1995年に誕生し、現在もバンダイナムコの主力RPGとして愛され続けている『テイルズ オブ』シリーズ。後編となる今回は、海外やモバイルでの展開、さらには新たなプレイヤーを獲得するための施策などを伺い、『テイルズ オブ』シリーズの現在と未来に迫ります。
前編の記事はこちら:バンダイナムコ知新 「第4回 RPG~『テイルズ オブ』シリーズの軌跡 前編」 岡本進一郎氏、吉積信氏、豊田淳氏、樋口義人氏、柳沢直幹氏、有働龍郎氏インタビュー
第4回 RPG~『テイルズ オブ』シリーズの軌跡 後編
吉積信
初期の『テイルズ オブ』シリーズに携わった重鎮の1人。『テイルズ オブ ファンタジア』から『テイルズ オブ エターニア』までセールスプロモーターを担当。『テイルズ オブ デスティニー2』以降は開発プロデューサーに転向し、『テイルズ オブ シンフォニア』や『テイルズ オブ ジ アビス』などをプロデュース。現在、バンダイナムコ セブンズ にてライツ&プロモーション担当。
富澤祐介
現在の『テイルズ オブ』シリーズのIP総合プロデューサー。バンダイ所属を経てバンダイナムコゲームス(当時)に異動後は吉積氏のチームで『GOD EATER』シリーズの立ち上げなどに従事したあと、『テイルズ オブ ヴェスペリア REMASTER』より『テイルズ オブ』シリーズのプロデュースに携わる。現在は最新作『テイルズ オブ アライズ』のプロデュース、『テイルズ オブ』ブランド全体の統括とIP戦略の推進を担当。
池野泰広
『テイルズ オブ ザ ワールド ダイスアドベンチャー』、『テイルズ オブ シンフォニア ユニゾナントパック』を制作後、モバイルの『テイルズ オブ リンク』に携わり、現在は『テイルズ オブ ザ レイズ』のプロデューサーを務める。プログラマー出身で、以前は『フットボールキングダム トライアルエディション』、『LoveFOOTBALL 青き戦士たちの軌跡』などのサッカーゲームの開発に従事していた。
田川智美
現在、『テイルズ オブ クレストリア』を開発中のプロデューサー。モバイルの『テイルズ オブ キズナ』からシリーズに携わり、その後『テイルズ オブ アスタリア』の制作を経て、現在に至る。以前は『FRAGILE~さよなら月の廃墟~』などRPG作品の開発に携わった。『テイルズ オブ』シリーズは入社前からプレイしており筋金入りの『テイルズ オブ』好き。
竹田奈穂
現在の『テイルズ オブ』シリーズ、『GOD EATER』シリーズの海外マーケティング担当。欧米版『Tales of the Abyss』、『Tales of Graces f』以降の海外発売タイトルに携わる。開発側との調整、戦略、施策提案、イベント対応など、海外マーケティング関連の諸々の業務を担当。入社前、初代『テイルズ オブ ファンタジア』からプレイしていたという『テイルズ オブ』ファン。
根岸麻衣子
『テイルズ オブ』シリーズのお祭りイベント「テイルズ オブ フェスティバル」や、舞台公演「テイルズ オブ ザ ステージ」など、シリーズのイベントを長年担当するイベントプロデューサー。ナムコには家庭用ゲームの営業として入社、プレイステーション2用の『テイルズ オブ シンフォニア』に携わったのがシリーズへの最初の関わり。その後、『テイルズ オブ』シリーズの攻略本を担当し、商品化のライセンスアウト業務を経て、現在まで『テイルズ オブ』シリーズのイベントの企画・運営を担当している。
毎年1タイトルの発売を支えた開発体制
――前編では、吉積さんが深く関わられていた、『テイルズ オブ』シリーズ(※1)の10作目『テイルズ オブ ヴェスペリア』(以下『ヴェスペリア』)(2008年)まで約14年間のお話を伺いました。その総括から始めたいと思います。初代『テイルズ オブ ファンタジア』(1995年)の開発当時は、スタッフを集めるだけでも大変だったというお話でしたが、軌道に乗ってきたのは、どのへんのタイトルからでしょうか?
※1 『テイルズ オブ』シリーズ
ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)より発売されているRPGシリーズ。第1作『テイルズ オブ ファンタジア』が1995年に誕生して以来、本編と外伝を含め、現在まで60本以上のシリーズ作品が発表されている。アクション性の高いリニアモーションバトルシステムや、初期の作品から音声や主題歌を導入しアニメ的な手法を採り入れているのが特徴。
吉積:最初はうちと日本テレネットさんが組んで作っていたわけですけど、4作目『テイルズ オブ デスティニー2』(以下『デスティニー2』)(2002年)や、5作目『テイルズ オブ シンフォニア』(以下『シンフォニア』)(2003年)を作り始めて、開発ラインを2ラインにして安定して出せるようになった。あのあたりからじゃないですかね。
――わりと早い段階だったんですね。
吉積:安定して定期的に作れる体制を作らなきゃいけないという使命があって、そのために開発ラインを2ラインに増やすということをやりました。
――そのためにスタッフを増やしたりなどはあったのでしょうか?
吉積:当初ナムコ側のディレクターは4人くらいでしたが、当然それでは足りないので、社内でスカウティングをしました。ディレクター候補として、RPGが好きとか、RPGプレイ経験が豊富とか、まずそういう人間を増やしましたね。現場である日本テレネットさんとも、2ラインを引くためにはどうしようかとか、どんなスタッフが必要かというのを話し合った。最初は2ラインを兼任している者もいましたが、それを徐々に専任にしていきました。2000~2001年ぐらいのことですね。
――2ラインというのは、1年に1本位でのペースを想定で?
