは別として、メンタルの強さは求められる仕事だと思います。ゲームは多くの仲間とともにチームで制作するものなので、自分の力だけでは絶対にいいものは作れません。どうやったら自分には無い優れた能力を持つ人たちと出会い、一緒に仕事ができるかを考えて動きますし、商品だけではなく、その周りも含めた環境を整えるのが、僕たちプロデューサーの大切な仕事です。
伊藤:その通りですね。自分の我を通すのではなく、詳しいものは詳しい人に聞きにいって、自分より上手くできることは上手い人にやってもらう。そうすることで、最終的な作品をお客様に楽しんでいただけるものにすることが、一番大切だと思っています。
『大空のテイクオフガールズ!』&『エースコンバット7』。それぞれの制作秘話
――『荒野のコトブキ飛行隊 大空のテイクオフガールズ!』と、『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』は、ともに「戦闘機」を題材にしたタイトルですが、それぞれまったく違う魅力を持った作品になっています。どんなことを意識して制作したのでしょう?
下元:『エースコンバット7』は 20年以上続く人気シリーズの12年ぶりのナンバリングタイトルなので、シリーズの持つ魅力の「残すところ、進化させるところ」を話し合いました。シリーズ作品で長年愛され続けているのは、戦闘機を360度自由に操縦できることと、空戦の中でエースパイロットに成り上がる体験、そのドラマです。そのよさを生かせる新要素として考えたのが、立体的な雲や気流を導入した「空の革新」でした。
――新要素となった雲や気流は非常に好評ですね。よりリアルに戦闘機を操縦している感覚になりました。
下元:実際に雲に入るとどうなるかを、航空自衛隊のパイロットの方にヒアリングさせていただいて反映しています。ただ、一方で、“ゲームとしての分かりやすさ”のために誇張表現している部分もあるんです。作品内では戦闘機が雲に入るとキャノピーに水滴がつきますが、実際には戦闘機のスピードで雲に入ると、水滴は一瞬で流れてしまうそうで。雲に入ったことを、説明するのではなく“体感”してもらうために、こういった水滴表現や音がこもるといった工夫を取り入れています。
伊藤:『エースコンバット7』はプレイしていて雲のボリュームをしっかりと感じますし、だからこそ谷や山間を抜ける場面だけでなく、空を飛ぶこと自体に魅力が生まれていると感じました。空の表現がまっすぐ進化した先に『7』がある。まさにナンバリングタイトルの革新ですよね。
一方、『大空のテイクオフガールズ!』は、アニメの放送中にゲーム配信がスタートするメディアミックス作品なので、「原作となるTVアニメとの距離感」を大切にしました。TVアニメを観ているお客様の感覚を追い越さないように、ゲームは半歩後ろをついていく距離感です。
その上で、ゲーム独自の楽しみ方として、ダイジェストストーリーをTV放送の翌週に更新したり、『荒野のコトブキ飛行隊』らしい「編隊戦」が楽しめるバトルを取り入れたりしました。その中で、“編隊同士の空戦を手軽に遊べるようにするため、ゲームとしてのフィクションを取り入れる考え方”も大事にしましたので、空の戦いでは本来必要な要素である高度の概念をなくしました。
下元:『大空のテイクオフガールズ!』は「かわいいキャラクターたちが戦闘機に乗る」ところに強い魅力を感じます。この組み合わせの妙はもうずるいよね。
伊藤:(笑)。ゲーム独自のキャラクターの存在をどうやって特徴づけるかについては、実は元上司の坂上さん(『アイドルマスター』シリーズ総合プロデューサー)にもアドバイスをもらいました。TVアニメのキャラクターたちが非常に個性的なので、負けないにはどうしたらよいか、キャラクターの個性はどう際立たせたらよいかの意見をいただき、自分なりに色々と悩み抜いた結果、彼女たちの究極の個性は「戦闘機乗り」であることだと思い至りました。
彼女たちの「趣味」や「食べ物の好き嫌い」だけではなく、「彼女たちが戦闘機に乗るに至った理由」「なぜこの戦闘機を愛機に選んだか」というバックグラウンドを意識して戦闘機乗りとして愛着を持てるキャラクターを考えました。
――それぞれ別の魅力を持った作品である一方で、共通点としては、2作品ともに戦闘機のモデリングが動作環境をフルに生かしたものになっていることが印象的です。
