『アイドルマスター』シリーズの新作として、2024年3月5日に正式タイトルが発表された『学園アイドルマスター』。今回は、メインプロデューサーの小美野さんと、シナリオ&キャラクター設定を担当した伏見つかさ先生に、本作の魅力や開発の経緯について伺いました。
『アイドルマスター』シリーズの新作として、先日ついに正式タイトルが公開された『学園アイドルマスター』(以下、『学マス』)。本作は、アイドル養成学校「初星学園」に通う学生たちを育成する、『アイドルマスター』シリーズ初の学園を舞台にしたスマートフォン向けゲームアプリです。
そんな『学マス』のシナリオ&キャラクター設定を担当するのは、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』など(KADOKAWA刊)で知られるライトノベル作家の伏見つかさ先生。
そこで今回は、シリーズ初となる学園を舞台に選んだきっかけや、『学マス』で描きたかったテーマ、さらにはアイドルたちの設定や世界観設定においてこだわったポイントなどを、本作のプロデューサーを務める小美野さんと、伏見つかさ先生に語っていただきました。
小美野 日出文
バンダイナムコエンターテインメント
第3IP事業ディビジョン 765プロダクション プロデュース2課
伏見 つかさ
ライトノベル作家
株式会社ストレートエッジ所属
代表作は『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』。2024年1月には最新作『私の初恋は恥ずかしすぎて誰にも言えない』などをリリース(KADOKAWA刊)。
『アイドルマスター』シリーズは、作り手とプロデューサーさんの二人三脚で成長してきた
――『学マス』について伺う前に、あらためて『アイドルマスター』シリーズとはどのような作品なのかを教えてください。
小美野:前提として、『アイドルマスター』シリーズはシリーズ内でも多種多様な展開をしているIP(※1)なので、今やブランドの数だけ、各ブランドを応援してくださるプロデューサーさん(※2)の数だけ、それぞれが思い描く『アイドルマスター』像があるはずです。
そのため、あくまで僕の個人的な解釈をお話しすると、『アイドルマスター』シリーズはゲームを中心としたメディアミックス展開の中に必ず、プロデューサーとしての自分がいることを、強く感じさせてくれる作品だと思います。
※1 IP:Intellectual Property の略で、キャラクターなどの知的財産のことを指す。
※2 プロデューサーさん:『アイドルマスター』シリーズのファンのこと。
小美野:アイドルたちに本気で向き合い、その成長を感じ、愛着以上の感情が生まれる。そして、彼女ら・彼らの成長の一助を、プロデューサーたる自分が担っていることを実感できる。そうやって、プロデューサーさん一人ひとりが主体性を持って楽しめることが『アイドルマスター』シリーズの魅力なのではないかな、と。
何より、プロデューサーさんなくしては成立しない作品です。だからこそ、ゲームチーム、キャストや音響監督シナリオチーム、デザインや作詞作曲家の先生はもちろん、プロデューサーさんも含めてみんなで作品を作り上げていくことが、『アイドルマスター』シリーズの特長だと思っています。
――伏見先生は『アイドルマスター』シリーズについて、どのような印象をお持ちでしたか?
伏見:『アイドルマスター』シリーズは、初代のアーケードゲームのころから知っていました。当時、ゲームセンターでプレーしている友人が、アイドルを本当に実在する人物かのように語っていたことが印象的でしたね。ものすごいスピードで現実を侵食してくる魔力のようなものを感じて、おもしろいゲームだと思っていました。
小美野:初代『アイドルマスター』には、アイドルから自分の携帯電話にメールが送られてくるサービスもありましたからね。現実とゲームをリンクさせる仕掛けが盛り込まれていて、当時としては画期的だったと思います。
伏見:自分で初めてプレーしたのは『アイドルマスター SP パーフェクトサン』です。天海春香さんをプロデュースしたのですが、一瞬で「この子、かわいいな!」と感じさせられましたね。アイドルを育成し、より良い結果へと導いていく『アイドルマスター』シリーズのおもしろさが、はじめたばかりの自分でもすぐに理解できる素晴らしいゲームだったと思います。
悩み多き学生兼アイドルたちの成長を描く『学マス』
――今回発表された完全新作の『学マス』とは、どのような作品なのでしょうか?
小美野:『学マス』は、『アイドルマスター』シリーズの新作となるスマートフォン向けゲームアプリです。アイドル養成学校「初星学園」を舞台に、アイドル一人ひとりの成長にフォーカスしていきます。
初星学園にはさまざまな問題を抱えながらアイドルを目指す女の子が多数在学。そんな彼女たちがアイドルとしてのスタートラインに立つまでの道のりや、その先へと進む中で、アイドルだけでなく人間としての成長にも繋がっていく物語です。
――『アイドルマスター』シリーズの新ブランドの舞台として、「学園」を選んだ理由を教えてください。
小美野:今回、プロデューサーさんたちに「アイドル一人ひとりに本気で向き合いたい」「彼女たちを育てていきたい」と感じてもらうために必要なのは、彼女たちの成長過程をしっかり描くことだと思ったんです。
そこで、多くの方が共感しやすく、かつ成長を描きやすい、「学園」を舞台にすると決めました。
「成長」と何度も言うと重たく感じてしまうかもしれないですが、例えば学校の部活や仕事の中で誰かを育て、その人が成長して活躍するようになり、相手から感謝されるような出来事は普遍的にあると思います。心から「ああ、よかった」と思えるような。そうした体験や感動を、『学マス』でも体感していただきたいです。
伏見つかさ先生なくして『学マス』は作れなかった!
