6月28日、バンダイナムコエンターテインメントが抱える音楽レーベル『ASOBINOTES』の主催音楽フェス『ASOBINOTES ONLINE FES』内で突然発表された新プロジェクト『電音部』。まだ誰も全容を知らないこのプロジェクトは一体どんなものなのでしょうか? 仕掛け人である3名の制作陣にお話をうかがいました。
突如発表された『電音部』!豪華過ぎるラインナップに衝撃
『電音部』とは、2020年6月28日、バンダイナムコエンターテインメントが抱える音楽レーベル『ASOBINOTES』が主催する音楽フェス『ASOBINOTES ONLINE FES』(以下AOF)内で発表された新プロジェクト。歌やDJ、作曲など、ダンスミュージックを通じて音楽活動を行う、軽音部ならぬ『電音部』に所属する女子高生の姿を追うキャラクタープロジェクトであることが明かされています。『AOF』ではこのアウトラインに加えて、女子高生キャラクターのデザインと、担当声優、そして彼女たちが歌う楽曲の制作陣が紹介されました。
アキバエリア・外神田文芸高校の電音部の担当声優には蔀(しどみ)祐佳さん、天音みほさん、堀越せなさんと、ディアステージの面々がラインアップ。
ハラジュクエリア・神宮前参道學園のキャストには小坂井祐莉絵さん、大森日雅さん、長谷川玲奈さんと3人の声優さんが名を連ねます。
アザブエリア・港白金女学院のキャラクターの声は秋奈さん、小宮有紗さん、澁谷梓希さんが担当し、
シブヤエリア・帝音国際学院のキャラクターには健屋花那さん、シスター・クレアさん、星川サラさんという3人のVTuberが命を吹き込みます。
そして彼女たちが歌う楽曲を作るのは、新進気鋭のコンポーザーたち18組(9月15日現在)。今まさに和モノクラブでスピンされている最新のダンスミュージックシーンを生み出しているトラックメーカーが起用されています。
今回は、この注目プロジェクト『電音部』にフォーカス。『電音部』、そして『ASOBINOTES』の立ち上げに携わった子川拓哉さん、石田裕亮さん、松田悠太郎さんに、『電音部』という新プロジェクトを立ち上げたきっかけや、今後の展開など、幅広いお話をうかがいました。
『電音部』の根底にあるコンセプトは「音楽に遭遇しよう」
——今回、皆さんがダンスミュージックにフォーカスを当てた『電音部』プロジェクトを始めたきっかけはなんでしょうか?
子川:単純に私がダンスミュージックが好きだったからですね(笑)。一昨年までバンダイナムコアミューズメントというグループ会社に所属していて、その会社が運営していた「アニON」というコンセプトカフェでキャラクターの関連楽曲を使ったクラブイベントを仕掛けたりしていました。
昨年、バンダイナムコエンターテインメントに出向になったときにも、新規事業として「クラブミュージックをやりたい」という提案をさせてもらったら、それが通って、『ASOBINOTES』というレーベルを立ち上げることになったんです。
松田:そして『ASOBINOTES』の企画会議の中で、せっかくアニメ・ゲームを取り扱うバンダイナムコエンターテインメントにある音楽レーベルなんだからIPもほしいですよね、という話になって始まったのが『電音部』なんです。
子川:そこから部活モノにしようっていうアイデアが出てきて……。
石田:まず「ダンスミュージックに明るくない人でも、キャラクターをきっかけに親しんでもらえるんじゃないか」という話になったんです。ただ、ひとくちにダンスミュージックと言ってもジャンルの幅が広いから、アキバ、ハラジュク、アザブ、シブヤと各エリアの学校ごとに違うジャンルの楽曲を作る「部活動」にしようという話になったんです。
——あれっ? 今、『AOF』では発表されてなかった情報が飛び出した気がするんですけど……。エリアごとに作るトラックのテイストが違うんですか?
子川:そうですね。各エリアで、別々のジャンルのとんがった音楽をやっているという設定のもと、トラックメーカーさんに依頼をしています。
——アザブはどんなイメージでしょうか? 「麻布のクラブでかかってそうな曲」って……。
子川:イメージしにくいですよね(笑)。『AOF』で発表したときも視聴者のみなさんから「麻布?」というリアクションをいただきましたし。ただ麻布ってやっぱりスタイリッシュなイメージがあるじゃないですか。だからシティポップ的、80sテイストの楽曲を歌ってもらったり、かけてもらったりしたいな、と思っています。
——実際に『電音部』の面々は何をするんでしょう? 『AOF』 での発表を拝見すると、歌って、踊って、DJをするのかな? という印象を受けたんですけど。
子川:歌うし、DJをするし、作曲もするんだけど、当面踊ることはないかなあ。基本的には「歌う」「DJをする」「作曲する」。この3つの活動をする部活の対抗戦という感じですね。
石田:アイドルプロジェクトではなく、あくまで部活動。自分たちの好きなダンスミュージック=電音について追究している子たちなので、歌って踊ってというパフォーマンスをするというよりも、自分たちの好きな音楽を歌い、トラックも自分たちで作って、オーディエンスを盛り上げているという世界観を大事にしたいと考えています。
——あと『AOF』でもVJ(ビデオジョッキー。クラブイベントでDJがスピンする楽曲に合わせてリアルタイムでプロジェクター上の映像を編集するスタッフ)を駆使したり、ARを活用したりと、いわゆる最先端のテクノロジーを活用していましたけど、『電音部』でもそういう試みは行われますか?
