バンダイナムコエンターテインメントのゲーム作りを支えるPMとは?プロデューサーと伴走するバイプレーヤーの流儀【SPOTLIGHT】

第5回となる【SPOTLIGHT】シリーズでは、ゲームの企画制作からプロモーション、パブリッシングまで、制作工程全体の進行管理・補助を行っているプロジェクトマネジメントオフィスのメンバー、長谷川妙子さんに焦点を当てます。

「エンタメ業界は自分がおもしろい人間じゃなくても、作品やキャラクターを通して“おもしろさ”を伝えられるじゃないですか。そこがすごく魅力的だと思ったんです。」

ゲーム作りを陰で支えるプロジェクトマネージャー(以下、PM)のお仕事に関するお話や、多くの人とコミュニケーションを取るうえで大事にしていること、過去の失敗を通して知ったチームの大切さ、子どもが生まれたことで働き方や考え方に与えた影響などを伺っています。

【SPOTLIGHT】とは?
ファンファーレ編集部が、今気になるバンダイナムコエンターテインメントの社員に話を聞く連載企画。仕事に取り組む社員の素顔に【SPOTLIGHT】を当てて、これまでの経験や思い、本人のキャラクターを紐解きます。本シリーズを通して、これからのエンターテインメントが創る未来を照らします。

今回お話を伺ったのは、プロジェクトマネジメントオフィスのメンバーとしてさまざまなプロジェクトの進行をサポートしている長谷川妙子さんです。PMというお仕事の内容やそのおもしろさ、難しさ、長谷川さんがお仕事で大切にされていることなどについて語っていただきました。

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長谷川 妙子

バンダイナムコエンターテインメント
CX戦略室リリースマネジメント部 アシスタントマネージャー

2005年にバンダイネットワークスに入社し、モバイルゲームコンテンツの開発や運営に携わる。その後家庭用ゲームのプロデューサーやプロモーション担当などを経て、現在はプロジェクトマネジメント課で個別タイトルのPM業務や全体の進行を補助するためのツール運営などに関わっている。

PMの仕事は夏休みの宿題の計画を立てるようなもの

――まずは長谷川さんの経歴を教えてください。

長谷川:私は2005年に、当時のバンダイネットワークスに入社して、旧来の携帯電話の端末(いわゆるガラケー)用に出すゲームの開発プロデューサーをしていました。

その後、家庭用ゲームのプロデューサーとして動いたり、プロモーションを担当したりしてきました。育児休暇も2回取得しています。PMの仕事は3年目になります。

長谷川妙子

――PMというお仕事は、どのようなことをされるのでしょうか。

長谷川:PM(プロジェクトマネジャー)という言葉のとおり、プロジェクトの進行管理などを行う業務です。各プロジェクトにつく場合は、企画が立ち上がる段階からプロデューサーと帯同して動きながらスケジュールやタスク、リスクの管理をしていきます。

ゲームの制作中だけでなく、パブリッシングやマーケティングにまで関わるので、ゲーム制作の最初から最後まで携われる仕事ですね。

一方で全体PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)と呼ばれる業務も担当しており、こちらはタスク管理のツールや開発情報サイトを作成、管理をしたり、その改善を行ったりと、バンダイナムコエンターテインメントのタイトルに対して、横軸の連携も行っています。

個別のプロジェクトに参加する場合は開発の定例ミーティングに参加して、会議のファシリテーションやアジェンダの設定、議事録を取り、各種資料の作成なども担います。タイトル全体の進捗を把握する必要があるので、ミーティングは多いですね。

――プロジェクト全体がより円滑に進行できるように調整やサポートをしていくお仕事なんですね。

長谷川:そうですね。スケジュールを守れるように進行を補佐したり、業務が増えたら関連部署との連携をしっかりできるようにコミュニケーションを整理していったり。プロデューサーがスムーズに意思決定ができるよう、サポートをする仕事ですね。

ゲーム業界のPMは少し特殊なところもあって。例えばビルを建設する場合、途中で「おもしろそうだから斜めに建てるように変更しよう」みたいなことは考えにくいじゃないですか。

でもゲームの場合、ここを変えたほうがおもしろいね、となったら大きく舵を切ることもあります。仕様やスケジュールが変わることも珍しくはないので、その結果どんな影響が出るかを把握しておかないといけません。イレギュラーな進行をコントロールしていくのが、ゲーム業界のPMに求められる部分であり、難しい部分でもあります。

長谷川妙子

――PMのお仕事が最近になって重視されてきているのは、やはりプロジェクトが大規模化している部分が大きいのでしょうか。

長谷川:そうですね。数人規模の制作体制であれば、隣の人の進捗は直接聞けばわかるじゃないですか。でも100人単位になってくると、進捗を把握して調整する人が必要です。

PMの仕事は言ってみれば「夏休みの宿題の計画を立てて、終わらせていく」みたいなもので。宿題は途中何かしらの理由で遅れることもあるじゃないですか。でも目標は夏休み中に終わらせることなので、計画がずれた時にスケジュールを作り直していく。さらに言うと宿題を終わらせながらも、「夏休みを楽しむようにする=おもしろいゲームを作る」がミッションです。

この「夏休みの宿題」の例えは人の受け売りなんですけど(笑)。

正解はないのが難しく、楽しい部分

――PMのお仕事をされるなかで、難しいと思うのはどんな部分でしょうか。

長谷川:ゲームの制作過程は、ケースバイケースで決まった正解がないと思っています。どう作っていくべきかアクションやパズルなどのジャンルで違ってきます。

とは言え、異なるジャンルでも共通している要素がないわけではないので、このタイトルの時にはこういう対応をした、というノウハウを今はためている段階です。正解がないのが難しいところですが、同時におもしろい部分でもあると思います。

――正解がないなかで、円滑に仕事を進めるためのコツなどはありますか?

