悪夢の中で出会った2人の子どもがセリフのない物語を紐解いていく 『LITTLE NIGHTMARES Ⅱ-リトルナイトメア2-』プロデューサー、ルカ・ルッセルさんインタビュー

2017年にバンダイナムコエンターテインメントヨーロッパ(以下BNEE)から発売されて以来、そのダークで幻想的な世界観が好評を博している『LITTLE NIGHTMARES-リトルナイトメア-』。そのミステリアスな物語を分析するファンにより、多くのブログ記事や動画が公開され、ネット上でも注目を集めています。今回は2021年2月10日に発売した『リトルナイトメア2』のプロデューサー、ルカ・ルッセルさんに待望の続編についてお話を伺いました!

You can read this article in English (published February 10, 2021)

前作『LITTLE NIGHTMARES-リトルナイトメア-』のルカさんのインタビュー記事はこちら

 変わるものと変わらないもの スケールアップし大きくなって帰ってきたリトルナイトメアの世界

――ルカさん、まずは2017年に発売された『リトルナイトメア』は今や全世界で知られるタイトルとなっていますが、1作目の反響はどうでしたか?

ルカ:とても大きな反響がありました。発売前から、独特の世界観やキャラクターの操作感が非常に多くの人の注目を集めました。巨大で退廃的な世界の中で、子どものキャラクターをプレイする―この設定には独特の雰囲気があり、そこに多くの人が興味を持ってくれたのだと思います。

『LITTLE NIGHTMARES-リトルナイトメア-』シリーズのプロデューサー、ルカ・ルッセルさん

――続編を企画しはじめた当時、ゲームの方向性はすでに決まっていましたか?

ルカ:『リトルナイトメア2』については、1作目の制作の終盤から話題としては出ていましたね。その段階ではチーム内で「2作目ができるならどんなものにしようか?」などと話していた程度ですが。ただBNEEにとって重要なIP(※知的財産:ゲームのタイトル・キャラクターを指す)ということもあり、内々には早いうちから新しいプロジェクトとして進行していました。

続編制作の決定前、社内で共有していた共通の認識は、「1作目よりも野心的なことをやりたいね」ということでした。1作目は元々「3~4時間でエンディングにたどり着くような長さで、20ユーロで販売する」という企画で、尺的に短くコンパクトな内容でした。そこで次回作では、規模を拡大して尺も長く、機能もさらに充実させたものにしたいというのが出発点でした。

 モノとシックス 新しい世界の中で描かれる関係性と、解き明かされる物語

主人公のモノ(左)と、仲間のシックス(右)

――『リトルナイトメア2』の企画段階では、どんな点に関して特に試行錯誤が行われたのでしょうか?

ルカ:実は、2人目のキャラクターを登場させるアイデアは、話し合いの初期段階で出ていたんです。そこで最初に議論になったのが「Co-op(協力)ゲームにするのか、しないのか」ということでした。

ストーリー完成後すぐ、この物語の良さが最大限に生かせるのはCo-opよりもシングルプレイヤー体験だと確信しました。もしCo-opにするのであれば、終始それをベースとしたゲームデザインが必要です。ただ、それでは思い描いていた『リトルナイトメア』ではなくなってしまうと思いました。新機能や規模の拡大、Co-opでは登場しないようなNPC(ノンプレイヤーキャラクター)の導入などワクワクする挑戦が盛りだくさんだったので、かなり早い段階でCo-opの選択肢は切り捨てました。 

『リトルナイトメア2』で登場する外の世界

キャラクターについては、シックスを主人公として再登場させるかの議論がありましたが、私たちが『リトルナイトメア』の世界観をユーザーにどのように伝えるのが最適かを考えたときに、プレイヤーが操作するキャラクターは、シックスではなくモノが最もふさわしいということに気づきました。これが決まったことで、NPCの仲間としてシックスを登場させようということも自然に、且つ明確に決まったのです。

(シックスを)仲間にするという発想のおかげで、1作目からの登場人物であるシックスのストーリーを深掘りすることができただけでなく、新しいヒーローを登場させることもできました。それは私たちにとってはとても重要なポイントでした。なぜなら、これはシックスだけのストーリーではなく、この歪んだ世界にいる全ての子どもたちのためのストーリーだからです。『リトルナイトメア』の世界は、1作目の舞台である「モウ」よりももっと広いものだということも表現したかったんです。『リトルナイトメア2』には、森や街や病院などの外の世界も登場します。プレイヤーにはそういった場所にも行ってもらいたいし、他のさまざまな登場キャラクターについても知ってもらいたいと考えました。

続編制作に向けた技術革新と試行錯誤 新作で可能になった様々なストーリー体験とは?

