2019年4月1日にスタートした新会社「バンダイナムコセブンズ」。この会社は、これまでのパチンコやパチスロの開発受託事業、映像ハードウエア事業に加え、遊技機全体のプロデュースなどを手掛けるために設立されました。「既存の枠にとらわれない新しいアソビを生み出したい」という金子社長に、新会社のビジョンと展望を聞きました!
パチンコ/パチスロ×先端技術の新たな可能性
「様々なエンタメの架け橋に」。パチンコ/パチスロから新たなアソビを生む精鋭集団
――まずは金子さんが遊技事業に携わるようになったきっかけを教えていただけますか?
金子: もともと新卒でコンピューター系の会社に就職したのですが、その後ゲーム会社に転職したところ、そこで遊技事業を担当することになりました。その経験が役立つのではないかと思い、2003年にナムコの遊技事業部門に入社しました。
ですから、最初は偶然、遊技機事業に携わることになり、その後はプロデューサーとして遊技機の商品開発を行ってきました。その中で感じたのは、やはり「IP=キャラクター」というものは大きな魅力を持っているということです。IPの魅力を最大限に生かして、どのように楽しんでいただくかを常に考えながら開発を行ってきました。
――IPの魅力を遊技機で伝えるためには、どんな工夫が大切なのでしょう?
金子:まずは「IPの世界観を壊さない」ことだと思っています。遊技機とゲームはプレイするお客様が必ずしも同じではなく、『鉄拳』をやったことのない方が、遊技機で初めて『鉄拳』に触れることもありえます。ですから、その際にも作品の魅力が伝わることが大切です。
つまり、我々が提供したものが、ゲームやアニメへの入り口になってほしいと考えているんです。様々な方の手で生み出されたキャラクターや作品の魅力を、さらに多くの人に伝えたい。そのためにも、自分たち自身がゲームをプレイして、アニメを観て、コアユーザーの方が感じる魅力を理解することが大事だと思っています。
――では、バンダイナムコセブンズが立ち上がった背景を教えてください。
金子:通常、パチンコやパチスロは商品開発に2~3年はかかるため、過去に流行ったものを商品化していくことが多かったのですが、時代の流れとともに、よりスピーディーに新しいもの、様々なニーズにマッチするものを提供する必要性を感じていました。
これまで2~3年かかっていたものを1年で提供するためにはどうするかを考えることもそうですし、同時に多様化するお客様のニーズにも応えていきたい。そのため、精鋭を集めた集団で「ジャッジをよりスピーディーに行う」ことが、新会社を立ち上げた理由のひとつです。
また、バンダイナムコエンターテインメントでは難しかった遊技産業に適したスペシャリストを育成し、時代に合った環境の中で「新しいエンターテインメントを生み出したい」。それがバンダイナムコセブンズを立ち上げた経緯です。
変化が激しいエンターテインメント業界にいる我々が本格的に遊技業界に参入することで、新しいアソビを生み出したいと思っています。
アイディア×最新技術で変わる。大転換期を迎えるパチンコ/パチスロの未来
――現在のところ、具体的にはどんな事業を進めているのですか?
金子:現在はまず、グループのゲームコンテンツや、アニメコンテンツを使った遊技機の商品化を進めています。まだお話はできないのですが、水面下では遊技機ではないものにも可能性を広げています。
たとえば、あえて極端なお話をするなら、今後遊技機がうどん屋と繋がる可能性だってあるかもしれません(笑)。
パチンコホールに来ていただいた方が、遊技はもちろん、それ以外のことも楽しめるような環境を作るのもひとつの可能性ですし、色々なことが考えられます。
――昨年日本でカジノ法案が成立し、IR(統合型リゾート)の話題も盛り上がっているところですが、こうしたものと遊技機が繋がって新しいアソビが生まれる可能性も感じます。
金子:そうですね。カジノ/IRに関しては何ができるのかまだ分からない部分もありますが、たとえば最近はパチンコ/パチスロホールにも、マンガ喫茶のように様々な機能が追加されているところもあります。コインランドリーや保育所も併設されているホールもあって、コミュニティのようになっていて、ある意味IR的に変化しつつあるんです。ゲームセンターもそうですよね。
ですから、そのような環境に合わせて、みんなでワイワイ楽しむための遊技機が生まれるかもしれません。
現在パチンコでは通信ができませんが、5Gなどが普及して、遊技機もネットワークの分野が解放されていくことが考えられます。そうなると、様々な状況が変わって、新しい楽しみ方が生まれてくると思っています。
――そうなると、パチンコ/パチスロでどんな体験ができるようになるのですか?
