「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd」のオンライン、オフライン両方の制作チームに、イベント作りの魅力やこだわりについて伺いました。前編ではライブやオンラインイベントに込めた思い、イベントを作り上げるうえでの苦労などについて語っていただいています。
2022年5月14日、15日にZOZOマリンスタジアムで開催された「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd」(以下、「バンナムフェス 2nd」)。『アイドルマスター』や『ラブライブ!』など、さまざまな作品に関わるアーティストが楽曲を披露した本イベントは、その開催前日までオンラインでも各種IP(※1)にまつわるコンテンツやゲーム実況などの番組が2週間に渡って展開されました。まさに“バンダイナムコエンターテインメントのお祭り”と呼べる盛り上がりを見せました。今回は本イベントの制作に関わったメンバーに、イベントに込めた思いや裏話などを語っていただきました。
※1 IP:Intellectual Property の略で、キャラクターなどの知的財産のことを指します。
山田 優衣
バンダイナムコエンターテインメント所属
松田 悠太郎
バンダイナムコエンターテインメント所属
「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル2nd」の宣伝担当。これまで家庭用ゲームやアニメの他、「ASOBINOTES ONLINE FES」の宣伝業務、『電音部』の制作・宣伝を担当。
道下 萌香
バンダイナムコエンターテインメント所属
「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル2ndオンライン」の感情導線、イベント設計担当。これまで『アイドルマスター』シリーズに関するライブやイベント、グッズ関連を担当。
石田 裕亮
バンダイナムコエンターテインメント所属
「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル2ndオンライン」のコンセプト設計及びテクニカルディレクション担当。これまで新規事業や『電音部』の統括ディレクターを手がける。
2019年の好評を得て開催が決定した「バンナムフェス 2nd」
――まずは皆さんが「バンナムフェス 2nd」で担当されたことを教えてください。
山田:私は「バンナムフェス 2nd」のプロデューサーを務めさせていただきました。企画やキャスティングなど、イベントの制作を担当しています。
松田:僕はフェスオフラインとオンライン、両方の宣伝をしつつ、何よりも山田さんが気持ちよく働ける環境作りなどを行ってきました(笑)。
山田:ありがとうございます(笑)。手厚くサポートしていただきました(笑)。
石田:僕はオンライン側に関わっていて、コンセプトアートなどのビジュアル面を中心に担当していました。
道下:私は石田さんとともにオンラインチームとして、全体的な構成や設計などを見させていただきました。
松田:番組をいっぱい取り仕切っていましたよね。
山田:オンライン大臣ですよ。
道下:はい、オンライン大臣です(笑)。
二度の延期に悩まされ、本番直前には天候の影響で中止の危機に
――ではさっそくZOZOマリンスタジアムで行われた、オフラインのフェスについて伺っていきます。「バンナムフェス 2nd」の開催自体は2年以上前に発表になりましたが、コロナ禍の影響で日程と会場が変更になりました。度重なる延期など苦労が多かったかと思いますが、特に大変だったのはどのような部分でしょうか。
山田:会場が屋内から野外に変わったことで、企画をほぼいちから考え直したことです。2年前に東京ドームでできたことと、今年、野外のZOZOマリンスタジアムでできることは全然違うので、企画の練り直しは大変でした。
そんな中であの形にできたのは、関係各社の皆さんのご協力のおかげです。
延期に伴い度々の日程や会場、内容の変更があったにも関わらず、出演者さんをはじめ、関係者の方々が前向きに協力してくださったことにとても感謝しています。
延期や変更も多くありましたが、変わらず大事にしていたのは、2年以上待っていただいたファンのみなさまに、いかに楽しんでもらうか、という部分でしたね。
――当日は天候に恵まれましたが、事前には雨が降るのではという予報も出ていました。このあたりも現場は苦労したのではないでしょうか。
山田:なかなかハラハラさせられました! 本番の3日前くらいに雨が降るかも、みたいな天気予報が出て。しかもけっこう強い雨になるかもしれないということで、緊急会議を開きました。
松田:突然雨予報になりましたもんね。
山田:本当に。みんなで天気図を見ながら、この調子なら雨雲は大丈夫じゃないか、いやどうなんだ、みたいな議論を繰り返して。制作会社さんや関係各所に相談をして。もちろん我々は開催したいと思っていましたが、ファンのみなさまや出演者の皆さん、スタッフの皆さんの安全が第一なので、そこが担保できるかどうかを最優先に話し合いました。
