データ分析でゲームをもっと楽しく!BXDのデータアナリスト&データサイエンティストという仕事

「Breakthrough X Digital life」をキーワードに、2017年に誕生した新会社『BXD』。デジタルとリアルを繋げるこの会社には、ゲームのデータを分析するプロ集団が在籍しています。今回は、知られざるゲームのデータアナリストとデータサイエンティストの仕事についてお話を聞きました!

「面白いゲームをつくりたい!」を支える精鋭集団。データ分析者の仕事とは?

左から、BXDデータ戦略室の山田悟史さん、松浦遼さん、西田幸平さん
左から、BXDデータ戦略室の山田悟史さん、松浦遼さん、西田幸平さん

――まずはBXDでデータ分析をされているみなさんのお仕事について教えてください。

松浦:大きく分けて2つあります。ひとつは、お客様に遊んでいただいているゲームの改善点を見出したり、良さを伸ばしたりするための、ゲームの中身の分析です。ゲームのログを見ると、お客様がどのようにゲームを楽しんでいるのかが分かります。もちろん、SNSなどで感想をいただくのもとても嬉しいのですが、一方でゲームのログはお客様の生の体験がそのまま出るので、細かなニーズに気づくことができる場合があるんです。

――データを見ることで、ユーザーの意見を丁寧にすくいあげられるということですね。

松浦:そうですね。そしてもうひとつは、我々のグループ内にある様々なIP/エンターテインメントを組み合わせてより面白いアソビを生み出すためのデータ活用を考える仕事です。例えばバンダイナムコエンターテインメントにはブラウザゲームに限らず、スマートフォンアプリや家庭用ゲーム、ライブ事業などがありますが、そうしたさまざまな事業から、どういったデータを引き出せるかについても考えています。

松浦遼さん。BXDデータ戦略室 室長
松浦遼さん。BXDデータ戦略室 室長

――みなさんはそれぞれ、その中でどんな役割を担当しているのでしょうか?

山田:私の場合は、データアナリストチームのマネージャーとして、ゲームの分析をしています。ガシャやキャラクターの強化についてデータを分析して、そこから得た知見をプロデューサーなどの開発関係者と共有しながら、次の施策を考えていくのが仕事ですね。

ゲームを開発する際、「きっとユーザーさんはこう思うだろう」と仮説を立てますが、その通りに楽しんでいただけているのかを分析すると、意外な結果になることもあります。その結果を踏まえて、「それならこうした方がいいかもしれない」と提案するのが主な仕事です。

西田:私のチームでは、データ活用の旗振り役がグループ全体のデータ運用のサポートをしています。私たちのチームでは、「3年かけてこれをやりましょう」というように、比較的長期的なプロジェクトが多いのが特徴です。また、ゲーム運用の最前線で分析を進めるデータアナリストチームがキャッチアップするのが難しい最新の技術をデータサイエンティストが研究開発しながらサポートするのも私たちの仕事です。最近ですと、AIのような技術もそのひとつになっています。

西田幸平さん。BXDデータ戦略室 副室長 データサイエンス&ストラテジーセクションマネージャー
西田幸平さん。BXDデータ戦略室 副室長 データサイエンス&ストラテジーセクションマネージャー

――なるほど。山田さんのように特定のタイトルを細かく分析するチームと、西田さんのようにさまざまなタイトルを横断してデータ運用の可能性を俯瞰的に見るチームがある、と。

松浦:そして私は、その2つのチームをまとめる役割を担当しています。データについて困っている部分を探す社内営業的な仕事もしますし、どのように活用するか戦略を立てていくのも仕事です。また、データ分析は専門職ですので、そのチームをどのように増やして、組織化していくのか、というマネージメント全般にもかかわっています。

――データアナリストのお仕事には、どんな能力が必要だと思いますか?

山田:一般的には、「ビジネス力」「サイエンス力」「エンジニアリング力」の3つの要素が必要だと言われています。とはいえ、ゲーム会社のデータアナリストとしては、「ゲームのことを理解している」ことも大切です。ただ数字を見るのではなく、「自分だったらこうかな」とユーザー視点に立つことで、データが読めるようになる部分もありますので、分析結果にユーザーの方々の気持ちも掛け算することで、いいサービスを生み出すことができると思っています。なので、「ゲームが好きだ」という気持ちは、私たちの仕事にとって大切な要素です。

データアナリストの仕事の風景

西田:実際のところ、私たち自身もいちユーザーとしてかなりのゲーマーなんですよ(笑)。

山田:だからこそ、そのゲームを面白いゲームにしたいという気持ちがありますよね。

松浦:私たちはデータにまつわる仕事をしていますが、「面白いゲームをつくりたい」という思いはゲームの開発チームと同じです。最終的にユーザーの方々に楽しんでもらえるゲームづくりをサポートするためにも、ただデータを分析するだけではなくて、「ユーザーのみなさんにどんな面白さを提供できるのか」に繋げていく意識が大切だと思っています。