長谷川:基本的にコミュニケーションや情報共有がすべてなので、なるべく多くの人と関わって、情報は常に取り入れるようにしています。あとはPMチーム内の連携を強めていくことが大事です。

長谷川妙子

PM自身が課題を解決するというより、誰に相談すれば良いかがわかる状態までサポートすることで、そこから先はほかのチームメンバーが解決してくれる。そういう橋渡しをしたり、見落とされているものを拾ってメンバーに渡していったりするのが大事だと思っています。メンバー同士をつなぐハブとして機能する、というイメージが近いかもしれません。

――多くの方と関わるなかで、気を付けていることは何でしょうか。

長谷川:メンバーの一員になることが大事だと思います。主体性ですね。なので、伝え方には注意しています。

作業が遅れています、とだけ伝えるのではなくて、遅れているのでどうしていきましょうか、と自分も一緒に考える視点が必要だと思います。制作は常に未知なものに挑んでいるので、スケジュールを切ったとしてもそのとおりに作れるかはわからない。なので言い方、伝え方は重要ですね。

長谷川妙子

――PMというお仕事の魅力は何でしょうか。

長谷川企画の立ち上げからプロモーションまで、制作進行の全工程が見られるのは大きいかなと思います。昨今は、ゲームの制作期間が長くなっている中で、たくさんのプロジェクトに関わり、多くの情報を獲得できることは、非常に有意義!

俯瞰的に何が必要なのかを把握できますし、ゲーム業界で働くうえでのノウハウやスキルにつながる仕事だと思います。

家庭用ゲーム事業でのプロジェクトマネジメント業務は、バンダイナムコエンターテインメントでは2020年から組織化されました。自分も含めて、PM経験がないメンバーで立ち上げたばかりの部署です。苦労も多いですが、新鮮で、かつスピード感をもって成長しています。

子どもが生まれて人生の主役から第2ステージへ

――長谷川さんはどういったきっかけでバンダイナムコエンターテインメントに入社されたのでしょうか。

長谷川:昔から絵を描いたり本を読んだりするのが好きで、大学では美術史を専攻して、仏像や浮世絵を眺めていたんです。

いざ就職活動をするとなった時に、エンタメ業界とか、とにかくおもしろい仕事がしたかったんですね。私は、自分がおもしろくないことがコンプレックスというか、いわゆる「持っている」タイプの人間ではなかったんですよ。

長谷川妙子

でも、エンタメ業界の仕事は自分がおもしろい人間じゃなくても、作品やキャラクターを通して“おもしろさ”を伝えられるじゃないですか。そこがすごく魅力的だと思ったんです。

入社したころは携帯電話事業が非常に伸びていた時期で、スピード感があるのも良いなと思って、当時のバンダイネットワークスの面接を受けたんです。その時の面接が本当におもしろくて、こういう人たちと一緒に働きたいな、と思って入社を決めました。

――入社後、ご自身にとってターニングポイントとなった出来事を教えてください。

長谷川:ターニングポイントと呼べるものはふたつあると思っています。ひとつ目は、それまで携帯電話のネットワーク系のゲームを作っていたのが、一転して家庭用ゲームの仕事に配属されたことですね。

当時は右も左もわからない状態だったんですけど、一緒にゲームを作っていたメンバーが、何もわからない自分にしぶとく付き合って、助けてくれたんです。本当に鍛えられました。当時一緒に働いてくれたメンバーには感謝しかありません。

今は自分がフォローする側になったので、当時自分がしてもらったように、若い人のフォローをしていきたいなと思っています。

ふたつ目のターニングポイントは、育児休暇を取ったことですね。

――1回目と2回目の育児休暇での違いなどはありましたか?

長谷川:1回目の育児休暇では育児自体にも慣れていなかったし、復帰直後は仕事の環境や業務内容も変わって、育児も仕事も楽しみ切れなかったんです。でも2回目の育児休暇を取った時に、それではもったいないと思ったんですよ。せっかくなら楽しまないと損だな、というふうに気持ちを切り替えました。

長谷川妙子

弊社は会社としても出産や育児をする人をフォローしてくれるので、そこも心強いですね。逆に、働きたいという人は、時短勤務や制約があっても思いっきり働くことができます。そういう両軸があるのはすてきな会社だなと感謝しています。

――長谷川さん自身、お子さんが生まれたことでのお気持ちの変化などはありましたか?

