2021年6月にリリースされた『SCARLET NEXUS』。『テイルズ オブ』シリーズのプロデューサーが手がける本作はゲームとアニメがほぼ同時に展開され、話題を呼んでいます。ファンファーレでは3名のプロデューサーにインタビューを行い、グループ内での協力体制の中で行われた制作の裏話や、作品の魅力・こだわりについて、前後編に渡ってお届けします。
Xbox Series X|S、Xbox One、PlayStation 5、PlayStation 4、PC向けのブレインパンク・アクションRPGとしてリリースされた『SCARLET NEXUS(以下、スカーレットネクサス)』。
本作は、90年代の日本の面影を残す近未来の世界を舞台に、怪異という異形の生命体と戦う集団・怪異討伐軍(怪伐軍)に属する少年少女たちの物語を描く作品です。怪伐軍に所属する兵士たちは超能力ならぬ“超脳力”を使い、怪異との戦いのなかで自分たちを取り巻く環境の真実に向き合い、その支配に抗っていくこととなります。
今回は、ゲーム版『スカーレットネクサス』のプロデューサー・飯塚啓太さんとディレクター・穴吹健児さん、そしてアニメ版のプロデューサーを務める塚本樹佳さんにインタビューを行い、『スカーレットネクサス』にかける想いやこだわりについて伺いました。
飯塚 啓太
穴吹 健児
バンダイナムコスタジオ所属 『SCARLET NEXUS』ディレクター。『テイルズ オブ』シリーズに10年以上携わり、『テイルズ オブ エクシリア2』などでディレクターを務める。
塚本 樹佳
サンライズ所属 テレビアニメ『SCARLET NEXUS』プロデューサー。テレビアニメ『銀魂』シリーズでは制作進行、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』シリーズでは制作デスクを務める。
――最初に、『スカーレットネクサス』の制作のきっかけを教えていただけますか?
穴吹:このタイトルは会社に言われてスタートとしたというよりも、現場からスタートさせたものなんです。
立ち上げ時のメンバーには、僕を含めて『テイルズ オブ』シリーズに携わっていた人間が数名いました。『テイルズ オブ』シリーズのメンバーが集まっていたので、これまでに培ってきた経験やノウハウを活かしつつも、新しい表現や遊びにチャレンジしていこう、という流れで生まれたのが本作になります。
バンダイナムコスタジオ全体でも新しいIPを生み出そうという意識は強くて、『スカーレットネクサス』の企画がスタートしたのは、その空気が特に強くなっていたころでした。
飯塚:当時はスタジオのなかでも新規タイトルのプロジェクトがいくつも動いていたんですよね。そのなかで穴吹さんのチームはRPGとして新しいものを作ろうということで、技術研究からはじめていました。
塚本:最初はこっそり進めていたんですよね(笑)。
穴吹:そうなんですよ。企画を会社に認めてもらうには当然それなりのハードルがあるので、いきなりチェックには出さずにこっそり動いて、ある程度形になってきてから見てもらいました(笑)。
そのときに飯塚さんも含めバンダイナムコエンターテインメントの人に見てもらって、そのままでは出せないけどもう少し手を入れていけば可能性がありそうだ、とコメントをいただき、なんとか制作のレールに乗せることができた感じです。
飯塚:我々としても、シリーズの続編ではない、新規のRPGを作っていきたいなという思いがありました。
以前僕がプロデューサーを務めた『CODE VEIN(コードヴェイン)』では、ワールドワイドに向けていろいろとアプローチをしてきました。そのときに感じたのが、世界には日本のRPGを好きな方が多い、ということでした。
塚本:マルチメディアで展開する作品が多いというのもあるとは思いますけど、作品の世界観やIP(※1)を好きになってくれる人が多いですよね。
※1 IP:知的財産のこと。ここではキャラクターを指す。
飯塚:そうなんですよ。北米や欧州などワールドワイドで見ると、単にゲームというくくりではなく、アニメや漫画なども含めた日本のコンテンツが好き、そんな見方をしている方が多いのを強く感じたんです。
『CODE VEIN』での経験も活かしつつ、そんな日本のコンテンツらしさを感じてもらえるタイトルになるよう、企画を詰めていきました。
――JRPGらしさを出していくのは、最初の段階から決まっていたんですね。
穴吹:そうですね。そこありきでスタートした企画、みたいなところもあると思います。
従来のRPG好きも納得のゲーム体験×斬新なコンセプト
――本作のJRPGならではの魅力は、どんな部分にありますか?
