2022年2月に発売されて以降、世界中のファンを魅了してきた『ELDEN RING』。そのダウンロードコンテンツである『SHADOW OF THE ERDTREE』が2024年6月にリリースされました。本編とはまた違った雰囲気や魅力に富む本作の展開、海外へのプロモーションについて、海外版プロデュースとマーケティングを担当する井上さんにお話を伺いました。
『ELDEN RING』本編の発売から2年余り、ついに世界待望のダウンロードコンテンツ『SHADOW OF THE ERDTREE』がリリースされました。今回は『ELDEN RING』の海外版プロデュースとマーケティングを担当されている井上さんにインタビューを行い、本作が持つ魅力や世界における反響などを伺いました。また、記事内では、アメリカやヨーロッパ地域を担当する現地の担当者からもコメントをいただき、それぞれの地域におけるプロモーションの特色やその反響を聞いています。
井上 卯月
バンダイナムコエンターテインメント
CE事業部 第1マーケティング部 チーフ
歯応えのある作品が期待されるからこそ、「高いハードル」が期待感につながる
――はじめに、井上さんの『ELDEN RING』への関わり方を教えてください。
井上:『ELDEN RING』本編や先日配信されたダウンロードコンテンツにおいて、海外版プロデュースとマーケティングを担当させていただいています。体制としては、開発と国内でのパブリッシングをフロム・ソフトウェアさま、海外パブリッシングとフロム・ソフトウェアさまの制作サポートをバンダイナムコエンターテインメントが担当しております。
制作サポートというのは、プレーヤーが理解しやすいシステム・機能についての提案やバランス調整、各国・地域のプレーヤーからの意見の吸い上げなど、開発へのフィードバックを行うことです。とはいえ、完全に分業しているというわけではなく、全体戦略やアセット(宣伝素材)作成なども互いに協議しつつ、各地域のパートナーにその方針を伝え、それぞれで最適化したマーケティングやプロモーションを実行しています。
――ダウンロードコンテンツ開発についての話が出たとき、どのように感じましたか。
井上:素直にうれしかったです。『ELDEN RING』はそれ自体で物語として完結はしつつも、さまざまな想像や妄想の余地があったため、そこに新たなストーリーやキャラクターとの出会い、新種の武器や防具が追加されるというのは、いちファンとして純粋に興奮しました。
――ダウンロードコンテンツのステージに進むためには、「本編で特定のボス2体を倒す必要がある」という情報も出ていたかと思います。ハードルの高さに驚く声もあったと思いますが、そのあたりの反響についてはいかがでしたか?
井上:たしかにハードルが高いというお声はいただきました。ただ、個人的には、フロム・ソフトウェアさまとのこれまでのシリーズもそうだったなかで、今回も歯応えのあるコンテンツであることが期待されているのではないかなと思います。そうなると、そこにたどり着くのすら一筋縄でいかないというのは、本作らしい在り方だな、と。
また、ストーリーとしてもそれらのボスを倒す必要性も感じてもらえますし、ハードルの高さゆえに本作に対する期待感が結果的に高まったという側面もあったように思います。ファンの皆さまが「いまからもう一度あのボスに挑まなきゃ」と予想外の盛り上げを作ってくださったのはとても嬉しかったです。
アメリカのプレビューイベントでは、「鍛冶屋」の体験コーナーが出展!?
――ダウンロードコンテンツが発表されてからの反響はいかがでしたか?
井上:発表からリリースまでの各種トレーラーやイベントなど、予想以上の反響をいただけて本当によかったです。
そもそもマーケティングが始まる前から、「ダウンロードコンテンツではこの人物にまつわる話が展開するのではないか」「スタート地点はここじゃないか」など、さまざまな考察が盛り上がっていたんです。そういったファンの方々の熱量があったからこそ、大きな盛り上がりが生まれていったと思っています。
――リリース前にはプレビューイベントなども実施されていましたが、こちらはいかがでしたか?
井上:アメリカのイベントでは開発終盤のビルドをゲームメディアの方々にプレーしていただいたのですが、非常に盛り上がっていました。コロナ禍以降、久しぶりのリアルイベントというのもあって、ゲームの世界を再現した会場の雰囲気もよかったです。本物の鍛冶屋さんが会場に来て鍛冶体験ができるコーナーもあったんですよ。
――鍛冶体験!? それはすごいですね。
井上:ゲームの世界を追体験できるようなイベントにしようと、本物の剣を作るときと同じ鉄を叩くこともできたんです。私個人としてもすごく楽しかったですね。ご来場いただいたメディアの方々も、皆さま楽しんでいらっしゃいました。
この鍛冶屋さんを呼ぶ企画は現地のマーケティング担当の方から出てきたアイデアなんです。「自分たちの地域ではこういったものがあるとアガるんだ」と説得されて今回実施したのですが、それが功を奏しました。日本ではなかなか出てこない発想だったので、こうした部分でバンダイナムコエンターテインメントの強みがあるんだなと感じました。
――プレビューイベントで実際にダウンロードコンテンツをプレーされた方々の反応はいかがでしたか?
