バンダイナムコエンターテインメントが“ヒミツキチづくりRPG”として2019年9月26日に発売した『ニンジャボックス』。オリジナルIPを作るための「新規IPプロジェクト」の一環として制作され、オリジナルWebアニメの配信などのメディアミックスにも取り組む大型タイトルです。この作品に込められた想いやこだわり、そしてメディアミックス展開実現の裏側など、プロデューサーをはじめスタッフ陣に語っていただきました。
「誰かを笑わせたい」という気持ちと、「お子さんたちを喜ばせたい」。2つの想いから始まった『ニンジャボックス』制作
――『ニンジャボックス』とはどのようにして生まれた企画なのでしょうか?
佐竹:バンダイナムコエンターテインメントには、新たなIPを生み出すことを目標とする「新規IPプロジェクト」というものがあるのですが、その中で作った企画でした。自分の中にあった「誰かを笑わせたい」という気持ちと、「お子さんたちを喜ばせたい」という想い、その2つを両立させた”ギャグを盛り込んだ子ども向けのIP”として企画しました。
――その「誰かを笑わせたい」と「お子さんたちを喜ばせたい」という想いに至る、きっかけが何かあったのでしょうか?
佐竹:私はもともとナムコにクリエイターとして入社して、新人時代に『*マッスル行進曲』というお笑いの要素がふんだんに盛り込まれた任天堂Wiiウェア向けのゲームを作ったんです。はじめからお笑いは好きだったんですよね。
大森:『マッスル行進曲』は社内でも伝説のゲームと言われているタイトルです(笑)。
*マッスル行進曲
2009年5月26日にWiiウェア向けに配信された「マッチョ系ポージングアクション」Wiiリモコンを使って画面に表示されるポーズと同じポージングを取るという単純、明快、愉快なゲーム。マッスルが織りなす独特の世界観に癖になる人が続出した。
佐竹:その後はプロデューサーとしてアニメや特撮などキッズ向けタイトルを多く手掛けたのですが、その一環としてイベントなどでお子さんたちが喜んでいる姿を目にすることができて。そのときに、自分の仕事に誇りを持てたんですね。それらの経験があったので、ギャグを盛り込んでお子さんたちを喜ばせられるIPを作りたいと思い、『ニンジャボックス』を企画していきました。
自分の部屋を持たない現代の子どもたちが、自由にものづくりを楽しめるゲーム
――『ニンジャボックス』はニンジャ(忍者)たちと自分だけのヒミツキチ(秘密基地)を作るというゲームですが、この企画に至った経緯を教えてください。
佐竹:“忍者”という部分が印象的だとは思うのですが、根本にあったのは「今のお子さんたちが面白いと思えるものを作ろう」というものでした。
――秘密基地づくり要素の方が先にあったのでしょうか?
佐竹:そうです。自由な発想で自分たちで作り上げていくことが、子どもたちの間で話題になるのではと考えました。自分は田舎出身なので、原体験として秘密基地を作ってはいろんなものを持ち寄ってわくわくしながら楽しんでいたという記憶もよみがえって。
――主人公が“自分の部屋のない少年”という設定に、とても現代らしさを感じました。
佐竹:その発想が生まれたのも、まずは子ども向けの企画を始めるにあたり「プロの意見を取り入れたい」と考えていたので、小学館のコロコロコミック編集部さんに話を聞きに行ったところからでした。今の子どもたちについていろいろ教えていただく中で、最近はマンション住まいの家庭が多く、また親と子どもの関係が近いこともあり、部屋ではなくリビングで勉強するのがスタンダードになるというお話があって。
その一方で、子どもたちは自分の部屋も欲しいとも思うんです。親に対する秘密も持ちたいだろうし。…といった話を編集部の方としながら生まれた設定が“自分の部屋がない子ども”というものなんです。
――なるほど。ちなみに“ニンジャ”というモチーフを採用した理由とは?
佐竹:ニンジャってすでにいろんなIPで料理されていて、古めかしいイメージがあったのですが、だからこそあえてそれを選び、想像しなかったような切り口を提示できれば、親しみやすくも驚きがある作品を作れるんじゃないかと思ったのが大きな理由です。
このキャラ好き?嫌い?徹底的な調査とブラッシュアップで作り上げたキャラクターたち
――原作もののIPタイトルが数ある中、ゼロから作り上げた新規IPである『ニンジャボックス』は、制作プロセスにおいて違いがありましたか?
