サービス開始から4年目に突入し、10月24日に今年のハーフアニバーサリーを迎える『アイドルマスター シャイニーカラーズ』。入社前からシリーズのファンだったという制作プロデューサーの高山Pに、『シャニマス』のこれまでとこれからについて聞きました!
高山祐介
『アイドルマスター シャイニーカラーズ』制作プロデューサー
『アイマス』ユーザーだった高山P。作品との出会いはニコニコ動画
――高山さんは入社前から『アイドルマスター』が好きで、プロデューサーさん(※『アイドルマスター』ファンの総称)としてゲームを遊んでいたそうですね。シリーズとの出会いについて教えてください。
中学生ぐらいのころにニコニコ動画などで『アイドルマスター』のライブシーンをたまたま見て、「かわいいな」「曲もいいな」と思ったのがきっかけでした。そこから、PSPの『THE IDOLM@STER SP』(2009年)をプレイして、シリーズのファンになりました。
当時の自分には「担当」という概念はなかったのですが、『SP』で最初にプロデュースしたのは(萩原)雪歩です。『アイマス』シリーズは、「アイドル」と「プロデューサー」という関係になる作品なので、どんな仕事を受けてどんなレッスンをするかの選択や、アイドルとの会話を通して、アイドルと一緒に目標に向かって仕事をしていく実感が得られます。
そして、自分自身も、アイドルと一緒にがんばりたい、という思いが強くなっていく。そんな没入していける感覚が素敵だな、と思っていました。
――そこから転機になったのは、2014年の『AnimeJapan』(※2014年から開催されている世界最大規模のアニメイベント)だったとうかがいました。高山さんはこのイベントに足を運んだことで、エンタメ業界をめざすことになったそうですね。
当時はちょうど就職活動中で、バンダイナムコゲームス(※現バンダイナムコエンターテインメント)にもエントリーしていました。ですが、その時点では、「ゲームはどんなところで作られているんだろう?」という興味がある程度で、「エンタメ業界に入る」という想像はついていませんでした。
ですが、(『AnimeJapan』の会場で)エンタメを通して誰かに笑顔を届けようとする現場の方々や、コンテンツを楽しむ方たちの姿を見て、「すごく魅力的な世界だな」と思ったんです。それで、好きなゲームの世界で仕事をしてみたいと思い、『アイドルマスター』シリーズがあるバンダイナムコエンターテインメントへの入社を決めました。
入社して知った『アイマス』スタッフが“大切にしてきたもの”
――制作側になったことで見えてきたシリーズの魅力や工夫はありますか?
総合プロデューサーの坂上さん(『アイドルマスター』シリーズ総合プロデューサー 坂上陽三氏)もよく言っていますが、『アイドルマスター』シリーズは、「誰にどういう体験をしてもらいたいか」を大切にしているコンテンツです。
ユーザーの皆さんに、「プロデューサー」という運営側の立場でアイドルを導いてもらうことで、達成感や満足感が得られる。『アイドルマスター』にはいろんなブランドがありますけど、どのシリーズも根底に流れるものは共通しているように思います。
――シリーズにとって大切なことが、制作スタッフ間でしっかり共有されているのですね。
また、僕らの場合、開発当初は『シャイニーカラーズ』というタイトル名もない状態のスタートでしたが、765プロ(※ナムコプロ:『アイドルマスター』シリーズに登場する芸能事務所)を筆頭にしたさまざまなアイドルたちがいるなかで、『シャイニーカラーズ』のアイドルたちが、既存のシリーズのアイドルたちと同じであっては意味がない、と考えていました。
それぞれのブランドに、そのアイドルたちと関係を深めていくなかで得られることや知ることができる想いがあり、そうした既存のシリーズの中には、実際に自分がゲーム内でプロデュースして楽しんできたアイドルたちもいます。そういう視点からも、「既存のシリーズのアイドルたちとは違う、新しい魅力を感じてもらえるものにしていきたい」ということは大事にしていました。
――具体的にはどのような点で過去作品との差別化を工夫されたのでしょうか?