井上:これまでフロム・ソフトウェアさまと制作したなかでも史上最大規模のダウンロードコンテンツとあって、その規模感に対する驚きの声は多かったです。
また、最初は黙々とプレーされていたのですが、途中から空気が緩んでくると、隣の方と冒険のTipsを共有しあったり、難しいボスに何度も挑んでいる方に声援を送ったりと、会場全体が『ELDEN RING』という大きな作品に挑戦している雰囲気があり、この作品ならではだと感じました。
あとは、ゲーム自体の遊び方に個人差があったのが印象的でした。武器の性能を延々と確かめる人もいれば、メインどころを探索する人もいて、かと思えば小さな洞窟を探検する人もいて、プレーヤーごとに楽しみ方が変わるのは『ELDEN RING』らしいなと思いました。
▼アメリカの担当者からもコメントをいただきました!
KAREN AYALA
Director, Brand Management / Bandai Namco Entertainment America
『SHADOW OF THE ERDTREE』のプレビューイベントの企画を始めたとき、参加者の皆さまにゲームを初めてプレーしていただくだけでなく、IP(※1)の世界にどっぷりと浸かっていただけるような、忘れられないユニークな体験を提供したいと考えました。完璧なロケーション、フォトブース、装飾、照明、エンターテインメントに至るまで、すべての要素が一体となるのを見ることができたのは、本当にすごい経験でした。ゲストの皆さまは、ゲーム内の美しさだけでなく、物理的な環境や細部に至るまで、思い出に残る演出に夢中になっていただけていたと思います。私たちは常に担当する作品を輝かせたいと考えているので、このようなイベントを開催する際には、参加者に一生に一度の体験に参加できたと感じていただきたいと思っています。
※1 IP:Intellectual Property=キャラクターなどの知的財産
“Fall From Grace”をキーワードにプロモーションを展開
――プロモーションを行っていくうえで、内部的に持っていたキーワードのようなものはありましたか?
井上:英語圏ではプロモーションのなかにも登場しているのですが、“Fall From Grace”というのがキーワードになっていました。Graceは本編でいう「祝福」、物語的にも重要な位置を占める、ゲーム的にはチェックポイントとなるものです。そこから失墜するという意味で、本編とはガラリと趣の異なる新たな挑戦に興味を持っていただきたい、というのを社内で統一して表現していたのが“Fall From Grace”というフレーズでした。
そのうえで、ファンの方々が発売日を楽しみに待つことができるようなプロモーションをすること、を意識していました。そんなコアなファンの方々の盛り上がりによって、まだ『ELDEN RING』に触ったことのないお客さまにも熱量が届くだろうと考えたんです。
――言語や文化の違う方にも届ける、というグローバルな展開ならではの難しさはあるのでしょうか。
井上:もちろん難しい部分もありますが、グループ内のコミュニケーションでカバーしています。バンダイナムコエンターテインメントは、アメリカやヨーロッパ、アジアなどのさまざまなマーケティング拠点を有しているので、各地域に関する情報を得る機会が社内にあることと、その頻度が高いんです。
例えば、欧州のコミュニティでは今こんなことがホットで、そこに対して何か仕掛けを作れるかもしれないね、といった話も普段の会話のなかでスッと出てくるんです。言葉遣いについても、「この表現は海外ではこう思われる」「こういう言葉遣いにしたほうがいい」といった話を細かくしています。その時々で最適なプロモーションを展開していけたと感じています。
▼ヨーロッパの担当者からもコメントをいただきました!
