ファンコミュニティを作る仕事とは?「ガンダム」ゲームのマーケティング担当者が語る【SPOTLIGHT】

SPOTLIGHT川元さん

第6回となる【SPOTLIGHT】シリーズでは、「ガンダム」ゲームのマーケティングに携わる川元駿さんに焦点を当てます。

「ファンもうれしいし、ビジネスとしても上手くいくし、パートナー企業もハッピーになれる、三方良しの企画を考える。これは大切にしていることでもありますし、目標でもありますね。」

プロモーションやコミュニティ運営で大事なこととは何なのか。川元さん自身の生い立ちや、失敗との向き合い方などについても伺いました。

【SPOTLIGHT】とは?
ファンファーレ編集部が、今気になるバンダイナムコエンターテインメントの社員に話を聞く連載企画。仕事に取り組む社員の素顔に【SPOTLIGHT】を当てて、これまでの経験や思い、本人のキャラクターを紐解きます。本シリーズを通して、これからのエンターテインメントが作る未来を照らします。

TVアニメやガンプラ、コミック、ゲームと幅広く展開する「ガンダム」シリーズ(以下「ガンダム」)。そのゲーム作品に関するプロモーションやコミュニティ運営を行う川元駿さんにインタビューします。お仕事に関する話を皮切りに、生い立ちから入社経緯、仕事や失敗との向き合い方などを伺いました。

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川元 駿

バンダイナムコエンターテインメント
第2IP事業ディビジョン 第1プロダクション チーフ

「ガンダム」ゲーム作品のプロモーション、情報サイト「ガンダムパーフェクトゲームス」、情報アプリ「ガンダムナビアプリ」の運営に携わる。社員の相互理解や親睦を図る社友会では会長を務める。

作品を通じてファン同士の「輪」を作る

――まずは、川元さんが携わっているお仕事について教えてください。

川元:現在は「ガンダム」に関わるゲームのマーケティングを行っています。特に、スマートフォンアプリのプロモーションが多いです。どうしたら運営中の各種アプリタイトルをより多くのお客さまに知ってもらい、遊んでもらえるか。あるいは、開発中のタイトルに対して魅力や期待を感じてもらうためにはどうすればいいのかといった、戦略立案と施策の実行を行っています。

また、ファンのコミュニティをどう運営するか考える仕事もしています。例えば、「ガンダム」ゲームの情報をまとめたサイト「ガンダムパーフェクトゲームス」や、「ガンダム」全般の情報を得られるスマートフォンアプリ「ガンダムナビアプリ」の運営などですね。

「ガンダム」とAIを掛け合わせた「プロジェクト・メロウ」にも関わっています。これはAIキャラクター・メロウを通じてファンとコミュニケーションを取ったり、ファン同士のつながりを深めていったりするプロジェクトです。

「プロジェクト・メロウ」

――そんなお仕事の中で、やりがいを感じるのはどういった場面でしょうか。

川元:ゲームやコミュニティを通じてつながったファンの方々がオフ会を開くなど、ゲームから先のつながりが生まれたり、別の「ガンダム」作品を好きになってくれるのをSNSで見たりすると、すごくやりがいを感じます。

2022年には「ガンダム」シリーズ45周年に向けた動きも発表されましたが、それだけの歴史がある作品なので、本当にたくさんの、さまざまなファンの方がいらっしゃるんですよね。だからこそ、これまでに積み上げられてきたファンの皆さまの気持ちを参考にさせていただいて企画を考えるようにしています。それで少しでも喜んでいただけたならうれしいです。

川元さん

――企画のアイデアはどういったところから生まれるのでしょうか。

川元:前提として、エゴサーチは頻繁に行っています。ファンの方々は「公式ってSNSとかを見ているのかな」とおっしゃるんですけど、担当はもちろん、全員が目を通しています。LINEのオープンチャットなどもチェックしていますね。

そのうえで、100本ノックみたいに考えることもありますし、エゴサ中にファンの皆さまが独自に考えたイベントを楽しまれている様子を見て、「公式としても、楽しんでいただくためにこんなことができるかもしれない」とアイデアが出てくることもあります。

人との関わり方はリアル・オンライン・両方の3種類ある

――川元さんの人となりも伺っていきたいのですが、小さいころはどんなお子さんでしたか?

