『スカーレットネクサス』&『テイルズ オブ アライズ』の開発陣と、怪異を生み出したデザイナーの山代政一さんにお集まりいただき、本インタビューのために山代さんが描き下ろしてくださった新たな怪異や、JRPGらしさとは何なのかを語っていただきます。
また、今回の対談を記念して、本記事の最後に『スカネク』と『アライズ』に登場するキャラクターの中から、「あのキャラクターのこんな場面が見たい」シーンを大募集! 出演者もしくは制作陣がイラストを描き下ろしますので、ご期待ください!
『スカーレットネクサス』(以下、『スカネク』)と『テイルズ オブ アライズ』(以下、『アライズ』)の開発陣と山代さんに敵キャラクターという存在を語っていただいた前編に続き、後編では山代さんに描き下ろしていただいた新たな怪異に関する妄想談義や、JRPGならではの魅力について語っていただきました。
飯塚 啓太
バンダイナムコエンターテインメント所属
穴吹 健児
バンダイナムコスタジオ所属
『SCARLET NEXUS』ディレクター。『テイルズ オブ』シリーズに10年以上携わり、『テイルズ オブ エクシリア2』などでディレクターを務める。
山代 政一
『SCARLET NEXUS』で怪異のデザインを担当したデザイナー。メルセデス・ベンツ三井アウトレットパーク木更津の店内壁画や“ミュージカル『刀剣乱舞』―東京心覚―“のアートディレクションなどを手がける。
富澤 祐介
バンダイナムコエンターテインメント所属
『テイルズ オブ アライズ』プロデューサーであり、現在の『テイルズ オブ』シリーズのIP総合プロデューサー。バンダイ所属を経てバンダイナムコゲームス(当時)で『GOD EATER』シリーズの立ち上げなどに従事したあと、『テイルズ オブ ヴェスペリア REMASTER』より『テイルズ オブ』シリーズのプロデュースに携わる。
岩本 稔
バンダイナムコスタジオ所属
『テイルズ オブ アライズ』アートディレクター&メインキャラクターデザイナー。『テイルズ オブ ヴェスペリア』でのアートディレクターをはじめ、多くの『テイルズ オブ』シリーズのアート、キャラクターデザインに携わる。
新たな怪異が再び衝撃をもたらした
――こちらが、本対談のために山代さんが描き下ろしてくださった怪異になります!
岩本:うわあ、すごいのが来ましたね!!
富澤:せっかくデザイナーと企画者が集まるのだから、新たにデザインされた敵をバトルで動かすならどうするか、語り合えたらいいんじゃないかと思って。僕がこの企画を提案したんです。ただ、ラフが届くと聞いていたんですが……。また完成形が来ましたね(笑)。
山代:ワイナリー・チナリーの時と同じことをしてしまいました。
――こちらをご覧になって、率直な感想はいかがでしょうか。
穴吹:テンションが上がりましたよね。以前もお話ししたんですけど、自分の想像を超えたものが出てくると興奮するんですよ。忙しく働いている時にこの絵が送られてきて、鳥肌と共にすごく元気が出ました。今回のためにこれを作っていただいたというのは、本当に豪華ですよね。
やっぱり気になるのは、この布ですね。めくりたいような、めくりたくないような。裏には何が潜んでいるんだろうとドキドキしましたし、ゲームに出すとしたらどう戦わせるか、という想像も膨らみました。
山代:布をめくりたい、というのはある意味狙いどおりですね。身体の部分は仰向けになった女性の身体を想起させるようなラインになっているんですよ。中に何が入っている、とかそういうわけではないんですが、その狙いが届いたのはうれしいですね。
穴吹:飯塚さんはどうですか?
