今からはじめる『テイルズ オブ』。正義と正義のぶつかり合いを描いたシリーズの魅力を大解剖!

1995年、スーパーファミコンのソフトとしては珍しく主題歌やゲーム内ボイスを収録した『テイルズ オブ ファンタジア』(以下、『ファンタジア』)に始まり、30周年も目前となった『テイルズ オブ』シリーズ(以下、『テイルズ オブ』)。

長い歴史のなかで数多くのタイトルが発売され、2023年11月には最新作『テイルズ オブ アライズ』(以下、『アライズ』)のダウンロードコンテンツ『テイルズ オブ アライズ – Beyond the Dawn』(以下、『Beyond the Dawn』)も配信されました。

長い歴史を持つシリーズは、何から入ればいいのか迷ってしまうもの。そこで今回はシリーズプロデューサーの富澤祐介さん、『アライズ』アシスタントプロデューサーの石川結貴さんに、今から『テイルズ オブ』に触れる人におすすめの作品を紹介していただきます。インタビューが進むうちに、シリーズに共通する物語の魅力が見えてきました。

Recipe Image

富澤 祐介

バンダイナムコエンターテインメント
第2IP事業ディビジョン 第2プロダクション

『テイルズ オブ アライズ』プロデューサーであり、現在の『テイルズ オブ』のIP総合プロデューサー。バンダイでの経験を経てバンダイナムコゲームス(当時)で『GOD EATER』シリーズの立ち上げなどに関わったあと、『テイルズ オブ ヴェスペリア REMASTER』より『テイルズ オブ』のプロデュースに携わる。

Recipe Image

石川 結貴

バンダイナムコエンターテインメント
第2IP事業ディビジョン 第2プロダクション

『テイルズ オブ アライズ』アシスタントプロデューサー。リマスタータイトルの宣伝に関わるほか、IP総合プロデューサーの富澤祐介とともにプロモーションにおけるIPとしての監修を行う。入社面接では『テイルズ オブ』愛を熱弁した。

社内一の『テイルズ オブ』好き?

――今回、最新作『アライズ』プロデューサーのおふたりにお集まりいただきました。富澤さんと石川さんは以前から一緒にお仕事をされていたのですか?

富澤:『テイルズ オブ』で関わるまでは接点がありませんでしたが、社内一と言っても過言ではないくらい『テイルズ オブ』が好きらしい、と前から耳にしていました。なので、チームに彼が入ってきた時には「さぁ来い」という感じでしたね(笑)。

噂どおり、シリーズに対する情熱や愛情、そしてプレー経験という点で言えば、即活躍してもらえるものがありました。ゲーム作りについてはこれからという状態でしたけど、お客さまの気持ちも考えたうえでシリーズの展開を今後どうするか、という具体案を一緒に議論する存在として、本当に求めている人材が来てくれたな、と。

石川:今の言葉、目覚ましに使わせてもらっていいですか。

富澤:長くない?

悪役目線でストーリーを描いた異例の作品『テイルズ オブ ベルセリア』

――それでは、本題に移りたいと思います。まだシリーズ作品に触れたことのない人や、最新作『アライズ』で初めてシリーズに触れた人に向けて、『テイルズ オブ』の大きな魅力である“ストーリー”を存分に味わえる作品をおすすめするとしたら、どの作品でしょうか?

富澤:大前提として、ストーリーやキャラクターというものは全作品において第一に考えている要素かと思いますので、ひとつに絞ることはできないのです。が、これだと企画倒れになってしまいますね(笑)。

なので、これから『テイルズ オブ』に触れていただく方という点を考えて、現行ハードでもプレーでき、かつ初見でインパクトを受けてシリーズのファンになってもらいたい、というプロデューサー的な狙いも含めて、あえてひとつ選ぶなら『テイルズ オブ ベルセリア』(以下、『ベルセリア』)ですね。

――『ベルセリア』を挙げるポイントになったのはどこでしょうか。

富澤:『テイルズ オブ』では常に正義と正義の戦いが描かれています。たとえ主人公サイドは正義らしい、敵側はいわゆる悪者らしいデザインや世界観の設定になっていたとしても、物語が進むとどちらにも正義があって、必ずしも勧善懲悪ではない。そういった部分を考えさせられるのが魅力だと思います。