子川:それも目標のひとつです。『AOF』を開催するにあたってバンダイナムコ研究所が開発していたライブパフォーマンスシステム「BanaDIVE AX」の存在を知って、「そんなおもしろそうなことをやっているなら、ぜひ一緒にやらせてほしい」という話をさせてもらって、『AOF』でバンダイナムコ研究所の技術を披露させてもらいました。今後もいわゆる二次元カルチャーとクラブカルチャー、そして最先端のテック系のカルチャーを混ぜ合わせたいと思っています。「ダイバーシティ(多様性)」と言ってもいいんだけど。
松田:初期の企画書段階で、すでに書いていましたね。「各クラスター(文化的集団、群れ)の交流」って。
石田:子川は初めから「音楽に遭遇しよう」というコンセプトを持っていたんですよ。ダンスミュージックをきっかけに、みなさんがいろんなカルチャー・価値観に出合えるといいな、って。
トラックメーカーもクラブ好き納得の人選。声優・VTuberとの融合に期待すること
——その視座で参加声優・クリエイターを眺めてみるとおもしろいですね。DJとしても活動する小宮有紗さんや澁谷梓希さんのようなダンスミュージックに明るい声優がいる一方で、ディアステージ所属のアイドルやVTuberが名を連ねていて。
松田:そこにもダイバーシティというコンセプトを反映しています。声優ファン、アイドルファン、アニソン系クラブイベントファン、VTuberファンのタッチポイントを増やすことで、いろいろなクラスターの方に『電音部』やクラブミュージックとの遭遇体験をしてもらいたいと考えています。
石田:楽曲と同様に、それぞれのエリアが持つイメージを意識してキャストを起用しました。ディアステージは秋葉原のランドマークのひとつになっているから、その所属のアイドルさんがキャラクターを演じたり歌ったりすることでよりアキバ感が出ますし、麻布であれば、さっきお話したとおり、おしゃれ感があるから、経験値のある女性声優さんが似合うだろうな、と思いました。
原宿であればKAWAII文化と接触する方。声優もやるしDJもやるというように今のポップカルチャーを表象している方をセレクトさせていただいていています。
——一方でトラックメーカーに関しては誰もが納得する、すばらしい日本語ダンスミュージックを作る人たちばかりですよね。
子川:たくさんの方にご協力をいただきました……!
——すでにトラックメーカーさんの曲はできているんですか?
子川:できてきています。オシャレ過ぎて大丈夫かなと思ったのですが、PVやホームページのBGMとしてそれらの楽曲の一部を公開したところ、声優さんのファンの方からもけっこう良い反応をいただいています。
松田:おしゃれなクラブで流れていそうな曲であっても、声優さんやアイドルさんの声が乗ることで「あっ、わかった!」「なるほど!」と親近感を感じたので、「最先端のクラブミュージックと二次元コンテンツの融合」の部分ではあまり気を揉んではいないですね。
ファンメイドコンテンツポリシーについて
——そしてその楽曲なんですけど、どのような形態でリリースするんですか? CDとして発表するのか? 配信なのか? はたまた音楽ゲームを制作してその劇中曲として発表するのか?
子川:まずはサブスクで公開します。その後CDも出しますし、楽曲ダウンロード用のURLが載っているミュージックカードも発表する感じですかね。あとはいろんな人にリミックスしてもいらいたいので、ボーカル音源も公開したり、いろいろなチャレンジをしてみたいなと思っています。
——そのお話も伺いたかったんです。『電音部』の概要が発表されたときに、界隈がザワッとした理由のひとつに「ファンメイドコンテンツ」についての規約が寛容だったというのもあって。無料の二次創作コンテンツは基本的にOKだし、金銭の授受のある二次創作も許諾している。これはファンにリミックスしてもらうことが前提なんでしょうか。
子川:キャラクターのファンアートを描いてくださる方や同人誌を作ってくださる方を歓迎することはもちろん、リミックスはクラブカルチャーにとって欠かせないひとつのピースだと思うので、その文化は大事にしたいなと考えていました。
石田:あと我々が公式に発表するものを最適解にはしたくなかったんです。
松田:「ファンの方にとっての余白を持たせたい」というのは常々話しています。
——『電音部』というIPをネタにみんなに楽しんでほしいという思いがある、と。
子川:そっちのほうが面白いかなと。公式の解釈だけじゃなくて、いろんな方にいろんな解釈をした電音部ができてほしいなって思います。
——そのような現場での展開、つまりは『電音部』主催のライブやパーティみたいなものもいずれは開催されますか?
