バンダイナムコエンターテインメントには、新入社員が安心して働けるよう、入社後に充実した独自の研修制度があります。2020年度の、このコロナ禍の状況下において実施した大規模なオンライン研修と併せて、新入社員研修制度の実施内容やその狙いなどをうかがいしました。
ユニークな研修がたくさん! バンダイナムコエンターテインメントの新入社員研修制度
例年、バンダイナムコエンターテインメントでは新入社員に対して、通常のビジネス研修だけではなく、エンターテインメント企業らしいユニークな研修も実施しています。なかには「MANZAI研修」「バンダイナムコアドベンチャープログラム」など、名前だけで気になってしまう研修も。
そんなバンダイナムコエンターテインメントの新入社員研修制度について、人事部・滝川真菜さん、内田綾香さんにお話をうかがいました。
滝川 真菜
経営推進室 人事部
内田 綾香
経営推進室 人事部
バンダイナムコエンターテインメントの基本は「まずは自分が楽しもう」
――バンダイナムコエンターテインメントでは新入社員のために、入社後にさまざまな研修があるそうですね。まず、新入社員研修においてバンダイナムコエンターテインメントが大切にしているのはどんなことですか?
滝川:新入社員研修全体を通して言うと、「バンダイナムコエンターテインメント社員としてのマインドセット」が最大の狙いです。 5つのバリュー(行動指針)を意識しながら1か月間の研修を受けてもらえるような仕立てにしており、個人的には「まずは自分が楽しもう」というバリューを特に心掛けて設計・実施しています。
先輩社員たちは実際に、 「せっかく仕事をするなら、楽しんだ方がいい」「つらい局面も楽しく乗り越えたい」という想いを抱いて働いている人が多いんですよ。そのマインドやバリューを、新入社員にも研修を通して感じてもらうことを大切にしています。
――確かに、取材で社員の方々にお会いすると、皆さんいつも楽しそうに仕事のお話をしてくださるのが印象的です。新入社員の方には、研修を通してどのように成長してもらいたいですか?
滝川: バンダイナムコエンターテインメントの人材要件定義の中に、「自ら発信し周囲の意見を取り入れながら巻き込む」と、「どんな状況でもどうしたらできるかを考えやり切る」があります。これらは管理職や中堅社員だけでなく若手社員にも求められる力です。
新入社員も同じ会社の仲間として、この2つのテーマは心に持っておいてもらいたいもの。そのため新入社員研修にも、「自分から主体的に働きかけ、周りを巻き込んで1つの成果を出す」という目的のワークを意識的に組み込んでいるので、それを感じ取ってほしいです。
恥を捨てて自分を打ち出す! MANZAI研修
――2019年度には、全52名の新入社員がくじ引きでコンビやトリオを組んで、一日でオリジナル漫才のネタを作り、同期全員の前で披露する「MANZAI研修」が初めて実施されたとうかがいました。おもしろそうな研修ですが、どのような狙いがあるのでしょうか?
滝川:MANZAI研修の大きな狙いは、新入社員が自分の殻を破ることです。バンダイナムコエンターテインメントには「今の自分を、超えて行こう」「その一歩を、踏み出そう」というバリューもあります。新入社員も恥ずかしがらずに今の自分を超え、かつ新たな一歩を踏み出す勇気を持ってほしい、MANZAI研修がそのきっかけになれば……と考えました。
――オリジナル漫才は、恥を捨てて自分を打ち出すことが求められますもんね!
滝川: 全コンビ・トリオ、ネタ作りから実践まで本当に上手で、劇場に見に行った気分でした。例えば、「私たち、しばらくの間恋人がいないコンビなんです」という自虐ネタから「じゃあ将来に向けて、お見合いの練習をしてみよう」とコントに持っていくコンビもいれば、ほかの同期入社の子たちの話を題材におもしろくするコンビもいて、見事なまでに個性的でしたよ(笑)。
――人前で話すのが得意な人もいれば、苦手な人もいると思いますが、新入社員の皆さんの反応はいかがでしたか?
