『パックマン』のゲートがつなぐオンラインとオフライン。制作チームが語るバンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2ndの舞台裏【後編】

「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd」のオフライン、オンライン両方の制作チームに、それぞれのつながりや、今後の展望について伺いました。後編ではオンラインとオフラインのつながりを持たせるうえで意識したことや、今後の展望などについて語っていただいています。

「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd」(以下、「バンナムフェス 2nd」)と、その前日まで2週間にわたって開催されたオンラインイベント。両イベントを作るうえで大切にしていた思いや苦労話などを伺った前編に続き、後編ではオンラインとオフラインの両イベントで意識したつながり、IP(※1)を通した盛り上がり、今後の展望などについて語っていただきました。

※1 IP:Intellectual Property の略で、キャラクターなどの知的財産のことを指します。

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山田 優衣

バンダイナムコエンターテインメント所属

「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd」のプロデューサー。これまで『アイドルマスター』シリーズや『テイルズ オブ』シリーズのライブイベントやキャラクターグッズの企画制作を担当。

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松田 悠太郎

バンダイナムコエンターテインメント所属

「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd」の宣伝担当。これまで家庭用ゲームやアニメの他、「ASOBINOTES ONLINE FES」の宣伝業務、『電音部』の制作・宣伝を担当。

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道下 萌香

バンダイナムコエンターテインメント所属

「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2ndオンライン」の感情導線、イベント設計担当。これまで『アイドルマスター』シリーズに関するライブやイベント、グッズ関連を担当。

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石田 裕亮

バンダイナムコエンターテインメント所属

「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2ndオンライン」のコンセプト設計及びテクニカルディレクション担当。これまで新規事業や『電音部』の統括ディレクターを手がける。

オンラインフェス会場から現実に飛び出した『パックマン』のゲート

――オンラインのメタバース空間に立てられた『パックマン』のゲートがZOZOマリンスタジアムにも設置された、というお話が前編にありましたが、この企画はどのようにスタートしたのでしょうか?

オンラインのメタスタジアム内に出現したバーチャルゲート
オンライン上で作られた『パックマン』のゲートが、会場の入り口に実際に設置された

石田バーチャルで作られたものがリアルに出現する、ということをやってみたかったんです。リアルのフェスがメインイベントなので、その場に向かったときに何かオンラインとつながっているものが欲しいよね、ということでゲートを作ろうという話になりました。

山田:ビジュアル的に同じものがオンラインとオフラインにあれば、つながりがわかりやすく感じられると思ったんです。バンダイナムコエンターテインメントと言えば『パックマン』がいるので、「かわいいゲートを立てちゃおうよ!」とオンラインフェス会場と実際の会場にゲートを作ることになったんです。

石田:皆さんが毎日オンラインのコンテンツに触れてポイントを貯めることで、オンラインフェス会場のゲートが完成していく仕組みになっていました。バーチャルでもリアルでもそうなんですけど、ゲートをくぐる瞬間ってワクワクするじゃないですか。そこでオンラインとリアルのつながり感を出せたのがよかったと思います。

松田:ゲートを通過することが非日常(フェス)の入り口になっていたのが、いいですよね。

石田:あのゲートも、最初は『パックマン』デザインじゃなかったんですよ。でも、ちょっと違うんじゃないかと担当者と話し合って、最終的に『パックマン』に辿り着きました。今回は『パックマン』がフェスのアイコンにもなっていたので、そこともつながると思ったんです。

山田:ゲートのデザインを担当したのは入社4年目の後輩なんですけど、最初のデザイン案を見せてもらった時、私からは「かわいくない、違う、みんながいいなと思えなかったらゲートたてるのやめよう!」とざっくりとした意見と要望を伝えまして(笑)。

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全体統括制作プロデューサーの山田さん

松田:本当にそう言ってましたからね(笑)。

山田:もう一度作ってもらったら、すごくかわいくてすてきなものが上がってきたんですよ。彼も「いちユーザーとして通りたくなるゲートを目指しました」と言っていて、その視点がすごくいいなと思いました。