吉積:そう。希望としては1年に1本だから、1ラインが2年ごとに1本出していく感じ。それが、2ラインだから1年に1本になる。その後、今度は2Dと3Dのタイトルでさらに分かれていくんです。まぁ正直、この制作システムは終わっていくんですけど……。世の中も3Dが主流になっていったので。
――2ラインあった2Dチームが、一気に3Dチームに吸収されたということですか?
吉積:吸収というか融合していった。厳密に言うと、1タイトル走りながら、もう1つの企画を立てるということを内部的にはやっていましたね。完全な2ラインではなくて、1つのチームの中で分けていました。
――『テイルズ オブ ファンタジア』を皮切りとしたRPGタイトルが、25年経った今も続くタイトルになるとは予想していましたか?
吉積:そうあって欲しいとは思っていました。プレイヤーの皆さんの好みは、時代と共に変わっていきますし、「続くといいなあ」と思いつつやってきました。結果的に25年も続いているのは、とても感慨深いですね。
――単発作品と比べての苦労を聞かせてください。
吉積:1つ1つのタイトルは、テーマ性を作るところであるとか、キャラクターを作るところであるとか、毎回新しいもの(単発作品)を作っていくことと変わりません。ただテーマ性のエバーグリーンなところや、敵味方が対峙するんだけど敵側にも戦う理由があるという、そんな世界に主人公が身を置いて成長していく物語……といった『テイルズ オブ』ならではの変わらないベースはありました。だから、まったくゼロから作るものではないけれど、毎回企画は立てるし、新しいテーマを盛り込むというところは苦労しました。
――シリーズものだからスムーズにいくというのではなく、毎回、新作を作るのと同じ苦労と努力があるということですね。
吉積:はい。変えずにいこうとみんなで申し合わせた部分と、毎回新しいものを盛り込もうという部分を共存させる必要があるため、その組み合わせの良し悪しが発生します。今回のテーマにこの要素は合わないとか、このキャラクターはどうだとか、そういうことは毎回ゼロから考えている。その上で、毎年1本出していたわけですから、相当プレッシャーもあったし、大変だったなぁと思いますね。
国内とのタイムラグから試行錯誤した販売戦略
――国内でファンのハートをがっちりつかんだ『テイルズ オブ』シリーズですが、近年は大勢の海外ファンからも熱く支持されていますね。
吉積:2作目『テイルズ オブ デスティニー』(1997年)ぐらいからローカライズはやっていましたが、『テイルズ オブ』シリーズはテキスト量が莫大なので、時間がすごくかかってしまうんですね。
最初のころ、日本とは違って海外ではあまり売れなかった。当時は、「ゲームで大量の文字を読みたくない」というアメリカ人からの意見もありました。今はどうですか?
竹田:今って、英語音声と日本語音声が両方入っているんですよ。欧州にも北米にも、日本語の声優さんの声でプレイしたいという人が多く、ずっと熱いリクエストをいただいていました。ただ、やはりアメリカなどの英語が母国語の地域では、英語音声でやる人が多いようです。「字幕を読まずにプレイしたい」と。母国語での音声が入っていれば、そのほうがスムーズにナチュラルに進めますからね。
吉積:最初は海外でヒットしなくて、我々は「『テイルズ オブ』のキャラクターや世界観は海外ではウケないのかな」と思っていた。その後も要望があるなら作るけど……という感じで、海外版の制作はわりと消極的だったんです。でもまあ、世界中に好きな方がいらっしゃって、徐々に海外での人気も上がっていったので、じゃあ本格的にやっていこうかという流れになっていったんですね。
竹田:『Tales of Graces f』(以下『Graces f』)(2012年)だと、北米版の発売から欧州版の発売まで半年近く開いていたり。今とは実装言語数がまったく違っていて、英語、フランス語、ドイツ語……と、欧州で特に市場が大きいとされる3言語だけの対応でした。
吉積:やはり、最初から全世界で売ることを前提として作っているRPGではないので、当時は日本版が終わってから海外の対応をするしかなかったんですよ。まあ、今は違いますけどね。
富澤:そのために、今は大変な苦労(※2)をしています(笑)。
※2 大変な苦労
『Tales of ARISE』では、完全新作として初めて日本語/英語ボイス実装。テキストは日本語、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語、ブラジルポルトガル語、南米スペイン語、韓国語、繁体字の11言語翻訳で同時発売を目指して開発中。
吉積:当時はコンセプトが海外にウケけるのか自信がなかった時代なんでね。10代の若い男女が出てきて世界を救う話というのは、なんとなく「海外ではウケないのかな」と思っていた。「日本でウケたものをそのまま持っていってもダメなのかな?」と疑心暗鬼で……。
――今では海外でも『テイルズ オブ』シリーズが多くのファンに求められることがわかってきましたが、竹田さんが関わられるようになったときはいかがでしたか?