滝川:最初はみんな、「恥ずかしくて嫌だなあ」「ああ、ついにこの日が来てしまった」と、当日の朝まで緊張しているような感じだったんですが……(笑)。
くじ引きで決まったコンビでオリジナル漫才を作るには、自分と相手との共通点や違いを探すことが必要になるので、相手のことを深く知る機会になりますし、「同期を信頼して、自分の素の部分を見せられた」「同期の新たな一面がわかってよかった」という感想も多く、漫才をきっかけに仲良くなれたという声も聞きました。
――MANZAI研修が、同期のコミュニケーションツールとしても役立ったんですね。
滝川:そうですね。自分の殻を破るというのが狙いでしたが、同期の仲が深まったことが、副次的効果として大きかったなという印象です。研修を終え、「来年も絶対にやった方がいいです!」という意見も多数いただきました(笑)。
エンターテインメント企業に入る時点で、みんな根っこの部分に「人を楽しませたい」とか、「お客様を笑顔にしたい」という情熱を持っているはずなので、その情熱とMANZAI研修には、想像以上の親和性があったのかなと気づかされましたね。
2泊3日の合宿研修、BNAPで培うチームワーク
――バンダイナムコグループ全体の合同新入社員研修としては、「バンダイナムコアドベンチャープログラム」、通称BNAP(バナップ)というものが行われるそうですね。どのような狙いで実施されているのでしょうか?
滝川:約250人のバンダイナムコグループ全社の新入社員が、2泊3日の合宿形式で、軽井沢で行う研修です。例年の共通の目標としては、バンダイナムコグループ社員としてのマインドセットや、グループへの理解を深め、グループ社員としての視点を持つこと、他社の同期との絆や横のつながりを強くすることなどが挙げられます。
――BNAPには、どのような内容の研修を実施しているのですか?
滝川:全員が、各社混合の15人程度のチームに分かれ、ひとりずつトレーナーがつきます。同じチームに、違う会社の同期たちが集まっているイメージですね。そこで3日間の活動を通して、チームビルディングの重要性を認識してもらいます。具体的なワークの例としては、バンジージャンプなどがあります。
――えっ!? ずいぶんインパクトのあるワークですね!
滝川:崖から飛ぶようなすごいものではありませんが(笑)、高さ7~10メートルほどのところから、 高台と同じ高さに浮いているボールにタッチする勢いで、チーム全員ジャンプしてください、というような内容です。2016年度入社の内田さんも、BNAPに参加していたよね。
内田:懐かしいです……。ちなみに私のチームは、バンジージャンプじゃなくて綱渡りでした(笑)。
滝川:積み木のような板を、設計図通りにどれだけ早く組み立てられるかというワークもありました。これはチーム戦で時間を競うので、チームメンバーの協力や役割分担が重要です。
勝つための工程を戦略的に考えられる人がいるか、行き詰まったときに「頑張ろうよ!」と盛り上げられる人がいるか……など、1つの課題にチームでどのように成果を出していくかを見る内容のワークが、BNAPには多いですね。
――内田さんがBNAPに参加した際、印象深かったことは何ですか?
内田:当時は「新入社員にとんでもないことをやらせるな……」という印象でしたが(苦笑)。今思うと、自分の枠を超えて、チームのために一歩踏み出す勇気の重要性が理解できた気がします。
「ワークを達成することは、ひとりだけの成果ではなくてチームの成果。逆に、15人のチームで14人がバンジージャンプを飛べても、ひとりが飛べなかったらチームとしてはダメなんだよ」というチームワークの考え方を、BNAPではしっかり教えてもらいましたね。だからこそ、バンジージャンプや綱渡りでは、高所恐怖症の子を励ましたり勇気づけたりしながら、みんなで成功に向かうことができたんじゃないかな、と。
――BNAPは、仕事の現場で必要になる当事者意識やチームワークを、ユニークなアクティビティで養える研修なんですね。
滝川:BNAP後も交流が続くチームも多いみたいです。例えば、バンダイナムコエンターテインメントの社員がバンダイの仕事に興味を持った場合、BNAPで知り合った同期に「この事業部ってどんな雰囲気?」「こういう仕事ってバンダイでできそうかな」ということをヒアリングするなど、BNAPで会社の垣根を超えて築ける人脈を、自分のキャリアや夢に活用している人もいますね。そういったグループ会社の社員同士が繋がることにより、グループシナジーが生まれることを期待しています。
グループをまたいだ仕事や、グループ間での異動などもあるので、「BNAPを通して、違う会社の人たちともたくさん 交流を深めてね」というテーマは、各社の人事部が新入社員にしっかり伝えていると思います。
※MANZAI研修とBNAPは新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、2020年度は実施していません。
職種別研修で、業務に直結する知識を身につける
――MANZAI研修やBNAPのほかに、独自の新入社員研修プログラムがありましたら教えてください。
滝川: この2020年度に初めて、プロデューサーやマーケッター職に就く新入社員向けのマーケティング研修と、事業戦略や経営戦略などの管理系職種に就く新入社員向けの戦略管理研修という、職種別の新入社員研修を導入しました。
プロデューサーやマーケッターは、市場調査や分析が基本スキルとして備わっていてほしいため、例えばセグメンテーションやターゲティング、ポジショニングなどがきちんと理解できるよう、マーケティングの知識を習得する研修が中心で、管理系職種は、論理的思考能力や問題解決能力、ビジネス数字力などを強化する研修を主に受けてもらいました。
――どのようなきっかけで職種別研修の導入を?
