2020年1月17日に発売された最新ゲームタイトル『ドラゴンボールZ KAKAROT』。この作品は、『ドラゴンボールZ』の物語を悟空になって体感できるアクションRPG。制作/宣伝チームにそのこだわりを聞きました!
求めたのは究極の「悟空体験」。『ドラゴンボールZ KAKAROT』 誕生秘話
――『ドラゴンボールZ KAKAROT』は、プレイヤー自身が悟空となって『ドラゴンボールZ』の物語を体験できる没入感が魅力的な作品になっていると思います。今回の企画が生まれたきっかけは、どんなものだったのでしょうか?
原:2015年から『ドラゴンボール超』のTVアニメが放送され、劇場版も2013年の『ドラゴンボールZ 神と神』から2018年の映画『ドラゴンボール超 ブロリー』まで盛り上がっていくなかで、新しいファンの方々が増えているのを実感していました。中には『超』だけ知っている方も出てきていると思いますので、このタイミングで、シリーズの中でおそらく最も人気のある『Z』を、アクションRPGとして描きたいと思ったのが最初のきっかけです。
――ファン層が広がる今こそ、改めて『Z』にも焦点を当ててみよう、ということですか。
原:同じ『ドラゴンボール』でも、『Z』には『Z』ならではの空気感がありますよね。シリアスで、戦闘も非常に激しく、主人公たちが追い込まれていく――。そんな魅力を届けるためには、原作の細かいシーンも描かなければいけないと思い、今回はそれをアクションRPGに落とし込みました。開発をお願いしたサイバーコネクトツーさんは「超アニメ表現」とも呼ばれる映像の表現力が素晴らしく、『NARUTO -ナルト-疾風伝 ナルティメットストーム』シリーズも世界で好評ですし、『.hack』シリーズでRPGの知見もあるので、今作との相性も非常に良いだろうと感じていました。
――『ドラゴンボール』シリーズは、世界中で長く愛されている作品だけに、これまでもさまざまなゲームタイトルが発売されています。みなさんもその熱気を感じる瞬間はありますか?
弘田:最近ですと、アメリカのファンの方から、「昔から『ドラゴンボール』のアニメが大好きだった。そのアニメを観て、自分は辛いときも頑張れました。今回、アニメを忠実に再現したゲームをつくってくれてありがとう。自分のためにつくられたようなゲームだ」と、熱いファンレターをいただいたりもしました。
北山:『ドラゴンボールZ KAKAROT』は、『ドラゴンボールZ』の名シーンだけではなく、世界観の細かい部分まで再現されていますので、日本の公式Twitterで「こんな名シーンもあります」とツイートしたんですが、反響がすごく、「このシーン好きでした」と反応をいただいたり、悟空の台詞を真似してリプライをくださったりして、人気を改めて感じました。
花井:『ドラゴンボール』は、今は親子二世代にわたって楽しんでいる方も多い作品ですが、『ドラゴンボールZ KAKAROT』は、そうした世代にも楽しめるようなものになっているように感じます。だからこそ、さまざまな方々に楽しんでいただけているのかな、とも思います。
――では、今回の制作に際して、原さんが特にこだわったことと言いますと?
原:今回は「悟空体験」をテーマにしています。とはいえ、「悟空体験」と言っても、みなさんそれぞれにやりたいことは違うと思うんですね。熱いバトルを思い浮かべる人も多いでしょうし、舞空術で空を飛んだり、広大な大地をすごいスピードで駆けまわったり、一方で登場人物とコミュニケーションを取ったり、ギャグシーンを楽しんだりしたい方もいるはずです。『ドラゴンボール』の世界は本当に広大で、色々な魅力があるので、「あの世界で、悟空として何をしたいか?」を突き詰めてゲームに反映させました。
――実際のところ、悟空が走るスピードもとても速く設定されていますよね。
原:そうですね。ゲーム内では筋斗雲(きんとうん)に乗って空を飛んだり、車に乗ってフィールドを走ったりすることもできますが、車に乗れるのは「セル編」以降なんですね。ですが、そこまでプレイして、頑張って免許を取って車に乗っても、普通に走るよりも遅いんです(笑)。でも、それこそが「悟空体験」でもあると思うんですよ。
――つまり、『ドラゴンボール』でしか起こりえないことを、プレイヤーが体験できる、と。
原:そうですね。ほかにはサイヤ人の特徴として大量の食事を摂るので、料理のおいしそうな見た目や、みんなでガツガツ食べてお皿が重なっていく様子もこだわっています。
弘田:また、これまでの『ドラゴンボール』のゲームは対人戦が多かったですが、今回はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)との闘いですので、原作にもある圧倒的な力の差が表現されていると感じます。とんでもなくでかい気の塊が飛んできたり、広範囲の爆発を起こしたりするなど、ダイナミックな表現が実現しています。
北山:宣伝的な目線で見ると、すごく映える場面がゲーム内にたくさんあるな、と思います。たとえばPV(プロモーションビデオ)をつくる際にも、バトルも、バトル以外の場面でも、どこを切り取っても映えるシーンばかりで、「一体どこを使おう……!?」と、幸せな悩みを感じました。
原作があるからこそ生まれる魅力とは? 『ドラゴンボール』表現が生む魅力
――『ドラゴンボール』は原作の時点から、格闘表現にも日常表現にもこのシリーズにしかない独特の要素が多々あると思うのですが、今回この辺りはどう表現されたのでしょう?