竹田:私の認識としては、特に『シンフォニア』はコアなファンがワールドワイドにいらっしゃって、こちらがちゃんと届けさえすれば遊んでくれる。けど、日本と比べると、ファン以外の人には認知されていないという感じだったと思っています。『Graces f』以降、日本のものをそのまま海外に出してはいますけど、やはり1年半も開いてしまうと、プロモーションは完全に別なんですよね。
コアユーザーは、日本の記事も全部翻訳して、海外版の発売前に内容を知っていたりする。ですので、日本で行ったプロモーションをそのまま海外でも、とはいかない。海外に展開するに当たっては、そういったコアなファンの方々の力も借りつつ、『テイルズ オブ』シリーズを知っているけど遊んだことがないとか、知らないけどRPGは好きとか、そういう新規層の方たちにどうやって届けるかというのを模索して、欧米のセンスや現地の映像クリエイターの力を借りて海外用に別の映像を作ったりしていました。
吉積:好きなお客様は、海外版が出る前に日本語版を手に入れちゃうんですよ。
竹田:わざわざ輸入して遊んでくれていたりするんですよね。
吉積:だから、コアなお客様に届けたいんだけど、どうしてもタイムラグが生じてしまう。だからといって当時は、英語版やフランス語版を同時進行で出すには開発のマンパワーが全然足りていなかった。のちにどんどん前倒しにして、日本語版のテキストが出来たらすぐに「翻訳して!」という感じになりましたけど、当時はそういう発想があまりなくて、全部終わってから出していました。
竹田:そういうこともあって、ゲームの中身は変えないけど、何か新しいものを待っていてくれた海外のユーザーさんに提供したいという思いがありました。
たとえば欧米版『Tales of Xillia』(2013年)と『Tales of Xillia2』(2014年)の限定版では、日本版とは違う、頭身が大きいフィギュアをつけました。どちらも発売が日本版の2年後だったので、バンプレストさんが国内で一番くじの景品として作っていたものを交渉して海外用に再生産してもらいました。このあとからですね、日本語版と発売日を近づけていただけることになったのは。
『テイルズ オブ シンフォニア ユニゾナントパック』(以下『シンフォニア ユニゾナントパック』)(2013年)の海外版『Tales of Symphonia Chronicles』(以下『Symphonia Chronicles』)(2014年)では、日本で使ったちびきゅんキャラをつけて限定版を出しました。このとき初めて海外版に日本語音声が一緒に入りまして、海外のユーザーが英語か日本語かを選んで遊べるようになったんです。あれはチャレンジングな仕様でしたね。
池野:ですね。音声については吉積さんがチャレンジしたいということをずっとおっしゃっていて。
吉積:海外のお客様って、日本語版の声優さんは素晴らしいというのをよくご存じなんです。日本語はわからないけど、声が全然違うとか、芝居が違うとか。日本語版の声優さんは特にスキルが高いので、英語の字幕を出しつつ日本語の音声で遊びたいという人も多い。
竹田: 2013年ごろだったかな、フランスで行われたJapan Expoで『テイルズ オブ シンフォニア』のOVAの映像を使い、ロイドの喋っているシーンをロイド役の小西克幸さんにステージで生アフレコしていただいたことがありました。会場の皆さんが感動のあまり泣いていて、本当に小西さんに来ていただいて良かったと思いました。
だから、遊んでいただける環境のオプションが増えるというのは大事ですよね。『テイルズ オブ ゼスティリア』(以下『ゼスティリア』)からはブラジルポルトガル語や、欧州と南米のスペイン語が別に入っていたりとか。あとSteamでの展開もしていますけど、ロシアエリアはPC市場が強いんで、PC展開を始めた『ゼスティリア』から、ロシア語も入っています。
富澤:海外版『Tales of Zestiria 』(2016年)からは10言語対応ですからね。それまでは6言語でした。
――言語の翻訳は、現地の方にお願いしているのでしょうか?
竹田:アメリカと欧州言語に関しては、それぞれ現地にプロダクションチームがいまして、日本のプロダクトマネージメント部と一緒にローカライズを担当しています。アメリカのほうは、英語音声の収録も担当してもらっています。
――では海外版のキャスティングのほうも、そちらで……?
竹田:そうですね。現地の人が、日本版の音声を聞いたりキャラクター設定を見たりして、「この人がいいんじゃないか」という候補を送ってきてくれますが、基本は現地の感性をベースに決めてもらっています。
――限定版にフィギュアやサウンドトラックをつけようとか、そういう戦略は竹田さんのアイデアなのでしょうか?
竹田:基本的に欧州・北米の販社にブランドマネージャーというマーケティングを考える社員がいて、そういったスタッフたちと一緒にアイデアを出しつつやっています。
――池野さんも『Symphonia Chronicles』で竹田さんと一緒に海外展開に関わられたのでしょうか?
