ネットワークゲームなどをはじめとし、ゲームの遊び方/楽しみ方がめまぐるしく変化している現在。その変化に対応するため、バンダイナムコに新会社・バンダイナムコネットワークサービスが誕生しました。代表取締役社長・池田貴征さんに、この会社が目指すものを伺います。
プロデューサーに“バフをかける”。運営のスペシャリスト集団
――バンダイナムコネットワークサービスは、どんな経緯でできた会社なのでしょう?
バンダイナムコエンターテインメントではNE事業部という部署でスマートフォンなどを使ったソーシャルゲームの配信事業を行なっています。
最初にこうしたゲームの人気が出てきたのは2009~2010年頃のことで、2013年頃からはiPhoneやAndroid端末などのゲームに本格的に移行しました。その中で、ゲームの楽しみ方が根本から変わってきたんですね。
それまではゲームをパッケージにして、商品やサービスがお客様に届く最初のタイミングがビジネスの大きな山でした。しかし、ソーシャルゲームはサービスを開始したところが頂点ではなくて、そこから「こんなイベントをしますよ」「こんな新キャラが出るので楽しんでくださいね」と運営を“続けていく”ことが仕事です。むしろそこからがスタートなんです。
今のバンダイナムコエンターテインメントの体制は、プロデューサーが新しいものを作りながら、同時に既存のソーシャルゲームの運営も続けています 。そのため、新しいものを作れば作るほど、運営する作品が増えてリソースや時間が不足してしまうという課題があります。より運営に最適化された環境とスペシャリストを揃えて、既存タイトルの運営に注力できないかと考え、新会社設立の構想がはじまりました。
――プロデューサーが担当している様々な業務を細分化して、その中の運営部分を切り分けて、その部分に最適に対応する運営のスペシャリストを集めた会社を設立し、よりきめ細やかな運営を実現するということですね。
一方でプロデューサーは新しい作品を作ることに集中できる、と。バンダイナムコネットワークサービスはそのための会社なんですね。
そうです。サービスの楽しみ方が変化する中で、プロデューサーが新しい作品の開発に注力できるように業務課題の解決を担う会社が必要になってきたんです。
――バンダイナムコエンターテインメントのプロデューサーの方々が、よりよい作品作りに注力できる環境を整えるための“バフをかける”集団といったところでしょうか?
※バフ…ゲーム内でステータス上昇効果を与える技・魔法などのこと
ははは、確かにそうですね(笑)。そういう存在になりたいと思っています。私たちの役割を考えると、バンダイナムコネットワークサービスとして「こういうサービスをしていますよ」とお客様に明示するような機会は多くないと思います。でも、それでいいんです。私たちが様々な業務上の課題を解決することで、結果的にお客様に作品をより楽しんでもらえる環境を作るのが私たちの目的なので。
例えば、外国語対応もそのひとつです。スマートフォンのソーシャルゲームは常に走り続けるものですし、世界中のお客様に遊んでいただくような作品になると、24時間365日、どこかでその作品を遊んでくださる方がいるんです。その状況で、多言語対応をプロデューサーが並行して担当したり、これまでのように「(日本時間で)お問い合わせは○時から○時までです」という対応をしたりしていては、お客様のニーズに応えきることができませんよね。
たくさんのお客様のお問い合わせに対応するためには、作品のことをよく理解し、お客様へ最適な解決方法を、最適な言語でお伝えできるスタッフが必要です。バンダイナムコエンターテインメントの作品を熟知したスタッフを集め、サービスの質を向上し続けるため、グループ内にバンダイナムコネットワークサービスを設立することになりました。
プロデューサーだけじゃない。運営もクリエイティブな仕事
――お話を伺っていて、新たな作品を作るプロデューサーのお仕事だけでなく、運営をしたり、環境を整えたりするお仕事も、とてもクリエイティブなものだなと感じました。
ソーシャルゲームがきっかけになって立ち上がった会社ではありますが、そのサービスを運営していく中で見聞きしたお客様のニーズや、作品の運営の仕方、もしくはネットワークを介した新しい働き方が実現できたときには、それをグループ全体に広げていきたいとも考えているんです。
バンダイナムコグループは色々なサービスを提供していますが、ネットワークを使ったサービスの価値向上という意味では、まだまだできることがあると思っていますし、バンダイナムコグループの中で、ネットワークを介して提供するサービスやノウハウのインフラのようになれたら嬉しいと思っています。365日24時間お客様に質の高いサービスを提供するために、スタッフの働き方にも新しい制度を取り入れています。
――バンダイナムコネットワークサービスという会社が設立したことで、お客様は、今後どんな変化を実感できそうでしょうか。
例えば、既存のサービスの場合、言語ローカライズのクオリティを、よりかゆいところに手が届くようなものに上げていくのが私たちの役目です。
