バンダイナムコの過去から現代につながるルーツを辿る連載企画「バンダイナムコ知新」。「太鼓の達人誕生秘話」の後編となる今回は、業務用・家庭用の『太鼓の達人』制作に携わる計5人のメンバーによる座談会をお届けします。家庭用『太鼓の達人』が爆誕し、シリーズ累計販売本数1,000万本を超える「国民的音ゲー」に成長するまでには、どのような努力と挑戦があったのでしょうか?
「第3回 太鼓の達人誕生秘話 現在に至るまで 前編」はこちら
第3回 太鼓の達人誕生秘話 現在に至るまで(後編)
中館賢
『太鼓の達人』の生みの親。長年『太鼓の達人』に携わり、シリーズ総合プロデューサーを務めた。現在、バンダイナムコアミューズメント プロダクトビジネスカンパニー プロデュースディビジョン オペレーション部 運営課 アシスタントマネージャー。
笹岡武仁
誕生の段階からずっと『太鼓の達人』シリーズに携わってきた、元ビジュアルアートディレクター、現開発プロデューサー。現在、バンダイナムコアミューズメントラボ 開発本部 企画部 企画2課 係長。
露木雄二
『太鼓の達人』が業務用から家庭用へと移植される際にセールスを担当。現在、バンダイナムコセブンズ 取締役。
木水克典
2018年から業務用『太鼓の達人』シリーズに携わるプロデューサー。バンダイナムコアミューズメント プロダクトビジネスカンパニー プロデュースディビジョン オペレーション部 運営課 アシスタントマネージャー。
上田彩乃
2015年から家庭用『太鼓の達人』シリーズに携わるプロデューサー。バンダイナムコエンターテインメント CEアジア事業部 アジア制作宣伝部 プロデュース2課。
最初は社内受けしなかったタタコンの試作品
――業務用『太鼓の達人 ※1』稼働から1年後の2002年、初の家庭用となるPlayStation®2(以下、PS2)版『太鼓の達人 タタコンでドドンがドン』が誕生しました。家庭用へと移植した経緯をお聞かせください。
※1 『太鼓の達人』
2001年にナムコにより開発された、和太鼓をモチーフにした業務用音楽ゲーム。以降、業務用・家庭用問わずさまざまなプラットフォームで続編が発売され、幅広い年齢層にプレイされ続けているロングセラー。
露木:当時、業務用『太鼓の達人』の担当から「家庭用に移植したい」と相談され、タタコン(※2)の試作品を見せられたんです。今でこそタタコンは太鼓っぽいビジュアルですけど、まだ真っ白のモックアップ状態で、そのときは正直ちょっと厳しいかなと思いました。でもその担当者が、「これは飽きたらテレビの上とかに乗せれば置き物になる」って言うんですよ(笑)。
※2 タタコン
PlayStation®2 版『太鼓の達人』用の太鼓型専用コントローラ。幅約27cm×高さ約20cm×奥行き約20cm。専用のバチもセットされている。
一同:(笑)
露木:それはおもしろいな、と。業界初の、置き物にもなるコントローラ(笑)。こんなアホなことができるのはうちの会社しかないと思って、「分かりました。やってみましょう」と答えました。二つ返事ではなく、ためらいながらの返事でしたけど(笑)。そしてタタコンの試作品を持ち帰って会議にかけたら、上司や先輩から「売れるわけないだろ、こんなもん」とこき下ろされました。ある人が「この中でコレ買う人いる?」と言ったら、みんなシーンとしちゃって……。ちょっとカチンときて、私は「じゃあこの中で『ファイナルファンタジーⅩ』(PS2/2001年/スクウェア・エニックス)買った人いる?」と聞いたら、誰もいなかったんです。「じゃあ100万本売れるじゃん」という屁理屈で、ムリヤリ押し通しました(笑)。
一同:(爆笑)
――おっしゃる通り、かなり無理のある理屈ですね(笑)。
露木:そこから「とりあえずやってみよう」ということで、『太鼓の達人』の家庭用への移植が進行しました。賛成してくれた人は、セールス部隊の中でも2~3人でしたね。
――業務用『太鼓の達人』の人気が、当時のセールス部の方々には浸透していなかったというわけではないですよね?