飯塚:なるほどね……と思いました。何が分かったわけでもないんですけど(笑)。
穴吹:分かったふうに(笑)。
飯塚:細かい部分を見れば見るほど奥深いというか、味が出てくるんですよね。車輪が付いているかと思えば鎖がつながっていて。骨は何の骨だろうとか、木のようなものが出ているけど羽根が付いているのか、みたいなこともあって。たぶん、あんまり深く考えちゃいけないのかなと(笑)。
たしかに布の部分は、怖いもの見たさがありますよね。このあたりは特に、ゲームとしてどんな仕様にするかを考えるポイントになると思います。
富澤:本当に、見れば見るほど分からなくなりますよね。パッと見のシルエットで怪異らしい異質さがあって、女性的なボディラインがありつつも前後が逆になっているような違和感もあって。ある種ホラーチックに感じる人も多いと思うんですけど、これでテンションが上がるという穴吹さんはさすがだなと(笑)。
穴吹:そうですかね(笑)。
富澤:企画側の人間としてこの怪異にどう動きをつけるか、という視点で見ると、まず関節がどうなっているんだろう? と思いますよね。さらに3Dモデルになることを考えると、立ち上がることもあるのか、車輪で動くのか足踏みして来るのか。下の赤い部分を見上げる瞬間があったら、そこにも驚きを隠せるかもしれないとか。なんだか山代さんからの挑戦を受けているような感じがしますよね。どう動かせば山代さんの狙いというか、トリックに近づけるんだろう。見れば見るほど悩みどころが出てくる。
新規怪異を描いてもらい、それについて語ってはどうかと自分で提案しておいて、ちょっと後悔しています(笑)。ここまで強烈なお題が出てくるとは……!
――岩本さんから見て、この怪異はいかがですか?
岩本:魅力的な敵の条件として挙げた、戦いたい、ワクワクする、という要素が詰まっていますよね。そういう魅力があったうえで、すごく『スカネク』らしいと思います。『テイルズ オブ』の場合、まず攻撃部位がどこかを考えて、そこを尖らせたり硬そうにしたり、痛そうに表現するんです。
でもこの怪異は車輪が丸くて。羽根か植物のような部分も柔らかそうですし、お祈りをするようなポーズでつぼみらしきものを持っていて、どこか虐げられているかわいそうな人にも見えるんですよね。布の内側も気になりましたし、これはきっと第2形態で立ち上がるな、と。
――そこまでイメージができているんですね。
岩本:『テイルズ オブ』のデザインをする時、僕は「分からないもの同士を組み合わせて分からないものを作ってはいけない」と言っているんです。分かるもの同士を組み合わせて作るから、新しいものであっても理解できるんだ、と。でもこれはまったく別次元で、理解できないんですよ。それなのに、どうしても無視できなくて、見る側が必死で何かを読み取ろうと主体的になってしまう。そういう強さがこの絵にはあると思うんです。
山代:ありがとうございます。いま、分かられているなと思ったフレーズがひとつあって。“かわいそう”という言葉があったじゃないですか。怪異って、どこか不自由や不遇さみたいなものが内在している気がしているので、そこを感じてもらえたのは嬉しいです。あと、そこを言葉でちゃんと形容してくださったので、やっぱり何者なんだこの人は、と(笑)。
岩本:これ、目に釘が刺さっていますよね?
山代:そうですね。怪異のデザインでは、顔のようなパーツを用いたとしても、そこから感情が漂わないようにするんです。でも、顔を使って怪異という存在が抱える悲壮感みたいなものを表現することもできるんじゃないかと思って、このようにしました。
岩本:すごいです。いろいろな感情や思いが、シルエットや細部にガンガン込められていて、それが見る側にもストレートに伝わってくるので、「受け止めきれないよ!」って思いながら見てしまいます。本当に、興奮しています。
新怪異がゲームに出るなら死神的存在に?
――この怪異がゲーム内に実装されるとしたら、どんなバトルにしたいですか?
富澤:誰ですかこんな企画を考えたのは(笑)。どうですか、穴吹さん。
穴吹:個人的に、死神みたいな、プレイヤーが恐れるキャラクターを作りたかったんですよ。この怪異はそこにマッチするかもな、と思いました。鎖があるので、移動する時にたぶん音が鳴るんですよね。鎖の音が聞こえたらヤバい、アイツが来る、みたいな危機感が出せると思います。都合よく車輪も付いているので、すごい速さで追いかけてきて、捕まったらヤバい、と思えるような存在にできそうですよね。
富澤:実際に戦う時はどんなイメージですか?