原:これまでの作品でも、そういった要素は際立って表現されていたと思うのですが、一方で今回はアクションRPGですので、バトルの面でもより幅広い方々に楽しんでもらえるよう工夫しています。操作性は、『NARUTO -ナルト-疾風伝 ナルティメットストーム』シリーズで培ってきたバトル表現や操作のしやすさを取り入れつつ、『ドラゴンボール ゼノバース』シリーズなどに触れてきた方にも遊んでいただけるように工夫しました。
弘田:今回は、高速移動をするだけでも、かなり『ドラゴンボール』らしいプレイを体験できると思います。敵からなかなか理不尽な技が飛んできますので、今回は「避ける」モーションに『ドラゴンボール』らしさが詰まっていると言いますか。また、敵が出す気の塊にかめはめ波を放って2つがぶつかり合うような表現も、久しぶりじゃないですか?
原:最近は意外とやっていなかったですね。とはいえ、これは『ドラゴンボール』と聞いて思い浮かぶもののひとつですし、自分自身、プレイヤーとしてやってみたいことでもありました。『ドラゴンボールZ KAKAROT』には敵の攻撃の前に予兆行動がありますので、「これに向かってかめはめ波を打ちたい」と思う方は狙ってその演出が見られるようになっています。上級者向けではありますが、ぜひ挑戦していただけると嬉しいです。
弘田:サブストーリーのキャラクター同士の関わり合いにも魅力を感じました。原作にある細かいシーンを始め、TVアニメにはない部分が描かれていたりもするので、新しい発見をする楽しさもあると思います。中には鳥山明先生からいただいた新設定をもとにつくったキャラクターやサイドストーリーもありますので。
――今回の作品では、鳥山先生のもともとの構想にはあったものの原作には登場していなかった新キャラクター、ボニューが登場することも話題になっています。
原:ボニューは、鳥山先生に「ギニュー特戦隊の結成秘話を教えてください」と質問したところ、「実はもともと6人いまして」というお話になったことで、ゲーム内に登場することになったキャラクターです。キャラクターデザインも先生にご担当いただきました。
原:実はそれも含めてすべて鳥山先生から出てきた設定で、私たちは何も手を加えていないんです。ですから、これは先生公式の設定で、『ドラゴンボールZ』の新たな正史と言ってもいいと思っています。最初に上がってきたときは、本当に衝撃的でした。
花井:ほかにも、舞空術で広大なマップを飛び回れるところも魅力的ですし、街がつくり込まれているので、「この場所にでっかいホテルがあったんだ!?」というように、アニメやマンガでは焦点を当てられなかった細かい部分を自分で探索できる楽しさも感じます。
弘田:今作にはゲーム用のワールドマップがあるので、「ここに人造人間が出没したんだ」「天下一武道会ってこんなに南のところで開催されていたんだ」など位置関係が分かるのも魅力のひとつです。そういう部分が、『ドラゴンボール』の世界をさまざまな形で楽しめるような魅力につながっているのかな、と思います。
原:純粋にストーリーを楽しみたい方はそれを楽しんでいただくことができますし、強さを突き詰めることもできますし、『ドラゴンボール』の知識を深めたい方は、サブストーリーをプレイしたり、ギャラリーモードともいえる「ドラゴンボール大全集」を読んでいただくこともできます。それぞれに感じる楽しさを突き詰めていただけると、とても嬉しいですね。
作品の魅力を伝えるために。マーケティングの工夫と、それぞれの『ドラゴンボール』愛
――一方で、マーケティングやプロモーションではどんな工夫をされたのですか?