飯塚:個人的に、RPG好きの人にいちばん楽しんでもらえるだろうなと思っているのは、仲間との絆を深めていく部分ですね。
今回は単純な仲間との絆だけではなく、それがバトルにも影響するようになっていて、絆を深めていくほどバトル中の仲間からのサポートの種類も増えていくんです。
塚本:プレイ中に操作するのは主人公だけですけど、仲間からのサポートのシステムがあるおかげで、一人でなく仲間と一緒に戦っているな、というのを感じられますよね。
穴吹:仲間が自分を気にかけてくれることを感じてもらうために、どんなことをしてくれたらうれしいだろうか、というのはみんなでアイデアを出し合って進めました。
JRPGという意味では、やっぱりストーリードリブンのゲームとして、お話を進めていくうえでの経験がより良いものになるように、という点にもこだわっています。
そのなかでも、シナリオ、キャラクター、そしてバトル。この3つの要素はJRPGとして外せないものなので、ここは特に力を入れて作っています。
――本作を象徴する“ブレインパンク”という言葉はどういった経緯で生まれたのでしょうか?
穴吹:企画がスタートした段階では、僕の中で超能力集団モノを作りたいという構想だけがあったのですが、シナリオの実弥島先生(※3)にお話を持っていったら、先生が脳を接続して人間を兵器にするというアイデアを持っていたんですね。
※2 実弥島巧:『テイルズ オブ シンフォニア』や『テイルズ オブ ジ アビス』でメインシナリオをてがけるシナリオライター。『スカーレットネクサス』ではシナリオ原案とメインシナリオを担当。
そこで、僕のやりたかった「超能力集団モノ」と「脳をつなぐ」という2つのアイデアを組み合わせて、“超脳力”という言葉が生まれたんです。
主人公であるユイトとカサネが自分たちの意思を貫くために世界に反抗していくので、そういうイデオロギー的な意味でもパンクの要素が入っています。超脳力の危険性もパンクという言葉にかかってくるので、それらを組み合わせた“ブレインパンク”がふさわしいなと思って採用しました。
ゲームとアニメの同時展開 グループ内で協力するメリット
――ゲームのリリースから1週間後にアニメ放送がスタートした本作ですが、ゲームと並行してアニメを制作することは最初から決められていたのですか?
飯塚:いえ、最初から決めていたわけではありませんでした。先ほどお話したように、やはりワールドワイドで見るとゲーム単体としてよりも、日本のコンテンツという単位で作品を好きになってくれる人が多いんですよね。
なのでIPとしての広がりを考えたときに、ゲーム以外のメディアでの展開もあったほうがいいなと考えたんです。本作の軸であるキャラクターとストーリーに触れてもらうにはアニメが適しているなと思ったので、グループ企業であるサンライズさんにご相談をしました。
塚本:お話をいただいたのは3年ほど前で、まだゲームのタイトルも仮の段階でした。実際に参加しはじめたのは2年ぐらい前、ゲームのティザー映像を制作したころですね。
穴吹:まずはゲームのプロモーション映像をアニメーションで作ってもらって、そこからゲームのオープニングもお願いし、その流れで同じ監督さんやスタッフの方々にシリーズアニメも制作していただきました。
改めて考えると、よく実現したなと思います。同時進行っていうのはなかなかないですよね(笑)。
塚本:そうですね。ゲームの発売とアニメの放送を近づけるというのは、プロジェクトとしてそういう目標を立てていてもむずかしいことで、これは本当によく実現できたなと思います。
――ゲームとアニメの同時進行ということで、さまざまな苦労があったかと思いますが、特に大変だったのはどんな部分ですか?