ユーザーの隠れたニーズを見つけ出す。デジタルの知見をアソビに繋ぐためのデータ分析

山田悟史さん。BXDデータ戦略室 副室長 データアナリティクスセクションマネージャー
山田悟史さん。BXDデータ戦略室 副室長 データアナリティクスセクションマネージャー

――では、具体的にゲームのデータ分析のお仕事の過程を教えてください。たとえば、スマートフォンアプリですと、どんな形で分析を進めていくのですか?

山田:まずひとつは、ユーザーさんにゲームを長く遊んでいただくための「継続」にまつわる分析をしています。また、お金を使ってくださった方がより楽しく遊べているかといった分析もしています。そういったことを、新規のユーザーの方や、長く遊んでいただいている方など、いくつかのタイプに分けて分析します。

たとえば、「継続」に関してですと、手に入れたキャラクターの育成状況や、インゲームのイベントへの参加状況等を分析しています。中には新しいキャラクターを手に入れたときに、それをレベルマックスまで育ててカンスト(カウンターストップ=レベル上限まで育てること)させていないと、次のキャラクターが出てきても、「育成しない」という方もいるんです。つまり、そのゲームがどう遊ばれているかによって、新しい施策を考える際にも、参考にするべきことが変わります。

もしも多くの方々があるキャラクターが好きで遊んでいるのであれば、そのキャラクターが定期的にイベントに出てこなければ、「好きなキャラクターが全然出てこないゲーム」になってしまいますので……。ときには「今のゲームバランスでいいの?」ということを、分析結果をもとに提案したりもしています。

インタビューに答える山田悟史さん、松浦遼さん、西田幸平さん

――なるほど。そのキャラクターに魅力を感じているのか、それともゲームのシステム自体に魅力を感じて色んなキャラクターを育成したいのかは、人によって様々なのですね。

山田:そもそも、すべてのゲームに共通する「こうした方がいい」という分析結果は存在しないんですよ。ゲームやエンターテインメントへのかかわり方は人それぞれですから、ひとつひとつのタイトルについて、ユーザーさんのゲーム内での動きや声や反応、自分自身のプレイヤーとしての感覚などを踏まえて、改善するべきところはディスカッションをします。

――具体例として、何かお話いただけるものはありますか?

山田:たとえば、2018年の4月から提供を開始した『アイドルマスター シャイニーカラーズ』には、(ゲーム内の)ファン数をかなり多く集めた状態で大会に優勝することで「トゥルーエンド」と呼ばれるイベントに到達するシステムがあるのですが、分析してみると、リリース後すぐに遊びはじめたユーザーの方でも、到達できていない方が多くいることが分かりました。

『アイドルマスターシャイニーカラーズ』。2018年4月にenzaのローンチタイトルと
して配信された、ブラウザ向け育成シミュレーションゲーム
『アイドルマスターシャイニーカラーズ』。2018年4月にenzaのローンチタイトルと
して配信された、ブラウザ向け育成シミュレーションゲーム

このトゥルーエンドはアイドルの隠されたコミュ(ストーリー)が読めたり、報酬もあるイベントなので、制作チームには「できるだけ多くのユーザーさんに達成していただきたい」という想いがあり、「なぜクリアできないのか」を分析していったところ、みなさんクリアに必要なレベル自体は満たしていたことがわかりました。

インタビューに答える山田悟史さん、松浦遼さん、西田幸平さん

――なるほど。レベルの問題ではなかったのですね。

山田:はい。問題は攻略法で、自由度が高いゲームシステムのためにクリアが難しく、多くの方が途中で諦めてしまう状況だということが分かりました。とはいえ、単純に難易度を下げると、今度は達成感が失われてしまいますから、難易度はそのまま、自分の力でクリアしていただくために、ゲーム内に「トゥルーエンド研修」を導入するというアイディアが生まれました。

「トゥルーエンド研修」の紹介画像

これは「コミュを読んだり、達成感を感じていただくことで、作品自体をもっと好きになってもらおう」という気持ちで行なった、分析視点から生まれた施策です。もちろん、これでもクリアできない方が多くいた場合は、改めて分析を進めて改善していくことも必要です。

――横断的にデータを分析するチームでは、具体的にどういったことをされていますか?

