各分野のプロフェッショナルが活躍し、支えるバンダイナムコエンターテインメント。そんなプロたちの神髄を“3つの要素”から探ります。第3回はライセンスメディア事業に関わる伍賀一統氏。そこにはオンとオフの切り替えの上手い伍賀氏の日常が浮かび上がってきます。
エンターテインメントの仕事は遊びの延長線上。楽しむことが大切
「色々と考えたんだけど、浮かんだのはこの3つでした」と困ったような笑顔を見せた伍賀一統氏。ご自身を作る3要素として挙げられたのは「ゴルフ」、「バンダイ元会長・杉浦幸昌氏のインタビュー記事」、「家族」だった。これまで登場したどの取締役ともベクトルの違う3要素だが、氏を知ることのできる3要素。そんなテーマを語ってもらった。
1:ゴルフ。「このスポーツが教えてくれること」
――ゴルフがお好きということですが、普段はだいたいどれくらいのスコアなのでしょうか。
伍賀:今、ハンディキャップは14で、86とか85とか、そのあたりで普段、回っていますね。
――いつ頃始められたのですか?
伍賀:20年くらい前ですね。今年の夏はあまり自分がプレーする、ということでは回れなかったんですけど、娘がゴルフをやっていて、その付き添いではゴルフ場に行っていたんです。おかげで日焼けはしていますけど(笑)。
――本格的にハマったというゴルフの面白さはどんなところにあるのでしょうか。
伍賀:初心者の頃はただ打っているだけなんだけど、やっていくと一緒に回る人と朝から夕方までずっと一緒にいて、同じ時間を共有できて、その後に会ってもゴルフのときの会話で盛り上がったりも出来るので、これは続けたい、と思ったんです。やっていくうちに奥の深さに気づくんですね。ただ打っているだけではない、ここのホールはどう攻めようか、ミスをしても次に挽回するためにどうしようか。戦略を立ててやるんですよね。目標を設定して、そのためにはここをいくつで回らないと、とか意識しながらプレーしているので、仕事にも通じるところはあるのかなと思っています。
それにゴルフは年配の人とも回れる。同じフィールドで、打つ位置は変わりますが、80歳の方とでもゴルフを通じて共通の会話が出来ることもいい。だから娘が「ゴルフをやりたい」と言い出したときも、「いいんじゃない?」って。礼儀やプレー中の態度にしても言葉使いにしても、目上の人と回る機会も多いのでちゃんと身につくし学べると思うので、ゴルフは精神面への影響もあるのでいいなと思います。
――社内にもゴルフの練習スペースがありますね。
伍賀:それは前の社長と一緒に作りましたね(笑)。
――社内でも会話が生まれそうです。
伍賀:社内では年2回、ゴルフコンペもありますし、出られるときには出場して、社内の人たちとも幅広くコミュニケーションを取っています。コミュニケーションの機会としてもゴルフはすごくいいと思いますね。
――ゴルフセットもお気に入りのグッズで溢れているような印象ですね。
伍賀:色々と集まってきちゃうと愛着も湧きますね。特にこのポンタくんのヘッドカバーはお気に入りです。プロの試合を見に行ったときに売っていて可愛くて買っちゃったんです。よくコースを回っていると家出するんですが、必ず帰って来るんです。可愛いやつです(笑)。
2:バンダイ元会長・杉浦幸昌氏の言葉。「自分にとっての原点回帰」
――杉浦幸昌氏はどのような方でしょうか。
伍賀:僕は最初はバンプレストに入社したんですが、そのときの社長が杉浦さんで。色んなことを教えてもらいました。出会ったときの印象は、怖い人だったんです。ものすごく怖い人。仕事をしていると、いつのまにかすぐ後ろに立っていらして、「なにやっているの?」って根掘り葉掘り聞かれるのがすごく怖かったですね。杉浦さんのいらした頃の僕はすごく若かったので、そこまで深くお話をしてきたわけではなかったですが、すべてを尊敬しています。一時代を築いた方なので。ただ杉浦さんに対して感じているのは、どれだけ真似ようとも届かないんだろうなと思います。
――その杉浦会長の言葉を常に読めるようにされている、ということですが。
伍賀:そうなんです。困ったときには、杉浦さんが引退されるときに「トイジャーナル」で連載された杉浦さんのインタビューをプリントアウトして、自分が読む用にひとつにまとめているんです。なにかあるごとにそれを開いては読み返しています。僕にとっては原点回帰。基本的なところです。昔のことがいっぱい書いてあるんだけど、今と通じるところがいっぱいあるんですよね。ことあるごとに目を通すものです。
――内容としてはどのようなことが書いてあるんですか?
伍賀:インタビューですね。丁稚(でっち)から始まって、ポピーという会社を作って、バンプレストを作って、バンダイになって会長になって引退をするまで。こういう考えで、こういう場面ではこうしてきた、ということが全て語られているんです。
――マーカーも引かれていらっしゃいますが、どのようなところに引かれるんですか?