飯塚:普通であれば、ゲームがまずほぼ完成して、それを原作にしてアニメ化する、みたいな流れが多いんですよね。
でも今回はビジュアル面もまだ固まっていない段階でアニメも作りはじめたので、ゲーム側でも補完し切れていない設定があったんですよ。
塚本:かなりありましたね(笑)。
飯塚:なので、アニメ側の作業が進む途中でゲーム側のビジュアルに調整が入ったりして、それに対応する形でアニメ側も修正したりすることも多く、現場は大変だったと思います。
穴吹さんやゲームのシナリオディレクションを担当している方にもアニメの脚本を見てもらったりして、本当に一緒に作り上げてきた、という感じがありますね。
塚本:アニメ側としても、ゲームの印象と違うコンテンツにはしたくなかったんですよ。例えばキャラクター同士の呼びかけ一つ取っても、ゲームで「○○さん」と言っていたのがアニメで「○○ちゃん」になっていたりすると、途端に違うコンテンツっぽくなってしまうんですよね。そのあたりには本当に気を付けて、呼称表なども用意して統一感がしっかりと出るようにしました。
キャラクターの持つ雰囲気なども含めゲーム側のスタッフさんにも協力してもらって、作業としてはかなり丁寧にやっていますね。
穴吹:アニメ側が脚本に入ったのがゲーム開発の佳境も佳境というところだったので、たいへんはたいへんでした(笑)。シナリオ担当のメンバーがアニメにもガッツリ入ってくれたのでなんとかなった、という感じですね。
ただその甲斐あって、アニメとゲームの両方でブレることのない世界を作りあげることができました。アニメにはアニメの、ゲームにはゲームの良さがある、というのがいい形で実現できたと思います。
飯塚:もちろん、ゲームのシナリオ原作を書いていただいた実弥島先生には、アニメ側の脚本にも協力していただきました。ゲームの中で表現し切れていない部分も含めて設定の監修をしていただいて、アニメ用に解釈を作っていただいたりもしました。
穴吹:そうなんですよね。ゲームで描いていない部分もアニメでは出てきたりするので、アニメ側からチェックを頼まれたときに、「でもそれゲームに出てこないんだよなぁ」となることもありました(笑)。
そういうときは先生にも協力していただいて、「もし『スカーレットネクサス』の世界にそういうものがあったら、きっとこうなるだろう」みたいな見解をお返ししていました。
――ゲームとアニメ、グループ内で協力したからこそ実現したメリットはありますか?
飯塚:最近のアニメでは、CGを使うことが増えていると思うんですけど、『スカーレットネクサス』ではゲームのCGを一部アニメのほうでも使用しています。もちろんゲームで使用したモデルそのままではなく、アニメ用にモデルをカスタマイズしたものですね。
塚本:キャラクターと怪異、マップの3Dデータをいただきました。これはグループ内の作業でないと、なかなか難しいことだと思います。なのでキャラクターや怪異のモデルについては、ゲームに出てくるものとほぼ同じものになっています。
アニメのオープニング映像では3Dモデルをバリバリに活用しているので、けっこうリッチな感じになったと思います。
飯塚:アニメのオープニング映像、かっこいいですよね。ゲームよりかっこいいんじゃないかっていう(笑)。
塚本:すみません(笑)。でも本当に、これまでにないくらいグループ内での連携が上手くいったんじゃないかなと思います。
バンダイナムコエンターテインメント全体で追求する品質へのこだわり
――ゲーム開発に関して、リリースに至るまでの過程で特に大変だったことは何ですか?