川元:小さいころからゲームが大好きでした。父がゲーム好きだった影響で、4歳くらいのころにはスーパーファミコンで『ボンバーマン』などを遊んでいましたね。「早起きをするならゲームをしてもいい」と言われていたので、朝4時に起きてゲームをしていました(笑)。

川元さん

川元:中学校に入ってからはオンラインゲームに熱中して、いわゆる“沼”に足を突っ込みかけました。ただ、当時はゲーム内で大人のふりをしたり、リアルとは異なる人格を演じたりしてコミュニケーションをとっていたので、ふとしたタイミングで「これは本当の自分じゃない、このままではいけないな」と思ったんです。

学校にも友達はいたんですけど、同世代のみんなが部活にいそしむなかで自分はポツンとなることも増えて。ゲームはゲームで楽しいんですが、学校での感覚とのギャップがあったんですね。

「やっぱり24時間全部楽しいほうがいいな」と中学2年生なりに考えて、そこからはリアルも大事にしようと思いました。

心機一転、3年生で体育委員会に入って応援団の団長をやりました!

――そうした学生時代の経験が今のお仕事につながっていると感じることはありますか?

川元:人との関わり方って、オンラインだけ、リアルだけ、あるいはオンラインでもリアルでも、みたいな3パターンがあると思うんですよ。学生時代にそれぞれを経験できたことは、場面ごとのファンの気持ちを考えるうえで参考になっていると思います。

ちなみにオンラインとリアルの両面を持つ人付き合いという点では、中学生時代に家にあったパソコンを使ってメールマガジンを作り、友達に送っていました。メルマガの最後にはクイズがあり、答えてくれた人の中から誰かに、毎週抽選でプレゼントをあげていたんです。当時から運営側・作る側に立ちたいという気持ちがあったんだと思いますね。

楽しみ、楽しませて、輪を広げる

――その後、バンダイナムコエンターテインメントに入社されるのですね。

川元:大学時代にはゲーム売り場でアルバイトをしていたのですが、その経験がなかったらここにはいないかもしれないというくらい大きな影響を受けています。

お客さまもゲームが好きな方が多いので、接客を通じて知識が増えていきましたし、ゲームってユーザーが能動的に楽しむコンテンツでいいなと思ったんです。当時は人が作った作品を売るだけでしたけど、やっぱりゲームは人を楽しませるすばらしいものだな、とゲーム業界に進むことにしました。

――入社されて以降、仕事への向き合い方が変わるようなターニングポイントはありましたか?

川元:僕の場合は、最初からあまり変わらない気がします。

就職活動中に出会った方に自分の中に3本の軸を持っておきなさいと言われたことがあったんです。1本だけだとフラフラするけど、3本あれば1本が折れても大丈夫だから、と。

川元さん

川元:僕の中では、①自分が楽しめること、②ほかの人に楽しんでもらうこと、③人間関係を広げていくこと。この3つが軸になっていて、ずっとブレていないんだと思います。

上手くいかなかったことは、失敗ではなく経験

――お仕事での失敗エピソードも伺えればと思うのですが、いかがでしょうか。

川元:「機動戦士ガンダム バトルオペレーション2」で、ゲーム外のウェブサイト上にファンコミュニティを作ろうとしたんですけど、なかなか人が集まらなくて1年で閉鎖することになってしまいました。

やっぱりゲーム自体に人が集まっているわけなので、その外に場所を作って人を呼ぼうとするのはけっこう大変なんですよね。単に開くだけでは誰も入ってこないし、そこで楽しめるコンテンツやファン同士がつながるきっかけを作らないといけないんです。当時、いろいろと工夫はしましたが、結果は出せませんでした。

学生時代にオンラインゲーム上で大人たちと交流していたので、ファンの気持ちに寄り添えると思っていたんですが……。コミュニティを作って持続させるためには最初の手数が大切だと思い知らされましたね。

――仕事で失敗してしまった時は落ち込みますか?

川元:自分のせいでこうなってしまった、という結論に至った時は落ち込みますね。基本的には反省したらそれを糧に次はがんばろう、と立ち直るんですけど、尾を引く時は引いてしまいます。

ただ、僕は「全体の中で自分が悪かった部分はどのくらいだろうか」って俯瞰しがちなんです。ここは自分が悪かったけど、ここはくよくよ考えてもしょうがない、と思ったら、ダメージを受けるのは前者だけにして、あとは元気でいよう、というスタンスでいます。そうすればダメージも癒えていきますから。

――何もかも自分のせい、という思考に陥らないのが大事なのかもしれないですね。

川元:仲間内で言っている言葉として、これは失敗じゃない、経験だというのがあるんですよ。そうなると無駄な失敗は存在しなくて、成功か経験しかないから、ポジティブに捉えやすくなるんです。

さきほどのファンコミュニティの件も、結果としては1年で閉鎖しましたが、次につながる経験にしたいと思っています。

川元さん

やりたいこととニーズを組み合わせた社内イベント

――川元さんは、社内イベントの企画・運営をする社友会の会長も務められているそうですね。具体的にはどんなことをされているんですか?