なかでも『ベルセリア』は、一般的に言う悪役側の目線から物語を描いていて、非常に特殊な主人公の設定になっているんですね。

石川:グッズを作るときも、主人公サイドのイメージカラーが赤と黒で、敵サイドが白と金になるのはすごいよね、という話をしていました。

(左)主人公・ベルベット、(右)敵・アルトリウス

富澤:『テイルズ オブ』がトータルで描いてきた正義というものの不安定さ、そのうえで自分が信じるものを信じていくべきだというテーマに沿って、圧倒的な熱量をもってストーリーが展開していくのが『ベルセリア』です。声優さんたちの熱演もあって、非常に魅力的な物語に仕上がっているので、今回おすすめしてみました。

石川:ちなみに『ベルセリア』は、個人的にオープニングの入り方がこの世のゲームで一番かっこいいのではないかと思っています。作中で脱獄をする場面があるのですが、それを彷彿とさせるシーンからオープニングがはじまる、あのかっこよさたるや!

石川:あとは、小さな男の子のキャラクター、ライフィセットの存在ですね。名前も与えられずに育ってきた特殊な生い立ちで最初は感情がないんです。でも、かっこいいお兄ちゃんやお姉ちゃんに囲まれているうちに、どんどんたくましく成長していきます。基本的には守られることが多い立場なんですけど、とある場面で主人公ベルベットを救う側に立つんですよ。

そのときの啖呵の切り方は、まさに「あのお兄ちゃんやお姉ちゃんに育てられてきたからこのかっこよさがある」と思わせるもの。ライフィセットというキャラクターの成長ドラマとしても楽しんでもらえるのが『ベルセリア』ですね。

術を使うための道具として、対魔士テレサに使役されていた聖隷 ライフィセット

主人公の成長ドラマと主題歌「カルマ」がリンクする『テイルズ オブ ジ アビス』

――続いて、石川さんがおすすめしたい作品はなんですか。

石川:自分が初めて遊んだという意味でも、『テイルズ オブ ジ アビス』(以下、『アビス』)ですね。アニメは『テイルズ オブ』YouTubeチャンネルで全話公開していますので、ストーリーに触れていただけるという意味でもおすすめしたいです。

石川:『アビス』はシナリオの二度、三度ある大きなどんでん返しが魅力です。それから、主人公がたぶん歴代屈指のいけ好かないスタートを切っているところですね(笑)。彼は公爵家のお坊ちゃんなのですが、本当にわがままなんですよ。

『アビス』の主人公・ルーク

富澤:主人公以外のパーティーメンバーも、表面的な部分を見ると、わりと歴代屈指の曲者揃いという(笑)。

石川:主人公のルークはいろいろな背景を抱えていて、人間的にはすごく未熟なところからスタートするんですよ。でも、さまざまな事件を通して、ジャンル名が“生まれた意味を知るRPG”となっているように、その意味を見つけて成長していくんです。

最初は一番精神的に幼かった主人公の成長に引っ張られて、彼をお子ちゃま扱いしていた仲間たちも成長していく。そんなキャラクタードラマに、ぜひ注目していただきたいと思います。

富澤:あとは、音楽ですよね。これはシリーズ全般に言えることだと思いますが、オープニングの楽曲とアニメーションが作品全体を想像させてくれるんです。

『アビス』ではBUMP OF CHICKENさんの「カルマ」が主題歌なんですけど、これがもうまったくオープニングだけに閉じていないというか、作品の世界観を全部取り込んでいるのがまた一段違うと思っています。実際、最初に「カルマ」を聞いたときここまでリンクさせることができるのか、と驚いたのをよく覚えています。

石川:当時、PS2で遊んでいたころにはスリープ機能がなかったじゃないですか。だからゲームをはじめるときには毎回ゲーム機を起動して、オープニングが流れるんですよね。物語が進むにつれて曲の意味がどんどんわかってくるので、起動するたびに感動があったんです。あれは、ある種当時ならではの発見でした。