西田:最近では、ゲームの開発段階から、データを活用してよりいいものをつくることにも挑戦しています。あるIPのゲームタイトルをつくるにしても、どんなジャンルのゲームにするのか、もしくはこれまでにないスタイルのゲームを出すのかということについて、データをもとに考えていくことで、さまざまな可能性が考えられるようになると思っています。

松浦:バンダイナムコのゲームはIPを活用したものが多いですが、どの国ではどんなキャラクターが人気かということも、データを分析すると分かってきます。それぞれのお国柄や、ユーザーの好みは違いますから、どの国に向けて、どんなキャラクターの、どんなゲームを出すかを考えることで、世界中の方にゲームを楽しんでいただける状況を生み出せると考えています。

西田:また、たとえば仮に3日後の売り上げがほぼ誤差10%以内で当たります、という分析方法ができたとしても、その結果だけではゲームをお客様にもっと楽しんで頂くためにどうするべきかはわかりません。むしろ、その結果を用いてどんなふうにお客様の体験を広げるべきかを考えることが大切です。このように、実際にお客様に価値を届けるために必要な分析はどういったものかを、ゲーム開発の現場と一緒に定義していくのも私たちの仕事です。

分析チームの仕事の風景

すべてのユーザーに「楽しい」を届けるために。進化するゲーム×データ分析のこれから

インタビューに答える山田悟史さん、松浦遼さん、西田幸平さん

――デジタルテクノロジーの進化に合わせて、BXDでも何か新たな分析にチャレンジをしていますか? また、データを活用することで、今後どのようなエンターテインメント体験ができると考えていますか?

松浦:ゲーム分析業界で一般的な分析手法とは違う手法も活用していくなど、分析手法そのものを生み出していくことで、ユーザーのみなさんのゲーム体験の向上に繋げていきたいと思っています。

西田:実際に、我々のチームでは機械学習や統計解析の研究のほか、最近では、「因果関係を推定する研究」もはじめています。物事の因果関係というのはなかなか分析するのが難しく、たとえば「チョコレートをたくさん食べるとノーベル賞の受賞者が増える」というような話を聞いたことがあるのではないでしょうか。1人あたりのチョコレートの年間消費量が多い国ほどノーベル賞の受賞者も多いのは事実ですが、チョコレートを食べることによって、ノーベル賞が受賞出来るようになるということは言い切れないという話です。このような単なる相関関係と本当の因果関係を見分ける分析について、実用レベルで運用できつつあるので、そういった分析手法による結果も実際の現場により生かせたら、と思います。

山田:さまざまな分析手法を使いながら「本当にある因果関係って何だろう」と考えて、データ分析の精度を上げていくことで、よりユーザーのみなさんを理解することにも役立てたいと思っているんです。

松浦:単純に「過去にこういうものが当たったから、こういうものをつくろう」と考えてしまうことは、ユーザーのみなさんのことを考えた結果の行動だとしても、場合によっては我々の妄想をおしつけることになりかねません。

実際にお客さんの反応や、反応にすら現れない細かな部分を分析して、同時に市場の流れも把握して、面白いエンターテインメントを提案するサポートをしたいと思っています。私たちの仕事は、ただデータを分析するだけではなくて、ユーザーの方々ひとりひとりで異なるエンターテインメントの楽しみ方=お客様のライフスタイルを実現するためのものでもあるんだと感じています。

山田:その結果、BXDが色々なエンターテインメントのハブとなるような存在として、ユーザーのみなさんの満足のいくようなものを提供していけたら嬉しく思っています。

学生向け ゲームデータ分析ハンズオンセミナー開催決定

業務内のデータ活用や研究などだけでなく、社外に向けて研究した技術を共有することによってエンターテインメントの新しい時代を作るお手伝いをするのも我々チームのスコープの一つです。

直近では2019年10月19日に機械学習を用いた分析のセミナーを開催しており、第2回目として3月末頃に学生向けに新たにイベントを開催する予定です。

データサイエンスに興味のある方が我々の技術に少しでも触れることで、データ活用という切り口で日本のエンターテインメントの未来を共に作っていける人が増えていくことを望んでいます。

詳細はBXDのWebサイトにて今後告知致しますので、ご興味のある学生の方は奮ってご参加ください!

BXDのロゴ

【取材後記】
ゲーム会社のデータ分析者と聞くと、一見理系の要素が強いお仕事のように思えるかもしれませんが、今回BXDのみなさんのお話を聞いて感じたのは、ロジカルな分析思考を、あくまで「面白いエンターテインメント」のために駆使することの大切さでした。普段私たちがゲームを通して感じる「ワクワク感」や「楽しさ」をサポートするために、緻密なデータを分析し、そこからユーザーの本当のニーズを理解しようと奮闘している方々がいる――。私たちが日々楽しんでいるゲームの裏側では、こうした方々の活躍があったのでした。

取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。