表面的なところでは、ビジュアルもイメージを変化させて、柔らかさや清潔な印象、透明感のある印象などをキーワードにしました。また、それぞれのアイドルたちのパーソナリティを、このシリーズでもしっかり作りたいと思っていました。
今でこそ、283プロ(※ツバサプロ:『シャイニーカラーズ』に登場する芸能事務所)のアイドルは765プロより多く、『ミリオンライブ』のアイドルたちよりは少ないくらいですが、当時の283プロはより人数が少なかったので、アイドルと一緒に歩んでいく感覚を表現するためにも、相対的に一人ひとりのアイドルたちの魅力を深く考える必要がありました。
――『シャニマス』はシナリオやコミュ(※アイドルとの会話イベント)の評判も非常によく、幼馴染みのメンバーがユニットになったノクチル(noctchill)なども含めて、『アイドルマスター』シリーズに新しいアイドル像を加えるユニットも登場しています。この辺りは、どう考えていったのでしょうか。
ノクチルに関しては、「今の283プロのメンバーに加わることで、魅力的に感じられるのはどんなアイドルだろう」と考えていきました。運営をするなかで見えてきたもの、変わったものも順次反映していますが、特に『シャイニーカラーズ』の運営を続けるなかで、僕自身が、自分の中にある「そもそもアイドルって何だろう?」という疑問の本質に気づいたのは大きかったです。
現実世界のアイドルでも、いろんなグループがあり、いろんな魅力を持ったアイドルの方々が活動していて、それぞれにファンがついています。そして、それぞれが思う「アイドル像」も、それぞれに違っていたりしますよね。つまり、「アイドルには一つの答えがあるわけではない」ということです。ノクチルは、そういうおぼろげなイメージから生まれたユニットでした。プロデューサーさんたちの反応も受け取りながら、先のことを想像して進めています。
――開発の際、高山さん自身が影響を受けたものがあれば教えてください。
自分の好きな作品がいくつかあるので、そういった作品が醸し出す雰囲気が影響を与えている部分はあるのかな、と思います。
例えば、聖蹟桜ヶ丘(※東京都多摩市にある京王線の駅)周辺を街の参考にしているのは、大都会というわけではない、自然と適度な距離感があるあの街や、そこで暮らす人々の雰囲気が、僕らが表現したいアイドルの魅力と合っていると思ったからです。
『シャニマス』は「青空」「羽」などをビジュアルのテーマにしていますが、あの場所には青空が突き抜けるような場所もありますし、川も緑もあって、人が暮らす場所もあります。そういう、「日常が見える雰囲気」は、僕らが大切にしていることのひとつです。
もともと僕自身が好きな作品には、そういった繊細な表現が込められているものが多かったんですよ。登場人物の感情を言葉だけでなく所作で表わしたり、ネガティブな感情を曇り空で表わしたりと、直接的すぎない表現を繊細に組み立てていくような魅力を表現できたら、と思っていました。
――たしかに、それはカードイラストの構図なども含めて、さまざまな場面で感じられる魅力ですね。ご自身がもともとシリーズのファンだったからこそできた工夫はあると思いますか?
ゲーム性の部分でいうと、僕が最初にコンシューマータイトルをプレイした時に感じたベースの部分、「限られた期間があり、目標が提示され、そのなかでどんな行動を選んでいくか」を決めることで、アイドルとともに目標に向かっていくという基本は、『シャイニーカラーズ』にも引き継がれています。また、会話の中での行動を選択するパターンの幅やアイドルのリアクション、どこでプロデューサーさんの気持ちが盛り上がるかという部分についても、かなり意識しているところです。
――ユニットに焦点を当てた「W.I.N.G.」や「ファン感謝祭」、そこからアイドル個人に焦点を当てた「G.R.A.D.」、その成長がふたたびユニットに還元されていく「Landing Point」など、ここまでのプロデュースエリアの振り幅や全体の流れも印象的でした。
プロデュースエリアに関しては、それぞれが異なる体験になるように、全体の流れも含めて意識しています。例えば、3年目にアイドル個人に焦点を当てた「G.R.A.D.」を追加したのは、1~2年目で実装するよりも、よりアイドルを知った状態でプレイしたほうが、プロデューサーさんに楽しんでいただけるんじゃないか、と思ったからでした。
『シャニマス』はリズムゲームではなく、コンシューマーライクな育成ゲームのシステムを採用しています。そして、育成したアイドルでほかのプロデューサーさんと競い合っていただく「グレードフェス」も用意しています。
『シャニマス』は、育成したアイドルと一緒に高みをめざす体験がより顕著なシリーズだと思っています。大事なのは、育成を続けてもらうなかでアイドルたちのことを深く知ってもらい、彼女たちとの関係性を築いてほしい、ということです。それが方法論として表れているのが、シナリオや「信頼度」なのですが、そういった部分をきっかけにして、それぞれのアイドルの魅力を深く知っていただくのが一番の目的です。
――シナリオ面で、高山さんが特に印象的だったものはありますか?