佐竹:これまでたくさんの人気キャラクターをお借りしてゲームを作ってきましたが、やはりゼロから面白いお話やキャラクターを作るというのは、全然違いましたね。すべて自分たちで作っていくのですが、世の中のキャラクターが、デザイナーやシナリオライターなど各分野の方たちによって緻密に作り上げられることを改めて知りました。
又野:その中でも子どもたちを対象とした調査はかなりしましたね。特にキャラクターを作り上げる過程では、調査とブラッシュアップを何度も繰り返しました。
佐竹:お子さんを呼んで、いろんなキャラクターのイラストを見せて「このキャラ好き?嫌い?」みたいな話を何度も繰り返して。
又野: “国民的に愛されるキャラクター”になってほしいという想いで取り組んでいたので、「みんなに好きになってもらえるデザインとは?」ということを意識しました。
――実際に調査してみて意外だったことなどはありましたか?
又野:僕らは、子どもたちはこのキャラクターデザインはきっと好きになるだろうと思っていたのに、多くの子どもたちから「嫌い!」と言われたデザインもありましたね。「そんなに嫌われるならこれは入れられないな」と、結果そのキャラクターは変更しました。
――キャラクター以外にも子どもが好きそうな要素というと、動画配信してその再生数でお金を稼ぐというYouTuber的な要素がありますよね。
佐竹:自分のキチを作っていくと「ニンチューブ」の再生回数が増えてお金が手に入る仕組みですね。今のお子さんたちがなりたい職業であるYouTuberになった気持ちが味わえるように取り入れた要素です。
『ニンジャボックス』は冨田のプロデュースでアニメを作ってWebで配信していますが、今のお子さんってYouTubeを見てる時間がどんどん長くなってきているんですよね。我々の調査でも、小学生高学年は家に帰るとYouTubeを見ている子が多くて、自分たちの子どもの頃とはライフスタイルが違うんだなと驚かされました。そういう新しい要素はどんどん入れていかなきゃいけないと感じますね。
――Webアニメのお話があがりましたが、今回『ニンジャボックス』のアニメを制作するにあたって、こだわった点などはどこでしょうか。
冨田:まずWebアニメなので決まった放送尺でなくていいのですが、ターゲットの視聴媒体の調査結果からスマホで見る割合が高く出ていて、その媒体での見やすさを考慮し、短尺にしようと。一方で、アニメーションの魅力を伝えようとすると尺が伸びていくものですが、その両方の点を満たす10分程度の作品にしました。
あと、主題歌もオリジナルですが、踊りも作っていただいて。本編以外でも楽しんでもらえる工夫を取り入れています。
メディアミックス、そして海外へ。大型タイトルだからこその取り組みとは
――Webアニメ展開以外にも、月刊コロコロコミックの漫画連載、そして今後グッズ展開などもされるそうですが、今日集まっていただいた皆さんの所属部署を見ても、『ニンジャボックス』には多くの人たちが関わっているのが伺えます。
佐竹:新規IPプロジェクトとして企画を作って、まずは他のタイトルを一緒にやっていた又野を誘い、そこから「子どもたちが腹を抱えて笑える企画を作るのには、アニメやコミックも必要だろう」と声をかけていって今のチームになりました。
――やはり通常のゲームタイトルより大規模なチームなのでしょうか?
佐竹:そうですね。基本的にはひとつの部署内で完結することが多いのですが、『ニンジャボックス』はオリジナルIPかつメディアミックス作品ということで、ライツ部がグッズを商品化したり、アニメを作る部署が絡んできたりしています。大森には宣伝やマーケティングを担当してもらっていますが、アジアでの販売も予定しているためかなり大がかりですね。
――アジア展開もされるんですね! 当初からそこも見据えて企画されていたんでしょうか。
佐竹:もともと海外展開は想定していませんでした。単純に「子どもたちが喜ぶものを」という感じで、とにかく日本の子どもたちに向けて作ることに注力していました。
大森:宣伝の考え方も同じです。宣伝それ自体で子どもたちを喜ばせられるようなものを意識しています。そのため今回はUUUMさんと協力して、はじめしゃちょーの畑さんをはじめ、子どもたちに人気のある動画クリエイターのみなさんに遊んでいただき、少しでも子どもたちが魅力的に感じられるよう工夫しました。自社オリジナルの新規IPということもあって、1から宣伝施策を考えて実行しています。
又野:原作がある作品の場合は、その作品やキャラクターにはファンの人たちがすでに存在していて、そのファンの皆様にどういう風にすれば届けられるかというのが論点になることが多いんです。でも、今回は一から新しいファンを作らないといけない。そこは本当に大きな違いですね。だからどのようにニンジャボックスというIPを浸透させていくかという点はチーム内でいろんな意見を言いながら決めていきましたね。
君島:グッズに関しては、私自身これまでハイターゲット向けタイトルを多く扱ってきたのですが、『ニンジャボックス』は小学生向けです。となるとグッズのターゲットもニーズも全く違うんですよね。そのため文具の展示会に行ってトレンドを探ったり、お店を回って市場調査をしたりしながら、試行錯誤で少しずつお取組み先を増やしていきました。
さらには同じタイトルでも、ゲームでターゲットに据えていたお客さまと実際にアニメを見ているお客さまの年齢層が当初の想定と違うといったこともでてきて、また一筋縄ではいかないところですね。「新規IPはこれほどやることがあるのか」ということを改めて感じました。
子どもたちにつながってもらいたい。『ニンジャボックス』今後の展望は?