――『リトルナイトメア2』は、規模感の面でより意欲的なタイトルになっているそうですが、ビジュアルや操作の面ではどのような進化を遂げているのでしょうか?

ルカ:『リトルナイトメア2』の開発環境を1作目の頃と比較すると、格段にレベルアップしていることが分かります。これは、私たちがこのゲーム開発において成し遂げたかったことの一つでした。この4年間でハードウェアも進化しました。それも相まって、ビジュアル面ではより意欲的なゲーム開発が可能になりました。

また、1作目は基本的にステルスゲーム(※隠れることを基軸に置いたゲーム)だったので、シリーズにさらなるゲーム性を持たせたいと考えました。『リトルナイトメア2』では、ステージにあるものを拾って武器として使うことが可能になっています。1作目にはなかったアクション要素を追加したわけです。

――なるほど。アクションの話が出ましたが、その中でも特に苦労して取り組んだのはどんなところでしょうか?

ルカ:やはり戦闘アクションですね。拾った武器で敵を攻撃する、というのは新しい要素です。『リトルナイトメア』は、向かってくるキャラクターを次々と殺していくようなシリーズではないので、敵を攻撃できるシーンとできないシーンのバランスを、良い塩梅にするのにはかなり時間がかかりました。攻撃ができない状況では、プレイヤーは直接敵と対峙する代わりに、敵を出し抜かなければなりません。

また、新しいモンスターも登場させました。『リトルナイトメア』のモンスターは非常に個性的です。たとえば「ハンター」というモンスターは、ショットガンを持ち、射程内に入るとプレイヤーを撃つことができます。

ハンター
ショットガンを持ち歩き、プレイヤーを狙うハンター

そして「ティーチャー」というモンスターは、長い首を自由自在に伸ばすことができて、プレイヤーが隠れたつもりでも、その長い首で捕らえてしまう。首の骨が25個もあるので、アニメーターにとっても課題が多く、部屋の家具の間を通り抜けるような動きを作るのにかなり工夫を凝らす必要がありました。

ティーチャー

「ドクター」というキャラクターは天井を這っているので、見せ方・遠近感を設定するのに苦労しました。頭上からプレイヤーを捕らえることができるので、攻撃が届くのか届かないのか、それぞれの状況に適した画角をしっかりと見せる。これを成立させる必要がありました。

ドクター

他にもあらゆる敵モンスターがいて、それぞれに多かれ少なかれ課題がありましたね。簡単に解決できるものもあれば、かなり複雑なものもありました。それらを除けば、おそらくAIが一番の課題だったかもしれないです。

――1作目からあらゆる点で変化を遂げている一方で、シリーズの世界観に一貫性を持たせるために心がけたことはありましたか?

ルカ:プレイヤーを補助しすぎないという指針は、今作でもブレていませんよ。1作目でもそうでしたが、プレイヤーは前情報もなくゲームの中に放り込まれるわけです。そのため、冒険しながらモノのことを少しずつ知っていくのです。

プレイヤーにはストーリーを進めるために、さまざまなことを実験してもらいたいです。ジャンプしてみたり、何かを掴んでみたり、何かの上に登ってみたりしてもらいたいのです。ほとんどの人は、前情報なしで直感的に操作できるようになるはずです。そしてストーリーがどうなったのか、シックスの身に何が起こったのかを想像してもらいたいと思います。私たちはまだ物語の結末を明らかにしていませんが、すでにファンの方々の間でも独自の仮説などが飛び交い、各々の想像力で物語を作ってくれています。

ストーリーの鍵を握るシックスの存在 AIを使用したゲーム開発の苦労

――プレイヤーはモノを操作し、シックスはNPCで登場しますね。これにより、ストーリーやゲーム体験がどう変わるのか、楽しみにしている方も多いと思います。

ルカ:ストーリー面では、ゲームの進め方が大きく変わりますね。1つの視点だけでなく、2つの視点でゲームを見ることが可能になるので。ただ、ストーリーの中では常にシックスと一緒にいるという訳ではありません。いくつものミッション(パズル)や冒険を経て彼女を見つけ、ある時点で離れ離れになり、そしてまた再会を果たす……といったまるでジェットコースターのようなストーリー展開があります。これがこのゲームの一つの肝で、『リトルナイトメア』を初めてプレイする人や、ゲームに音声・会話がないことに不安を感じる人にとっても、おそらくプレイしやすいストーリーになっているのではないでしょうか。コアなファンがネットでそれぞれの解釈を議論するような要素もありながら、より多くの人にとって間口が広がる作品になったと感じています。

――なるほど、楽しみです。ちなみにこの2人のキャラクターがいるということは、パズルの解き方、プレイの仕方にも影響してくるのでしょうか?