「カルマ」の歌詞に絡めた話をすると、シリーズ25周年のタイミングでさまざまなキャラクターの新規イラストを描いてもらった際に、ルークについては発注書に「ひとつ分の陽だまりにしてください」と書いたのを覚えています。

ガラス玉ひとつ 落とされた 追いかけてもうひとつ 落っこちた
ひとつ分の陽だまりに ひとつだけ残ってる
(引用:BUMP OF CHICKEN「カルマ」)

25周年記念イラスト(右上が『アビス』の主人公ルーク)

20時間、30時間と積み重ねた先に描かれる一騎打ちだからアツい

――今までお話しいただいたなかにも多くの要素が出てきたかとは思いますが、『テイルズ オブ』シリーズが持つストーリー的な面白さ、「らしさ」というのはどういったものだと考えていますか。

石川:『テイルズ オブ』と言えば、とはまた少し違うかもしれないですが、ある種伝統的になった流れのなかで好きなのは、主人公とライバルキャラクターが一騎打ちをする場面ですね。例えば『テイルズ オブ リバース』ではヴェイグとミルハウストが、『テイルズ オブ ヴェスペリア』ではフレンとユーリが戦う場面があって、本当に名シーンなんですよ!

『テイルズ オブ ヴェスペリア』の一騎打ち

石川:主人公と特定のキャラクターとの一騎打ちは、20時間、30時間とプレーを積み重ねてきた先に描かれるからこそアツいんですけど、それだけたっぷり時間を使って物語が描かれるのはゲームならではですし、キャラクタードラマがとりわけ強い『テイルズ オブ』ならではだと思います。

――富澤さんはいかがでしょうか。

富澤:今、石川くんが言ってくれたのは、ゲームにおけるハイライトのひとつだと思います。逆に言えば、そこに向かっての積み上げの部分、数十時間をかけて味わう部分にも『テイルズ オブ』らしさがあると思います。具体的に言えば、やはりスキットですね。

スキットとは、『テイルズ オブ』で冒険の途中に楽しめるキャラクター同士の会話のこと

富澤:これだけたっぷりと会話を用意しているRPGはなかなかないと思いますし、それをシリーズ独自の要素に昇華させてきたというのは大きいですよね。

ちょっとした隙間に交わしている会話が見られることで、普通なら設定にしか書かれていないようなキャラクターの背景や思想を知ることができて、気が付いたら愛着が湧いているんですよ。だからこそ、一騎打ちなどのシーンがよりアツく感じられるんだと思います。

石川:物語を書くときの議論として、読み手の視点はどこにあるのかという話があるじゃないですか。スキットを見ているときは、自分も何人目かのパーティーメンバーとして聞いている感じがして、すごくいいですよね。

富澤:プレーヤーはこのゲームにおける何なのか、という話は実際に制作しているときもよくするんですよ。『テイルズ オブ』の場合はキャラクターたちの親でもなければ神でもなく、ある意味同じ部活やサークルの一員のような距離感なんですよね。言葉を交わすわけではなくても、常に一緒にいて、その輪の中にいてもいいような感覚というか。

石川:もちろん、人それぞれご自由に『テイルズ オブ』を遊んでいただきたいのですが、スキットを全て見る方と、ひとつも見ない方ではどうしてもキャラクターの感じ方が変わってきてしまう側面があると思います。キャラクター達への思い入れの強弱から、ゲームのエンディングやラストダンジョンへ挑む時の意気込みも変わってくるのかなと想像します。

それこそ最新作『アライズ』のダウンロードコンテンツ『Beyond the Dawn』でも、スキットを見ていると、新たに登場したナザミルのことが他人事には思えなくなって、すごく共感してしまうんです。

『Beyond the Dawn』では新キャラクター・ナザミル(画像右)が登場するスキットも

――ちょうどお話が出たところで、最新作『アライズ』のストーリーの魅力についても伺えればと思います。

富澤:『アライズ』も、ここからシリーズに入っていただく方への目線を強く意識したタイトルです。ストーリーラインについても、パッと聞いてその世界観やキャラクターに興味を持っていただけるような入りやすさにこだわりました。