穴吹:腕が拘束されているようにも見えるんですけど、たぶんこれをどこかでバーンと外すんだろうな、と想像しました。体力が50%以下とかになったら拘束を解いて、ひっかき攻撃みたいな野蛮な動きをしてくるんじゃないかな。
超脳力の観点で言えば、やっぱり発火で布を燃やしたいですよね。燃やしたら何かヤバいものが出てきて、もっとえげつない攻撃をしてきそうじゃないですか。あるいは、透視で布の中身を覗くと状態が確認できて、攻撃すべきタイミングが見分けられる、みたいにできるといいのかなと思いました。
富澤:さすがですね。同時に、山代さんも穴吹さんもヤバいなと思いました(笑)。それほど企画者とデザイナーがマッチするというのは、プロデューサーの飯塚さんからしても幸せなことなんじゃないですか?
飯塚:穴吹さんから妄想を聞けるのはうれしいですね。開発中はディレクターとして実現に向けてどのように落とし込んでいくかで苦労をかけることも多かったので、そんなふうに妄想しているのを見ると、こちらとしても楽しい気分になります。
穴吹:実装のことを考えなくていいですからね(笑)。
――岩本さんはいかがですか?
岩本:まず直感的に思ったのは、ひっくり返してみたいな、と。どちらが表でどちらが裏なのか、分からないんですよ。なので、これが立ったりひっくり返ったりしたら、また違う感じになるんじゃないのかなと思います。ユーザーが想像できないような動きをさせてあげたいですね。
あと、花びらが周りに散っているので、物理攻撃だけでなく精気を吸いとるとか、あるいは毒や魔法のような攻撃もしてくるんじゃないか、と感じました。でも一方で、物理的な攻撃もきっと激しくて。この布に隠れている身体って、たぶん四肢を切断されているんですよ。そう考えると車輪が身体を切断するためのチェーンソーみたいに見えてきて、より怖いんじゃないかと。
穴吹:我々からいろいろと言いましたけど、山代さんがどういう想定で描いたのかも聞いてみたいですよね。
山代:ボールを投げ返してきましたね(笑)。『スカネク』のなかではお花がいろんなところで咲いていますけど、あれは怪異のカトラリーというか、捕食の際に使用する怪異共通の機能としてあの花を作っているんですね。今回は、なぜかその花を集めている怪異という設定です。
あと、これは先に言われてしまったので言いたくないんですけど……。立つんですよね(笑)。岩本さんが以前、怪異に対して「虫を見た時の嫌悪感」みたいにおっしゃっていたじゃないですか。あれがずっと頭に残っていて。これまで虫っぽいものは作っていなかったというのもあり、今回は虫の怪異にしたんです。
穴吹:え、これ虫なんですか?