石田:彼はInstagramが好きで、写真を撮ってSNSに上げたときに、「かわいい!」ってなるものが作りたい、と言っていたんです。

松田:実際、現場ではフォトスポットになっていました。

道下:皆さん撮ってくれていましたよね。本当によかったと思います。

――2019年の「バンナムフェス」でも、『パックマン』のメッセージボードが登場していました。『パックマン』は欠かせない存在としてフェスに取り入れる、という考えがあったのでしょうか。

山田:そうですね。2019年の「バンナムフェス」のロゴには、『パックマン』の要素を入れていなくて。当時のコーポレートカラーを入れて、バンダイナムコエンターテインメントだと分かるようにしたい、という発想だったんです。

松田:前回のロゴはどのIPにも依存しない、すごくシンプルなものでした。懐かしいです。

『パックマン』をモチーフにした「バンナムフェス 2nd」のロゴ

山田:もっとわかりやすくて、パッと見で皆さんに興味を持ってもらえるのは何だろう、と考えたときに、やっぱり弊社として象徴的なIPの『パックマン』がいいんじゃないかなと。ロゴを『パックマン』をモチーフにしたことでオンラインのコンテンツやライブの演出にも『パックマン』の要素を取り入れていただいて、全体として統一感が出たんです。

例えば『アイドルマスター』のプロデューサーさん(ユーザーの呼称)の中には『パックマン』を知らない、興味がないという人もいると思うんですけど、今回のフェスでは『パックマン』をあまり知らない人もゲートの写真を撮ってくれていたようです。そういう風に、弊社の代表的なIPに触れてもらう機会になったのもよかったと思っています。

オンラインで紡がれたストーリーがオフラインで完結

――オンラインとオフラインでそれぞれ互いにつながりを意識したポイントを教えてください。

道下:山田さんが言っていたように、イベント開催前の2週間を盛り上げ続けるのはなかなか大変なんですよね。イベントがあっても、行けたら行こうかな、くらいの人も多いじゃないですか。そういう人たちの気持ちを高めて、当日楽しみたいと思ってもらうのが本当にむずかしいんです。

意識した点としては、オンラインイベント期間中の2週間はなるべく多くファンのみなさまの目に触れることを目標にしていました。Twitterのトレンドにも何回か入ることができて、最初にトレンド入りしたときは大喜びしていました(笑)。

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オンラインの感情導線、イベント設計を担当した道下さん

松田:細かいことですけど、「バンナムフェス 2nd」のホームページには、「バンナムフェス 2ndオンライン」の導線を張り続けていたんです。スクロールしても追従で表示されるようにして、フェス本体とセットのオンラインのイベントだよ、というのをウェブ上の積極的に伝えるようにしていました。

Twitterでもオンラインとオフラインが別軸にならないように意識していて、それぞれの告知ツイートも温度感が同じになるようにしていました。

道下:あとは、オンライン番組の最後には絶対、「バンナムフェス 2nd」のCMを入れていました。

オンラインの遊べるページにも必ずチケット購入ページへの導線を用意したりして、より多くの方に「バンナムフェス 2nd」に興味を持ってもらえるといいなと思っていました。「バンナムフェス 2nd」はすごくいい公演だからぜひ観に来てほしい、という思いが強かったですね。

――その流れを受けて、オフライン側でオンラインを意識したのはどのような部分でしょうか。

山田:先ほども少しお話ししたんですけど、オンラインからつながったものを組み込んでいく、というのは一貫して意識していました。オープニング映像でオンラインのイメージ映像を流用したこともそうですし、ほかにも開演前にオンラインのポイントランキングを紹介したりしました。

松田:オンラインポイントのランキングが会場で見られたのはおもしろかったです。ライブがゴールなんだ、という感じが出ていたと思います。

山田:ほかにもライブ視聴中の皆さんのコメントをモニターに表示するなど、オンラインで生まれたストーリーを「バンナムフェス 2nd」のオフラインで、大団円で完結させることを意識していました。

声が出せなかったりファンのみなさまとの触れ合いもできなかったりで、制約が多くありましたが、たくさんのアイデアでこれまでになかった連動ができたのがよかったです。私たちだけでなく演出家さんやスタッフの皆さん、出演者の皆さんにもオンラインとのつながりを意識してもらえたので、結果としていいイベントにできたと思います。

システムと参加者が作り出した暖かい世界感

――オンラインではコンテンツに触れてポイントを貯めたり、そのポイントによってゲートを作り上げたりと、ファンが積極的に参加できる取り組みを多く展開していましたが、そのほかにこんなことをやってよかったと思ったのはどんなことですか?