滝川:きっかけは各部署のプロデューサーやマーケッター、管理系職種の先輩社員に、「新入社員のうちにどういう知識を備えておくと、配属後にスムーズに能力を発揮できますか?」という体験談や要望をヒアリングしたことです。
職種別研修の当日も、先輩社員にお願いして、新入社員にフィードバックやアドバイスをしてもらいました。「研修で学んだ一般的なビジネス知識を、バンダイナムコエンターテインメントの仕事とどう接続していくか」ということを、具体的に教えてもらいましたね。
――新入社員の皆さんの感想やリアクションは、いかがでしたか?
滝川:これまでは配属発表で自分の部署名や職種を見ても、どういうことをするのか実感が持てない人もいたようですが、職種別研修を受けて、さらに先輩の話を聞くと、「今日の研修内容は、先輩が話してくれた○○の部分で、自分も使えそう」と具体的にイメージが湧いたそうです。
また、「数字に苦手意識があるのに経営企画室に配属になって、すごく不安だったけれど……ビジネス数字力の研修を受講したため、自信を持った状態で配属先に行けそう」という意見などももらいました。不安を取り除く手助けになっていたら、嬉しいですね。
2020年度はオンラインで研修を実施。例年との違いは?
――先ほどお話いただいた職種別研修も含めて、2020年度はオンラインにて新入社員研修が行われたそうですね。オンラインと例年通りのリアルとで、特に目立った違いはどのようなところでしょうか?
滝川:例年との大きな違いは、リアルだと、同じ空間で空き時間に話をして自然に仲良くなれるところが、オンラインだと誰かにわざわざ連絡を取らないと話せないというところです。そこで研修を運用しながら、新入社員同士がコミュニケーションを取るためのワークを人事部メンバーも必死に考えていきました。特に内田さんには、すごく頑張って研修内容を考えてもらいましたね。
――人事部の方々も、臨機応変にオンライン研修への対応を模索されたんですね……! 具体的にはどのようなワークを考えられたんですか?
内田:同期のコミュニケーションの機会を作るという点で、新入社員同士が一対一で話をして、お互いを紹介する資料を作りましょうという「他己紹介」は意識的に追加したワークですね。
また、新規事業のアイデアを考えるグループワークも、オンライン化にあたって入れたものです。実際に「バンナムSEED」という、新規事業を企画立案して上層部にプレゼンする社内プログラムがあるので、それを新入社員用にカスタマイズしました。時間がない中で、実際の社内プログラムを新入社員研修に活用するというのも、チャレンジングではありましたが新しい試みの1つでした。
――では、あえてリアルでの新入社員研修と変えていない部分があれば教えてください。
滝川:バンダイナムコエンターテインメント人材として必要な「スタンス」と「ポータブルスキル」のインプット研修はオンライン上でもすべて取り組み可能ということで、リアルの研修と内容は一切変えていません。
特に「スタンス」は人材要件の中でも土台となる部分で、お客様を思い、笑顔・感動を届けたいという「情熱」、自分の可能性を信じ、使命感を持って挑む「覚悟」、支え合い、共に歩む会社・仲間に対する「誇り」についてオンライン上でシミュレーション体験も交えながらでもクオリティを落とさず、理解を深められたと思います。
――バンダイナムコエンターテインメント・宮河恭夫社長から、オンラインで新入社員の皆さんにメッセージ動画が送られたとお聞きしました。どのようなコミュニケーションがあったのでしょうか?