長谷川それまでは自分が人生の主役だったのが、脇役になったわけじゃないですけど、第2ステージに入ったなという感覚が近いです。自分ひとりなら、時間は自分のものですし、思い立ったままに行動ができましたけど、そういうこともできなくなくなりますし。

――自分の優先度が下がるというか。

長谷川:出産前までは質を量でカバーするような仕事の仕方をしていたんですけど、子どもができるとそういう働き方はできないので、効率や優先度をより意識するように切り換えが必要で、結果として自分の業務スキルが向上したと思います。

あとはめちゃくちゃポジティブになりました! なんとかなる!というか、母は強し、ですね。子どもが生まれたことによる変化はたくさんありますね。

子どもは何があっても優先してしまう存在なんですよ。「天使みたいな存在です!」とは言いませんけど(笑)。

PMの仕事は「成功率を上げる」こと

――長谷川さんがお仕事で大事にされているのはどんな点でしょうか。

長谷川:とりあえずやってみる、の精神でまず動くことですね。元々はまず考えるタイプで頭でっかちになりがちだったんですけど、PMの仕事はスピード感が必要なので、今は走りながら考えることを意識しています。

あとは先ほども言いましたが、主体性でしょうか。PMは明確に決まった業務や領域があるわけではないので、議事録を取ったりファシリテーションをしたりする、直接ゲーム制作に関わらない業務やほかのメンバーの業務にも情熱や関心を持って取り組める、というのは必要な条件かと思います。

長谷川妙子

――働くうえでのモチベーションを保つための秘訣などはありますか?

長谷川:自分が入社した時にかっこいいと思える先輩がたくさんいたので、自分もそうなりたいそう思ってもらいたいなという気持ちでしょうか。

若手のころに自分が助けてもらったぶん、今後は若い子を輝かせたい、そういったサポートで会社に恩を返していきたいですね。

――ご自身がかっこいい先輩になるために、何か心掛けていることはありますか?

長谷川:楽しもうとすること、ですかね。と言いつつ、めちゃくちゃ文句もいいますし、感情的になるんですけど、それを結局は楽しもうとすることが大事かなと思っています。あとは、どんどん前に出て自分から動いていく、そういうことは意識してやっています。

――これまでのお仕事で苦労されたこともお伺いできればと思います。

長谷川:PMとしてスケジュールを作るとなった時に、プロデューサーの方に「後から変更するスケジュールを作る必要はあるのか?」と言われたことがあるんですよ。

長谷川妙子

――そのプロデューサーの方をどのように説得されたのですか?

長谷川:プロデューサーが0から1を作り出し、さらにPMがスケジュールを管理することで、1を100にできるかもしれない。プロジェクトの成功確率を上げることにつながると思うんです。

「たしかにPMがスケジュールを作らなくても成果がゼロになることはないけれど、プロジェクトの成功率を貪欲に、1%でも2%でも上げていくのがPMの仕事で、プロデューサーが0から1に作り出したものを、我々はそれを掛け算的に大きくして、成功させることができるんです。」と伝えて、スケジュールを作ることを了承してもらいました。

制作側から見ると「PMは制作のことがわかっていないのに」と思われてしまいがちなんです。なので、コミュニケーションはいつも積極的に取るようにしています。こちらがやりたいことを適時、何度でも伝えていくのが大事かなと。

――最後に長谷川さんがPMのお仕事のなかで、やりがいを感じる瞬間を教えてください。

長谷川:やっぱり、プロジェクトやチームが上手くいっている瞬間はうれしいですね。進行が遅れてどうしても雰囲気や関係性が悪くなることもあるんですけど、ちょっとした雑談をして笑い合えた瞬間はうれしいですし、そこがモチベーションにもつながっているかもしれません。

あとは、自分の近くにいるメンバーが評価されるとうれしいです。モチベーションを持って動いてくれている若手が、プロデューサーや協力先から「PM課の社員がいると動きやすい」みたいに言ってもらえると、自分が評価されるよりもうれしく思いますし、やりがいにつながります。

プロデューサーと一緒にゲーム制作を経験できることはスペシャルだと思います! PM業務にご興味がある方はこちらもご覧ください。
※2023年3月現在

【あなたは未来のエンターテインメントをどのように照らしますか?】
長谷川:「縁の下の力持ち」というとありきたりですが、弊社には優秀なプロデューサーやプロフェッショナルがたくさんいます。
そういったメンバーが実力を発揮し輝ける土壌を作っていくことで、期待を越えるエンターテインメントを生み出し続けていきたいです!

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【編集後記】
スケジュールの管理など制作進行を円滑にするプロジェクトマネージャーというお仕事は、ユーザーからの注目を浴びるポジションではないと思います(自分もあまり意識したことはありませんでした)。しかし大規模の制作では間違いなく欠かせない存在でしょう。

子どもが生まれてから自分が主人公という視点から第2のステージに変わっていった、というお話も印象的です。育児休暇を取りたくても会社の雰囲気が、という話は知人からもちらほら聞くので、育児休暇を取りやすいという環境は非常に素敵だと思いましたし、それが一般的になってほしいところです!

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。