【宮河社長対談連載】第三回 前編 西川貴教さんと語る「エンターテインメント×未来」

バンダイナムコエンターテインメント宮河恭夫社長が、社内外のゲストと「新しい生活様式」にまつわるさまざまなことについて対談する連載。第三回のゲストは、アーティストの西川貴教さんです。前編となる今回は、お二人の出会いのきっかけでもある『機動戦士ガンダムSEED(以下、『ガンダムSEED』)』や音楽についてお聞きしました。

出会いのきっかけ『ガンダムSEED』が大きな変化を生んだ

――まず、お二人が出会ったきっかけをお聞かせください。

宮河:2002年に『ガンダムSEED』という番組をはじめるにあたって、「新しいことをやろう」と手を組んだソニーミュージックから、「1クール3か月ずつ、オープニングテーマ、エンディングテーマを変えましょう」と提案があったんです。アニメーションでは一年通して同じ楽曲というイメージがあったので、一年で計8曲っていうのは前代未聞のこと。でも、すごくおもしろいなと思ったんです。ソニーミュージックからのアーティスト案のリストには西川さんの名前もあって、西川さんの大ファンでもあった福田己津央監督に「どうする?」と聞いたら、監督は「もう絶対、西川さんしかいない」と。そこからスタートしたんですよね。

西川:そうですね。僕はそれより前から宮河さんのお名前は存じ上げていて、何かの巡り合わせでお会いできたらいいなと思っていました。宮河さんがおっしゃった、前代未聞のことだったというテーマソングの試みをはじめ、『ガンダムSEED』って、ソニーレーベルにおけるアニメーションの礎になるようなものが全部詰まっているんですよね。今では当たり前になっていることがこのプロジェクトからいくつも生まれましたが、それらの作品を一緒に作らせていただいたという思いがあります。

バンダイナムコエンターテインメント宮河恭夫社長
『機動戦士ガンダムSEED』や『機動戦士ガンダム00』といった00年代の作品に関わり、2010年代のグループコンテンツ×ライブ事業を支えたことでも知られる。

――西川さんは、『ガンダムSEED』との出会いによって変化はありましたか?

西川:『ガンダムSEED』以前にもアニメの主題歌を担当させていただいたことはありましたが、この『ガンダムSEED』以降、いろいろな意味で大きく変化しました。僕自身、1996年にデビューしてから5年ぐらいまでの間にリリースした楽曲のイメージで見られることが多かったこともあり、2000年代に入ってどう切り替えていこうかと考えていた時でした。だからこそ、そのタイミングでの『SEED』との出会いは僕にとっては大きかった。正直なところ、「“売り”にきている」「アニメに寄り添ってきている」みたいなことも耳に入ってきたのですが、僕はもともとアニメファンですから。作っている側の方から求めてもらえるのであれば、しっかり応えたいですし、良いものってそうやって生まれてくるのではないかと思っています。あの時、前向きに捉えてやらせてもらったからこそ、今も変わらずにいろいろな形で作品と向き合うことができているのだと思います。

宮河:タイアップというのは、アーティストにとってある意味“お仕事”なわけですよね。でも西川さんは作品も深く理解してくれていたし、何よりも「(アニメが)好きだ」という思いが強く感じられました。やっぱり、そういう人に歌ってもらえると違いますよね。極端な例えですが、「アニメのタイアップか……テレビで毎週流れるからやってみようか」というような方は、どんどんいなくなってくるというか。そういう部分は『ガンダムSEED』をはじめ、多くのアニメ作品にも良い影響を与えてくれたのではないかなと感じていますね。

西川貴教さん
T.M.Revolutionでは『機動戦士ガンダムSEED』の『INVOKE -インヴォーク-』、
『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の『ignited -イグナイテッド-』などのテーマソングを担当。2018年には西川貴教名義にてデビュー。アーティストだけでなく舞台、映画、MCなど幅広く活躍している。

――一緒にお仕事をされて、宮河さんの印象はいかがでしたか?