池野:そうですね。日本版の『シンフォニア ユニゾナントパック』のときも、昔のタイトルをプレイステーション3に持ってくるということで、付加価値をどうつけようかというのは非常に悩むポイントでした。それを海外で出すということで、さらにサントラと、スチールブックをつけることにしましたし……
竹田:過去のタイトルで普通は、欧米限定版につけているサントラって大体1枚ぐらいなんですけど、このときは確か北米は4枚、欧州は2枚(※収録楽曲数は同じ)つけていましたね。
池野:日本では『シンフォニア』、『テイルズ オブ シンフォニア -ラタトスクの騎士-』(2008年)ともに、それぞれ4枚計8枚のサントラがあったのですが、収録楽曲の選定と再生順番を僕が決めていました。実は日本のサントラってゲームの進行に沿ってなかったんです。旅立ちから、行くマップ順になって、最後にエンディング曲……と続いて欲しかったけど、そうなってなかったんで、もったいないと思っていた。それを全部「僕が順番を決められる! やった!」と喜んでセットリスト作りました(笑)。あのサントラは今でも僕の宝物です。
竹田:良いサントラでした! ありがとうございます!(笑)
池野:海外から、そういうアイデアが欲しいと言われていて、いろいろ考えましたね。竹田さんと2人で連携しながら、時差のある中でがんばって。海外との連携なんで、電話できる時間が日本とはズレちゃうんですよ。
竹田:そうなんですよねー。夜からしか欧州とは話ができないんで。海外タイトルに携わっていると、日本時間の16~17時以降からまた第2フェイズが始まるんです(笑)。
キャラクターの魅力が、25年続く理由の1つ
――『テイルズ オブ』シリーズは、マザーシップタイトルと、それ以外のエスコートタイトルに区分されていますね。
※この後、既存の「マザーシップ」「エスコート」の区分は、新たにユーザーに提供するゲーム体験の違いを基準とした新たな区分「オリジナル」「クロスオーバー」へと改められることが発表されたが、本稿ではインタビュー収録時期の関係と、発話者の意図を尊重して旧区分のまま記載している。
吉積:以前から、『テイルズ オブ ファンタジア なりきりダンジョン』(以下『なりきりダンジョン』)(2000年)みたいな、携帯ゲーム機でも『テイルズ オブ』の世界が遊べる外伝的作品を作って、ユーザー層を広げている部分もあった。そして、だんだんそっちの需要が増えてきた。
吉積:あと自分、携帯ゲーム機好きなんですよ。ゲームボーイとか大好きで。家より外でやるほうが、RPGの質にも合っているんじゃないかと。どこでもできる、いつでもやめられる、そういった携帯ゲーム機のタイトルも積極的にやりたいなあと。それで『なりきりダンジョン』とか、「エスコート」タイトルが始まるわけです。
――タイトルの垣根を超えたオールスター的なキャラクターの登場も魅力ですよね。
吉積:「エスコート」タイトルがオールスター的内容になっているのは、遊んでいるタイトルが抜けている人に対して「このキャラクターって何?」と興味を持ってもらって、「マザーシップ」タイトルを遊んでもらうという狙いもあります。コンプリート欲をかきたてるというか。もちろん、キャラクターにより愛着を持ってもらって、ずっと可愛がってもらいたいという願いもあります。
――家庭用ゲーム機とモバイルの両方で『テイルズ オブ』を作られている池野さんにお尋ねしたいんですが、モバイルとかPCとか、据え置き家庭用ゲーム機とは異なる作品を作っていく難しさをお聞かせください。
池野:アプリゲームとか運営タイプのものって、「お店」を作るというような感覚なんですよね。不相応なでかい店作っても大変なので、何年か継続して運営できるような適度な規模感で、そこに充実した商品ラインナップを置いて、飽きさせないように適宜追加していく。何年やれるか最初はわからないけど、何年かやらないといけない。そういう点で、家庭用とは開発の発想も違うし、リリースしたあとの休めなさとか(笑)。
一同:(笑)
――ユーザーさんの反応によって変えなきゃいけないところもありますよね。
池野:はい、変えなきゃいけない。でも、言い方を変えれば、それを変えられる良さもある。ちょっと建てつけの悪い店をオープンしても、建て直すことができる。お客様の反応を見ながら楽しめる良さもありますし、家庭用ゲーム機とモバイル、両方制作に関わったのはいい経験になっています。
吉積:大変なのは、やっぱり端末のスペックがどんどん上がっていくことですよね。グラフィックの解像度がどんどん上がっているじゃないですか。
池野:限られたスペックの中でどうやって『テイルズ オブ』シリーズらしさを表現していくかというところから、時代とともにこの5~6年位で急激にぐっと変わってきましたね。
田川:最初にモバイルで出した『テイルズ オブ キズナ』(2011年)はカードゲームでした。プロダクションI.Gさん(※3)にイラストを描き下ろしていただいたときに、やっぱり『テイルズ オブ』ってすごい作品だなぁと改めて思ったのが、イラスト1枚を見るだけでも思い出がすごく想起される。キャラクターの表情とかポージングとかだけでも、遊んだ人だったらプレイしていた日々の思い出が蘇る。そのときは完全にファンのお客様向けに、あのとき好きだったキャラクターをたくさん集めて育てて強くして……という、コレクション寄りの目線の「エスコート」作品でした。なので、隙間の時間でも楽しんでいただけるような作品に……っていうのがスタートラインだった。
その後に『テイルズ オブ アスタリア』(以下『アスタリア』)(2014年)という作品をスマートフォン向けアプリにするときに、端末の表現力が上がって、やっと音声や主題歌、シナリオも入れられるようになって……。
※3 プロダクションI.G
『テイルズ オブ』シリーズのゲーム内ムービーを担当したアニメ制作会社。
――端末の性能が、ようやく『テイルズ オブ』シリーズの内容に追いついた感じですね。
田川:時代の変化に沿うように、ちょっとずつ進化をし続けられたかなという感じですね。当時の主流だと、ソーシャルゲームと呼ばれるタイトルは、サイクルを無限に回して育てるだけで、一生終わりがないみたいなものがほとんどだったんですが、せっかくRPGなんだから、『アスタリア』はちゃんと成長の物語が体験できて、エンディングがあるタイトルにしようと思いました。そのときに「じゃあ、ここでサービスが終わるのか?」という話が出てきたので、 章立てにして、また新しい物語を展開していこうという流れが生まれて……。
――ネットワーク(通信)という手段を得たことによって、『テイルズ オブ』シリーズはどのように変わっていきましたか?
田川:『アスタリア』では「共闘」という、お客様が20人くらい同じ部屋に入って、ワイワイ喋ったりスタンプを押したりしながら、自分のデッキでバンバン乱戦できるという要素がありました。『テイルズ オブ』シリーズは仲間が一緒に戦ってくれる乱戦っぽい雰囲気も楽しいと思うんですが、それがAIじゃなくて、いろんな人のデッキで乱戦して、強いボスを倒す。それがすごく盛り上がっていて、そういう新しさはありました。
池野:そのあたりは『アスタリア』特有な部分も実はあります。アンケートを取ると、『テイルズ オブ』ファンの特色なのか、1人で遊ぶのが大好きな方が多くて、特にプレイヤー同士の対戦、ランキング形式のイベントはちょっと……という意見も多いんです。
――人との優劣をつけるのがあまり好きじゃない、ということなんでしょうか?