松田:オンラインは各コンテンツが島というかたちでまとめられているんですけど、フェスに参加するとなると、自分の知らないIPもあるじゃないですか。そのIPのことを知りたいと思ったときに、オンラインが役に立っていたと思うんです。

それぞれの島に行くとIPの映像が見られたり、アイドルやキャラクターが時報を言っていたりするので、IPごとの雰囲気がわかったと思うんですよね。そういう、フェスに参加するファンの方々の予習のような役割になってたのがよかったなと。

オンライン上にフェス会場や各作品を紹介する架空の島が出現した

道下:それぞれの島に行くことでもポイントがもらえて、そのポイントでフェスくじが引ける仕組みになっていました。参加者の方がそれぞれの島に行って楽しんでいただけるように工夫しました。

石田:今回入れた要素で言えば、コメントへの「いいね」機能も好意的な反応をいただけました。ファン同士でIPのことを教えあったり紹介したりという場面がすごく多かったんですよ。

やっぱり私たちが公式として発するものより、実際に楽しんでくれているファンのみなさまが発信したもののほうが、説得力や熱量を感じるじゃないですか。そこに対して言われた人が「いいね」することができて、「いいね」をした人もされた人もポイントがもらえるようになっていました。

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オンラインのテクニック・コンセプトのビジュアライズを担当した石田さん

松田:あれは私たちもとっても暖かい気持ちになりましたよね。お互いに積極的に「いいね」し合ってくれて。

石田:これまで自分たちでもやってこなかった取り組みだったんですけど、おかげでチャット欄の雰囲気もすごくよくなって、よかったなと思います。

さまざまな可能性が見えた番組配信

――オンラインではさまざまなコンテンツのなかで60以上の番組が配信されましたが、特に反響が大きかった番組などはありますか?

道下:これ、と絞るのはむずかしいのですが、ゲーム実況番組で見られた反応は特におもしろかったです。「バンナムフェス 2nd」ってやっぱり『アイドルマスター』や『ラブライブ!』、『アイカツ!』など、各IPのファンの方が多くいらしていると思います。

ただしオンラインイベントでは、ゲーム実況者さんや芸能人の方にゲーム実況番組をやっていただいたので、IPファンだけでなく実況者さんや芸能人のファンの方々も番組を視聴していて、広く盛り上がっていたんです。

グラフィカル ユーザー インターフェイス

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ゲーム実況や、トークバラエティ、筋肉体操など、2週間に渡って多くの番組が配信された

石田:フェスのオフラインでは触れられていないIPのファンの方もいましたからね。島全体のチャット欄もあって、いろいろなファンの方が番組を見ながら、「このIPのオススメの曲は何?」みたいにお互いのIPを勧め合ったりしていた。そのなかで番組のコンテンツにも触れて話が盛り上がっていて、ゆるやかなコミュニティとしてもいい空間になっていたと思います。

道下:あまりIPのことを知らない、実況者のファンの方がフラっと来て、「こんなイベントやるんだ」、「この『アイマス』って何?」みたいな質問をチャットで投げて、それに対してIPファンの方が返答していて、新たな交流が生まれていたんです。

松田:番組の話なら、“Cozy Room(コージールーム)”の話もしておきたいですよね。

山田:そうですね。これは外せない!