――本番前日は雨だったので、本当にギリギリでしたね。
山田:前日のリハーサルは雨のなかで行ったんですよ。ここも出演者の皆さんにご協力いただいて。本当に皆さんのお力添えがなければ当日は迎えられなかったと思います。
前日の夜が雨と風のピークだったので、テントが飛んだり機材が濡れたりしないように、ずっと会場に張り付いてもらっていたんです。そういったスタッフの皆さんの協力もなかったら開催はできませんでした。本番は悪天候にならず本当によかったです。
松田:スタッフさんに頑張っていただいたという意味では、フェスの最後に流れた映像もですよね。結婚式のエンディングで流れるような当日の映像をフェスの最後に流そう、というアイデアがあって。フェス当日のパフォーマンスを編集したハイライト映像をエンドロールとして流しましたね。
山田:映像チームが本番中にずっと編集をしてくれていたんです。リアルタイムの編集は、なにかが遅れたら間に合わず、上映の中止もあり得たので、実際にハイライト映像が流せたのは映像チームががんばってくれたおかげです。オールラインナップができない状況だったので、ハイライト映像が流せたことで、フェスを気持ちよく締めくくることができたと思います。
想定していなかった野外会場を生かす演出
――天候以外の部分で、屋内と野外の会場で異なるのはどんな部分でしょうか。
山田:たくさんありますが、わかりやすいものだと、屋内の場合は完全に真っ暗にすることができるので、照明や映像を使った演出の幅が広いです。でも野外の場合、日中はすごく明るいので、日が暮れるまではステージに上がると全部見えている状態になってしまいます。なので、出番の時間に合わせて各アーティストさんの演出をご相談しました。そこもご協力いただいた部分ですね。
野外だと制限される部分もありますが、花火を上げられたり、いいところもあります。ただし、ファンのみなさまがずっと炎天下にいることになるので、安全面を準備段階で気を付けていました。
――松田さん的に苦労されたポイントはありますか?
松田:宣伝チームは情報をいかに出すか、スケジュールをどう管理していくか、といった点が主な仕事で、プロデューサーの山田さん、宣伝チームのメンバーと連携できる環境が作れていたので、そこまで大きな苦労はなかったかな、と思います。
本番が近づいてくると忙しくなりますし、先ほどあった天候の件もあってバタバタはしていたんですけど、どんな状況であっても動けるようにプロデューサーに寄り添っていく、というのが僕の仕事だと思っています。
山田:その日に出す予定だった情報をやっぱり止めようとか、もしかしたら中止になるかもしれないからいったん宣伝は全部ストップで、みたいに急に動きが変わることが多かったので、宣伝チームにすごく助けられました。
松田:ありがとうございます。
道下:宣伝チームにはオンライン側もお世話になりました。宣伝に使う素材をギリギリまで待っていただくことが多く、ありがとうございますとすみませんでしたの気持ちでいっぱいです。
松田:こっちは上がってくると信じて、素材が来たらすぐ出せるように準備を進めていましたし、制作チームの皆さんは最終的にしっかりとしたものを作ってくれるので、本当にチームとして働いていた感覚が強かったですね。
道下:チーム感はすごくありましたね。
石田:「バンナムフェス 2nd」は部内総動員で、関わっていない人がいないんじゃないかくらいの勢いでした。
アーティストとファン、両方の感情を引き出すオフラインの魅力
――2019年の「バンナムフェス」開催から2年以上のあいだを空けて開催となった「バンナムフェス 2nd」ですが、改めて感じたオフラインイベントの魅力とは何でしょうか。
松田:やっぱり、ファンの方々の笑顔が生で見られるのはうれしいですよね。それと、歓声が出せない状況のなかで、どうしても漏れ出てしまうリアクションがあるじゃないですか。我慢しないといけないけど、心の底からの反応がつい出てしまうのって、普段の歓声よりも感情的な重さを感じるんですよね。
アーティストさんについても、配信で見るパフォーマンス、配信のために行うパフォーマンスとはまた違った熱量がありますよね。ファンの方々がいるからこその煽りやパフォーマンスが生まれて、そういう作る側と受けとる側の熱量みたいなものが、現場では強く感じられるな、と改めて思いました。
山田:本当に、声が出せたらそれはそれでまた違ったよさがあるんですけど、声が出せないなかで伝わってくるものもありました。私は本番中、演出家さんや音響さんたちと会場の後ろから見ていたんですけど、そこからだとファンのみなさまの一挙手一投足が見えるんですよ。
声が出せなくても、曲が始まった瞬間にハッとなっていたり、演出や選曲で「この曲がくるか!」と崩れ落ちるような人がいたり、そういうリアクションが見られるのはリアルならではですよね。
配信ではファンの方々のコメントで反応が伝わってくるので、それもとても良いなと思っているんですが、目の前でリアクションを見られるのはやっぱりうれしいです。