露木:もちろん業務用の人気はみんな知っていました。ロケーションテスト(※3)の良い数字も見ていましたし。ただ、実際にゲームセンターで大きな和太鼓を叩く行為がおもしろいんであって、「こんなちっこい太鼓を叩いても……」というのが大方の意見でしたね。
※3 ロケーションテスト
アーケードゲームを世に出す前に、ゲームセンターなどで行われるテスト。ゲームバランスの調整や市場調査などの意味合いを持つ。
――確かに大きな太鼓をダイナミックに叩いて遊べるのが、これまでの音楽ゲームにはない、『太鼓の達人』の魅力ですものね。
露木:その後、当時のソニー・コンピュータエンタテインメント(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)さんにプレゼンしたとき、タタコンの試作機の第2弾が手元に届いたんですよ。社内便で。その試作機はちゃんと太鼓色になっていて、フロアにいたほぼ全員がわーっと集まってきて、「これすごい!」「太鼓だ!」と。それを見た瞬間、「勝ったな」と思いましたね(笑)。やはり最初の真っ白のものではどうしてもイメージが湧かなかったんです。そこから「これはイケるんじゃないか」と、いろいろ販売戦略を立て始めたんですよね。発売前の経緯はそんな感じです。
――中館さんたち開発サイドから見た移植の経緯もお聞かせください。
中館:業務用が出て半年ぐらい経ち、「よし、次は家庭用だ!」という話になりました。当時ナムコは、業務用でヒットしたものを家庭用に移植するのが必勝パターンでした。それで、コントローラをどうするか検討した結果、太鼓型のコントローラを作るのはマストだという結論になりました。ゲームセンターの『太鼓の達人』がそのまま家で遊べるというコンセプトを決め、サイズやコストやセンサー部分など、いろいろな面で非常に苦労しながらタタコンというコントローラを作りました。前述のように最初の試作品ではウケが良くなかったのですが(笑)、完成形が見えてきたら社内でも受け入れられました。
――やはりタタコンの部分が最初の肝だったのですね。
中館:ゲーム内容については、業務用ですでに出来上がっている音ゲーとしての基本システムを守ろうと。でも、家庭用は何千円というお金を出してソフトを買っていただくので、長期的に遊べて満足してもらえるように、ミニゲームなどを入れて遊びのバリエーションを増やしていきました。
笹岡:当時、タタコンを作るとき、私がコンセプトデザインのイラストを描いたんですよ。家のテレビの前に女の子が2人ぐらい座って、ちっちゃいタタコンを叩いている絵を描いて提出したんですけど、「本当にこういうことが起こるの?」と言われました(笑)。でも今、まさにそういうご家庭に1台あるような状況になっているので、絵空事で描いた絵が本当に現実になったのはうれしかったですね。
露木:女子高生のプレイヤー、けっこう多かったですしね。
笹岡:はい。業務用で女子高生が叩いているシーンを実際見かけていましたので。
露木:結果、1作目は即日完売でしたね。瞬殺。最初はいらないと言った取引先も「くれくれ」言ってきて。いらないって言ったじゃないか、と(笑)。
――やはり「勝ったな」と?(笑)
露木:いやぁ、ほんとですよ(笑)。でももう、あまりにもモノがなくて。タタコンって海外で生産しているので、時間がかかるんですよね。その間どうやってつなぐかという部分に腐心しました。
笹岡:実際に市場になくなっていたその時期、オークションですっごい高値になっていましたね。
露木:会社の偉い人も「『太鼓の達人』ないか?」と言ってくるんですよ。
――開発陣の皆さんは、家庭用のヒットは予想されていたことだったのでしょうか?