敵はシンプルに倒すべき存在として描きつつ、ダナとレナというふたつの星や人種が抱える問題を両人種の混成パーティの中で深く描いています。もちろん単に敵を倒せばいいのではなく、その先に残されたものについてパーティは常に考え続ける。そこが本作の味わいでもあります。痛みを感じない主人公と触れるだけで痛みを与えてしまうヒロインという組み合わせもわかりやすくして、ドラマとゲームプレーが止まらずに進んでいく展開を意識しましたね。

――先日配信されたダウンロードコンテンツ『Beyond the Dawn』について、見どころとなるのはどんな部分でしょうか。

富澤:ナザミルがかわいいところですかね。

石川:それはそうですね(笑)。

ナザミル

富澤:『アライズ』が完成した時点ではその先を作ることは決まっていなくて、残された課題はあるけれども希望は持てるようなエンディングで物語を締めていました。ただ、皆さんからのお声もあって、続きのお話を作る機会をいただけたんです。

そうなると、描くべきはその後の世界に残された、人の心にある問題なんですよね。それをより象徴的に描くために、キャラクターやドラマを中心に設計を固めていきました。当初の想定よりドラマのボリュームも増えて、まさにPRの場で使った「劇場版『アライズ』」という表現にふさわしいものになったかなと思っています。

共感できるキャラクターが見つかるRPG

――最後に、まだ『テイルズ オブ』に触れたことがない方へのメッセージをお願いします。

石川:絶対にこれはおすすめ、という作品があるわけではなくて、いい意味で人それぞれだと思っているので、どれから触れていただいても構いません。キャラクターデザインが好きという入り口でもいいですし、友達に勧められたでも、好きな声優さんが出ているからでも、何かしらの理由で触れていただければ、どの作品でも『テイルズ オブ』らしさを楽しんでいただけると思います。

シリーズに共通して言えることとして、仲間になるキャラクターたちのうち、絶対に誰かひとりは共感できるキャラクターが見つかると思います。そういったキャラクターを見つけてもらえたらストーリーにも入り込みやすくなりますし、スキットやイベントシーンでの言葉など細かな部分にも注目してもらえれば、より深くストーリーを楽しめるはず。ぜひ推しキャラを見つけて楽しんでください。

また、「Tales of YouTube Channel」では、ファンの皆さんから募集した『名シーン』をご紹介していますので、そちらもぜひご覧ください。

富澤:推しという点で言えば、いわゆる箱推しの方でも楽しめるのが『テイルズ オブ』だと思います。仲間だけでなく敵となるキャラクターたちとの関係性もしっかりと描いているタイトルだからこそ、誰かひとりを選べないくらい、キャラクターやその世界を好きになれるんです。

自分も画面越しとはいえ仲間たちと一緒に悩み成長してきた数十時間、その先に答えが見つかるクライマックスでは、強い感動が味わえると思います。昔からRPGを遊んでこられた方ならそういった経験をされたことがあると思いますが、『テイルズ オブ』は今もそこに真っすぐ向き合い続けています。

今後も全作品の魅力をお届けしていくのが我々の仕事ですので、興味を持っていただけたらうれしいです。

『テイルズ オブ』シリーズ最新作
『アライズ』+『Beyond the Dawn』バンドルパック

の詳細を見る!

【取材後記】
小学生時代に兄と一緒に『テイルズ オブ デスティニー』や『ファンタジア』をプレーしたころ、キャラクターたちに強く感情移入し、終盤での展開に胸を熱くしたことを思い出すインタビューでした。仲間たちとの距離感が部活やサークルの一員になったよう、という表現はシリーズのキャラクターに感じていた親近感にピタリとはまるようで、強く頷いた部分です。

自分も『アライズ』で久しぶりにシリーズをプレーしたクチなのですが、今回を機に『ベルセリア』のプレーをはじめたところ、インタビューでも名前が挙がっていたベルベットとライフィセットの関係性に序盤から胸を打たれました。過去のシリーズ作品を遊んだ人ならワクワクする名前も序盤から多数登場し、動きの気持ちよさと演出の派手さを備えたバトルも爽快なので、久々にプレーされる皆さんには個人的に『ベルセリア』をオススメします!

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。

TALES OF™ Series & ©Bandai Namco Entertainment Inc.
©いのまたむつみ
©藤島康介