――最後に『ニンジャボックス』の今後の展開についてぜひお聞かせください!
冨田:私がプロデュースを担当しているWebアニメのシーズン2が始まっているので、ぜひアニメとゲームを合わせて楽しめるような場を今後も作っていければと思っています。同じタイトルではあるのですが、ゲームは自分がプレイヤーとしてキャラクターを扱う一方、アニメは外からキャラクターを眺めるという形になるので、だいぶ違う表現ができるんですよね。そういうメディアの差も生かして、『ニンジャボックス』の世界をさらに広げていきたいと考えているのでぜひご期待ください。
君島:商品化やイベントを手がける立場としては、ゲーム中でできる経験をリアルに体験できる施策をしたいと考えています。『ニンジャボックス』は自分でものを作ったり、集めたり、戦ったりするという、いろんな切り口の楽しみ方があるタイトルで、いろんな取り組みができるのびしろのあるタイトルだと思うので、やりがいがあります。
大森:宣伝面では、ゲーム媒体やテレビなどのメディアを通しての発信のほか、子ども向けタイトルということから、子どもに直接的に届けることができるNintendo Switch内のチャンネルを通した発信も盛んに行っているのが『ニンジャボックス』の特徴だと思います。長く愛されていくコンテンツになるように、さまざまな宣伝展開を長く続けていけたらと思っています。そして12月には韓国・台湾・香港での発売も控えていて、現地の言葉にローカライズされたアニメも放映が始まりつつあるので、日本を飛び出して幅広い地域の子どもたちに愛されるコンテンツになれるようにがんばりたいです。
又野:小さい頃にやったゲームはすごい覚えているんですよね。昔の友達と久しぶりに会っても、その頃やっていたゲームの話はすごく盛り上がる。子どもだったころを思い返せば、小学生のときに引っ越しをしまして、そのころ友達ができるかとっても不安だったのですが、ゲームを通してどんどん友達が増えていったという経験もありました。『ニンジャボックス』もそういう、みんなが思い出して語り合えるようなゲーム、そして子どもたちがたくさん繋がれるようなゲームにできればと思っています。
それと同時に『ニンジャボックス』は本当にいろんな人たちが集まって、Webアニメ、YouTubeチャンネル、グッズ展開、ゲームなどいろんなことをやらせてもらっているタイトルです。どこから入っても好きになってもらえるようなコンテンツを制作し、ファンを増やしていきたいですね。
佐竹:今日ここに集まったみんなの顔ぶれを見て改めて思いますが、『ニンジャボックス』は個人の思いでしかなかったところから、ここにいるメンバー以外にもアニメ、ゲーム、コミックと多くの方と協力して作り上げたタイトルです。自信をもってお勧めできる内容になったと思うので、もっと多くの人に伝えていきたいと思います。アニメは今後もさらに笑えるお話が配信されていきますし、ゲームもアップデートで複数人で遊ぶオンラインプレイを充実させていく予定です。『ニンジャボックス』というIPでみんなで楽しくゲラゲラ笑って遊んでもらえたら嬉しいです。
【取材後記】
“新規IP開発”というと大仰なプロジェクトのように聞こえますが、実際に作品に携わっているみなさんのお話を伺うと、その根本にあるのは「楽しい作品を作りたい」という純粋な想いただ一点。アソビに掛ける思いの強さを感じました。
取材・文/坂上 春希
1984年生まれのコンテンツプロデューサー。ライター/カメラマンとしても、ガジェット、ビジネス、インテリア、カルチャー、テクノロジー等の分野に渡りメディアや広告の分野で活動中。