eスポーツ文化普及に必要な2つの条件:前編【バンダイナムコ・原田P】

対戦格闘ゲーム『鉄拳』シリーズのチーフプロデューサーとして知られる、バンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘さん。現在、eスポーツプロジェクトにも注力する原田さんに「eスポーツ文化普及に必要な条件」(前編)を語っていただきました!

第1の条件:“憧れの存在”として、eスポーツのプロライセンス選手を増やすこと

「eスポーツを、誰もが楽しめる総合エンターテインメントにしたい」。バンダイナムコエンターテインメントはeスポーツ文化の普及を目指して、さまざまな取り組みを行っています。そんな中、原田プロデューサーはまずは、「①プロライセンス選手を増やす」こと。そして、「②eスポーツを観戦・応援する人を増やす」ことが必要であると言います。今回の前編では、プロライセンス選手を増やす理由について、聞いてみました。

eスポーツに対して、ポジティブなイメージを持ってもらいたい

bne_esports_harada1_02.jpg

――eスポーツが盛り上がってきていますね。原田さんは最近のeスポーツの盛り上がりをどんなふうに感じていますか?

eスポーツが注目され始めたといっても、世間からポジティブに捉えられているかというと、まだまだですね。
今の日本のeスポーツやプロゲーマーたちに対する視線は、僕が子どもの頃のゲーム自体イメージがあまり良くない「ゲームはバカになる!」と言われていた時代と非常に重なります。

僕自身、親からゲームを禁止されていましたし。抑圧されていた分、ゲームに対する想いが強くなりすぎたのか、「タダでゲームがしたい」という動機でゲーム会社に就職しました(笑)。当時はゲーム業界を目指す人なんて珍しかったですから、周りの人には「普通に働いて、稼いだお金でゲームを買えばいいじゃない」なんて否定的なことを言われましたね。
でも、僕は常々「“普通”ってなんだよ? こんなに素晴らしいものを作って人の心を豊かにできるゲーム業界なんだから、“普通”に立派じゃないか!」って思っていました。

こんな感じで、ゲームで遊ぶこと、ゲーム業界で働くことに対して否定的で奇異な目で見られがちな時代だったんですが、今のプロゲーマーたちに対する世間の目も、似たような状況ですよね。
でもそんな状況も少しずつ変わってきています。海外での盛り上がりを受け、日本でも徐々にeスポーツが注目を集めるようになってきました。ゲーム業界やプロゲーマーたちに追い風が吹いているなと感じています。

――原田さんは以前から『鉄拳』を中心にゲーム大会を主催するなど、eスポーツに通じる取り組みをしてこられましたが、これからeスポーツをどんなふうに盛り上げていきますか?

やっぱり、eスポーツ文化を根付かせるには、もっとポジティブな注目を集める必要があります。そのためにはまず、「憧れの存在」であるプロライセンス選手を増やすことが最優先です。
観戦したい、応援したいと思える選手が増えていくことで、プレイするだけではないさまざまな楽しみ方が生まれる。そういった意味で、eスポーツを「総合」 エンターテインメントとして社会に根付かせたいと考えているんです。

観客から共感を得てこそ憧れの存在。プロライセンス選手に求めること

――2月の『闘会議2018』内の大会で、『鉄拳7』のプロライセンスを4人の方に発行したのも、「憧れの存在」を増やすという目的があったんですね。
※2018年5月現在、同タイトルのプロライセンス保持者は9名。

そうです。eスポーツのプロゲーマーには「応援したい、自分もあんな風になりたい」と思われる選手を目指してほしいんです。
実際、鉄拳シリーズのプロライセンス選手たちは、戦略を練る、対戦相手を研究する、筋トレをするなど、日々努力しています。試合に勝つために鍛錬する姿は、プロの野球選手やサッカー選手となんら変わりません。
僕もeスポーツプロジェクトメンバーも、努力している彼らをリスペクトしているし、もっと世間の人たちに知ってほしい存在だと思っています。プロの野球選手やサッカー選手へ憧れるのと同じ気持ちを、ファンが抱けるような存在に育てていきたいですね。

――「憧れの存在」になれるのは、どんな選手ですか?

eスポーツは、観戦する人も楽しめる総合エンターテインメントを目指していますから、単純にゲームが上手いというだけではプロライセンス選手とは言えません。
とは言っても、エンターテイナー的なパフォーマンスを求めているのではありません。僕が言いたいのは、勝った喜びや負けた悔しさを、観客から共感されるプロになってほしい、ということ。そんな共感が「僕もプロになりたい」という未来のプロを育てますから。

bne_esports_harada1_03.jpg

――共感を得るために大切なことは何でしょうか?

それは、ゲームをプレイしているときの振る舞いです。マナーや、相手プレイヤーを尊重する態度。あるいはフェアプレイ。このような立ち居振る舞いを観客はよく見ていますし、プロとアマチュアとでは求められるレベルの高さが全く異なると、僕は考えています。

――ゲームを通じて収入を得る「プロ」として、身体を使う従来のプロスポーツで求められるようなスポーツマンシップが、eスポーツのプロライセンス選手にも必要なんですね。

ゲーム業界で「プロ」の職種が増えることは、社会にプラスの価値を生む

bne_esports_harada1_04.jpg

かつて、ゲーム業界の「プロ」といえば、開発や販売の人がほとんどでした。
しかし今、世界では大会に参加してスポーツ選手のように高額の賞金を得たり、ゲームプレイを実況して活躍する人も現れ始めています。eスポーツが新しい価値を生み出し、新しい利益を生んでいる。好きなこと・得意なことを活かして活躍できる人が増えるのは、世の中にとって幸せなことだと思います。

――大会やゲーム実況など、ゲームの様々な楽しみ方が日本でも広まっていますね。

ホントに良い変化だと思います。すぐには実現しないかもしれませんが、「eスポーツが趣味だ」「eスポーツで食べていきたいんだ」と、胸を張って言える世の中にしていきたい。それもバンダイナムコエンターテインメントの役割だと思っています。

――eスポーツとひと言でいっても、競技、つまりゲームジャンルはさまざまですよね。

対戦格闘ゲーム以外でも、シューティングゲームやパズルゲームといったジャンルがありますから、eスポーツの裾野はさらに広がっていきそうです。

バンダイナムコエンターテインメントの格闘ゲーム『鉄拳』シリーズ以外のタイトルについても、プロライセンスの発行を計画しています。ぜひご期待ください!

bne_esports_harada1_05.jpg

【取材後記(前編を終えて)】
eスポーツ普及にかける原田さんの熱意が、言葉の端々から感じられたインタビューでした。
「憧れの存在」になるプロeスポーツ選手がこれからどんどん登場すれば、eスポーツのプレイヤーや観戦する人もきっと増えるでしょうね!

インタビュー後編は、原田さんが普及のための2つ目の条件として挙げた「eスポーツを観戦・応援する人を増やす」がテーマ。観客を盛り上げるという思想は、eスポーツ競技タイトル『鉄拳7』にも大きな影響を与えているそうです。次回をお楽しみに!

eスポーツ文化普及に必要な2つの条件:後編≫≫≫

取材・文/高田陸(shiftkey)
1991年生まれ。週末になるとマンガが増えます。ゲームもHDD内でこっそり増えます。

写真/岡田一也