改善点が出てきたときには、そこにより早く対応できるようにしたいとも思っています。ただ、それは短期的な目標で、長期的に目指しているのは、バンダイナムコエンターテインメントから今までにないような商品やサービスが出てきたときに、スタッフの働き方、運営ノウハウなどを提供できていたりするような環境を作ることですね。
――実はその裏側に、バンダイナムコネットワークサービスの方々がいる、と。
それぐらい、多面的な役割を持ちたいと思っています。一面的に「このサービスの運営」というものにしてしまうのではなくて、長期的には「新たなサービスの創造」をサポートしていきたい。
今の時代、 “自分たちで自分の仕事を古いものにしていく”努力が必要だと思うんです。新しいことに目を向けて、新しいサービスを考えていくことで、自分たちで自分たちの仕事を古いものにしていく。それは作品を担当するメインプロデューサーの方々もそうだと思いますし、同時に運営のやり方/仕事のやり方を考えていく私たちも、そうだと思うんです。
――まさに「アソビモット(=新たなアソビをモット創造していく)」ですね。
いい意味での「バッファ」という意味でのアソビを加えることで、バンダイナムコグループから面白いものが生まれるんじゃないかと思うんです。やっぱり、余裕がないと楽しいアソビは生まれないですからね。
この会社が、そういったことを大切にできる環境を創造するきっかけになっていければいいな、と思っています。
運営を積み重ねることで、新しい楽しさを創造したい
――池田さんは2018年10月にバンダイナムコネットワークサービスの代表取締役社長に就任されたわけですが、もともとは玩具事業部からキャリアをスタートされたそうですね。そこからどのようにネットワークサービスにかかわることになったのですか?
最初は、株式会社ユタカ(現メガハウス)という会社に入社して、玩具の営業を担当していました。実は、就職活動の際に当時のバンダイにもナムコにも応募したんですが、書類選考で落ちているんですよ(笑)。
ですが、僕が株式会社ユタカに入った2年後に事業再編があるタイミングで、後にバンダイネットワークス(現バンダイナムコエンターテインメント)になる部署に若手の営業職のニーズがあって初めてインターネットにかかわるお仕事をはじめました。
――なるほど、そんな経緯があったんですね。
そういう意味では、今の学生さんたちにも「そんなキャリアもあるんだな!」と思っていただけるかもしれませんね。当初は、インターネットを使った通販の仕入れを担当していましたが、商品がたくさん売れて、売り上げが上がってくると、在庫の管理や売掛金の管理の中身の部分をより強化するために、2000年から2003年まで帳簿をつける仕事をすることになりました。学生のときにそんな勉強をしたことはなかったので、正直に言うと、当時はその仕事がものすごく嫌でした(笑)。
けれども、後々考えてみると、当時のその仕事が、後の自分にものすごく活きたと思っています。そこで、自分ができることがひとつ増えたように感じたんです。
――在庫管理や帳簿をつける仕事をしていたからこそ、マーケティングや自社の取引を把握するスキルが養えた、ということですね。
その後、『ケータイで発見!!たまごっち』のサービスをメインに担当させていただくようになるんですが、それが初めて私がかかわって世に出したサービスでした。当時のガラパゴスケータイのサービスもどんどん進化して、できることも豊富になっていきました。そして今では、ソーシャルゲームの時代に移行しています。ですから、運営のスペシャリストとして次へ次へと、自分たちで新しい楽しさを創造していきたいですね。
今ちょうど、色々な方に「社長就任、おめでとうございます」と言っていただいて、それはもちろんとても嬉しいことですが、本当におめでたいのは会社をきちんと機能させられたときだと思っていますので、これからしっかりと努力をしていきたいと思っています。
【取材後記】
運営のスペシャリスト集団として、「“自分たちで自分の仕事を古いものにしていく”努力が必要」「余裕がないと楽しいアソビは生まれない」と語る池田さん。運営目線だからこそ見つけられる新しいサービスや、ゲームを楽しむお客様のための細やかな運営改善が、バンダイナムコネットワークサービスから生み出されそうです。
取材時にはスーツで応対してくださった池田さんですが、普段はスーツを着てお仕事をしているわけではないそう。実はこの取材の当日は、まさにプロ野球のドラフト会議当日。プロ野球好きな池田さんは、「今年こそ自分が指名されるかもしれない」とスーツ姿で出社したとのこと。
また、インタビュー中に撮影する写真は、多くの人たちが身振り手振りでお話する、いわゆる「ろくろ」を回しているようなポーズになりますが、「今日はろくろを回しません」と、ろくろポーズにならないよう、なぜかスマホをよく握っていた池田さん(笑)。他の人と少しでも違った演出にしたいというユーモアいっぱいの池田さんから、エンターテインメント精神が感じられました!
取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。