笹岡:うーん、胸を張って「はい」とは言えないです(笑)。ああいう周辺機器が一般のご家庭で受け入れられるというのは、驚きもありましたね。
中館: ナムコの家庭用ゲームって、『太鼓の達人』のタタコンの前にも、ネジコン(※4)とかガンコン(※5)とか、変わったコントローラが出ていたんですけど、 その中でもタタコンはかなりの異色だったので(笑)。家庭のリビングに太鼓が置かれてプレイされる状況が生まれたらいいなぁと思いつつも、本当に受け入れられるのか、実際に出してみるまで不安はありましたね。
※4 ネジコン
プレイステーション専用周辺機器として、ナムコが1995年に発売したアナログコントローラ。レースゲームで細かなハンドル操作が可能となる。
※5 ガンコン
プレイステーション専用周辺機器として、ナムコが1997年に発売したガンシューティングゲーム用銃型コントローラ。のちにガンコン2、ガンコン3も発売された。
露木:発売数カ月で200万台近く売れていたんですけど、最初の仕込みが10万台ですからね。やっぱり「そこまで自信があったか?」と言われると、数字が如実に物語っています。
――業務用と家庭用に、同じ制作スタッフの方々が携わっていたのでしょうか?
中館:最初に業務用の開発チームがあったところに、社内のメンバーを増強したり外部の会社と連携して、業務用と家庭用を2ライン並行して開発できる体制を作りました。基本、みんな同じフロアの近い席で並行して開発していて、兼任するメンバーも多かったので、業務用と家庭用の間の攻防のようなものはあまりなく、協力体制で開発していました。
露木:自分のポジション的には相当攻防しましたよ(笑)。家庭用1作目で好調なスタートを切れたんで、いろんなバリエーションが欲しいということで、PS2の4作目『太鼓の達人 わくわくアニメ祭り』(2003年)は、「小さいお子さんが手に取りやすいアニメに特化した楽曲でやってほしい」と言ったんですが、「やだ」って言われましたからね(笑)。
一同:(笑)
露木:「そんなものを作っても売れません」と言われて、太鼓チーム10人VS私1人という構図になりまして(笑)。
中館:開発チームは我の強い人が多かったですからね(笑)。思いが強すぎて……。
さまざまな家庭用ハードの特性を生かした展開で1,000万本超え!
――PS2版の最初の開発ペースはすごいですよね。
中館:2002年の10月に1作目、2003年に2~4作目が出て、ほぼ1年の間に4タイトルが出ているという、おかしいスケジュールなんですよ(笑)。
――その後、家庭用『太鼓の達人』は、PS2以外にもさまざまなハードで発売され、現在累計販売本数が1,000万本を超えるビッグタイトルとなりました。それぞれのハードでの開発のエピソードをお聞かせください。
中館:PSP®「プレイステーション・ポータブル」(以下、PSP)版は、ボタンだけでいかにリズムゲームとして楽しませるかという点にこだわりました。そして携帯機なので、みんなでワイワイというよりは1人でじっくり遊べるように、ストーリーに沿って長く遊べる「おはなしモード」を、『太鼓の達人 ぽ~たぶる2』(2006年)から導入しました。
――PSP版といえば、最初にダウンロード販売をしたタイトルですね。
中館:PSPの1作目『太鼓の達人 ぽ~たぶる』(2005年)のときは、ゲーム機をネットにつないでダウンロードするのが一般的でなく、PCでネットから楽曲をダウンロードし、PCからメモリースティックでPSP本体に持ってくるという仕掛けでやっていました。『太鼓の達人 ぽ~たぶるDX』(2011年)から、PSP本体で直接ダウンロードできるようになりました。
そしてニンテンドーDS®(以下、DS)なんですけど、DS本体が発売された瞬間に、「これは太鼓だな」と思いました(笑)。
一同:(笑)
笹岡:発売日にDS本体を買いに行ってましたもんね(笑)。
中館:そうそう。DS本体を触って、「あ、これ開くんだ」「画面2つあるんだ」「タッチペンで下の画面を触るんだ」なんて思って、直感的に「これはもう太鼓だな」と。
DSはまるで『太鼓の達人』用に生まれたハードだという思い込みのもと(笑)、DS1作目『太鼓の達人DS タッチでドコドン!』(2007年)の開発を進めました。当時DSはゲーム人口の拡大を掲げてものすごくヒットし、社会現象となっていました。『太鼓の達人』がもともと持っていた、「ゲームに慣れてない人も気軽に遊べる」という特徴が、そういうDSの市場にも非常に合っていると思いました。
