三重県の木曽岬町の「やろまいマルシェ&夏まつり」。このイベントで実施された、防災用の公共Wi-Fiをアソビに利用する試みに、バンダイナムコエンターテインメントが協力。Wi-Fiを活用して盛り上がる当日の様子や、関係者の思いを語っていただいたインタビューをお届けします!
エンターテインメントが地域&行政とともにできること
防災ツールとアソビの力で地域の人々をつなげたい。「やろまいマルシェ&夏まつり」の挑戦
三重県の北東端に位置する木曽岬町は、愛知県名古屋市へのアクセスも良好な、鈴鹿の山々や伊勢湾を臨む自然豊かな町。海苔産業や米づくりが盛んな水郷輪中の町であることに加えて、「子育てするなら木曽岬町」を合言葉に子育て世代へのサポートも積極的に行っているため、県外からの移住者も多い地域として知られています。この地域の年に一度のお祭りが、「やろまいマルシェ&夏まつり」。2019年はかつてこの地に甚大な被害を及ぼした伊勢湾台風から60年。
当時の経験者が少なくなる中で、今一度防災への意識を高めるために、この祭りでは緊急時の避難場所となる町役場の周知や、緊急時にも使用できる公共Wi-Fiの存在を伝える試みが行なわれ、そこにバンダイナムコエンターテインメントが協力しました。
「やろまいマルシェ&夏まつり」の会場となる木曽岬町役場に到着すると……お馴染みの『太鼓の達人』のキャラクター、どんちゃん&かっちゃんをあしらった横断幕が来場者をお出迎え!!
屋外スペースには、様々なグルメや地域の特産品・地場産業の魅力が溢れる購買ブース「やろまいマルシェ」が登場。ここでの決済には、町内全域をカバーする公共Wi-Fiを有効活用して、キャッシュレス決済PayPayを全店舗に導入。スムーズに買い物ができます。
災害発生時の通信ツールとして力を発揮する公共W-Fiは、災害時だけに利用できるものではありません。むしろ普段から利用することで、その認知が高まり、いざという時にも地域にとって大きな役割を果たしてくれます。今回の試みには、そうした公共サービスを、「普段の生活でも身近に感じてもらいたい」という役場のみなさんの思いが込められています。
また、国土交通省木曽川下流河川事務所の協力により、会場には近隣の他県、他地域の自治体によるブースも登場。周辺地域が手を取り合って暮らしをサポートする大切さが伝わってくるようでした。
会場にアソビがいっぱい。バンダイナムコエンターテインメントの企画ブースを体験!
バンダイナムコエンターテインメントは、公共Wi-Fiなどを利用した様々なアソビを企画。屋外会場の中央には夕方から開催されるメインイベントのひとつ「盆踊り」用に『太鼓の達人』仕様のやぐらを用意。そのほか、屋内外にさまざまなアソビを用意して来場者を迎えました!
中でも人気を集めていたのが、お子さんを対象にした探索型の音声謎解きアトラクション『太鼓の達人 ドコン団の挑戦状』。専用端末の音声ガイダンスに従って会場内のチェックポイントを探索することで、「バチお先生」「和田テツオ」「はなちゃん」の罠を解くためのこの企画だけのオリジナルストーリーが楽しめます。町役場がワクワク感いっぱいの冒険の舞台に早変わりする企画に、お子さんたちが楽しそうに挑戦する姿が印象的でした。
また、屋外の「やろまいマルシェ」横では、ドリフトトライク大会を開催。お子さんでも気軽にドリフト体験が楽しめるドリフトトライクを使ったタイムアタック大会が開催され、お子さんからご家族まで好記録が連発して盛り上がりを見せていました。
そして、役場内の特設会場には、『太鼓の達人』の無料プレイブースが登場! ここでは木曽岬町の公共Wi-Fiを使用して会場と三重県四日市市とを中継をつなぎ、2つの場所の累計プレイスコア合計によって勝敗を争う市町間の対抗戦が行われました。
優勝した地域にはなんと、金のどんちゃんを贈呈! 金のどんちゃん獲得を目指して、両地域の手に汗握る熱戦が繰り広げられていきます。
栄えある勝者は……木曽岬町に決定!! 結果発表はWi-Fiを使用した二元中継で行なわれ、木曽岬町の代表者の方に金のドンちゃんが贈呈されました。
そして夕方以降のクライマックスになったのが、『太鼓の達人』仕様のやぐらを囲んで行なわれた盆踊り。浴衣に身を包んだ人々が集まり、お祭りはフィナーレを迎えました!
地域×行政×エンターテインメントが町づくりのためにできること
実は、今回の企画は、木曽岬町役場と国土交通省、そしてバンダイナムコエンターテインメントの三者が、これまで築いてきた信頼関係の中で実現したものでした。
行政と町役場、そしてエンターテインメント企業での共同企画となった今回の施策について、木曽岬町町役場の小島裕紹さん、国土交通省の田中靖久さん、そしてバンダイナムコエンターテインメントの坂本純一さんにお話をうかがいました!
――もともと、木曽岬町とバンダイナムコエンターテインメントの接点が生まれたきっかけはどんなものだったのでしょうか?