弘田: 今作では広大なフィールドの中でプレイを楽しむことができますが、一方で「原作に嘘をつくことになってしまってはいけない」ということを大切にして、本作では意図的にオープンワールドにはしていません。マーケティングでは、それを正しく伝え、ユーザーの期待値を正しい方向に導くために、E3 2019(※1)に出展させていただいた際も、試遊前にカプセルコーポレーションの宇宙船を模したシアタールームで本作の基本コンセプトを説明する映像を見せるなど、「本作はオープンワールドではありません」とつくり手の意図を伝える工夫をしました。
※1ロサンゼルスで開催されるコンピューターゲームカンファレンスElectronic Entertainment Expoの通称
北山:私の方では、アクションRPGタイプの『ドラゴンボール』ゲームは久しぶりなので、これまでのタイトルを買ってくださった方はもちろんのこと、「『ドラゴンボール』はすごく好きだけど、アクションゲームやオンラインでの対人戦は苦手だ」と感じている方にも魅力が伝わるように宣伝を考えました。実写のスペシャルPVも、「子どもの頃、自分もかめはめ波を打つ練習してた」など、多くの方に共感いただけて嬉しかったです。
花井:私の方では、原作の設定や裏設定を忠実に再現しながら、同時にそれを現代のハイクオリティなゲーム表現で再現することのバランスを取るために、版権まわりの交渉を進めました。我々がやりたいことと、原作自体が持つ世界観とのバランスを、できるだけいい形で取りたいと思っていましたので。今回は実写のCMなども含めて、今までにやらなかった試みを行なっていますので、制作チームの想いが伝わるように交渉していきました。
――お話を聞いていて、みなさん自身が『ドラゴンボール』に感じるワクワク感を、どんなふうに新たな「悟空体験」にしていくかを考えていくような雰囲気を感じました。
原:やはり、我々自身が『ドラゴンボール』のファンですので、原作の世界観を大切にすることと、ゲームとして表現したいことのバランスを取ることは、つねに考えることです。
――みなさんが『ドラゴンボールZ』で一番好きなキャラクターやシーンといいますと?
原:まだ「セル編」が公開されていないときには、ネタバレを避けるために、やむなく「悟空がベジータやナッパに立ち向かうシーン」と話をしていたのですが……実は個人的に一番好きなシーンは、「セル編」で悟飯が覚醒するシーンなんです。今回ゲームでは16号が破壊されて悟飯がキレますが、セルゲームの前に16号と悟飯が会話するシーンがあるので、「このシーンを経て、覚醒のシーンにつながる」という部分も描いています。この辺りのシーンは、こみ上げてくるものがありますし、個人的にはかなり思い入れのあるシーンです。
弘田:僕が一番好きなキャラクターはビーデルです。好きなシーンは、「魔人ブウ編」で描かれる学園生活ですね。この部分は、Z戦士たちと一般人の力の差が、分かりやすく表現されていると思うので。今までのゲームタイトルは闘いにフォーカスするため、そういったシーンはなかなか描かれませんでしたが、今作では学校に通う悟飯も操作できますし、グレートサイヤマンを操作することもできます。ぜひ楽しんでいただけると嬉しいです。
北山:私は、ピッコロと悟飯の関係がすごく好きです。ピッコロはもともと大魔王で、世界征服しようとしていたのに、「ラディッツ戦」以降は悟空と一緒に闘ったり、悟空がラディッツ戦で死んだ後、悟飯に厳しい態度をとりながらも影から見守ったりしていて。それが『ドラゴンボール超』では、子守をするまでになっていますよね(笑)。すごく悪かったキャラクターが、悟空たちとかかわることで変わっていく部分が、すごく好きです。
花井:自分の場合は、ベジータが「魔人ブウ編」で「がんばれカカロット、お前がナンバー1だ!!」と言うところです。かつては最低最悪の悪役だったベジータが、良心を取り戻して、認めることのなかったライバルをついに認める過程に、ベジータの成長を感じます。ベジータの視点って、意外と『ドラゴンボール』の読者の目線に近いような気もするんです。「悟空ってかっこいいよな」と再確認ができる、個人的には一番好きなシーンですね。
皆さんの語り口から、本当にドラゴンボールが好きだという気持ちが伝わってきました。まさに、『ドラゴンボール』ファンによる、『ドラゴンボール』ファンのための『ドラゴンボール』ゲーム。ぜひ、多くの方に『ドラゴンボールZ KAKAROT』の「悟空体験」を楽しんでいただきたいですね。
【取材後記】
今回お話を聞いて感じたのは、みなさんがそれぞれ『ドラゴンボール』のファンであるからこそ、「どんなことがあればワクワクするだろう?」とユーザー目線でアソビをつくることの大切さでした。
取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。
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