松田さんが言ったとおり、アーティストさんサイドもファンの方々が目の前にいることでテンションやパフォーマンスが変わると思います。久しぶりのオフラインのイベントで、その違いを強く感じました。
オンラインとオフラインの両面で完成する「バンナムフェス 2nd」
――ここからは「バンナムフェス 2nd」のオンラインイベントについて伺っていきたいのですが、まずはオンラインの概要を教えていただけますでしょうか。
石田:コロナ禍でライブイベントができなくなった時に、弊社のなかでオンラインシフトというものが起きて、オンラインでイベントを行うノウハウをずっと貯めてきたんですね。
コロナ禍で「バンナムフェス 2nd」を行うにあたり、これまでオンラインで得られた知見とオフラインの知見を、上手く組み合わせてひとつの形にしようとしたのが「バンナムフェス2nd オンライン」です。
道下:新たな取り組みだったので、何もない状態からのスタートでした。そこから私と石田さんを含む制作チームが中心となって、「バンナムフェス 2nd」のオフラインが開催されるまでの4月29日から15日間、さまざまなオンライン上での番組配信やイベントを展開しました。
例えば、オリジナル番組を配信したり、バンダイナムコのIPに関連したアートを展示したり、『パックマン』などのゲームが自由に遊べるゲームセンターを設置したり、フェスのなかで貯められるポイントを使ったくじを用意したり。幅広い層の方に楽しんでいただける内容だったのではと思います。
石田:弊社は今期に入ってから“Connect with Fans”という中期ビジョンを掲げていて、ファンの方々とのつながりをより意識していこう、という考えが会社全体としてあります。
なので「バンナムフェス 2nd」のオンラインイベントも、フェス当日に向けてファンの方々とのつながりを強くしていくことを目標に、さまざまなコンテンツを作っていきました。
――オンライン側で大事にされていたのはどのようなことでしょうか。
石田:最初から最後まで一貫していたのは、オンラインも含めてフェスを完成させる、ということです。
オフラインのフェスはアーティストさんのパフォーマンスを楽しむのがメインになると思うんですけど、バンダイナムコエンターテインメントにはフェスのオフラインでは触れられていないたくさんの魅力的なIPがあります。
そこもファンのみなさまに楽しんでいただきたいと考えていたんです。
道下:フェスって、みんなでグッズを買ったりフェス飯を食べたり、音楽を聴くだけじゃなくてみんなでワイワイ楽しめるところが魅力でもあると思うんです。
今はご時世的になかなか会えなくて、会っても喋りにくい状況だからこそ、どこでも会うことができて気兼ねなく話ができるオンラインという形で、フェスを完成させる。オンラインとオフラインで同時にいいものにしていく、というのは最初から最後まであった目標でした。
道下:ここ数年でオンラインイベントに注力していたので、知見がチーム内のそれぞれに貯まっていて。「こんなことをしたらおもしろいよね」、「それってこういうことじゃない?」みたいなコンセプト決めは意見が一致して、スッと決まりました。
本日は欠席となってしまったのですが、オンラインチームには入社3年目の中村龍一郎くんというメンバーもいて、3人で1チームでした。具体的な内容を考える際には、彼が若い感性でいい意見を出して頑張ってくれていました。
限られた時間のなか、社内が一丸となったコンテンツ作り
――オンライン側ではどのような点に苦労されましたか?
石田:準備期間が限られていたので、どんどん進めていきました。コンセプトやフェスの賑やかさをビジュアルに起こして、さらにそれをCGで形にして、オンライン上にスタジアムを作って、というのを半月ぐらいで一気に進めましたね。
オンラインの仕様上の制約もあって、その制約を逆手に取った楽しいアイデアも生まれました。例えば、オンライン上のスタジアムに入れる人数が限られてしまうので、じゃあ逆に毎日楽しんでくれている人だけが入れるVIPな場所にしよう、とか。限られたスケジュールのなかでアイデアを昇華させていく部分は、なかなか苦労しました。
道下:たくさんのIPを取り扱うので、社内外の多くの方々にご協力いただきました。
石田:まだ準備中で何のコンテンツもない時期に、「オンライン用に、ゲームセンターなどのコンテンツで架空の島を作りたいんです!」と言われても、正直「何を言っているんだ?」となったと思うんですけど、社内外の皆さんがしっかり話を聞いてくださって、素材の提供をはじめたくさんのご協力をいただきました。
限られたスケジュールのなかでさまざまなゲームを借りてきて実況番組を制作する際にも、各所にご協力をいただき、快くゲームを貸し出していただきました。
道下:動き出した当初は「なかなか負担をかけてしまうな……」と思うこともあったんですけど、各ゲームの担当者が配信当日にスタジオまで来て監修してくださって、最終的にみんな笑顔で帰ってくれたんです。人を楽しませることが好きな人が多い会社なんだな、と改めて感じました。
当日までのワクワクを一緒に作り上げる、新たなイベントのあり方
――オンラインとオフラインのイベントを同時期に展開したことで、どのようなメリットが生ましたか?