池野:それは感じますね。ギルドでワイワイするとか、自分が育てたキャラをみんなで慈しみ合うとかはアリなんですね。『テイルズ オブ』シリーズに求められる遊びの理想像は、少し難しいところではあると今でも感じています。
富澤:スマートフォンでもそうですし、家庭用も基本的に「マザーシップ」タイトルは1人でプレイするものだ……という印象は、まさにこの25年の歴史が作ってきたところもあるのかもしれません。ただ、バトルで友だちと一緒にローカルマルチプレイできるという昔からある仕様は、「お兄ちゃんがやっているところを私はバトルだけさせてもらって楽しかった……というのがシリーズに触れたきっかけでした」という効果は与えていたと思います。ただ、チャレンジしたいとは、制作サイドみんな思っていて。オンラインで『テイルズ オブ』シリーズ的な良さをどう出していくかという。
吉積:プレイヤーが競って順位を争ってもらうようなものができないと、運営上は大変ですよね?
池野:そうですね。でも幸いこれだけ歴史があって、これだけ魅力的なキャラクターがいると、ユーザーの皆さんの愛情がすごい深い。20年以上経っても未だに、我々が見ても色あせていないところもありますし。『テイルズ オブ』シリーズならではのやり方はあるとは思っています。
富澤:まさにその、キャラクターに対して深く持っている愛情を共有し合う場みたいなものを、ユーザーさんは求めているなという感覚はあって。イベントなどで、ユーザーさんの素晴らしいコミュニティーの姿を見ることができますし、決して戦い合いたいから集まっている人たちではないということは明らかです(笑)。
池野:そういう意味では『テイルズ オブ』シリーズってすごく恵まれている。25年経っても続いている要因の1つだと思います。
スタッフ、声優、観客が一体となって作り上げる「テイフェス」
――毎年開催されている「テイルズ オブ フェスティバル」(※4)(以下、テイフェス)を中心に、イベント関連のお話を伺います。初めから『テイルズ オブ』シリーズ単独の、という形でイベントがスタートしたのでしょうか?
※4 テイルズ オブ フェスティバル
『テイルズ オブ』 シリーズのファンイベント。出演する声優陣によるトークショー、新作発表、生ライブなどが楽しめる。2008年より毎年開催。
レポート記事はコチラ シリーズの過去と未来がひとつの場所に!! 「テイルズ オブ フェスティバル 2019」
根岸:かつてジャンプフェスタで『テイルズ オブ』のブースがあって、そこで声優さんを呼んだのがきっかけじゃないかなと思います。
吉積:キャラクターの人気ランキングをやったんですよね。ランキングに入った声優さんに出演依頼の連絡をしたんですけど、ほぼ全員が出演してくださって、びっくりした。そこからなんです。
根岸:そうですね、これならイベントとして成立できるんじゃないかということで、テイフェスにつながっていったんですよね。
吉積:会場を借りて、声優さんに来ていただいて、実際にその場で声を当てていただいたらおもしろいんじゃないかと。「みんなが印象に残っているあのシーンをここで再現してもらいましょう!」と、後ろに映像を流しつつ朗読劇をやったら、みんなすごく喜んでくれて。知っているストーリーなんだけど、生でここだけの朗読劇が聞けるという魅力があったので、それを中心にやりましょうかと。
――テイフェスは今では、スペシャルスキットの他にもいろんな企画がありますが、どのような感じでコンテンツを決めるのでしょうか?
根岸:イベントでは毎回お客様にアンケートをとっており、それには必ず目を通してます。お客様から好評だった企画や、毎年イベントの「テーマ」があるので、それに沿った企画を考えてます! 2019年のテイフェスでは「アート」というテーマに沿って「絵描き歌」のコーナーをやりました!
事前に司会の声優さんにイベント企画のご説明をして、意見交換をしつつ、「こうやったほうがおもしろいのでは?」という協議を重ねてイベントを作っているので、お客様だけではなく、ご出演いただく声優の皆様にも楽しんでいただけてます。
また、発売から10年、15年、20年というような周年タイトルが毎年あるので、そのタイトルを中心に企画を組み、声優さんをアサインさせていただいております。
富澤:テイフェスは終わったあとにすごく前向きな反省会というか、いわゆる打ち上げみたいなことをやっているんですけど、ゼロス役の小野坂昌也さんやロイド役の小西克幸さんをはじめ、皆さん毎回のように参加していただいて、今年のあのネタの反応がどうだったとか、次は改善しなきゃとか、来年はここをもっと広げようとか、真剣に考えてくれるんです。
吉積:イベント運営に対する意見をくれるんだよね。
富澤:だからこそ、毎年一見似たようなことをやっていたとしても、ちゃんと違いが生まれている。「あの年のあのネタ最高だったね」とファンの方が何年も語り続けていてくれたり、ゲームだけじゃなかなか生まれないようなライブ感があります。
吉積:声優さん自身が楽しんでやってくれているのも嬉しいよね。
根岸:そうですね。テイフェスにご出演いただいている声優さんたちはサービス精神にあふれた方が多くて、本当にイベントを最大限盛り上げてくれるんですよね。おもしろく仕上げようという思いがあるのか、アドリブがすごくて「あれっ、こんなシーンあったかな?」って(笑)。当初お渡ししているスキット台本からだいぶアドリブが追加されているのも見どころの1つです(笑)。
富澤:絶対にそのままはやりたくない、みたいなプライドを感じるよね(笑)。
吉積:声優の皆さんは、ほんとにサービス精神が旺盛なので、ユーザーさんにも喜んでいただけています。我々スタッフ側にも驚いてもらおうとか考えてくれている。ありがたいですね。
池野:自分は2012年に初めてテイフェスを観たんですけど、そこで声優さんと、感動しているお客様と、制作している我々サイドが、一体になって盛り上げているのを目の当たりにしました。この作品はこういう人たちに支えられているんだなぁと、自分もがんばらなきゃいけないと焚きつけられました。テイフェスは僕の中で重要なターニングポイントでした。
竹田:最近は、海外から来てくださっている方お客様も多いんですよね。
――海外向けに日本のイベントのプロモーションはしているんですか?
