『ウルトラ怪獣モンスターファーム』のプロデューサー陣にお越しいただき、作品の魅力や込められたこだわりについて伺いました。前編では本作が誕生したきっかけや交通系ICカードなどからウルトラ怪獣を誕生させる「NFC再生」などについてお話しいただいています。
2022年10月20日に発売された『ウルトラ怪獣モンスターファーム』。本作は、タイトルどおり『ウルトラマン』シリーズに登場するウルトラ怪獣たちと、CDからモンスターを生み出すというシステムで発売当時に大きな話題となった育成シミュレーションゲーム『モンスターファーム』がコラボレーションした作品です。
今回はバンダイナムコエンターテインメントのプロデューサー・又野健太郎さんと『ウルトラ怪獣モンスターファーム』の開発を担当されたコーエーテクモゲームスの開発プロデューサーにして『モンスターファーム』シリーズエグゼクティブプロデューサーの藤田一巳さんにお越しいただき、本作にかける思いを伺いました。
又野 健太郎
バンダイナムコエンターテインメント
藤田 一巳
株式会社コーエーテクモゲームス
『モンスターファーム』シリーズエグゼクティブプロデューサー。シリーズで開催されてきた大会「モンスター甲子園」では藤田課長として試合の実況も務める。
タイミングが噛み合って生まれた夢のコラボレーション
――まずは、ウルトラ怪獣と『モンスターファーム』のコラボが実現したきっかけを教えてください。
又野:僕が『モンスターファーム』をめちゃくちゃプレイしたユーザーだったんです!もしかしたら制作チームのなかでも一番プレイしたんじゃないか、くらいで。小学校高学年くらいのときにはじめて『モンスターファーム』シリーズをプレイしたのですが、本当に毎日毎日プレイしてましたね。
藤田:そう言われると年齢を感じるな(笑)。でも本当に、又野さんはめちゃくちゃ詳しいですよね。
又野:熱中した『モンスターファーム』のNintendo Switch版が発売されたんですよね。(2019年に初代『モンスターファーム』、2020年に『モンスターファーム2』の移植版)もちろん、どちらも当時の気持ちを思い出しながらプレイしました!一方で、『ウルトラマン』シリーズが2021年に55周年を迎えるというニュースを聞いたんですよね。
55年も続いている作品ということは、子どもたちはもちろん、その親御さんやおじいちゃん、おばあちゃんにも知られているんじゃないかと…それはとてもすごいことだなーと思っていました。自分自身も当時熱中していた『モンスターファーム』と親子3世代に渡って愛される『ウルトラマン』をコラボレーションさせることができればお客さまもびっくりのおもしろい企画になるんじゃないか…と思い、『モンスターファーム』の開発元であるコーエーテクモゲームスさんに提案させていただきました。
藤田:2022年で『モンスターファーム』が25周年を迎えますし、復活を望む声もすごく多かったので、何か新しい作品を作りたいなと我々もずっと思っていたんですよね。新たなタイトルを作るのであれば『モンスターファーム2』のシステムをベースにしようと考えていたんですけど、キャラクターについては何かパワーのあるものの力を借りたいな、という思いがあったんです。
それがまさかウルトラ怪獣になるとは思っていませんでしたけど、バンダイナムコエンターテインメントさんからお話をいただいたときは、「それだ!」となって。ぜひやらせてくださいという感じでした。
――ちなみに、企画がスタートしたのはいつごろだったのでしょうか。
藤田:お話をいただいたのは2020年の年秋ごろだったと思います。
又野:『モンスターファーム2』の移植版をプレイしていた記憶があるので、そのあたりですね。『モンスターファーム』が25周年というタイミングになることは意識していなかったので、本当にタイミングがよかったですね。
――『ウルトラ怪獣モンスターファーム』を最初に発表したときにはさまざまな反響がありましたが、何か印象的だった声はありますか?