――今回、伏見先生が『学マス』のシナリオやキャラクターの設定を担当したと伺いました。オファーまでの経緯どのようなものだったんですか?
小美野:実は、僕が『アイドルマスター』シリーズのチームに合流する前から、すでに伏見先生へのオファーが決まっていました。なので、弊社からストレートエッジさまに「かわいい女の子の成長物語を軸に、アイドルとプロデューサーという、恋愛とも違う絆を描くのが得意な方」とオーダーしたそうです。その結果、伏見先生をアサインしていただいた、と聞きました。
これ以上ないくらいにぴったりな方を選んでいただいたなと、今でも感謝していますね。本当に、伏見先生がいてくださらなければ『学マス』を作り上げることはできなかった、と自信を持って言い切れますから。
――伏見先生はオファーを受けたとき、どのように思われましたか?
伏見:『アイドルマスター』シリーズで学園モノを制作すると聞いたときは、「やりがいのある挑戦的な企画だ」と思いました。大ヒット作品を次々に生み出している『アイドルマスター』シリーズの新ブランドですから、「失敗は許されないな」と気が引き締まりましたね。僕の周囲にもプロデューサーさんがたくさんいますので、責任重大だなと。
今もプレッシャーを感じていますし、この記事を読んでくださっているプロデューサーさんも、「本当に伏見で大丈夫なのか?」と心配に思うかもしれません。足を引っ張ることのないように、細いロープの上を慎重に渡るような気持ちで臨んでいます。
――実際に『学マス』の制作チームに合流してみた印象はいかがでしたか?
伏見:小説のようにキャラクターをゼロから作り上げるのとは異なり、『学マス』では性格や容姿、「こんな楽曲を歌わせたい」などのイメージをいただいた状態からのスタートでした。アイドルを生み出すプロとお話ししながら作り上げていくことは、新鮮ですごく楽しいです。
小美野:全然プロなんておこがましいんですけどね……。実際、伏見先生には、弊社が考えた膨大なアイドル案すべてに目を通していただきましたが、そのほとんどがボツ案に……。約50~60案はあったのですが、ロジカルに「これはこうだから書けそう」「これはこうするといいのでは?」と、理由を明確に言語化してフィードバックをくださったので、一人ひとりのアイドルをじっくりと作り込めましたね。
伏見先生の、物事をロジカルに判断する姿勢は、僕らとしても気をつけている部分なので、助かりました。クリエイターの方とお仕事するうえで、「なんとなく好きじゃないから」とか「面白くないから」みたいな感情的な返答では、到底納得してもらえないですからね。感情とロジックのバランスを大事にして僕も仕事をしています。
また言うまでもなく、伏見先生が書いてくださる女の子たちは、抜群にかわいいんですよ。我々のオーダーに対して、「こんな感じですか?」と打ち返してもらったプロットの時点からすでにかわいいので、僕らの中でもよりイメージが深まりましたね。
思わず涙が流れる問題児たちの青春群像劇
――伏見先生は、シナリオやキャラクター設定を作成するうえで、どのようなことを意識されましたか?
伏見:『アイドルマスター』シリーズには、魅力的なアイドルが大勢いますので、彼女ら・彼らに引けを取らない個性をお出ししなければならないプレッシャーの中で、必死に書きました。その結果、『学マス』のアイドルは強い意志や目的を持つアイドルが多くなったと思います。
問題児と呼んでもいいくらい自己主張の強い3人のアイドルを集めてユニットを組む流れがあるのですが、メンバー同士の意見がぶつかって、時にはケンカにも発展して……。そうやって衝突を繰り返しながらも、一人ひとりが成長していく。自然とそんなストーリーになっていきました。
小美野:魅力的な青春群像劇は伏見先生のお家芸ですからね。本作には、ゲーム本編となるプロデューサーとして1対1でアイドルを育てていくシナリオのほかに、「初星コミュ」というシナリオをご用意しました。
初めて『学マス』や『アイドルマスター』シリーズに触れていただく方が、世界観やアイドルたちを知ってもらえるような映像になっています。マンガやアニメの設定のようにセンター3人がユニットを組む初星コミュでは、3人のアイドルのメンバー間のストーリーを中心に描いていただきました。
伏見:かわいく、熱く、コミカルな問題児3人組のお話になったと思います。お楽しみいただければうれしいです。
小美野:初星コミュは、つい笑ってしまうコミカルな展開があったと思ったら、胸が熱くなるような、感動の展開もありと、まさに伏見節とも言うべきエッセンスが満載ですので、ぜひご期待ください!