ルカ:2人のキャラクターがいることで新たな視点が開けるので、パズルの解き方も変わります。ストーリーの中で、シックスは自主的に行動するのか、あるいはプレイヤーの指示に従うのかということを決めるのは一つの課題でしたが、実感を得るために両タイプの試作版をプレイして判断しました。最終的には、1作目のシックスのイメージに忠実に、自主的に行動させることを選びました。 彼女はとても自立しているので、誰かの指示を待つということはありません。たとえば、アイテムをチェックしたり、気になるポイントに近づくと一定の高さまでプレイヤーを持ち上げてくれたりとアシストしてくれます。

シックスはストーリーのあらゆる場面でプレイヤーをアシストしてくれる

――シックスのAIの動きや振る舞いの部分で特にこだわって完成させたものはありますか?

ルカ:キャラクター同士が連携するアニメーションを多く作る必要がありました。しかし、シックスに関しての課題というのは主に技術的なものだったといえます。AIキャラクターが登場するゲームというのは制作するのが非常に難しいということを私たちはよくわかっていました。この世にAIキャラクターを使ったゲームが実はあまり多く存在しないというのにも、こういった理由があります。シックスに関しては、ステージで行き詰まってしまったり、受動的すぎたりと、あれこれ課題がありました。逆にある時点ではシックスが積極的過ぎて、ひとりでパズルを解いてしまったこともあります。 こういった問題をどう解決していくのか、何度も話し合いを重ねて試行錯誤しましたが、最終的にはシックスらしい自然な動きになったのでかなり満足しています。今回はまさに目指していたものを作れたと実感しています。

さらに大変だったのは、プレイヤーの行動だけでなく、敵のAIの行動もシックスのAIに理解させなければいけないということでした。同じ部屋に複数のAIがいて、さらにプレイヤーも動き回るので、シックスのAIにはそれぞれの状況に柔軟に対応させる必要がありました。素早く反応させなければならない上に、子どもらしい自然な振る舞いに見える必要もあります。この状況でプレイヤーを助けてくれるのか。しかし少なからず危険を感じて当然なので、隠れるべきではないのかという疑問も残ってしまいます。 部屋のレイアウトや、それぞれのキャラクターAIは何をするべきかについて、デザインチームとAIチームのあいだで何度もやりとりがありましたね。身に危険が迫っている時に、部屋の真ん中でキャラクターが立ち尽くしているなんてことがあってはいけませんからね。こうして問題となるような状況を何度も洗い出しました。このあたりは開発における大きな課題でしたね。

――コロナ禍での作業は大変だったかと思います。制作には大きな影響はあったのでしょうか? そして、どのようにしてこの大変な状況を乗り越えたのでしょうか?

ルカ:はい、もちろん影響はありましたね。ただ幸いなことに、制作の比較的終盤に差し掛かっていたところだったので、それぞれ自分が何をすべきかを明確に理解できていました。リモート環境にはなりましたが、作業自体にもそれほど影響はありませんでした。もしこれが制作の初期段階であれば、もっと複雑になっていたかもしれません。

もちろんコミュニケーションの面では少なからず影響が出ています。出張ができないので、毎日電話で話をしていますね。私はフランスにいて、開発チームはスウェーデンにいるので、通常は頻繁にスウェーデンに赴くのですが、今はそれが出来ません。チームと離れた状態で仕事をしなければならないですが、チームのメンバーもそれぞれが家から働いている状態だったので、私だけでなく全員にとっての課題だったといえます。

――制作中のターニングポイントや、制作中のものが本当にうまくいくと確信した瞬間はありましたか?