――DS版は、バチペン(※6)2本同梱というのが驚きでした。
※6 バチペン
ニンテンドーDS®、ニンテンドー3DS™版『太鼓の達人』シリーズ専用のタッチペン。通常のタッチペンよりも太い。
中館:通常のタッチペンでも遊べるんですけど、わざわざバチペン2本を全数同梱したのは、2本のバチで演奏するアーケード版の感覚をDSでもすべての人に提供したいと考えまして。
露木:あ、バチペン同梱について、「言わないで売ろうか」とか言っていた記憶があるなぁ。「買ってみていきなりバチペンが入っていたら、うれしくない?」と提案して、大反対された記憶がある(笑)。
一同:(笑)
――確かに驚きますよね(笑)。
笹岡:ゲームにしっかりとしたストーリーを作ったのは、DSの2作目『めっちゃ!太鼓の達人DS 7つの島の大冒険』(2008年)が初めてかもしれないですね。長時間遊べるようにRPG風のストーリーモードを考えました。大きな敵をみんなで力を合わせてやっつけるみたいなシナリオを、なぜか私が書いていました(笑)。泣けるエンディングを入れたり。
中館:もうシナリオライターだよね(笑)。
――前編からお話を伺っていると、笹岡さんはプロデュースやアートディレクション面以外にも、お仕事が多岐にわたっているのですね。
笹岡:いろいろやってます(笑)。ストーリー作りは、いつもの業務と違った脳みそを使うので、すごく楽しんでやっていましたね。演奏ゲームを使ったボスとの対決も導入しました。ボス戦はギミックが凝っています。私のやりたいことを自由にやらせていただきました(笑)。
中館:僕は「ああ、なんかおもしろそうなことやってるなぁ」って見てました(笑)。楽しみながら作れば、おもしろいものができますからね。
――そしてWiiの初作が2008年。それから5年連続30万本突破の鉄板ヒットタイトルとなりました。
中館:任天堂さんから毎年記念盾を頂いていましたね。Wiiが発売されたころには、PS2やDSで実績を出し、社内での『太鼓の達人』の評価は確立されていました。本作のファミリー向けという特性も、Wiiと合うということで作り始めました。Wii版1作目『太鼓の達人Wii』(2008年)はかなり売れました。60万本ぐらいだったかな。その後毎年年末に1作ずつ……計5作発売しましたね。1作目は基本的に「業務用の音ゲーとしての『太鼓の達人』が家で遊べます」というコンセプトでいきました。2作目以降は、そこにいろんな要素を足していきました。
笹岡:Wii版2作目『太鼓の達人Wii ドドーンと2代目!』(2009年)は、シナリオ的要素を入れてボス戦もあったり……。
中館:そうですね。DS版で培ってきたストーリーだったり、ミニゲームだったりを、より進化させてWii版にも導入していきました。Wii本体の仕様的にコントローラを4個つなげられたので、Wii版3作目の『太鼓の達人Wii みんなでパーティ☆3代目!』(2010年)からは、4人同時プレイ対応を実現しました。
笹岡:DS版ではプレイヤーが1人でやり込んでボスを倒したり、シナリオを進める構成だったんですけど、Wii版の2作目では2人で協力してボスに挑めるような、みんなで楽しめる要素も盛り込みました。
中館:Wii版では、Wiiリモコン(※7)の振動センサーを使ってコントローラを作れないかという発想で試行錯誤しましたね。太鼓の形をしたコントローラの中にWiiリモコンを仕込んで、太鼓を叩いた揺れをWiiリモコンのセンサーで検出して入力の判定に使えないかと。でも、検証の結果100%は入力が取れず、最終的にはPS2用のタタコンをベースにした設計のコントローラをWii用に製品化しました。
※7 Wiiリモコン
任天堂の家庭用ゲーム機Wiiの標準コントローラ。複数のセンサーにより、テレビ画面に向けて振ったり、ひねったり、指したりと、直感的なプレイが可能。
笹岡:本当にWiiではいろいろコントローラを試作しましたよね。どんちゃん(※8)の形をしたぬいぐるみの中にWiiリモコンが突っ込んであったりとか、けっこう見た目が残酷なものもありました(笑)。
※8 どんちゃん
『太鼓の達人』シリーズの主人公、和田どんのこと。赤い顔に水色の胴体を持ち、ゲーム中では主に1Pが操作。和田かつ(かっちゃん)と呼ばれる双子の弟もいて、こちらは水色の顔に赤い胴体を持ち、ゲーム中では主に2Pが操作する。