又野:本作はNintendo Direct(※1)でタイトルの情報を発表させていただいたんですが、おかげ様でとても多くのお客さまにお届けできました。予想外のコラボレーションだったことで、驚きの声があがっていたのをよく目にしていました。
印象深かったのは「エイプリルフールみたいな企画だ」って言われていたことですかね(笑)。
※1 Nintendo Direct:任天堂が行う、今後発売予定のゲームソフトに関する情報などを紹介する映像コンテンツ。
タイトル名もいろいろと案があったんですけど、『モンスターファーム』は絶対に付けるべきだと話していたんですよね。このタイトルになっているからこそ、ちゃんとコラボしていることが伝わって、『ウルトラマン』と『モンスターファーム』両方のファンの方々にも話題にしていただけたかなと思います。
藤田:やっぱり、つぎの『モンスターファーム』はいつ出るんだろう、みたいな話がずっとあったなかで今回の発表ができて、しかもまさかのウルトラ怪獣で、さらにNFC再生ってなんだ、みたいな要素もあって、ファンの方々の反応はとても嬉しかったですね。
版権元さまも驚いたタイトルとのこと
――お話を版権元さまに提案されたときの感触はいかがでしたか?
藤田:ご提案する前、又野さん緊張されてましたよね。
又野:もちろん緊張しますよ。ウルトラ怪獣と『モンスターファーム』のコラボレーションというのはやはり異色なので(笑)。版権元さまへご提案した際も驚かれていましたね。『モンスターファーム』とのコラボレーションということで、怪獣を育成するという世界観であったり怪獣の合成であったり、チャレンジングな内容が多かったんです。
ただ、版権元さまのご担当の方もコラボレーションだからこそ生み出せるシナジーにポテンシャルを感じてくださったんです。そのため、企画そのものに対してご承諾いただけました。
藤田:ひとつひとつの要素をしっかりと見てもらいましたよね。
又野:そうですね。設定ひとつ取っても、なぜそうしないといけないのか、今回の世界観でウルトラ怪獣はどういう存在なのか、という細かい部分も版権元さまにご相談しながら固めていきました。
企画のご承諾後も、監修では多大なるご協力をいただきましたね。ウルトラ怪獣を育てる?ウルトラ怪獣を合成する?という部分で、これまでの監修ではなかったようなさまざまな要素をご確認いただきました。
藤田:『ウルトラマン』の怪獣にエサをあげて育てる、っていうシチュエーションはあんまりないですからね(笑)。
又野:怪獣を作り続けてこられた方はその道○○年といった硬派な人たちで、ずっしりと構えられているんですよ。そこに、バルタン星人の柄をしたゴモラなどを提案していくんですけど、通常の監修は『ウルトラマン』シリーズに登場するものが正しく再現されているか、世界観が合っているかをチェックするじゃないですか。今回はそもそも原作にない姿なので、ご担当の方々も最初は「どうする?」みたいになっていたんですよ。
――今回は登場する怪獣が200種類以上とあって、時間の面でも監修はたいへんそうですね。
又野:そうですね。1体見てもらうのに10分かかったとすると…恐ろしいですよね。そのあたりも本当にご協力いただいて、とても助かりました。「ここにはこの柄が入ったほうがおもしろいんじゃない?」といったフィードバックをいただき、とても素敵な怪獣たちになったと思っています。 見ていただく前は本当に緊張しましたけどね(笑)。
藤田:怪獣を作るときはすごく陽気なんですけどね(笑)。ダダとゴモラを合成した怪獣はダダの頭にゴモラの角が生えているんですけど、それも「藤田さん、ゴモラなんだから角生やしましょうよ」って。
又野:それでできあがったデザインを見て、これを版権元さまにどうやって提案しようか、となるんですよね(笑)。そもそもゴモラの角はどこからが角なのか、みたいな話もしていましたよね。
藤田:角の生え際を頭とどうなじませるか、みたいな話もしましたね。現場は相当おもしろがって合成させた怪獣を作っていましたね。