ルカ:技術的な観点からも演出的な観点からもこの作品には課題があり、一筋縄にはいきませんでした。また、ある時点ではゲーム内のさまざまな動作がうまく機能しなかったり、洗練されていなかったりしたために、最終的なイメージが掴みづらく、チームがフラストレーションを感じていた時期がありました。そこで、バーティカルスライス(※一部分のみ完全な形で遊ぶことができる試作品)を作ることにしたんです。

バーティカルスライスは短い尺のものでしたが、誰もがそのクオリティーに納得し、最終的にどんな完成品になるのかを確認できたことで、モチベーションがグッと上がりましたね。そして「ゲームの一部でこれが実現できたんだから、ゲーム全体でもできるな!」という確信が生まれたと思います。また、『リトルナイトメア』は非常にアーティスティックなゲームですが、開発工程でグラフィックが入ってくるのはかなりあとのほうです。グラフィックが入ってくると、本当に劇的な変化をもたらすので、「最終的にはこんな感じになるんだ!」「一生懸命がんばってきた甲斐があるね!」という気持ちになる瞬間がいくつかありました。

―― 『リトルナイトメア2』で最も誇りに思っていることは何ですか? 

ルカ:1作目から大きくステップアップできたことが一番の誇りですね。まさにそれを目標にしてきました。複雑な開発を要する新機能が数多く盛り込まれているので、2つのゲームに明確な違いを感じていただけると思います。

もちろん、制作チームも経験豊富になっています。そして、1作目での経験を生かして、さらにステップアップできました。それが最も誇りに思っていることです。

ゲームの世界にとどまらない『リトルナイトメア』が持つ可能性

――これまでのキャリアの中で、日本のゲームも手がけてきたと聞いています。現在ルカさんが働いているBNEEならではの利点や、制作環境の魅力などを感じる部分があれば教えてください。

ルカ:バンダイナムコグループで働きはじめて約10年になります。日本では『鉄拳6』や『鉄拳タッグトーナメント2』、福岡のCC2(※サイバーコネクトツー:ゲーム制作会社)では『NARUTO-ナルト- ナルティメットヒーロー2』のプロジェクトのために尽力しました。これらはそれぞれ大きなやりがいのある仕事でした。

BNEEは、バンダイナムコエンターテインメントの本社がある日本に比べスタッフの数が少ない分、責任は重大です。その代わりに自由度が高く、仕事が上手くいったときには、とても大きなやりがいを感じます。

『リトルナイトメア』制作チーム

また、外部のスタジオと一緒に仕事をしているので、彼らが常にクリエイティブでいられるように、ある程度の自由を与える、そのバランスを見定める必要があります。IPをどういった方向性に導くかは私たちが決めることであり、開発チームにはそれを理解していただく必要があります。幸いなことに、私たちは常に連携をとり、オープンな議論が行われ、IPの将来のビジョンについて全員が納得して前に進むことができました。

――『リトルナイトメア』というIPをシリーズとして展開していく中で、特に意識していることはありますか?

ルカ:IP関連の業務に取り組むことは、とてもやりがいがあります。しかし向かいたい方向性が定まっていたとしても、たびたび課題に直面することもあります。多少妥協できるところと譲れないところを常に見極めなくてはなりません。

『リトルナイトメア2』の出来は、私たちが理想とするIPの方向性にかなり一致していると思います。規模感、ゲームの尺、新しい機能などは、まさに続編となる本作に望んでいたものです。これにはとても満足していますが、同時に今回は周りからの期待値が上がっていることも自覚しています。新しいIPが上手くいくと、ユーザーからの評判は得られますが、続編をリリースするとなると、その期待に応えられなかった場合、彼らは納得してくれないでしょうね。『リトルナイトメア2』について、ファンやメディアは1作目よりも厳しい目で見てくるだろうと覚悟しています。

――1作目の『リトルナイトメア』の成功でファンからの期待値が上がっていますが、シリーズの展開としては今後どんなことを企画されていますか?

ルカ:私たちは現在さまざまなプロジェクトを検討しています。すでにIOSとAndroidでモバイルゲーム『Very Little Nightmares -ベリーリトルナイトメア-』をリリースしていますが、ほかにも複数のメディアを横断するプロジェクトが進行しています。

あまり現段階で明かすことができなくて残念ですが、このIPの世界を広めていきたいという明確な願いはあります。『リトルナイトメア』の世界はそれだけ魅力的で探索しがいがあるものだと信じていますし、ゲームだけでなくさまざまなメディアを通してその魅力を伝えていくことが出来ると思っています。今はその可能性に非常にワクワクしています。

LITTLE NIGHTMARES Ⅱ-リトルナイトメア2-
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取材・文/高木クリス
CGアニメ・映像制作を中心に活動する通翻訳者・ライター。国内最大の通訳大会である「同時通訳グランプリ」にて2019年に優勝。またラッパーとしてもB-BOY PARK2003でのMCバトル王者として知られる。ハワイ大学卒。