NAZIM DOUALANE
EMEA SENIOR PRODUCT MANAGER / Bandai Namco Europe
プレミアムな体験として、『ELDEN RING』は常にその世界を多くのプレーヤーに開放するという目的を持っていました。これを達成するために、私たちはRed Bullとパートナーシップを結び、素晴らしいイベントを創り上げることにしました。Red Bullは、その専門分野(ドリンク、サッカー、F1、eスポーツ)において、常にプレミアムな質的体験を提供することで知られており、私たちは『ELDEN RING』と目的を共有しています。世界観を反映し、ゲームの中にいるような感覚を与える専用のAR環境を用意し、「影の地」の体験を再現しました。
また、世界各地(フランス、イギリス、スペイン、スウェーデン、アメリカ、イタリア、ドイツ、オランダ、モロッコなど)から有名なコンテンツクリエイターを集め、ネタバレのない形でファンの皆さまと一緒にこのイベントをお祝いすべく『SHADOW OF THE ERDTREE』に世界に向けてプレーいただきました。世界的に好評をいただき、ショー全体の再生回数は200万回、ライブでは12万人が視聴しました。このイベントは、『ELDEN RING』にとって大きな出来事であり、私たちの業界ではユニークな体験でした。
――X(旧Twitter)の『ELDEN RING』公式アカウントでは、リリース前から一部の登場キャラクターの画像が投稿されていました。そうした情報を出していく際に軸となったのはどのようなポイントなのでしょうか。
井上:すべての展開を、しっかりと盛り上がれるようなタイミングと順番で出すことと、情報の伝え方には気をつけています。
とはいえ、できない場合も多々あって反省は尽きないのですが、できうる限り、ファンの方々がそれを期待しているタイミングで施策・アセットを展開するように努めています。細かい表現にも気を配りながら、ワクワク感を最大化できるようにしたいと考えています。
――世界中で非常に多くのファンがいる作品で、ファンの方々と向き合ううえで大切にしているのはどのようなことでしょうか。
井上:ファンの皆さまがゲームの発売日を楽しみにできるように、というのが一番大事だと考えています。プロモーションのなかでのアセットや情報出し単体として盛り上がっていただけるインパクトのあるものにしつつ、そこで公開されたキャラクターや要素が実際のゲームではどう登場するのか、と楽しみにしていただけるような出し方にすることは意識しています。
▼アメリカの担当者からもコメントをいただきました!
KAREN AYALA
Director, Brand Management / Bandai Namco Entertainment America
ライブアクショントレーラーを制作することは、エキサイティングで楽しい作業ですが、課題はつきものですしさまざまな配慮が必要です。主な注意点は、観客に伝えたいメッセージを考えることです。ライブアクショントレーラーでは通常、実在の人物や設定を使用するため、人々に反応してほしいアクションや要点は何かを特定することが重要です。また、IPとの関連も課題のひとつです。『SHADOW OF THE ERDTREE』の場合は、ファンを祝福し、好きなゲームがもう一度戻ってくることに興奮してもらうというアイデアに焦点を当てました。視聴者が彼らとつながることができるように、日常的なファンのように見える俳優をキャスティングし、本編にまつわるファンのお気に入りの瞬間をいくつか入れることにしました。
――最後に、『SHADOW OF THE ERDTREE』を実際にプレーいただいているファンの方々や、これからやってみようと思っている方にメッセージをお願いします。
井上:すでにプレーしていただいている方には、まず多大な感謝を申し上げます。私もいちファンとして発売を待ち望んでいましたし、プレーして改めてものすごいタイトルだ、と思ったので、皆さまにも同じく楽しんでいただいていたらとても嬉しいです。
『SHADOW OF THE ERDTREE』では、本編とはまた違った雰囲気のフィールドが広がり、探索しがいのあるダンジョンや新しいボスが用意されています。新しく追加された武器や装備で試行錯誤しながら、RPGを楽しんでいただけたら幸いです。
そして、『ELDEN RING』自体が未プレーの方は、ダウンロードコンテンツと本編がセットになったエディションがありますので、そちらを手に取っていただけたらと思います。ときには難しいポイントで足踏みしてしまうかもしれませんが、それに対していろいろなアプローチが取れることが魅力ですので、ご自分のペースで楽しんでいただければうれしいです。
世界中のファンを魅了してきた『ELDEN RING』のダウンロードコンテンツ
『SHADOW OF THE ERDTREE』を体感してみる!
『ELDEN RING』海外版プロデューサー兼マーケターが語る、作品を世界に届けるために必要なこと【SPOTLIGHT】
【取材後記】
『Demon’s Souls』に触れて以降、とりこになっている身として、今回のダウンロードコンテンツが発表されてからは発売が待ち遠しかったです。今回お話を伺うなかで、アメリカのイベントで行われたという鍛冶体験のコーナーが日本にもやってこないかとワクワクしてしまいました!
村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのインタビューや攻略記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。
『ELDEN RING』の海外版プロデュース&マーケティング担当。『ELDEN RING』には本編の発売前からその海外展開に携わる。自身で『ELDEN RING』をプレーするときのビルドは正統騎士型のパワータイプとのこと。