下元:『エースコンバット』は実際に戦闘機を作っているメーカーの監修を受けてモデリングしているので、コクピットの中までリアルに再現しています。自分の飛行を色々なカメラで鑑賞できるリプレイモードもお客様に楽しんでいただけています。Twitterでは「#エースコンバット7写真部」というハッシュタグも盛り上がっていますね。非常に綺麗なスクリーンショットが撮れますので、実写と見分けがつかないほどです。
伊藤:『大空のテイクオフガールズ!』の場合は、レシプロ戦闘機(レシプロエンジンを動力に動く戦闘機)がテーマですが、この戦闘機が活躍したのは戦時中で資料が圧倒的に少ないです。当時は映像も白黒で、音も別録りで違う音を当てているものが多いんですよその再現にアニメ制作チームの方々が苦労されたのを知っていたので、ゲームも「そこは妥協しない」と決めました。また、ゲームでは当時の工場出荷時の色味を再現して、そこに塗装をする楽しみを持たせていて、TVアニメのミリタリー監修の二宮茂幸さんに当時の工場出荷時の塗装デザインをヒアリングし、一緒に決めていただきました。
――スマートフォン用ゲームの限界まで、モデリングや監修にこだわったのですね。
伊藤:ただ、音に関しては結局資料がなくて、『エースコンバット』の河野ブランドディレクターに助けていただきました。『エースコンバット7』のサウンドチームの方を紹介していただいて、その方に完成直前までアドバイスをいただいて。『7』の制作が忙しい中でも快く繋いでくれた河野さんには感謝しかありません!そんな風に、戦闘機のモデリングや色味、音は、スマートフォン用ゲームとしてはやりすぎなくらいのクオリティにしています。
下元:あの時の河野さんはめちゃめちゃ忙しかったから。伊藤くんが何度も来るから本当は面倒くさかったと思うよ(笑)。
伊藤:「また来たのか!」と(笑)。ただ、その結果、たくさんのお客様が喜んでくれました。
同期でも個性は様々。プロデューサーとして2人が目指す未来とは?
――今回の2タイトルは、2人にとってどんな作品になったと感じていますか?
下元:12の言語に対応し、非常に大きな規模で世界中のお客様に商品をお届するという初めての経験をさせていただきました。シリーズファンの方とお会いしていく中で、ファンの皆様が国や地域を超えて非常に似ているということに驚きました。国や地域が違っても『エースコンバット』の魅力に惹かれた同じ仲間なのです。実際にお会いして言葉を交わす中で、そんな思いを抱きました。これからも、支えてくださっている世界中のファンの皆様と向き合いながら、新しいものを生み出していきたいと思います。
伊藤:『大空のテイクオフガールズ!』はこれまで培ってきた調整力を注ぎ込んで、色々な方々の協力をいただきながら制作したので、プロデューサーとしてはまず1歩目だな、と思っています。今まで色々なタイトルにかかわってきましたが、今回のプロジェクトは「一歩前進できた」という強い実感が持てました。もちろん、アプリゲームはリリースしてからが本番です。これまでの改善点・反省点を次に生かしながら様々な展開にチャレンジしていきたいです。
次に何か仕掛けるのであれば、単体の商品だけではなく、もう少し広い取り組みで人を楽しませられる何かを生み出したいと思っています。そのためにも、チャレンジ精神だけは忘れないようにしたいですね。
――「プロデューサーには様々なプレイスタイルがある」という序盤の言葉通り、同期入社組の伊藤Pと下元Pであっても、向かう先はそれぞれ違うものになっているんですね。
伊藤:そうですね。でも、結局お互い目指しているのは、ゲームをプレイしてくださる方々に「楽しい!!」と思ってもらいたい、ということで。その目標は2人ともまったく一緒で、そこに辿り着くための方法がそれぞれ違う、ということなんだと思います。
下元:そうですね。これまでの歩みやお客様の声を大事にしつつ、これからも前に進んでいくだけだと思っています。
【取材後記】
同期入社ながらそれぞれ違う強みを持つ伊藤Pと下元P。そうして生まれる個性やお互いの「空戦」への違う角度からの挑戦が、タイトルごとの個性に繋がっていると感じました。
また、話の中で印象的だったのは、作品の垣根を越えて知見をクロスオーバーさせていくこと。それぞれが異なる得意分野を追求することで、それが色々なタイトルに活かされていく、チーム作業によって成り立つゲーム制作の楽しさが垣間見えた瞬間でした。
取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。