又野:それはデザインにも出ていました。すごく楽しんでいるんだろうなと(笑)。ほかにも突飛な怪獣がいるんですよ。ゼットンとバルタン星人を合成するとゼットンの手がバルタン星人のハサミになっていたり、カネゴンと合成するとカネゴンの口にあるチャックがゼットンの背中に付いていたり(笑)。
NFC再生は遊び倒して法則性を探ってほしい
――ちょうどNFC再生のお話が出たところで、こちらについてもお話を伺いたいと思います。
藤田:NFC再生は交通系ICカードなどを使って怪獣を再生できる機能で、実はずっとやりたいと思っていたものなんですよ。今って、そもそもCDをゲーム機に入れられないじゃないですか(笑)。それに代わる何かはないかと考えていたときに、みんながピッとやるNFCが使えないかと思ったんです。
最初はシンプルに、家族が電車で出かけるときに子どもがずっと『ウルトラ怪獣モンスターファーム』を遊んでいたとして、電車を乗り降りするタイミングで変化が起きたらおもしろいな、というのがスタートだったんですよ。
――NFCを使うアイデアは以前からあったんですね。
藤田:それまでにも音や画像を使っての再生も考えてはいたんですけど、昔の『モンスターファーム』でやっていた「CDを入れるだけ」という1アクションに対して、音や画像を保存して、それをスマートフォンからゲームに送って、と工程がひとつ増えてしまうんですよね。
なので、1アクションで怪獣を再生できる交通系ICカードは非常にわかりやすいなと。それで特許も取得したんですけど、悩みも出てきたんですよね。
又野:そうなんです、いざ考えるとNFCって1人何枚も持っていないんですよね。
藤田:又野さんは当時レンタルCDショップのCDを根こそぎ持っていくくらいの勢いで遊んでいた、とおっしゃっていて、NFCだと数が圧倒的に少ないなと思ったんです。あとは、社員証なんかもNFCですけど、例えばバンダイナムコエンターテインメントさんの社員証から特定の怪獣が、としてしまうと、知り合いで働いている人がいないか探さないといけないじゃないですか。それは遊びとして成立しないと思ったんですよね。
NFCカードって、生活のなかで内部の情報が変化していくじゃないですか。その変化を上手く使いたいと思ったんですよね。社員証についても、タッチするたびに再生結果が変わったらおもしろいな、と。ただそこで又野さんが、ランダムにするのはよくないですよねと言ったんですね。
又野:僕は無邪気にわがままを言い続けていました(笑)。
藤田:でも、これはさすが『モンスターファーム』ファン、さすがプロデューサーな発言だったと思います。結果、ランダムではなくある法則性をもった変化を入れることになりました。カードに収められている情報や生活する時間などを組み合せで結果が変化するので、2枚くらいしかNFCカードを持っていない人でも、いろんな怪獣を再生できるんですよ。
又野:やっぱり『モンスターファーム』って、「あのCDから強いモンスターが出たぞ!」みたいな話を聞いて、そのCDを借りに行くのが楽しかったんですよね。そこがランダムになってしまうと、探す遊びになっているようでなっていない気がしたので、何かしら明確なルールがあったうえで変化するようにしてもらいました。
ルールを解明するのはむずかしいと思うんですけど、しっかりとした法則性があります。ファンの皆さんにはぜひこの法則を探してもらいたいと思います。
藤田:Aくんの持っているカードからレアな怪獣が出るとなったら、みんなでカードを使いまわして再生したりすると思うんですよ。この時全員の結果がバラバラだとただのランダムですけど、5人のうち3人は同じ怪獣で、なぜか残りふたりは違う怪獣が出る、みたいになるのはおもしろいなと思ったんですよね。
ここはぜひ遊び倒してもらいたい部分です。社内でのテストプレイでも、みんなでキャーキャー言いながら社員証やカードを貸し合っていました(笑)。
又野:ぼくたちもテストプレイはかなり盛り上がりましたね。「自分のカードからこの怪獣が出ました。これから会社に向かいます」みたいな報告が出たときに、「カードを使うと再生結果が変わっちゃうから電車は切符で乗って!」みたいなことが生まれるととってもおもしろそうですね(笑)。