山田:2週間かけてみんなの気持ちができあがった状態でのライブだったからこそ、より大きな感動が生まれたんじゃないかなと思います。
オンラインとオフラインをつなげる施策として、オンラインフェス会場に立てたゲートと同じものを現地の会場の入口にも設置させてもらったんです。オンラインからのストーリーが生まれたことで、ただ「かわいいね」で終わるだけでなく、「オンラインと同じゲートがあるじゃん!」って、より喜んでもらえて。すごくよかったと思います。
松田:フェス当日のオープニング映像もオンライン側で作ったイメージ映像を活用していて、連動した雰囲気が出ていましたよね。
石田:あれはめちゃくちゃうれしかったです。
山田:ファンのみなさまと一緒に、オンラインで体験してきたことがフェス当日にもつながっていて、リアルの現場でもそのストーリーを楽しめる。それが実現できたのがとてもよかったです。
松田:オンラインで熱量を上げていって、オフラインがゴールになるという構図がよかったですよね。
社内目線の話になってしまいますが、今回はライブの前にオンラインイベントがあったことで、チーム全体がコンテンツに関わる期間が長かったんですよね。そのおかげで深く関わる人が増えたな、という感触があって。社内を巻き込んだという面でも、オンラインからのオフラインという流れはすごく意味のある時間になりました。
道下:オンラインの2週間でファンのみなさまが本当に盛り上がってくれて。SNSをリサーチしていたら、オンライン期間中にチャットで会話していたファン同士が、フェス当日に現地のゲート前で一緒に写真を撮った写真をSNSに上げていたんです。それを見た時に、やりたいことが伝わっていたんだ、とものすごく感動しました。
リアルイベントの前のオンラインイベントという楽しみ方があったからこそ、その2週間でファン同士が交流してくれて、その関係性が現地で昇華される、みたいなことは、今ならではのエンターテインメントの楽しみ方だと思っています。
石田:オンライン側の思想設計部分は道下さんが主体となってやっていて、ファンと一緒にどう楽しむか、みたいな部分をすごく大切にしていたんです。
僕はそれを実現するにあたってシステム面を考えていて。毎日コンテンツに触れるとポイントが貯まるとか、みんなのポイントが貯まることでオンラインフェス会場のゲートができあがっていくとか、そういうみんなでフェスに向かって何かをやる、という作りにできたのは、作り手とファン、ファンとファンのつながりを作ることにつながって、よかったのかなと思います。
あと個人的に思い出深いのは、オンラインの最終日、フェスのオフラインの前日に“DJパックマンNIGHT”という番組をやったことです。配信自体をZOZOマリンスタジアムから行っていて、さっき山田さんの話にもあったように、まさにテントが飛んでいかないように張り付きながら配信をしていて(笑)。それもひとつ思い出になりました。
後編では、さらに深くオフライン、オンラインイベントのつながりや、今後の展望をお話いただきます。インタビュー後編はこちら↓
『パックマン』のゲートがつなぐオンラインとオフライン。制作チームが語るバンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2ndの舞台裏【後編】
バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd DAY1&DAY2のセットリストとレポートはこちら↓
【バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd】DAY1セットリスト&出演者 当日の熱狂を写真とともに振り返るレポート
【バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd】DAY2セットリスト&出演者 当日の熱狂を写真とともに振り返るレポート
【編集後記】
2日間に渡り作品愛に溢れるライブが展開された「バンナムフェス 2nd」本編、そして2週間に渡ってたっぷりとワクワクを作り上げてきたオンラインイベント。両イベントを作り上げた皆さんは終始にこやかに話されており、イベント作り自体を楽しんできたこと、本当にチームとして一丸になって協力しあっていたであろうことが伺えました。
取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。
「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル2nd」のプロデューサー。これまで『アイドルマスター』シリーズや『テイルズ オブ』シリーズのライブイベントやキャラクターグッズの企画制作を担当。