山代:そうなんですよ。だから、ひっくり返したいというのもある意味ズバリ見抜かれていて。岩本さんは本当に、何なんだと(笑)。
敵キャラを語ることで再発見できたJRPGの魅力
――ここまで敵キャラの魅力を語っていただきました。最後に、敵キャラの話や今回の座談会全体を通して見えてきたJRPGらしさ、JRPGならではの魅力についてお聞かせください。
富澤:RPGのなかでJRPGという文化圏が独特なのは、やはり実存感・リアリティと自由さ・奇想天外さのバランスだと思います。怪異はその最たるものですね。
アニメチックな世界や主人公たちと怪異って、ふつうに考えたら並べにくいじゃないですか。でもそこを挑戦的に、JRPGというお作法のなかで結合できる。敵が自分たちとは明らかに違うとパッと見で感じられて、ワクワクもできる。そういう独自のバランスが『スカネク』にはありますよね。
一方で『アライズ』は作中の世界に統一感を持たせる意識のもとに敵も作られていて、また別のアプローチをしている。どちらが正解というのではなく、幅があることが大事なんじゃないかと思います。自由度があるからこそフックになり得る敵を生み出せる。どちらの作品もそれぞれ異なる文法のなかで、今日のようなアツくて丁寧なやりとりから生まれ、海外の人には作れないはず、というある種の自負を持って届けていくんです。
飯塚:今のお話を聞いて思ったのですが、JRPGって本当にバランスが自由なんですよね。例えばRPGにファンタジーの要素を加えるうえで、どこまでリアルからかけ離れたものにするのかはタイトルごとに違っていて。そのバランスや何を混ぜるかによって個性が生まれ、多種多様な世界や敵を作り出しているのは、JRPGならではなのかもしれません。
また、ストーリーやキャラクター性を作り込むことで、敵が単なるゲーム上の障害としてでなく、理解や感情移入を伴うほど濃密な存在となっている点も、JRPGならではの魅力なのではないでしょうか。
岩本:日本人って、かなり昔から大量のアニメやマンガに触れて育ってきていると思うんです。刺激的なエンターテインメントを大量に浴びている人たちが作るRPGが、JRPGなのかなと思います。アニメ調だから、マンガっぽいからJRPGなのではなくて。幼心に抱いたワクワクが感じられるように、童心を忘れない大人たちが丁寧に作っているのがJRPGの良さかな、と考えています。
今後、機会があればこだわってみたいところが、ご飯を美味しそうに食べさせることなんですよ。映像作品だとよくある表現なんですけど、ソースがほっぺたに付いたり、よだれが垂れていたり。ある意味汚く食べていると人間味が増して、キャラに愛情を抱けるなと思ったんですよね。
その描写のあとにバトルがあると「あんなに汚く食べていたヤツがこんなに頑張って……!」って、日常とのギャップに感動したりするじゃないですか。そういうエモーショナルな感覚が小さいころから培われているクリエイターの力が組み合わさって作られているのが、日本のRPGの良さなのかなと思います。
穴吹:今の岩本さんのお話を聞いて、JRPGで重要なのは既視感なのかもしれないな、と感じました。ある種のお約束を、JRPGの“J”らしいお作法として楽しめる。そういう風に捉えてくれている人が多いのかなと。
どこかで見たことがあるけど、見たことのない部分も含まれていて、だからこそ自分で楽しさを想起できる。それが大事なポイントなんだなと改めて思いました。超脳力の選定をする時にも、どこかで見て使ってみたいと思ったものだからこそゲームとして楽しめると考えていたんですよね。それに近い感覚が、JRPGに潜んでいるのかなと。どこか既視感があるからこそ、山代さんの怪異みたいなものが出てきた時に、それがコントラストとして魅力的にうつるのかな、と改めて感じられました。
――敵キャラのお話を通して、新たなJRPGの魅力までも発見できたような気持ちです。皆さん、本日はありがとうございました!
【編集後記】
山代さんの描いた新たな怪異のインパクトがとにかく強い後編。あまりの完成度にゲームで使用された決定稿か、いやしかしプレイ中に見たことがないぞと混乱してしまいました。前編から通して岩本さんの怪異に対する理解の解像度が高かったのもとても印象的です。今後は敵の動きにも注目してしまいそうです。
ファンファーレでは皆さまのご意見、ご感想を募集しております! 編集部にて拝見させていただきました上で、今後の改善のための参考にさせていただきます。
『スカーレットネクサス』と『テイルズ オブ アライズ』ができるまでを開発陣に聞いたインタビュー記事がバンダイナムコスタジオ公式サイトで公開中!
・『SCARLET NEXUS』ができるまで(前編)
・『テイルズ オブ アライズ』ができるまで(前編)
取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。
SCARLET NEXUS™ & © Bandai Namco Entertainment Inc.
Tales of Arise™ & © Bandai Namco Entertainment Inc.
『SCARLET NEXUS』プロデューサー。スマートフォンアプリの開発、運営に携わったのち、家庭用ゲームの開発やプロデュースを手掛けた。2019年に発売された『CODE VEIN』でプロデューサーを務める。