単純にカードの情報だけでなく、いくつかのデータを取って変化しているので、何月何日、何時何分、天気は、みたいにいろいろな情報をメモしていただければ、いつか法則性に気づいてもらえるかと思います。
藤田:『モンスターファーム』はゲームの外側でも遊んでほしいゲームなので、そこはワイワイと楽しんでもらいたいですね。
コラボだからこその『モンスターファーム』と『ウルトラマン』の融合
――本作ではカララギマンゴーなどの『モンスターファーム』シリーズおなじみのアイテムや、ガンQキャンディのような『ウルトラマン』的要素を取り入れたアイテムが登場します。これらのバランスはどのように考えられたのでしょうか。
藤田:最初は100%『ウルトラマン』に振り切っていたんですけど、又野さんが「カララギマンゴーはないんですか、ホッカイマムシは」みたいにおっしゃっていて。
又野:白銀モモがなかったらどうやって寿命を延ばすんですか、ってね(笑)。まじめな話をすると、やっぱり『モンスターファーム』とのコラボという側面を大事にしたかったんですよね。
ただ世界観を寄せるだけでなく、プレイしたとき『モンスターファーム』を随所に感じられるようにしたかったんです。アイコニックな要素として、『モンスターファーム』のアイテムであるカララギマンゴーなどは絶対に入れてくださいとお願いしました。
藤田:ゲーム中に、怪獣たちがブリーダーであるプレイヤーにアイテムをくれることがあるんですけど、ガンQキャンディみたいな『ウルトラマン』関連のアイテムだったりケーキだったりは、ある意味想像の範囲内じゃないですか。
でもそこでいきなり黄金モモをくれたら、「『モンスターファーム』じゃん!」という驚きにつながるとおもって、それはオマージュとして入れたらおもしろいなと思ったんですよね。
――先日の東京ゲームショウでは科特隊モッチーが登場するというサプライズ情報も出ましたが、こちらはどういった経緯で誕生したのでしょうか。
藤田:モッチーに科学特捜隊の制服を着せたらかわいいから、というのが私の単純な思いですね(笑)。
又野:これもコラボレーションだからこそ、実現できたことですね。ふつうに考えたら、モッチーに科特隊の制服を着せたらダメじゃないですか。でもコラボレーションだからこそ実現できることなので、ハードルは高いとは思いましたが、チャレンジしましたね。ファンの想像の斜め上をいける、というのが今回のタイトルにとってすごく重要なことだと思ったんです!
ウルトラ怪獣の魅力を損なわずに『モンスターファーム』らしく見せる演出やバトル面でのこだわりについて伺ったインタビュー後編はこちら↓
巨大なウルトラ怪獣の「かわいさ」をどう表現するのか?『ウルトラ怪獣モンスターファーム』の挑戦【後編】
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【編集後記】
ウルトラ怪獣と『モンスターファーム』という、まさかすぎるコラボで生まれた『ウルトラ怪獣モンスターファーム』。コラボのおもしろさもさることながら、お話を伺えば伺うほどNFC再生を自分で試してみたい気持ちが強くなり、早くプレイしたくてたまりません。藤田さんと又野さんは終始明るく話されていたのも印象的で、おふたりのタイトル愛が感じられました。又野さんの言葉の端々に『モンスターファーム』ファンっぷりが溢れていたのもタイトルへの期待を高めてくれますね!
村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのインタビューや攻略記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。
※本ページに記載されている会社名・製品名は、各社の商標または登録商標です。
©円谷プロ
©Bandai Namco Entertainment Inc.
開発:コーエーテクモゲームス
モンスターファーム:©コーエーテクモゲームス All rights reserved.
『ウルトラ怪獣モンスターファーム』プロデューサー。バンダイ入社後、バンダイナムコエンターテインメントに転籍し、さまざまな家庭用ゲームのプロデューサー業務を歴任。