例えば、2020年の12月に追加したイベントコミュ「明るい部屋」は、クリスマスに際して全体のアイドルたちが集まるものとして用意しました。あのシナリオは「寮を大掃除する」というメインテーマがありつつ、プロデューサーと七草はづき(283プロの事務員)が物件を探すサブの要素があり、アイドルたちそれぞれの動きも描かれました。
はづきの今まで見られなかったパーソナルな部分が深堀りされ、アイドルを描くだけでなく「その周辺までを描写する」という、直接的ではない描き方ができたのかな、と思っています。はづきや天井社長の過去から、新ユニットのシーズ(SHHis)やメンバーの七草にちか(はづきの実妹)に繋げる要素が作れた意味でも、プロデューサーさんにお楽しみいただけたんじゃないかなと思っています。
――『アイドルマスター』シリーズはもともと、「アイドル文化は多くの人々の努力や情熱ででき上がっている」ということが体験できるシリーズでもあると思いますので、そういう意味で、「明るい部屋」は非常に『アイドルマスター』らしいものだったのかもしれません。
ありがとうございます。そう感じていただけたらうれしいです。
『シャニマス』3.5周年に思う、アイドルプロデュースの魅力
――『シャイニーカラーズ』は今年の10月24日に3.5周年を迎えます。高山さんの中で、サービス開始当初と比べて変化を感じている部分があれば教えてください。
制作側としては、4年目を迎えてもめざしているものはあまり変わっていなくて、「プロデューサーとしてアイドルを導き、育てて、対戦する」という根本は今もブレていません。ただ、4年のあいだにアイドルが増え、シリーズを遊んでくださる方が増えるなかで、僕自身は、よりたくさんの方に楽しんでいただくためにはどうすればいいだろう、と考えるようになりました。それが形に表れているのが、「ゲーム×ライブ」「ゲーム×グッズ」という広がりです。
また、ブラウザゲームでもある特性を生かし、enza(※スマホ向けのブラウザゲーム配信プラットフォーム)を通してさまざまな媒体と繋がりを作ることにも挑戦しています。その結果、より多くの皆さんの生活のなかに『シャニマス』の存在があったらいいなと思っていますし、その視点が広がってきているように感じています。
――もともとプロデューサーさんとしてゲームを遊んでいた方が、シリーズの魅力に惹かれてバンダイナムコエンターテインメントに入社し、その最新ブランドの制作プロデューサーになるというのは、なかなかないことだと思います。この辺りについてはどう感じていますか?
すごく貴重な経験をさせていただいていると思います。ただ、自分自身がもともと好きだったという気持ち以上に、今16周年を迎えている『アイドルマスター』というシリーズのひとつのブランドの制作プロデューサーとしての責任の重さの方を感じています。『シャイニーカラーズ』の開発がはじまった当初は、特にそうでした。
――『アイドルマスター SideM』以来4年ぶりの新ブランドでした。
そうですね。以前のシリーズとビジュアルも変わっていましたから、「受け入れてもらえるのかな」という気持ちがありましたし、久々の新ブランドとして、しっかりしなければ、と思っていました。また、責任感を感じていたからこそ、最初は守りに入っていた部分もありました。ですが、3.5年間やってきたなかで、いろいろな挑戦をしても、プロデューサーさんに柔軟に受け入れてもらえることが分かりました。
ですから、最初は「責任感」「守り」だったものが、今は「『シャイニーカラーズ』ならではの魅力を楽しんでほしい」という気持ちにより変わっていると思います。新しいゲーム性もそうですし、昨年の配信ライブ「THE IDOLM@STER SHINY COLORS MUSIC DAWN」もそうですし、「なにかプラスでおもしろい体験をしていただこう」ということが考えられるようになりました。そのなかで、「283プロのアイドルたちの魅力を知ってもらえたら」と思っています。
――「アイドルには一つの答えがあるわけではない」と話されてしましたが、今の高山さんにとってアイドルとはどのような存在ですか?