飯塚:一番大きかったのは、アクションの仕様変更ですね。元々、念力アクションは今のもとは違う仕様だったんです。アクションゲームとしてもっと直感的に楽しめるように仕様を変更することになって、穴吹さんも含め開発メンバーともかなり長時間議論しました。
穴吹:やっぱり、企画をスタートさせてもそんなに簡単には世に出させてもらえないんですよね。リリースにいたるまでに通過しないといけない社内チェックのゲートが複数存在するんです。
アクションの仕様変更については、最初は落ちているオブジェクトを一度浮かせてストックし、そのストックしたものを飛ばすという風になっていたんですよね。ただ、それだと直感的に遊びにくいという話になって、念力を発動するとそのままオブジェクトが相手に向かって飛んでいくという現在の形に変わっていきました。
塚本:念力アクションの変更に伴い、ビジュアル面でも調整が入ったんですよね。
穴吹:そうですね。今はキャラクターたちがセルルック(※3)で、それに対して背景はややフォトリアル(※4)になっているのが画作りの特徴のひとつになっているんですけど、以前は背景もセルルックで描かれていました。
※3 セルルック:セル画(2D)で制作されたアニメのような表現を実現する3DCG手法
※4 フォトリアル:写真のように写実的な表現
――どういった経緯で背景の描写を変えることになったのですか?
穴吹:セルルックだけでは全体の画作りが若干チープに見えてしまうという指摘があったのと、HDで展開していくとなれば、よりリッチに見えるように背景はフォトリアルに寄せたほうがいい、という話になったこともあって、そこから見た目をガラッと変えました。
飯塚:見た目のリッチさを出すことに加えて、背景をリアルに寄せることで、念力で操るモノの重さや物理的な感覚をしっかり感じてもらいたい、という考えもありました。
キャラクターたちやそれぞれが扱う力についてはアニメ的な魅力を出しつつも、念力でモノを持ち上げたり敵にぶつけたりするときの感覚はリアルに感じられるように、というバランスをとるために試行錯誤しましたが、最終的に上手くまとまってくれたと思います。
塚本:実際リアルな見た目で、いかにも重そうなものを飛ばすと超脳力を使っているなという実感が湧きますよね。
――リリースにいたるまでに社内チェックが複数回行われるとのことですが、社内での品質基準は高く設定されているのでしょうか?
飯塚:そうですね。やっぱりワールドワイドに展開していくという視点もありますし、単純に作品のクオリティを高めていこうという考えはバンダイナムコグループ全体にあります。
バンダイナムコスタジオも、クリエイティブとしてより優れたもの、評価されるものを作っていくぞという動きがあって、品質を高めていこうとする意識はここ数年でより高まってきていると思います。
穴吹:バンダイナムコグループ全体として品質を上げていかないといけない、という風はすごく感じています。
“バンダイナムコのゲームはおもしろい”ということをしっかり担保していかないといけないので、社内でも品質をチェックしてくれる部署が用意されています。チェックに出すとその部署が「今貴方たちが作っているものは、大体〇点ぐらいです」みたいな形で評価をしてくれるんです。海外に関しても専門の機関から客観的な意見をもらっています。社内からも海外からもけっこうストレートな意見をいただくので、僕らとしてはしんどいんですけど、すごくいい試みだと思います。
飯塚:なので、現場で開発を行う人間だけでなく、海外にあるバンダイナムコのスタジオやグループ会社も含め、バンダイナムコグループ全体として質を高めていこうという動きがあります。『スカーレットネクサス』は、ちょうどその動きに乗って作ってきたタイトルの一つですね。
取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。
『テイルズ オブ』シリーズや『CODE VEIN』に携わったプロデューサーが語る本作ならではのこだわりとは? 『SCARLET NEXUS』制作陣へのインタビュー後編を読む⇣
バンダイナムコエンターテインメント所属 『SCARLET NEXUS』プロデューサー。スマートフォンアプリの開発、運営に携わったのち、家庭用ゲームの開発やプロデュースを手掛けた。2019年に発売された『CODE VEIN』でプロデューサーを務める。