竹田:してないので、多分日本のお友だちにチケットを取ってもらったりしているんだと思うんですけど、ありがたいですね。あとは、海外はファン同士のコミュニティーの力がすごく強くて、ワールドワイドにメンバーがいるコミュニティーがあるんですけど、そこのインフルエンサーに席をご用意して、記事を書いていただくこともあります。
富澤:コミュニティーの話でいくと、日本はまだ海外みたいにファンのみなさんとのつながりをなかなか作れてこなかった部分があって、変えていきたいと思っています。絶対そこにアプローチしていかないと、今後は立ち行かないかなと。それをしっかりやっているタイトルも出ている中で、『テイルズ オブ』シリーズはどうしようというのは、考え始めています。
イベントの話で言うと、2019年は初めてブランド単位でのファンミーティングをやったんです。お客様の顔が直接見える施策にやっとチャレンジできました。我々もいただけるものがすごくあったし、お客様からも「開発陣と話せるというのは今まであまりなかったので、すごく新鮮です」というお声もいただいているので、こういうアプローチはどんどんやっていくべきだという実感を強く持ちました。根岸さん、どんどんイベントを増やしちゃって申し訳ない(笑)。
根岸:いえいえ(笑)。
富澤:僕もファンの皆さんが喜んでくれている姿を見るのが好きなので、これから発売されるタイトルのプロデューサーにも、ユーザーさんと接する機会はどんどん持ってほしいです。
新作『アライズ』と『クレストリア』がチャレンジする部分とは?
――現在制作中の『テイルズ オブ アライズ』(以下『アライズ』)や、『テイルズ オブ クレストリア』(以下『クレストリア』)について伺います。『テイルズ オブ』シリーズは、タイトルごとにいろんなことにチャレンジしていますが、まずは『アライズ』について、明確に挑戦する部分と、守り通す部分について教えてください。
富澤:おっしゃる通り、継承するものと進化させるものとにもう一度向き合い直すことをテーマに開発しています。いきなりマーケティング的な話になってしまいますが、『アライズ』で目指すものの1つとして、ローカライズを重ねたことによって定着してくれた海外のお客様の数をもっと伸ばそうという部分があります。そして、若年層のお客様の獲得ですね。これだけ続くと、『テイルズ オブ』シリーズに入りにくいという意見も多いことが、調査でも明らかになっています。そこへのアプローチを『アライズ』でしっかりやらないと、今度はいつ入って来てくれるんだろうということになりかねない。その2つのテーマを、25周年という1つの節目で達成すべきだと考えています。 家庭用ゲームの完全新作として初めて世界同時発売のタイトルになるので、各国のマーケットを今まで以上にしっかり考えながら、物作りにフィードバックしていくという……。くわしい仕様はまだお知らせできないタイミングなので、ゲーム内容以外の「思い」の部分を語るしかないんですけど(笑)。
――今伺った「思い」は、立派なチャレンジング要素だと思います。
富澤: 一方で25年という長きにわたって支えてくださっている今のファンの皆さんにも納得のいく変化、進化でなくてはならない。そのために何をどう変え、どう残すのか。そしてその結果プレイしたあとに残る感情はしっかりと『テイルズ オブ』そのものであるという、ファンの方への「約束」は守っていくつもりです。そのためにクリエイティブだけでなく、ユーザーさんとのコミュニケーションも含めて我々も変わっていかねばならないと感じています。
――今出ている情報でわかりやすい変化といえば、ビジュアルの進化が著しいですね。このあたりの理由を教えてください。
富澤:ビジュアルの話をしますと、今回から、Unreal Engine 4(以下UE4)にベースシステムを変えています。そのままのUE4では『テイルズ オブ』が提供してきた絵作りとは異なったものになってしまうので、いかにUE4を使いながらも『テイルズ オブ』シリーズらしい雰囲気を出すかという部分をかなり綿密に考えて、ようやく今の絵作りに辿り着きました。
ただの水彩タッチというわけではなく、そこに光とか、陰影、空気感みたいな、もともとUE4が持っている特徴をかけ合わせることで、イラストの中なんだけど没入感があるという独自の体験ができることを目指しています。そういった部分には長い時間をかけて到達できたので、すごく期待していただける舞台ができたと思っています。
――続いて『クレストリア』についてお尋ねします。今回はスマートフォン向けタイトルとしては珍しい、オリジナルキャラクター中心の「完全新作」と伺いました。
田川:はい。本作は「スマートフォンから始める新しい『テイルズ オブ』」として、モバイル向けの最新作を開発しています。
モバイル向けの市場はこれからも存在していくと思っていますし、どんどんできることが広がっていて、まだシリーズに触れたことのない若いお客様もたくさん見えています。とはいえ家庭用ゲーム機とはスペックや通信環境、遊び方さえ違う中で、シリーズの持っている魅力を、現在のスマートフォン用に最適化し、詰め込んだ最新作として楽しんでいただけたらと考えています。
製品の位置づけとしても、運営型だからこそできるボリューム感で、『クレストリア』ならではの新しい楽しみ方をご提供できたらと考えております。
――今までのスマートフォン向けタイトルと比べ、変えようとしている要素は具体的にどういう部分でしょう?