僕の中にもまだ答えはないです。そもそも「アイドル」というものは、その時々/その人によって変わるものなのかな、と思いますし、むしろその「答えがない」こと自体が、答えなのかもしれないと思っていて。同時に、アイドルたちから感じられる喜びやかわいいさは普遍的で、生活のなかにあることで、ポジティブな気持ちにさせてくれる存在でもあると思います。
少なくとも『シャイニーカラーズ』がめざしているのは、育成やコミュニケーション、競い合いなどを通じて、プロデューサーさんの生活が彩られていくことです。これは世間一般のアイドルの皆さんがめざしていることとも似ているのかな、と思っています。
――今年のハーフアニバーサリーについては、どんなことを考えているのでしょう?
まずはここまでのあいだ、支えてくださったプロデューサーさんに感謝の気持ちを伝えたいです。また、それをゲームの中で、キャンペーンという形で一か月間共有することで、改めて「『シャイニーカラーズ』、楽しいな」と思ってもらえるようなものにしていきたいと思っています。そして、開発にかなり時間がかかってしまいましたが、新たなフェスコンテンツ「フェスツアーズ」も登場するので、そこも新鮮な感覚で楽しんでいただけたら、と思います。
――10月23日、24日には、配信イベント「THE IDOLM@STER SHINY COLORS 283フェス 2021 Happy Buffet!」も開催される予定ですね。(※インタビューは10月23日、24日に開催される配信イベント以前に行われました)
2020年10月の『MUSIC DAWN』とはまた違って、今回は本当にフェス会場に行って遊んでいるような雰囲気を、配信限定のイベントでお楽しみいただきたいと思っています。フェスって会場にいろんなステージがあって、いろいろな場所でアーティストが出演していて、「どこに行こうかな?」と悩んだりするのもすごく楽しいですよね。むしろ、それが醍醐味だと思っているので、配信という場でもそういった魅力を詰め込んでいきたいと思っています。
また、ゲームとも連動した要素や、283フェスに向けて気持ちを盛り上げてもらえるような配信だったり番組だったりと、イベント外でも楽しんでいただける企画も用意していきます。いろんな形で『シャイニーカラーズ』の3.5周年を楽しんでいただけたら、とてもうれしいです。
特別企画!高山Pへの質問を大募集します
学生時代から『アイドルマスター』シリーズに親しみ、今では作品にとって欠かせない存在となった高山Pのインタビュー、お楽しみいただけましたでしょうか? 実は、本記事はまだまだ前編に過ぎません。
ファンファーレ独自の『シャニマス』3.5周年企画として、ファンファーレ読者の皆さまからのご質問の中からそのいくつかを高山Pが答えるQ&A企画を行います!
『アイドルマスター』シリーズ、『シャニマス』に関するものはもちろん、ゲーム制作論など、高山Pに聞いてみたい質問を本記事下部にあるアンケートフォームから大募集します。
アンケートフォーム内の「4. 開発プロデューサー・プロジェクト制作陣など出演者へのメッセージ」に質問をお寄せください!
※1 後編記事掲載予定の高山Pへご質問につきまして、2021年11月5日(金)締め切りとさせていただきます。
※2 後編記事のインタビュー時間の都合上、質問数を絞らせていただく場合がございますので、あらかじめご了承ください。
※3 2021年11月6日(土)以降もアンケートは実施しておりますので、ご協力いただけますと幸いです。
いただいたご質問とそれに対する回答は、本記事の後編として後日掲載させていただきますので、ぜひお気軽にご応募ください!
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『アイドルマスター シャイニーカラーズ』
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取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。