金子:当然、不正が生まれないルール整備が整ったうえでの話ですが、たとえば、遊技機同士がネットワークで繋がって通信できる時代が来れば、新しい楽しみ方が生まれるはずです。対戦型ゲームのような形で全国のユーザーが繋がり様々な可能性が考えられます。また、そのコンテンツを持ち帰ってゲームにアクセスすると、特別なキャラがもらえる仕組みがあってもいいかもしれません。
遊技機とゲームだけでなく、動画サービスや飲食店と繋がることだって可能です。
遊技業界は依存症の問題などに向き合う必要があり、慎重に考えることが大前提ですが、エンターテインメント性をもっと上げて、射幸性だけに頼らない、様々な楽しみ方を提供したい。その際、エンターテインメントの入り口としてIP=キャラクターはますます重要な役割を果たすと思います。
――ゲームにも初心者が楽しめるものからやり込み要素が強いものまで様々なタイトルがあるように、射幸性を追求するだけではない、様々なアソビを提供していきたい、と。
金子:そうですね。今は海外でも、ゲーミングマシーンが様々な形で進化しています。数年前にラスベガスにはありませんでしたが、今では人気海外ドラマ作品とコラボレーションしたものが出てきています。世界的アーティストのゲーミングマシーンもあります。誰でも知っているヒット曲がかかれば盛り上がりますよね。それと同じように、多くの人々に愛されるIPには、様々な方が楽しめるものを生み出せる可能性があると思います。
遊技機発のメディアミックス作品も!?「セブンズ」が目指す新たなアソビの形
――そうして様々な可能性を追求すると、その知見がバンダイナムコグループ全体に還元される効果もあるように感じました。この辺りはどうですか?
金子:最初にお話ししたように、我々は「繋ぐ」ことを大切にしているので、まずはゲームやアニメ、キャラクターの魅力を新しいお客様へと広めて、もともとの作品に還元していくことが使命です。また、反対に、遊技機発のコンテンツをゲームやアニメに還元できたらとも思っています。
以前、三洋物産から発売されたパチンコ『海物語』のメダルゲーム機をバンダイナムコアミューズメントで制作したことがありましたが、そうした展開の範囲を広げて、遊技機から生まれたIPをアニメ/ゲーム/玩具化することもできるのではないかと考えます。
そうした知見は我々のグループが得意としているのもなので、様々な方々と連携して実現することは可能ではないかと思っています。
――なるほど! そうすると、ゲーム発/アニメ発のIPの特徴がそれぞれ異なるように、「遊技機から生まれた」という特徴が、IPや作品自体に反映されることもありそうです。
金子:そうですね。アニメやゲームのキャラクターは最初からしっかりとした設定を持っていますが、遊技機の面白いところは、その部分が細かく設定されていないことです。そのため、「実はこうだった」と徐々に世界観が分かるようなコンテンツが生まれる可能性があります。そういう意味では、キャラクターや物語をお客様と一緒に作っていくこともできるかもしれませんね。
許認可ビジネスですから、すぐに実現できるものではありませんが、遊技業界は今が大転換期、ビッグターンに来ています。将来的には様々な可能性が広がっていく楽しさも感じています。
――その中で、バンダイナムコセブンズはどんな役割を果たしていきたいのでしょうか?
金子:我々がノウハウを持つIP=キャラクターの魅力を伝えるためにも、色々な可能性を追求し、今までにないサービスを提供したいです。通信に関しても、状況が整えばすぐに動けるようにしたい。
エンターテインメントはつねにテクノロジーとともに歩んでいますから、技術の発達とともに新たなエンターテインメントを生み出したいと思っています。
夢みたいな話に聞こえるかもしれませんが、パチンコ/パチスロに限らず、様々な楽しみを提供していきたい。
人々がエンターテインメントに「楽しい」と感じる根本的な部分は、どの分野でも、どの時代でも、変わらないものだと思います。それは花札やトランプの時代から、ゲーム機が出てきて現在にいたるまで、いつも同じだと思うんです。
そのうえで、エンターテインメントは、可能性が無限大だからこそ面白い。テクノロジーの進化に向き合ってより面白いものを追求しつつ、多くの方々が楽しめるエンターテインメントを提供していきたいと思っています。
【取材後記】
金子さんのお話を聞いて印象的だったのは、パチンコ/パチスロを通してホール、メーカー、そして遊技機やゲーム/アニメを筆頭に様々なエンタメを楽しむ人々を繋げる「架け橋」になることへの思いと、制限を設けずに様々な可能性を追求するアイディアの大切さ。バンダイナムコセブンズからどんな“アソビ”が生まれていくのか、とても楽しみになりました!
取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。