――そこまでさまざまな試行錯誤をされていたとは頭が下がります。『太鼓の達人』は、ガラケーやスマートフォンアプリでも定番のキラーコンテンツでしたね。
中館:より多くのお客様に遊んでもらいたかったので、わりと早い段階でガラケーにも『太鼓の達人』のアプリを展開しました。携帯電話だから、どんどん最新の楽曲がアップデートされますし、多くのお客さんに好評を得ました。当時、モバイル系の開発チームは別の組織立てになっていて、我々は監修や協力という形でかかわっていました。iPhoneが出たときにも、モバイル系の部署が主体で企画が進んでいたんですけど、話をもらって「ぜひ!」と我々も協力する形になりまして、これも早い段階でiPhone版アプリをリリースしています。
――そして現在、家庭用の現行タイトルとして、PlayStation®4(以下、PS4)版『太鼓の達人 セッションでドドンがドン!』(2017年)とNintendo Switch™(以下、Switch)版『太鼓の達人 Nintendo Switchば~じょん!』(2018年)が発売中です。
上田:PS4はオンラインに強いので、『太鼓の達人』としては初めて、その場にいないプレイヤーがプレイした演奏データとマッチングして対戦できる擬似的なオンライン対戦を実装しました。ダウンロードコンテンツがたくさんあるところも魅力です。Switch版は、「Joy-Con™(※9)というのがあるらしい」「HD振動というのがあるらしい」と聞いて、せっかくだったらそれをバチに見立てて振って、活用できたらいいよねと。
※9 Joy-Con™
任天堂の家庭用ゲーム機Nintendo Switchの着脱式コントローラ。本体にJoy-Con(L)とJoy-Con(R)が装着されていて、取り外しが可能。Wiiリモコンのようなモーションコントローラとしての機能も有しながら、HD振動、モーションIRカメラ、加速度センサー、ジャイロセンサーなどの機能を搭載。
笹岡:初めてNintendo Switchを触って、Joy-Con™を本体から外して持ったときに「これ、バチみたいに振れるな」と(笑)。そこから、作ろうという話が進んだんです。ハードの特性はうまく生かせたと思いますね。今後も新しいハードが出たら特性を生かした移植を心掛けていきたいです。
――家庭用がヒットしたことで、業務用への影響はありましたか?
木水:楽しさは少し特性が違う部分もありますので、お互いに高め合っていますね。家庭用で広くたくさんの方に家で気軽に遊んでもらって、それがきっかけでゲームセンターに行ってみようと思う方がいたり、ゲームセンターで遊んでいて、もっと家でゆっくり遊びたいと思って家庭用をやる方もいたり、相乗効果で互いに良い影響があったのではないかと思います。
――業務用では2011年からオンラインアップデートに対応していますが、メリットや苦労について聞かせてください。
木水:業務用『太鼓の達人』が、オンラインアップデートに対応した現在の筺体に変わってから、ほぼ毎月の頻度で楽曲の追加を続けています。最新の楽曲を届け続けられるというのが最大のメリットですね。苦労としては、アップデートが延々とずっと続くという(笑)。
業務用は家庭用と違い、何かパッケージが出ましたみたいな区切りがない中でも、すごく地道な苦労が続いていまして。僕はまだかかわって日が浅いですけど、『太鼓の達人』は長い間バトンをつないできている作品なので、今後もしっかりアップデートをし続けて、次につなげていくのが僕の使命だと思っています。最初は小学生だったプレイヤーがもう大人になっているぐらいの長い時間が経っています。ゲームセンターの機械自体、部品も段々古くなってくるので、そういった面でも重要なタイミングで受け継いだと思って、日々がんばっています。
――アップデートを重ね、業務用は現在700以上の楽曲が収録されていますね。
木水:楽曲の量もとんでもないんですよね(笑)。どの曲にも、楽しんでくださっている個々のファンがいます。
笹岡:家庭用だと、多くて1パッケージで70~100曲ぐらいですもんね。