伍賀:物事の考え方であったり、行動の仕方、そういうところをマーカーしています。目標や夢を持ってチャレンジしていけば知恵や工夫が生まれてくる、時代は進んでいくからそれ以上に自分たちも変わっていかなければ勝ち残れない、ということ。そういう言葉は今にも生きるものだと感じます。
――こちら「語録」もコピーされていらっしゃいます。さまざまな言葉が並んでいますが、特に印象に残っているのはどんな言葉ですか?
伍賀:開発をやっていた頃に口酸っぱく言われた言葉ですね。「売れるか 作れるか 儲かるか」。これは本当に言われました。あとは「売れないように売れないようにしているとしか思えない」。これもずっと言われましたね。その言葉を見ては原点回帰して、前に進んでいっています。
3:家族。「家族がいるから仕事が頑張れます」
――今回、3つめの要素は「家族」とのことですが。
伍賀:僕のアイデンティティになっているのは家族。特に娘。今、高校1年生でゴルフもやっていて、たまに一緒にコースを回ります。父も含めて3世代でコースに出ると、娘が一番うまくて、次に僕、そして父、というバランスになりますね。
――お父様としてはお嬢さんをどのようにサポートされているのでしょうか。
伍賀:すべてですよ。スタートしたのが中学1年生からなんだけど、すごく好きなんだろうなぁって傍で見ていても感じます。僕もしっかり支えたいと思っていますね。それにゴルフは大人になってからも、たくさんの人と娘を繋ぐものになると思うので、社会人になったときに「やっていてよかった」と思ってくれたら嬉しいですよね。
――ご家族の存在が仕事に向かうご自身にとってはどのような支えになっているのでしょうか。
伍賀:なんのために働くのかと言えば生活のためであり、家族のためであるわけで。働くモチベーションになっているなと感じます。
――お嬢さんとの時間も濃密になりますね。でもつい口が出てしまうこともありそうですよね。
伍賀:あります、あります。「なにやってるの」みたいなこと言っちゃいます(笑)。ワァー!と反論も返ってくるんですけど、僕はそんなの聞き流しちゃいます。まぁ、娘の方も僕の言ってることなんて聞いていないんですけど。性格が似てるんです。顔も似ていますけど。
――子育てのモットーにしていることというと?
伍賀:難しいですよね。言うことは聞いてくれないし、思うとおりにならないし。でも叱るところは叱ります。ただ、なんでも愛情を持ってやること、ですね。褒めるときは褒めますし、叱るときも愛情を持つこと。そうじゃなければただ怒っているだけになってしまいますから。口開けば文句ばかり言ってますけど、そこは聞き流します。
――家族円満の秘けつを教えてください。
伍賀:みんなの執事になる事(笑)。娘だと結局、家の中が女性2人なので、どう考えてもあちらが強いんです。すごく身軽に動きますよ。なんだったら会社にいるときよりも家にいる時の方が身軽かもしれません(笑)。
「どんどん挑戦しよう」というバンダイナムコエンターテインメントのDNAを後進に伝えていきたい
――そんな伍賀さんが後進のみなさんに伝えたいことは?
伍賀:バンダイナムコエンターテインメントのDNAは「どんどん挑戦しよう」「失敗をしても挑戦を続けよう」ということだと思うんです。そこは後進の人たちにも伝えていきたいですし、基本的なその考え方の下で僕らはやってきているし、会社の中に息づいているものなので、伝えていかなければいけないことなのかなと感じています。
――ではエンターテイメントに関わるお仕事を長く続けていくコツを教えてください。
伍賀:オンとオフの切り替えはもちろんありますが、エンターテインメントって遊びの延長線上だとも思っていますし、僕はそれが好きなので、柔らかい頭で楽しみながらやっていくことだと思います。
――今後の会社全体に対してはどのようなビジョンをお持ちでしょうか。
伍賀:若い子が多いので、若い子がどんどん活躍できる環境のある会社になれば、もっとよくなるだろうし、活気も出て来るだろうし、それによってどんどん色んなことにチャレンジも出来ると思うので、そういう形を持っていかなければいけないなと思っています。
若い子のヤル気がありますし、どんどん新しいことに挑戦したいと言っている子も多いので、今後が楽しみです。若い子たちがどう活躍していくのかは期待しています。
【取材後記】
ご家族、特にお嬢さんのお話をされているときの、お父様としての表情が印象的でした。その柔らかな姿勢に、つい自分の息子のことも相談してしまったほど。そしてやはりゴルフは素晴らしい腕前。撮影のときには気づけばギャラリーも増え、感嘆の声が社内に響いていました。
【取材・文 えびさわなち】
リスアニ!、リスウフ♪を中心にアニメ、ゲーム、特撮、2.5次元の雑誌やWEBで執筆中のエンタメライター。平成ライダーから令和ライダーへ。仮面ライダーのバトンが時代をまたぎ、ここから新たな時代のライダーのフィギュアが並ぶのだ、と感慨深く「仮面ライダーゼロワン」のフィギュアを待つ日々。
【撮影・吉川綾子】