小島:きっかけは、私が『自治体通信』(自治体職員/議員のための情報誌)を見ていて、バンダイナムコエンターテインメントさんが地方の自治体と協力するプロジェクト、BNJ Projectを立ち上げたのを知ったことでした。その記事を読んでいくと、最後に「何でも連絡してください」と書いてありまして。「それなら!」とこちらから連絡をしたのが最初です。とはいえ、木曽岬町は小さな町ですから、実際に返事が来るのかどうかは分からない部分もありました。ですが、結果的にはバンダイナムコエンターテインメントさんからすぐに返事があったんですよ。
坂本:連絡をいただいた一週間後には、我々が木曽岬町に来ていたと思います(笑)。
小島:(笑)。それが3年ほど前の、ちょうど今頃ですね。そこで「ぜひ何かやりましょう」という話になり、最初に実現したのが、木曽岬町のファミリーマラソンでの取り組みでした。
小島:そのとき、「川沿いの景色がいいですね」「こんな風景を走れることはなかなかないですよ」と言っていただき、この町で暮らしている我々にとっては見慣れた風景でも、「外の方から見るとこんなところに魅力を感じるのか!」と気づかされるきっかけになりました。
坂本:その後、我々がこの地域に防災ステーションができる際の落成式をお手伝いすることになり、そこでドリフトトライクレースを実施しました。これは周辺地域の職員の方々を招いて開いた大会だったのですが、これも好評をいただけて嬉しかったです。
小島:とても面白い施策だと思いつつも、許可を出す国交省の方が渋い顔をするかもしれないと思ったら、「ぜひやりましょう」と言ってくださって。結果的に、国交省の方々にも優勝を目指す意気込みで参加していただきました。
田中:そして、実際にうちのチームが優勝したんです(笑)。国としては直接特定の企業と契約することは難しい面がありますので、これは自治体の方々に間に入ってもらったからこそできた試みだったと思います。また、こういった施策は私たちが企画すると堅苦しいものになりがちですが、おかげさまでとてもいいものにしてくれたと感じました。
――エンターテインメント企業だからこそできる地域貢献がある、ということですね。
田中:そうですね。たとえば、今日『太鼓の達人』を色々な方々がやられている様子を見ても、とても楽しそうな表情をしていると思うんですね。そうした施策がある結果、会場に多くの方々が来場してくださることにもつながるので、我々としても非常にありがたいです。
――今年の「やろまいマルシェ&夏まつり」での施策は、どんなふうに考えていったのでしょうか?
坂本:我々が担当した施策については、広域Wi-Fiの認知を促すという意味でも、他地域との連携を活かせるものを考えました。小島さんから、「『緊急時は役場に避難してください』と言われても、普段から使っていなければ、場所がどこだか分からない」という話を聞きまして、木曽岬町役場を舞台にした、みなさんで楽しめるようなものを考えていきました。
――実際に当日を迎えられて、地方自治体と国、エンターテインメント企業が手を取りあうことで生まれる可能性を感じた部分はありますか?
田中:やはり、「多くのお子さんが来て、楽しんでくれる」というのは、とても嬉しいことです。小さい頃に防災に関することを覚えてもらえば、家に帰って「こんなことがあったよ」と会話が生まれ、大人にも防災インフラの存在が広がるという、いい循環が生まれますので。
小島:そもそも防災の場合、特に大人は「自分だけは安心だ」という正常性バイアスの影響を受けやすいのです。また、伊勢湾台風から60年間、この地域には大規模な災害がなかった関係で、どうしても当事者意識が薄れています。そういう意味でも、お子さんのうちから伝えておいた方が、いざというときに多くの町民の命を守ることにつながると思っています。
――なるほど。夏祭りの施策を通して「楽しみながら体験できる」からこそ、防災インフラの周知にも大きな役目を果たすことになる、ということですか。
小島:その通りです。また、今回の施策は、他地域との連携という意味でも、特別なものだと感じます。三重県内の町同士でしたらまだ連携は取りやすいのですが、それが市との取り組みや、県をまたいだ取り組みになると、みなさんが想像するよりも実現が難しくなってしまいます。ですから、今回三重県や愛知県をまたいで様々な方々に集まっていただけたのは、国交省さんやバンダイナムコエンターテインメントさんの協力のおかげです。たとえば、四日市市と協力して『太鼓の達人』大会を開催することは、本来なかなかできることではありません。また、バンダイナムコエンターテインメントさんとの取り組みを始めて以降、他の市町方からも、「木曽岬町は面白いことをやってるね」と言っていただく機会が増え、様々な方から声がかかるようになってきています。
田中:こうして、我々では思いつかないようなことを企画していただけることも、非常にありがたいことだと思っています。
坂本:我々にとっても、「やろまいマルシェ&夏まつり」のようにお客様と接点が持てる機会はとても大切な場所です。三者がそれぞれに目的が少し違う中で、それが掛け合わさって面白い試みが生まれているような雰囲気が、とても印象的だと感じています。
木曽川周辺の地域の広域連携や、防災インフラの周知という課題を、エンターテインメントの力を加えることで実現している「やろまいマルシェ&夏まつり」。このお祭りは、毎年開催されています。夏に木曽岬方面に行かれることのある方は、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか?
【取材後記】
地域と行政とエンターテインメントが手を取り合うことで、人々の暮らしにとって大切な物事を、より楽しく広めていくことができるかもしれません。「やろまいマルシェ&夏まつり」での取り組みは、エンターテインメントが人々の暮らしにどんなふうにかかわれるのかという意味でも、印象的な施策だと感じました。
取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。