川元:社友会は簡単に言うと、社内の相互理解や親睦を図るチームです。その一例として社内イベントを企画しています。メンバーは基本的に有志で、ある種部活動のような感じで集まっていますね。

最近はコロナ禍でオンラインになっているんですが、謎解きイベントや毎年恒例のファミリーイベントを開催しています。ファミリーイベントは、社員とそのご家族を社屋にお呼びして楽しんでもらうものです。

川元:社内イベントでどんな企画を実施するかに関しては、やりたいことをベースに考えます。自分たちが楽しまないと楽しくできないので、やりたいことの中で需要と上手く合うものを探すことが多いです。僕はリアル脱出ゲームが好きですし、昔ダンスをやっていたので、社内でのリアル脱出ゲームを企画したりファミリーイベントで子どもたちにダンスを教えたりしました。

――需要がありそうなことと、自分たちのやりたいことが合うものをチョイスする。マーケティングのお仕事に通じる部分がありそうです。

川元:そうですね。プロモーションやファンコミュニティの運営も、自分たちのやりたいことはありつつ最終的にはファンのニーズに応えるものなので、その部分は社友会の活動と似ているかもしれません。

ファン、自社、パートナー企業がハッピーになれる三方良しを

――川元さんは、ファンが関係する業務は優先順位を上げて対応されるそうですね。

川元:はい。アプリは24時間運営で、SNSなどで常にファンの反応が見えます。だから、運営宛てに問い合わせがきていないことであっても、今どんなトラブルが起きているのか把握できることが多いんです。

そういう時には、社内向けの資料作成を後回しにしてでも、ファンが直面している苦悩や課題を解決できるようなアクションを優先しないといけない。執事のように、ではないですけど、できる限りファンファーストで動くべきだと考えています。

――コミュニティ作りでも同様に、ファンファーストを意識されているのでしょうか。

川元:その点は、ファンもうれしいし、ビジネスとしても上手くいくし、パートナー企業もハッピーになれる、三方良しの企画を考えることが大切だと思っています。

長く愛していただくためにはビジネスとして成功させる必要がありますし、版権元さまから作品をお借りする以上、ファンが望んでいることをそのまま実現するのが困難なこともあります。考える軸が多いという意味ではむずかしいのですが、やりがいもありますよ。

せっかくの人生、楽しんでこそ

――ところで、さっきから気になっていたのですが、そちらのぬいぐるみは何ですか?

川元さん

川元:僕のお気に入りのぬいぐるみです。ただ、どこで作られたキャラクターなのかわからずでして……。ネットの拡散力を借りたらこの子の生みの親が判明するかもと思って、連れてきてしまいました。

初めて出会ったのは大学に入る前。フラッと入ったリサイクルショップで売られていて、ちょこんと座っている姿にものすごく惹かれてしまったんですよね。そのまま買って帰り、旅行に一緒に連れて行っていわゆる「ぬい撮り」をしたり、友人の結婚式に一緒に参加したり。もう12年以上の付き合いになります。

何のキャラクターなのか、調べてもわからず……。情報お待ちしています!

――最後に、この記事を読んでくださった方へメッセージをお願いします。

川元:僕はエンターテインメント業界で働いている人間として、楽しんで生きないと損だと思っているんです。

大変なこと、嫌なこと、ネガティブになることがある中でも、楽しいと感じることを探したり、小さな幸せを見つけたりできたらいいなと思いますし、それが可能な場を作っていきたいです。

自分と関わってくれる人が少しでもニコってしてくれたらうれしいなと思いながら生きているので、これからも自分やまわりを楽しませていきたいですね。

【あなたは未来のエンターテインメントをどのように照らしますか?】
川元:笑顔で、ポジティブで、楽しく。僕と関わる人が増えていくことで、ハッピーの輪が広がっていくようにします。

ファンファーレでは皆さまのご意見、ご感想を募集しております! 編集部にて拝見させていただきました上で、今後の改善のための参考にさせていただきます。記事に寄せられた声を「Fan’s Voice」として紹介させていただく場合もございます!

【編集後記】
今回は特定の作品ではなく、「ガンダム」シリーズのゲームに関するマーケティングを行う川元さんへのインタビューでした。幼少期から自分も楽しみつつまわりを楽しませるという姿勢が貫かれており、それがそのまま仕事のスタンスにもなっているというのがまた驚きです。

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。