――『学マス』の制作において、お二人の間で特に印象的だった出来事があれば教えてください。
伏見:当初センター(主人公的な位置付け)として考えていたアイドルと、そのライバル的な立ち位置に据えていたアイドルを入れ換えたことですね。
小美野:そうですね。
伏見:この二人は姉妹なんです。センターとして準備していたのは、元気で明るい王道アイドル。対してライバルは、物語の最後に立ちはだかる敵に相応しい、とてもかっこいいアイドルでした。
そんな二人のアイドルを見た小美野さんから、「この二人の立ち位置を入れ換えましょう」と提案をいただいたんです。打ち合わせをした結果、とても面白くなりそうでしたので、キャラクターの設定を調整し、ライバルをセンターに、元のセンターをライバルにすることが決まりました。
小美野:正直に言うと、どちらも魅力的でそのままでも十分に成立はしたと思うんですよね。ただ、『学マス』は学園で一番のアイドル「プリマステラ(イタリア語で、一番星の意)」を目指して突き進んでいく物語なので、全員が友達であり、味方であり、ライバルでもあるんです。
それを踏まえると、一番星を目指す強い勝負心を持っているライバルキャラこそが、『学マス』のセンターにはふさわしいと思いました。とにかく勝負事に対しては誰よりも負けん気の強い、プロデュースしがいのある女の子ですし、まさに『学マス』という作品を象徴するアイドルだと思います。
伏見:立ち位置を入れ替えたことで、二人のアイドルの個性がより際立ち、さらに魅力的になったと思います。
『学マス』のアイドルたちを任せる「プロデューサー像」とは?
――お互いに、良い制作環境だったというお話もありましたが、議論が白熱したポイントはありましたか?
伏見:話し合いが難航した記憶はほとんどないのですが、強いて挙げるとすれば、プロデューサーの設定ですね。開発初期に、プロデューサーの立場などをどうするのかについて、かなり時間をかけて話し合いました。
小美野:「そもそもプロデューサーって何?」という根本的な部分まで突き詰めて考えましたね。当初、伏見先生からは「プロデューサー=先生」というアイデアをいただいたのですが、それだとどうしてもアイドルとの物理的な距離感が生じてしまいます。
アイドルとの距離を考えた時、物理的な距離と精神的な距離があると思ったんですね。そのうち精神的な距離感は、これまでの『アイドルマスター』シリーズと変えすぎてしまうと、プロデューサーとアイドルという根幹の関係性が壊れてしまうと感じました。なので精神面では大人でも、物理的には距離が近くなる、初星学園専門大学のプロデューサー科に通う大学生に落ち着きました。
伏見:プロデューサーを頼れる大人にするべき理由と、アイドルとの距離感を近くしたいというアイデアを両立させるため、慎重にバランスを取っていくことになりました。
小美野:学生プロデューサーでありつつも信頼できる大人として、結果的にプロデューサーの皆さんは狭き門を突破したエリートな設定になりましたね(笑)。
成長過程のアイドルたちに、思う存分翻弄されてほしい
――最後に小美野さんから、『学マス』での個人的なお気に入りや、全体を通しての意気込みを教えてください。
小美野:今日は伏見先生との対談でしたので設定やシナリオの話に終始しましたが、『学マス』では歌もダンスも駆け出しのところからスタートし、自らの手でプロデュースすることで彼女たちの成長過程が見られるのも特徴です。実際に、成長前の歌声を個別に収録したり、ダンスモーションも何度も作り直しています。
アイドル育成ゲームである以上、パラメーターを上げてもRPGの様にダメージが高まるわけではないので、プレーしていて脳内で補完しなければならない部分があると思います。『学マス』では成長を軸として、それを視聴覚的にわかりやすく表現しようと思い、歌やダンスも上手くなるアイドル育成シミュレーションとして作っています。
我ながらむちゃくちゃなお願いをしたなという自覚はありますが、図らずもそれは初代の『アイドルマスター』と同じような思想だと、『アイドルマスター』シリーズレジェンドの方々には言われたのを思い出しました。『アイドルマスター』シリーズに初めて触れる方も含めて多くの方に楽しんでいただけると思います。
歴史ある『アイドルマスター』シリーズの末席に、この度『学園アイドルマスター』という作品を加えさせていただきました。本作に少しでも興味を持っていただいた方は、ぜひアイドルたちのプロデュースをよろしくお願いいたします。プロデューサーの皆さんがこの作品に触れていただくことこそが、『学マス』完成の最後のピースだと思っております。ぜひ『学マス』にご期待いただければ幸いです。
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【取材後記】
お二人とも大切にしているところが似ていることもあってか、お互いをベストパートナーだと認め合う姿が印象的だった小美野さんと伏見先生。従来の『アイドルマスター』シリーズの魅力を受け継ぎつつも、これまでにない新たなプロデュース体験を届けようと情熱を燃やすお二人に当てられ、取材中は汗が止まりませんでした。
そんな興奮が冷めやらぬどころか、発表会を経て日に日に期待感が増す『学マス』。果たして初星学園ではどんな問題児……もとい、アイドルたちとの出会いが待ち受けているのでしょうか。リリースが待ち遠しいところです!
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THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
『学園アイドルマスター』プロデューサー。2019年~2021年は、『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』の担当代理も務めた。