滝川:「せっかく入社してくれたのに、初めから在宅でひとりきりで仕事をするのは、すごく不安なんじゃないか?」と宮河社長が気にかけていて、ご本人の提案でメッセージ動画を作ることになったんです。その動画の最後に、「仕事に関する質問であれば何でも受けつけるので、僕に直接メールを送ってきて」という言葉が入っていまして(笑)。
――社長ご自身の発案で、新入社員の方々が社長と直接やりとりできるなんて、すごいですね!
滝川:そうですよね。そこで新入社員47名全員が宮河社長に質問を送り、そのすべてに丁寧な返信があったと聞いています。質問によっては、宮河社長が観に行ったライブの画像が返信メールに添付されていたようで、 パーソナルな部分を見せていただきつつ、真摯に向き合ってくださったんだな、と。
新入社員からは「社長のリーダーシップや行動力に感銘を受け、この会社に入ってよかったと改めて思いました」という感想をもらいました。 また、宮河社長にとってもこれまで携わってきたIPのことや、社会人として何が大切なのかなど、多種多様な質問内容がおもしろく、新鮮な経験だったとのことです。
――2020年度は、新入社員の部署配属発表もオンライン上で行われたんですよね。
内田:社員が安心して働ける会社を目指すべく、配属発表もオンラインでやるべきだよね、という考えに至りました。とはいえ、新入社員が宮河社長から「あなたには○○の部署で頑張ってもらいます」と、居場所や目標を直接伝えてもらえる機会は一生に一度ですから、その臨場感や、配属先への意識づけは、最重要事項として考えたところです。
滝川:配属発表の日は、新入社員全員の顔が宮河社長に見えるよう、役員会議室に大きいモニターを2つ用意し、画面に投影しました。そこで宮河社長が、部署の名前が書かれたカードを引き、その部署の名称と、配属される新入社員の名前を「○○さん、いますか?」と 読み上げて、それに対して新入社員が返事をし、新人のビジョンを聞くなど、双方向にやりとりをする形式にしたんです。
――ランダムの発表だと、通常の配属発表よりドキドキできそうです!
内田:宮河社長も、この試み自体がとても楽しく、発表する側もされる側もワクワク感を演出できていたと話してくれました。オンラインでも、宮河社長と新入社員が目を合わせて、しっかりと会話ができたのでよかったです。
また、例年とは異なり、新入社員から宮河社長への決意表明もオンラインでしてもらいました。一生に一回の配属発表だからこそ、みんなの印象に残っていたらいいなと思います。
滝川:配属発表後すぐに、インストラクターとなる先輩社員との顔合わせもオンラインで実現できました。オンラインだと、先輩の顔や部署の様子が見えない分、「ちゃんと受け入れてもらえるのかな……」などの不安が生じやすいかもしれないので、新入社員の不安を取り除くフォローをしてあげたいなという一心でしたね。
また、各部の上長や、インストラクター、先輩社員等、本当に沢山の社員に協力をしてもらったお陰で、この1カ月半の新入社員研修が成り立ったと感じています。
――では最後に、これからの新入社員研修に取り入れていきたい取り組みなどがあれば教えてください。
滝川:今回のコロナ禍の経験を経て、「意外にオンラインでも研修ができるね」と話しているので、今後も新しい働き方に合わせた研修にシフトしていくべきなのかなと考えています。
リアルでないと効果が見いだせないもの、オンラインでもリアルと同じ効果が見込めるもの、むしろオンラインのほうが効率的なもの……この3種の棲み分けをきちんと行ったうえで、リアルとオンラインを融合させた新しい研修を、いろいろ考えていきたいですね。
【取材後記】
学生時代にお笑いサークルに入っていたので、MANZAI研修は楽しそうだなと羨ましくなりました。逆に、BNAPのバンジージャンプをクリアしたなんて、新入社員の方々は全員すごい!と感心するばかりです……! リアルであれオンラインであれ、研修にもアソビ心を忘れないバンダイナムコエンターテインメントのアクティブさが伝わってきました!
【取材・文 矢郷真裕子 プロフィール】
フリーランスの編集者・ライター。さまざまなゲームキャラクターの感情に触れて感動しながら成長。