子川:主催イベントはもちろん実施します。そのうえで、他社のパーティやLIVEにもゲストとしてオファーをかけられるような存在にもなりたいです。
自粛の中で育つ「クラブイベントの新しい楽しみ方」
——世界観を固めるIP的ではなく、本当にレコードレーベル的。楽曲とタレントの制作や管理はするけれども、それをネタにみんなに楽しく遊んでもらいたいプロジェクトなんですね。ただ新型コロナウイルス感染症に伴う自粛ムードが蔓延する中、なかなかリアルイベントに打って出るのも難しい気もするんですが……。
子川:ただ「今は難しい」というだけではなく、この春以降、クラブ遊びの好きな人や実際に現場を仕切っている人たちがオンラインでのクラブイベントの楽しみ方のノウハウの積み上げていて、そこから勉強させてもらっています。
——『AOF』でも#AOFがTwitterのトレンドで世界1位になって、タイムラインでは視聴者の皆さんが自然に楽しんでいる様子でしたね。こういったカルチャーは以前からありましたが、新型コロナウイルス感染症の影響でより一般的なものになったと感じていますか?
子川:そういう印象がありますね。しかも音箱(DJプレイやDJがセレクトした楽曲を“聴かせる”ことを主眼に置いたクラブ)でのイベントってそもそもリアルでもそういう楽しみ方もあるじゃないですか。みんながグラスを片手に、かかっている曲に合わせて体を揺らして、同じ会場にいるのにTwitterで会話する、みたいな。オンラインでの楽しみ方がすでにでき上がっていたのかなと思います。
松田:オンラインでの楽しみ方も『電音部』は模索していきたいですね。
『電音部』は社内外問わず、たくさんの方に使ってほしいプロジェクト
——IP事業というとレギュレーションをしっかりと固めている印象があるのですが、『電音部』はどちらかと言うとオープンなコンテンツであるように見えますが。
子川:そうですね。やっぱり『電音部』は、『ASOBINOTES』という音楽レーベルありきで始まった企画なので、いわゆるIPプロジェクトとは違うと思います。
松田:たとえばバンダイナムコグループの中でもテック系の関連部門や他のプロジェクトが「なにかキャラクターを使って新規プロジェクトを企画・プレゼンしたいなあ」という企画が持ち上がったときに「あっ、そうだ。『電音部』があるじゃん」って思い出して声をかけてもらえるプロジェクトでありたいですね。
――これまでにはないタイプのプロジェクトなんですね。その『電音部』を3人で立ち上げることになった経緯をお聞かせください。
石田:僕はもともとバンダイナムコエンターテインメントの新規事業部にいて、松田君はその時の後輩でした。子川さんは当時バンダイナムコアミューズメントの新規事業部にいて、一緒に仕事をしたことがあるんです。そういう縁もあって、子川さんにクラブイベントに誘ってもらって、そこで遊ぶことでハマったという経緯もあるので。子川さんが担当されていたイベントに松田君と遊びに行ったこともあります。
そして僕はアニメの制作会社出身なので、子川さんが音楽にガッツリ携わるのに対して、僕はキャラクターや世界観を構築する。そういう役割分担ですね。
松田:私はもともとお二人とは仲良くさせていただいていて、冒頭にもあった「クラブミュージック」を切り口にした新規事業の検討に参加したのがきっかけでした。その提案からレーベル・IPと話が広がっていく中で、お二人のルーツがあまりにも違うので、石田さんの言っている作品性を子川さんに伝わるように言い換えたり、子川さんのイメージを言語化したり…、最初は通訳のような役目でしたね(笑)。そこから今は宣伝プロデューサーでありつつ、プロダクトマネージャーのような動きをするようになりました。
——では、『ASOBINOTES』も『電音部』も子川さん、石田さん、松田さんという会社の同僚にして遊び友だちが立ち上げたプロジェクトということでしょうか?
石田:完全にそうですね(笑)。
子川:それ以上でも以下でもない(笑)。
——『電音部』からは、仲の良い3人で仕掛けよう、というワクワク感が伝わってきます(笑)。今後の展開が楽しみです!
『電音部』の続報をお見逃しなく!
『電音部』は、『ASOBINOTES』公式YouTubeチャンネルで展開していくとのこと。今後の動きは、公式サイトや公式Twitterアカウントでチェックしてみてくださいね。
【取材後記】
「バンダイナムコの音楽系IP」というと『ラブライブ!』シリーズや『THE IDOLM@STER』シリーズ、『アイカツ!』シリーズが代表的ですが、『電音部』はそのコンセプトをまったく異にするプロジェクト。いちダンスミュージック・クラブミュージックラヴァーとしても、『電音部』をきっかけにさまざまな人がダンスミュージックの魅力に気づき、またダンスミュージックラヴァーが二次元コンテンツや最新エンターテインメントテクノロジーの凄味に気づいてくれることを祈っています。
取材・文/成松哲 プロフィール
フリーライター→「音楽ナタリー」編集部を経て、再びフリーライターに。