田川:今までは、あくまで『テイルズ オブ』シリーズ作品を遊んだことのある人たちに向けて、みんなの知っているキャラクターや物語の追体験、そういった思い入れが蘇るということを楽しさとして提供してきました。ですが、このままでは『テイルズオブ』を知らない新しいお客様にも広く楽しんでもらうに当たってハードルがありますから……。
――従来のプレイヤーだけに向けずに、新たなユーザー層にもアプローチを試みていると。
田川:そうですね。ちゃんと新規のお客様も楽しんでいける新作を出したいですね。
遊んでみて興味がわいたら、「あ、こんなキャラクターがいるんなら、他のシリーズ作品も遊んでみようか」といった感じの入り口になるような作品を目指しています。そういった役割をしっかりと果たして、新しいお客様と『テイルズ オブ』シリーズの接点になれたらなと思っています。
――『クレストリア』も世界同時リリースなんですよね?
田川:はい。世界同時を目指しています。正直シリーズとしては モバイルの海外展開が遅れているなと思う部分があって、今までは海外のお客様にしっかりとお届けすることができていなかった。でも、ワールドワイドどこに行ってもダウンロードしたら遊べる環境にあるはずなので、海外のお客様にも同じように楽しんでいただけるようにがんばろう、と挑戦しています。
吉積:運営タイトルの海外展開は難しいですよね。。
池野:そして、海外のお客様ともコミュニケーションを取って、きちんと向き合い続けていかないといけないと感じています。ファンミーティングも海外でもやれればいいなって。
――『クレストリア』の海外イベントのご予定は……?
根岸:タイトル単独でのイベントは各タイトルで積極的に検討されているようです。『テイルズ オブ』シリーズはBGMも素晴らしいので、今、日本ではシリーズの歴代曲を演奏する「テイルズ オブ オーケストラコンサート」(以下オーケストラコンサート)をやらせていただいています。言語の壁がない音楽であれば、みなさん世界共通で「いい」と思っていただける。そういったところから、『クレストリア』に限らず海外のイベントも広げていけたらとは考えています。テイフェスも、もちろん海外での展開もできたらと思っているので、初めは少人数の声優さんでミニフェスなどを展開しつつ、海外でもやってみたいですね。
2019年12月にやった『ヴェスペリア』の舞台公演「テイルズ オブ ザ ステージ -光と影の正義-」が、いつものイベントよりたくさんの海外のお客様にご観覧いただいていた印象で『テイルズ オブ ヴェスペリア REMASTER』が海外で発売された影響かな、とも思っています。ゲームがワールドワイドで展開されると、海外のお客様にもイベントに足を運んでいただけたり、海外でのイベントのチャンスが広がっていくのかもしれませんね。
各部署が寄り添って作品を繋げる強みと、各部署が考える未来
――ゲームそのものを作る部署だけでなく、海外展開を担う部署や、イベント展開を担当する部署など、いろんな方々が寄り添って『テイルズ オブ』シリーズという作品を作り、つなげ続けていることがわかりました。そのあたりの強みについてお聞かせください。
富澤:1995年から家庭用ゲーム機を中心に始まった『テイルズ オブ』シリーズですけど、今こうして振り返って見てみると、まさに家庭用もあってスマホ用もあって、イベントもあって、さらに海外展開やグッズ展開など、お客様に届けるいろんなタッチポイントがあります。各部署が今それぞれの形でうまくキャラクターIPを活用して事業をしているのは強みだと思いますね。それに加えて、最近は定期的に各部署のメンバーが集まって話し合いをしています。週に何回も会いながら話しているメンバーもいたりで、そういったことができるのも強みかと。
――それは、富澤さんが音頭を取って集まって、「こういうことをやろう!」と話し合っているのでしょうか?
富澤:何だかわからないうちに、そういうことになりました(笑)。そういった課題意識は、どのタイトルを担当したときにも持っていたんですが、『テイルズ オブ』チームに入ったときに、いいところがこれだけある作品なので、もうちょっと各部署のみんなで話す機会を作ったほうが絶対いいよなという感覚はあったので。
我々がバラバラに進んでいたら、お客様に正しく伝わらない。我々が連携すれば効果は絶対に出るはずだと確信していましたので、事業部の垣根を越えて話す機会を作らせていただきました。
――そこでお話する内容というのは、多岐に渡るのでしょうか?