木水:業務用の曲の膨大さは作り手としては大変ですけど、お客様に楽しんでもらえる大きな魅力でもあります。あと、バナパスポートカード(※10)が導入されたことによって、データ保存という家庭用では当たり前のことが業務用でも可能となり、いろんなモードが作れるようになったのは大きな変化ですね。最近だと上達に最適なAIバトル演奏(※11)という新モードを導入し、楽しく腕前を磨けるようになっています。
※10 バナパスポートカード
バンダイナムコアミューズメントのアーケードゲーム用のプレイデータが管理できるカード。
※11 AIバトル演奏
プレイヤーとほとんど同じ腕前を発揮する「AIどん」と演奏ゲームで競うモード。
『太鼓の達人』の遊び方の幅が広がる多彩なコラボを実現
――人気キャラクターやアーティストなどと多彩なコラボ展開をしてきたことも、『太鼓の達人』の大きな特徴です。
中館:最初のコラボは、PS2のときにソニーさんからお声掛けいただいて、『サルゲッチュ』(PS他/1999年~/ソニー)のピポサルというキャラをゲーム内に登場させました。あと「カールおじさん」もピポサルと共に『太鼓の達人 あつまれ!祭りだ!!四代目』(2004年)に登場しました。
露木:(お笑いコンビの)テツandトモさんを呼んだりもしましたよね。
中館:ありましたね。家庭用のプロモーションとして、全国の主要都市でキャラバンイベントを大々的にやりました。芸人の方々を呼んだり試遊台を置いたり。
笹岡:CMにもお笑い芸人の方々はたくさん出ていただきましたね。『太鼓の達人DS タッチでドコドン!』のときは……。
笹岡・中館:「ザ・たっち」!(笑)
一同:(笑)
笹岡:秀逸なチョイスでしたよね(笑)。
中館:『マリオ』や『ドラクエ』など、日本を代表するゲームともコラボをさせていただきました。自分が子供のころから遊んでいたタイトルだったんでうれしかったです。その後も『モンスターハンター』とか『妖怪ウォッチ』とか……。
笹岡:「ふなっしー」や「キティちゃん」……。いろいろやりすぎました(笑)。
中館:ミュージャンの方々とも多くコラボさせていただいていますね。CMでも、タイアップさせていただく形でAKB48、ももいろクローバーZ、EXILEといった人気アーティストの方々とコラボしました。ももクロとのコラボではオリジナルの曲を作ってもらったり、ライブに「どんちゃん」のきぐるみが登場したりもしました。
――マクドナルドともコラボしていましたね。
中館:マクドナルドのハッピーセットに、どんちゃんの着せ替えバージョンのおもちゃを付けて、合計3回コラボさせていただきました。ハッピーセットが発売されたら、開発チームのいい年した大人たちが買いに行ってました(笑)。
笹岡:会社の近所のマクドナルドに並んでハッピーセットを買ってくるという(笑)。
――「マックでDS ※12」で、オリジナルゲームの『太鼓の達人 ラルコとタッチdeバトル』(2012年)を配信もしていたのも画期的だったかと。
※12 マックでDS
ニンテンドーDSを持参してマクドナルドに来店した人に、人気ゲームのキャラクターのダウンロード、スタンプラリー、マクドナルドオリジナルの食育コンテンツなどを提供するサービス。2015年6月に終了。
笹岡:あぁ、ありましたねー。
中舘:マクドナルド様をはじめ、いろいろコラボレーションパートナーのお力を借りて、『太鼓の達人』の遊び方の幅を広げていきましたね。
――木水さんは業務用の担当をされていて、コラボの影響はどう感じていましたか?
木水:僕が『太鼓の達人』にかかわり始めたのは最近なんですけど、キズナアイさん(※13)の楽曲を収録させていただいたコラボや、UUUM(※14)のクリエイターさんに出演いただいたコラボイベント「UUUM×太鼓の達人 クリエイター夏祭り」(2018年)が印象に残っていますね。時代の中で新しく生まれてくる人気アーティストやキャラクターとコラボできるのは非常に魅力的だと思います。UUUMさんとのコラボイベントの後には、「あ、いつもと違う人たちがゲームセンターで遊んでくれているな」と見て取れましたし、これからも新しい年代の方に興味を持ってもらえるコラボをしていくことが重要だと感じました。
※13 キズナアイ
自称、世界初のバーチャルYouTuber。愛称は「アイちゃん」。誕生日は6月30日。身長156cm、体重46kg、スリーサイズはB85、W59、H83。
※14 UUUM
日本を代表するYouTuberのプロダクション。HIKAKINやはじめしゃちょーが所属。
――これからも新しいコラボがあるというあることですね?