西川:こんなに大きな組織を束ねている方なのに、ものすごくフットワークが軽い(笑)。会社の方に「宮河さんはいまどこにいらっしゃいますか?」って聞くと「どちらに行っているんでしょうね? ヨーロッパですかね?」「じゃあ、次はいつお会いできますかね?」みたいな(笑)。お会いできる時は、いろいろな情報や意見を交換したりしていますね。宮河さんは、アニメーションやゲームを扱う企業のトップでありながら、さまざまな方向にアンテナを張ってらっしゃって、自分もそういうふうになりたいなと思ってやってきました。僕にとって長年の良き先輩です。

宮河:そう言われると照れくさいですけどね(笑)。僕はたまたまゲーム会社の社長をやっているけど、ただそれだけじゃない。もちろん、ひとつの道を極めることは大切だけど、道を極めたものを5、6個持つというのは強みになってくるから。例えば、「僕は茶道しかできない」「僕はミュージシャンしかできない」っていうより、幅を持たせた方がいいと思うんです。西川さんもミュージシャンとしてだけではなく、映画は出るわ、テレビは出るわ、バラエティは出るわ、フェスはやるわ、滋賀ふるさと観光大使はやるわ……といろいろな顔があるじゃないですか。すごいことですよ。

日本のゲーム、アニメーションを音楽と一緒に届けたい

――お二人で音楽の話をされることはあるのでしょうか?

西川:宮河さんは、ロックは言うに及ばず、クラブミュージックからジャズまで幅広いジャンルの音楽を観たり聴いたりされるので、「これを言っても通じるかな?」と躊躇することなく話ができます。過去に聴いていた音楽についてノスタルジックに語るというよりは、「この前訪れた国でこういうのを観た、聴いた」「最近のシーンはこんな流れですね」と語り合う感じ。「僕は今後こんなことをやりたいと考えているんです」と話を聞いていただくこともありますね。

宮河:僕は西川さんも含めて、日本のアーティストにはもっと海外へ出て行ってほしい。それも、音楽だけよりは、アニメーションやゲームというツールを使って出ていくべきだと思う。おかげさまで日本のゲームは海外でかなり認められるようになってきていますし、ガンダムも徐々に広がってきています。アーティストとゲーム、アーティストとアニメーションが一緒に海外に出ていけるようになるといいですね。

西川:アニメーションやゲームは、音楽との親和性が高いですからね。一方で、コロナ禍によりさまざまな良いことも悪いことも露見されてきているなか、気になっていることがあるんです。僕たちやそれ以上の世代の方には、“アジアの先進国=日本”という神話が今も根強く浸透していますよね。

宮河:うん、分かります。

西川:僕はアニメーションやゲームをきっかけに2000年代前半から海外へ行かせてもらう機会に恵まれていたので、そこで日本の立ち位置を目の当たりにしていました。韓国や中国ではかなり前からエンターテインメントの大きな流れが来ていたし、日本はどのような形で行くのかなと危惧していたところ、新型コロナウイルス感染症の影響で状況が変わってしまって……。でも、アニメーションやゲームなど、日本で作られてきたコンテンツの存在価値はたしかにある。先ほど宮河さんがおっしゃったように、音楽も一緒に世界へ届けていきたいですね。

宮河:僕が若いころ、『ジャパン・アズ・ナンバーワン アメリカへの教訓』(1979年、エズラ・F・ヴォーゲル著)という本が世界でベストセラーになったんですよ。それで多くの人が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だと思っていたわけです。だけど、僕もけっこう海外に行くので、10年以上前から「え? 日本ヤバいんじゃないの? 遅れているんじゃないの?」と危機感を持っていて。それで自分の中でいろいろと変革が起こって、「僕たちは絶対もっと世界に出ていかないとダメだ」と思うようになりました。今、我々が作っているゲームの中には、売り上げが日本で1割しかなくて、あとの9割は北米とヨーロッパで売れている商品もある。そういう部分でもまだまだ世界には出ていけるし、おもしろいですよね。

西川:そうですよね。早くこの状況が落ち着いて、思い描いていることを実行したくて仕方ないです。

――プライベートの場面では、音楽をどのように楽しんでいますか?