松田:何を隠そう、道下萌香さんが出演しているんですよ(笑)。中川浩二さん(※)が音楽の話をする番組で、ゲストにはバンダイナムコエンターテインメントの社員しか出演していていないのに、かなりの視聴数を取っていたんです。

※ 中川浩二:バンダイナムコスタジオ所属の作曲家。『アイドルマスター』シリーズや『太鼓の達人』シリーズ、『エースコンバット』シリーズなどの楽曲を手がける。

社員がオンラインでしゃべるから観てね、というカジュアルな温度感もあって、配信の可能性をすごく感じましたね。

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宣伝を担当した松田さん

石田:番組を作っていくうえでも、VTuberさんやゲーム実況者さんのようなネットクリエイターさんだったり、社内のサウンドチームだったりがすごく協力してくださったんです。

テクノロジーまわりでも、バンダイナムコ研究所の“Q-56(キューゴロー)”というロボットがひたすらゲーム配信をする番組もあったりして(笑)。いろんな垣根を越えて、社内外のクリエイターさんと一緒に仕事ができたのも、番組の幅が広がってよかった部分かなと思います。

道下:何かやりましょう、という打ち合わせから始まって、限られた時間で皆さんすごくノリノリで協力してくれましたよね。

石田:本当に。「ぜんぜんやりますよ!」みたいな勢いでモニュメントや楽曲を作ってくれました。

松田:ファンのみなさまに楽しんでいただく、ということをスタッフが楽しんでいますよね。

オンラインとオフラインの合体が生み出すイベントの今後

――では最後に、オンラインとオフラインの垣根を超え、ファンと一緒にイベントを作り上げる楽しさと、今後の展望を教えてください。

石田:ファンの皆さんやクリエイターの方々と一緒にイベントやコンテンツを作り上げていくのが、すごくおもしろかったです。最初は本当に感動してもらえるかな、とチームでずっと話し合っていたので、ファンのみなさまから反応をいただけたのがすごくうれしいです。

これからの展望としては、我々が何かを提供するだけでなく、ファンの方々が発信してくれたりとか、ファン同士でコンテンツ愛を深め合ったり、そういうことがもっとおもしろくできるサービスを作っていけたらいいなと思います。

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道下:今回、オンラインでは番組などでさまざまな人に関わっていただいて、ファンの方々も自分から発信してくださって、みんながIPを、そこにあるコンテンツを好きでいてくれる、そういう幸せな空間ができてうれしかったです。

そんな2週間があった後にアーティストの皆さんが演奏をしてくださったわけですけど、このフェスでは、アーティストの皆さんがIPを背負って参加されているじゃないですか。ファンのみなさまにもアーティストさんにもIPが愛されていることを感じられて。2週間前から当日まで、みんなが互いにIPへの愛を発信し合って、つながり合う空間ができあがっていたのは、本当にうれしいポイントでした。

今回の経験を活かして、今後は皆さんが自由に楽しめるような空間作りを通して、オンラインでもオフラインでも存分にイベントを楽しんでいただけるようにしていきたいです。

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松田:ここ数年はウェブ配信に力を入れて、スピード感も持って、がんばってきたところです。規模も大きくて関係者も多い「バンナムフェス 2nd」というイベントに、経験を生かすことができたんじゃないかなと思っています。

今後も遠方のファンの方々も親しめるオンラインでの楽しみと、オフラインの楽しみ、それらを共存させたエンターテインメントを提供していくのは、僕らの使命だと思っています。

山田:私は長年オフラインのイベントを作ってきたんですけど、ここまでオンラインと連動したものは今回が初めてで。

皆さんがいうとおり、オフラインのライブ当日がゴールになって、オンラインイベントを通して日々一緒に気持ちを盛り上げていけたのが、すごくよかったと思います。オンラインの魅力を実感できたのが、今回の大きな収穫でした。

今回のようにオンラインの体験がオフラインで完結するような、オンラインとオフラインのストーリーがつながっているイベントの形にとても魅力を感じました。まだ具体的なことは言えませんが、「バンナムフェス」に限らず、自分の担当するイベントなどで、今後も新しいことにチャレンジしていきたいですね。

松田:今後の活躍にご期待ください(笑)。

山田:はい!(笑)

前編ではイベントへの思いや苦労を語っていただいています。インタビュー前編はこちら↓

バンナムフェス 2nd DAY1&DAY2のセットリストとレポートはこちら↓

【編集後記】
前編に続き、今回集まっていただいた4名や、お話のなかに登場するスタッフの方々の「いかに楽しいを作るか」という熱意が感じられた後編インタビューでした。イベントを点としてだけでなくストーリー性を持たせることで線としても楽しむ(楽しませる)という考えは、ライブイベントの新しい形につながるのかもしれない気がしてワクワクさせられますね!

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。