富澤:はい。小さいことも話すし、大きな数年越しの戦略も話します。今までにないフランクな関係性で、相談しに行くという感覚ではなく、気軽に話せるような場を設ける。「あの件、ちょっと聞いておこう」みたいな話だけでも問題が解決したり、アイデアが生まれたりということが日常的に起こる関係性の構築を目指したかったので、2019年からやらせてもらっているんですが、どうですかね?(笑)(突然皆さんに振る)
一同:(笑)
池野:富澤さんには本当にしっかり、ブランドマネージメントしていただいているという感じですね。していただいているというより、一緒にしているという感じがこちらとしてもあります。
富澤:そうあるべきだと思っています。今はお互い独立した部署ですが、どちらが売り上げが上だからどうということはないですしね。お互い『テイルズ オブ』シリーズにとって必要な要素を司っている仲間なので、関わる全員にそういう意識を持ってもらいたいんです。
――最後に、皆さんの考える『テイルズ オブ』シリーズが目指す未来についてお伺いできますでしょうか。
根岸:私の役割は、シリーズを支えてくださっているお客様にリアルな体験(イベント)の場を提供し、お客様同士のコミュニティーの場として使ってもらったり、ゲームをプレイした当時の記憶を改めて思い出してもらえる場所を作ることだと思っております。
それがキャラクターが一同に会する夢の祭典テイフェスであったり、音楽をピックアップしたオーケストラコンサートであったり、タイトルを深堀りした単独イベントだったり、舞台であったり……。
これからもいろいろな楽しみ方をお客様には提供していきたいと思っています。
田川:モバイルの先にいる新しいお客様たちと、もちろん家庭用時代から応援してくださっているファンの皆様も含めて、モバイルではどんな新しい遊び方が一番楽しめる形なのかというのを、コミュニケーションを取りながら、30周年までに1つの完成型を作りたいです。ゆくゆくは家庭用もモバイルもイベントも、それぞれの良さを追求しつつもどんどん垣根を越えて、IPとして楽しみ方をさらに広げられていたらいいいですね。その中に、もちろん海外のお客様も垣根なくカジュアルに加わっていただける状態を作れたらいいと思っています。
池野:僕は2つあります。1つは若いユーザーさんの獲得。若い子が、家庭用を通らずにゲームに触れるというのは数字でありありと出ているし、既存の『テイルズ オブ』のアプリで初めてこのシリーズに触れるという人も徐々に増えてきているんで、やはり我々の使命というのはそこにあると思います。
もう1つは、社内で『テイルズ オブ』シリーズの宣伝活動をしたい。社内でも『テイルズ オブ』シリーズを10~20年引っ張って行くような20代前半の人が出てきてもらいたいなと。社内でも魅力を伝えていって、このシリーズを長く続けるための屋台骨をちゃんと作っていかないといけないと思っています。
竹田:海外展開に関しては、社内と社外でそれぞれありまして。社内については、物理的に離れたところにいるアメリカや欧州などの担当者は、どうしても日本のチームに対して距離や壁を感じていると思うんです。ですから、誰しもが他国でがんばってくれている担当者を「同じチームにいる」と感じてくれるようなコミュニケーション体制ができればいいと思います。「これは自分が関わっているタイトルだ!」って、どこの国にいても誇りを持って売っていきたい、推していきたいと感じてもらえるような進化した体制を築きたいですね。
社外についてですが、海外でもコアなユーザーさんは小さいオフ会とかやっていると思うんですけど、そういうイベントにちょっと公式が絡めるような体制を築いて、ファンのコミュニティーの活性化へ貢献ができるようなシリーズにしたいです。
もう1つ言うと、日本でのアイテム展開は多いんですけど、海外でのマーチャンダイズがすごく少ない。ネットやSNSでグッズを見た方が、「これが可愛いんだけど、私の国では売っていないんだよな」となる状況がちょっと変わればいいと思います。
吉積:僕からは前後編通しての総括的な視点で話しますが、この記事、前編やって後編やって、内容がまったく違うじゃないですか。そこに、我々が25年間やってきた姿勢と歴史が表れていると思います。前編で出ていたのは現場の開発陣だったので、作っている話がすごく多かった。後編はどちらかというと運営の話がメインになっていて、これが「時代だな」と感じますね。もちろん、今、彼らがやっていることはすごく正しくて、お客さんにどういうアプローチするかをきちんと考えないと、商売としてもコンテンツとしても生き残っていけない。だからこそ、中身にすごくこだわって欲しい。もちろん、これは今が中身に力を入れてないという話ではなくてね(笑)。今も中身に重点を置いて作られているけど、これだけ大きく広がる世界だからより益々それを今後も忘れないで欲しいと思っています。がんばってね!
富澤:今日は素晴らしくいい日だなと思って話を聞いています(笑)。ここ数年で一気に広がってきた横展開と、その土台を作っていただいた黎明期からのクリエイティブと。今回、前後編通して様々な話がありましたけど、どの要素1つ抜けても今日という日はなかったと思っています。僕らはユーザーさんのためにも『テイルズ オブ』シリーズをブランドとして更に進化したものにしたいと思っているし、お互い足りないところは補い合いながらもっと強いブランドになっていかなくてはと改めて思いました。
そういう意味でも「『テイルズ オブ』シリーズの根幹って何だ?」といえば、やはり生きたキャラクターだと思っています。ゲームは25年前のものでも、キャラクターが未だにお客様の中で生きているという作品はなかなか普通では作り上げられない。その視点は確実に他のタイトルでは成し得ないものです。それはお客様がこのシリーズを好きでいてくれる1つの大きなファクターだと思っているので、今後の作品においてもキャラクターの魅力をしっかり守ったうえで、1つ1つどう時代に合わせて作っていくのか、それがクリエイティブとIP展開、双方に任された使命だと思っています。今日は自発的に皆さんから自分たちなりの未来図を聞けたので興味深かったです。普段みんなそんなことなかなか言ってくれないので(笑)。
一同:(笑)
取材/櫛田理子
『テイルズ オブ』シリーズの公式本などを担当してきたフリーライター。得意分野はテレビゲームや車など。バードウォッチングが趣味の1つ。
文/忍者増田
フリーライター。元ゲーム雑誌編集者。忍者装束を着て誌面やWeb上に登場することも多い忍者マニア。https://twitter.com/Ninja_Masuda
協力/ゲーム文化保存研究所(IGCC.JP)
https://igcc.jp/