木水:はい、それはもう日々考えています。まだ言えないですけど(笑)。
――楽しみにしております。
上田:今UUUMさんのお話が出ましたけど、Switch版のCMではHIKAKINさんを起用させていただきました。その後、ダウンロードコンテンツでHIKAKINさんコラボのミニゲームを配信したり、演奏キャラクターとして登場していただいたりしました。Switch版のメインターゲットは小学生を想定していたので、その層に人気のあるHIKAKINさんとコラボさせていただいたのは効果的だったと思います。
日本を飛び出し世界中で愛される『太鼓の達人』
――『太鼓の達人』は、日本だけに留まらずワールドワイドに愛されている(※15)タイトルでもあります。
※15 ワールドワイドに愛されている
『太鼓の達人』家庭用シリーズは、2004年に初めて北米で販売を行い、2015年からアジア、2018年からはワールドワイドでも販売し、着実に海外のファンを増やしている。
上田:PS4版、Switch版は日本だけではなく、アジア・北米・欧州でも発売しました。ソニーさんのイベントでマレーシアに行かせていただいたんですけど、すでに業務用がアジアに進出していたというのもあって、ファンの方の熱量がすごかったです。
――最近では、韓国でシリーズ初の賞金付き大会も開催されたそうですね。
上田:はい。今年2019年5月に韓国のゲームイベント「2019 PlayX4」で賞金付きの大会が開催され、すごく盛り上がりました。日本でも『太鼓の達人』の大会をやっていますが、負けないぐらい熱量の高い戦いでしたね。
――大会といえば、eスポーツ(※16)にも取り組まれていますよね。
※16 eスポーツ
「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称。世界各国でたくさんのeスポーツ大会が開催されている。
上田:そうですね。2018年、JTBさんと組んで小学生向けのeスポーツ大会「太鼓の達人Nintendo Switchば~じょん!小学生フリフリ王決定戦!」を開催して、東京大会、大阪大会、名古屋大会で優勝した小学生とご家族を、ハワイ最大の文化交流イベント「ホノルル フェスティバル」に招待してエキシビションマッチをしました。ホノルルに家族を連れて行けるということで、小学生プレイヤーもすごくテンションが上がってがんばっていたのが印象的でした。
露木:それ、すごい親孝行だなぁ。
笹岡:『太鼓の達人』って楽しくワイワイというイメージですけど、大会となるとみんな真剣で、負けた男の子が悔しさのあまり涙を浮かべたりしているんですよ。その熱さに胸を打たれましたね。すごくいいものを見させてもらいました。
――大会はこれからも国内・国外にかかわらず開催していく予定ですか?
上田:はい。コア向けの大会もやりたいし、小学生も楽しめるような大会もやっていきたいです。
――業務用の海外展開についてはどうでしょうか?
木水:今のゲームセンターにある最新版の『太鼓の達人』は、台湾・香港・韓国などの国や地域で稼働しておりまして、日本と同じ最新の楽曲を、少し時期は遅れるんですけど楽しんでいただいています。ワールドワイドな展開という意味では、家庭用がすごくいろんな国に広がっている中、業務用はアジアに留まっている状態です。家庭用が認知を広げてくれたので、今度は業務用も追いかけていきたいと思いますね。
――業務用も大規模な大会が開催されていますね。
中館:「太鼓の達人 ドンだー!日本一決定戦」という大規模な全国大会をこれまでに3回やっているのですが、その最新が「太鼓の達人 ドンだー!世界一決定戦2016」という世界大会です。日本以外にアジアの各国からも選手がエントリーして、各国のトッププレイヤーが集結して世界一を決めるという大会を行いました。アジアのプレイヤーの腕前が相当上がっていて、熾烈な戦いが繰り広げられました。
笹岡:ここ(バンダイナムコエンターテインメント3階)の1個上のフロアで決勝戦をやったんですよ。
――なんと、決勝戦の会場はバンナムさんだったのですか。業務用でも、このような大会を今後もやっていく予定ですか?