宮河:僕は絶えず音楽が流れていなきゃいけないタイプ。会社の部屋でもシャッフルで流していて、途切れることはないですね。そして、僕の一番の音楽の楽しみはライブに行くことなんです。

西川:そう言ってもらえるのはうれしいですね。

宮河:今はそれ(ライブに行くこと)がかなわないのがツラい。「仕事以外で何をしているのが楽しい?」と聞かれたら、「ライブに行くことが一番楽しい」って答えますから。海外出張が決まると、そこで何かライブをやっていないか調べるんです。パリに行った時(2017年)は、ちょうどガンズ(ガンズ・アンド・ローゼズ)が再結成ツアーをやっていたので、チケットを買って観に行きました。

西川:いいですね~!

宮河:仕事で行った先で開催されているライブを観に行く。それが僕の唯一の楽しみかな。

西川:僕は……自分以外の方の楽曲を聴いたり、BGMで流れていて気になった音楽を検索したりすることもあるのですが、リリースや映像制作の準備として仕事に追われながら音楽を聴くことが多い気がします(笑)。純粋に音楽だけを楽しむことは、少なくなってきているかもしれないです。

宮河:それはもう、全部仕事に繋がっていくわけですからね。

西川:角度を変えたところで、ミュージカルナンバーだと違った楽しみ方ができる。宮河さんが海外出張先でのライブを探されるように、僕は海外に行くとなったら必ずそこで観られる舞台やミュージカルがないかを探しますね。

アウェイで緊張⁉ バンダイナムコエンターテインメントフェスティバルの思い出

(C)創通・サンライズ
『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』よりキラ・ヤマト(左)、西川さんが演じたハイネ・ヴェステンフルス(右)のパネルを背景に対談が行われました。

――西川さんは、2019年に開催された第1回「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル」(2019年10月19・20日に東京ドームにて開催)にも出演されました。振り返って印象に残っているのはどんなことですか?

西川:バンダイナムコのコンテンツのもと、東京ドームにあれだけの熱を持った皆さんが集結して、そこに向き合えるということが本当にすごいと思いました。僕は自分の曲だけでなく、『アイドルマスター SideM』の曲も一緒に歌わせてもらったのですが、実は皆さんに受け入れてもらえるかとすごく緊張していたんですよ。「僕みたいなものがいきなり入っていいのかな?」と不安を抱きつつステージに出ると、あっという間にサイリウムの色が変わるのが見えて……いや~、うれしかったですね。

宮河:あの光景はすごかったですね。西川さんにとってはある意味完璧にアウェイだったかもしれないけど、僕は心配していませんでしたよ(笑)。『アイドルマスター』のファンの人たちが素敵だということもありますが、やっぱり西川さんの力、存在感に圧倒されるみたいな部分も大きくて、観ていておもしろかった。他人事みたいに「おもしろかった」なんて言っちゃいけないんだろうけど(笑)。

西川:楽屋では大慌てで振りの練習をしていました(笑)。でも楽しかったから、2度目の開催を去年からずっと楽しみにしていたのですが……延期というのは悔しい。なんとか実現させたいですね。

宮河:そうですね。また必ずやりますので。ぜひその時には……。

西川:皆さん、ご期待ください!

後編はこちら

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【取材後記】
プライベートで食事に行くこともあるというお二人。宮河社長が待つ対談会場に照れ笑いを浮かべながら入ってきた西川さんのリラックスした表情が印象的でした。『機動戦士ガンダムSEED』への思いや音楽への思いを伺った前編に続いて後編では、コロナ禍の今考える、エンターテインメントの未来について語り合っていただきます。

取材・文/草野美穂子
出版社勤務を経てフリーの編集者/ライターとして活動。書籍、雑誌、WEB記事などの編集、取材を行う。2021年1月に発売された写真集『西川貴教 五十而知天命~五十にして天命を知る~』ではインタビューを担当。