木水:もちろんやっていきたい気持ちは非常に強いです。どうやったらしっかり盛り上がる大会にできるか、今は下地や周辺を整えているところですね。
――期待しています。
太鼓を叩く行為は、人間の原始的な欲求?
――『太鼓の達人』がこれだけ長く愛される人気の理由はどこにあると思いますか? 前編では中館さんと笹岡さんに伺っていますので、ほかのお三方にお尋ねします。
木水:『太鼓の達人』が、あまたある音楽を扱ったゲームの中で、特に業務用ゲームの中でこれだけ長い間遊ばれているのは、新しいお客様が気軽に安心して始められる環境がずっと整えられているからだと思うんですね。それは、「太鼓を叩く」という誰でも分かるゲームルールであったり、家庭用のさまざまな展開で認知度が高まり、誰もが知っているという安心感であったり……。そういうところが長く続いている大きな理由だと思います。『太鼓の達人』自体が遊んでいて楽しいというのはもちろんですよ。
上田:開発するにあたって子供向けの調査をしたときに、「私も昔、ゲームセンターでやっていたんですよ」というお母さんからの発言があったんですね。そういった、家族みんなで楽しんでいる人が多いのが『太鼓の達人』の強みです。小さい子から大人まで、もしかしたらおじいちゃんやおばあちゃんまで、どんな年齢層でも楽しめるところが長く続いている秘訣だと考えています。
露木:いろんな理由があると思うんですけど、まず第一に、人がやっている姿を見ると楽しそうに見えるのが大きいかなと。ゲームセンターで誰かが太鼓を叩いているのを見ると、自分もやりたくなる。プレイしている姿が人を呼ぶ。それが1つの理由かなと思います。
――ゲームセンターを通りかかったときに、あの太鼓を叩いている姿というのは非常に分かりやすいですよね。
露木:そうですね。もう1つは、太鼓を叩くという行為で人間の原始的な欲求が満たされるというか(笑)。人間には、そういう欲望が太古の昔からありますから。……た、太鼓だけに……。
一同:(爆笑)
――見事なオチをつけていただきました(笑)
露木:今のは狙っていたのではなく、偶然の産物です(笑)。
――最後に、『太鼓の達人』20周年(2021年)に向けて、今後の予定や考えていることを教えてください。
上田:家庭用に関しては、今すでに出している作品で、お客様に喜んでいただけるダウンロードコンテンツを引き続き出していきつつ、20周年にも何かやらねばと考えているところです。
木水:業務用も、20周年に向けて何かやりたいという思いは非常に強いです。プロデューサーたちで2週間に1回は顔を合わせていまして、そこでいろいろと企みをしていますね(笑)。家庭用がこれだけたくさん出ていて、さらに世界にも広がっているので、業務用は業務用で一発叩く気持ち良さを忘れずにしっかり作り続け、そしてワールドワイドにも広げていきたいです。
バンダイナムコ広報:開発スタッフは、『太鼓の達人』を「国民的音ゲーにする!」と昔からずっと言っていました。現在はその地位に近いところに来たと思っています。老若男女、誰もが知っていて、ゲーム内容も知られていて……。時が流れてプレイヤーが入れ替わってもずっと楽しんでもらうことを念頭に置き、ゲーム本編は当然のこと、ゲーム以外の部分でもいろいろと展開していきたいと考えています。
中館:「国民的」の次は……。
一同:世界的!
中館:地球的! 宇宙的!(笑)
――今後も『太鼓の達人』のアグレッシブな展開と広がりに期待しています!
“PlayStation”および“PS2” “PS3” “PS4”は、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です。
Wii・ニンテンドーDS・Nintendo Switch・Joy-Conは任天堂の商標登録または商標です。
取材・文/忍者増田
フリーライター。元ゲーム雑誌編集者。忍者装束を着て誌面やWeb上に登場することも多い忍者マニア。https://twitter.com/Ninja_Masuda
協力:協力:ゲーム文化保存研究所(IGCC.JP)
https://igcc.jp/