2022年、よみうりランドや長崎角煮まんじゅう、スマートフォン向けゲームアプリ『アナザーエデン 時空を超える猫』などとコラボしてきた『テイルズ オブ』シリーズ。その実現に向けて奔走したプロモーション担当の石川結貴さん、ライセンスアウト担当の岩野沙耶さんにインタビューを行いました。
たくさんのコラボが実現した『テイルズ オブ』シリーズの2022年を振り返っていただき、ゲームにとどまらず展開を進めるわけや各コラボがスタートした経緯、グッズに込めた思いなどを伺います。
石川 結貴
バンダイナムコエンターテインメント
第2IP事業ディビジョン第2プロダクション
岩野 沙耶
バンダイナムコエンターテインメント
第3IP事業ディビジョンライセンスプロダクション
ライセンスアウト(※1)担当。2021年から、『テイルズ オブ』シリーズとパートナー企業とのコラボ施策に関わる。初めてプレイしたシリーズ作品は『テイルズ オブ エクシリア』。
※1 ライセンスアウト:権利を保有する作品やキャラクターの使用権を第三者の企業へ許諾し、商品化などを行うこと
キャラクターたちと「再会できる場」を作りたい
――2022年はリアルイベント「テイルズ オブ フェスティバル」(以下、「テイフェス」)の開催こそありませんでしたが、遊園地や飲食メーカーをはじめとするさまざまな企業とのコラボが行われるなど、シリーズとしての勢いは衰えることのない1年でしたね。
石川:家庭用ゲームの場合、一度発売したあとはゲームをプレイする以外でファンの皆さまとキャラクターとの接点がほとんどなくなってしまいますよね。でも、イベントやグッズ展開があることによって、キャラクターたちと再び会うことができる。そんな再会の場をシリーズ全体で増やしていきたいと思っていました。
そのために2022年は、よみうりランドさまやスマートフォン向けアプリゲーム 『アナザーエデン 時空を超える猫』(以下、『アナザーエデン』)、岩崎本舗さまの長崎角煮まんじゅうをはじめ、さまざまなコラボを実施してきました。
とはいえ、企業さまに信頼いただいて多彩な展開ができているのは、開発担当のバンダイナムコスタジオがこれまでに作り上げてくれたゲームがあってこそ。歴代の開発メンバーには尊敬と感謝しかないです。
――2022年、ご自身のなかではどのような意気込みをもって取り組んできましたか?
岩野:コロナ禍だったので、例年実施させていただいている商品化やフェア開催に加えて、お家で楽しめる施策を、という新しい視点をもって動きました。
お酒のお取り寄せサービスを行っているクランド(KURAND)さまとのコラボ「酒ガチャ」は、まさにその考えから出てきたものですね。お酒はアルコール自体が苦手な方も多いので、どうしてもコラボ商品としてのハードルが高いんです。でも、クランド(KURAND)さまとはすでに『アイドルマスター』シリーズでコラボさせていただいたご縁もあり、『テイルズ オブ ヴェスペリア』でのコラボが実現できました。
酒瓶のラベルや特典で付属するグラスは、どちらもコラボのための描き下ろしイラストで、キャラクターが持っているデザインと揃えました。これは私自身に、キャラクターたちがその世界で持っているものと同じグッズが欲しい! というオタク心があったからなんです。
結果、多くのファンの皆さまに喜んでいただくことができました。描き下ろしイラストのシーンをもとにした短い物語やイラストをSNSにアップしてくださった方もいて、とてもうれしかったですね。
石川:私は『テイルズ オブ アライズ』(以下、『アライズ』)の全世界累計出荷本数250万本突破という状況もあり、その勢いを落とさずに横展開で盛り上げていくぞ、という気持ちでした。
家庭用ゲームが好調というのは、グッズなどの展開に対して企業さまが前向きに捉えてくださるきっかけにもなるんですよね。コラボやイベントはパートナー企業にとってあくまでビジネスなので、売れる保証が必要です。お客さまに喜んでもらうことは大前提として、そのうえで業者さまやメーカーさまにビジネスとして成功していただくことも重要だと思っています。
ファンが集まることのできる遊園地を作る
――2022年の11月から12月にかけて、よみうりランドとのコラボが開催されました。こちらはどういった経緯で実現したのでしょうか。
岩野:よみうりランドさまから『テイルズ オブ』シリーズ単体でコラボをしてみませんか、とご提案いただいたのがきっかけです。『テイルズ オブ』シリーズではいわゆる「遊園地」が出てくる作品もあるのですが、よみうりランドほど近代的ではないんですよね。なので、各作品の世界とどう合わせていくのかはけっこう悩みました。
ただ、2022年は「テイフェス」の開催がなかったなかでどうにかファンの方々が集まれる場所をひとつ作れたらという思いがあり、こちらからも、ぜひコラボを実施したいとお伝えしました。
――よみうりランドのコラボには、どういったテーマがあったのでしょうか。
岩野:遊園地らしいコンセプトにしたくて、メインテーマを『テイルズ オブ シンフォニア』(以下、『シンフォニア』)に登場する「アルタミラの遊園地」、サブテーマを「家族と友人」と設定しました。
石川:よみうりランドさまは客層がかなり広いのが特徴だと思っています。だから、家族や友人と一緒にワイワイ楽しむというコンセプトがピッタリなんですよね。岩野さんからテーマを聞いた時はすごくしっくりきました。
それから、企画の段階で選出したキャラクターも見せてもらったんですけど、ファンながらにいいチョイスだなと思いました(笑)。このキャラたちが一緒にいるイラストがあると、エモいというか、想像が膨らむなというものになっていて。我々自身がワクワクしながら協業できたことで、ファンの皆さまにも喜んでもらえたんじゃないかなと思います。
――特にこだわったのはどのような部分でしょうか。
岩野:描き下ろしイラストですね。今回のコラボではキャラクターイラストを16名分、デフォルメキャラも加えると30点近くを遊園地仕様で描いてもらっています。多くのコラボでは5、6体程度なので、この点は特定の作品に閉じず、どの作品をプレイされた方でも楽しんでいただけるようにこだわった部分ですね。
描き下ろしイラストを作るのは、デフォルメキャラであっても構図やポーズの検討が必要ですし、もちろん制作費もかかるため大変なんです。それでも今回は単独コラボということで、よみうりランドさまにも無茶を言いつつ……(笑)。たくさん作らせていただくことができました。
石川:各アトラクションで、今回のコラボ用に録り下ろしたボイスが流れていたのも貴重でしたね。キャラクター間の親子愛が感じられるようなシナリオもあって、岩野さんから共有してもらった時点で、すごくいい!って素直に思いました(笑)。
現地に足を運んだ時にも、スピーカーの前でスマホを掲げて録音しようとしている方をお見かけしたので、ファンの皆さまにも喜んでいただけたのかなと思います。
――ボイスの内容は岩野さんが考えたのでしょうか。
岩野:はい。遊園地と聞いて頭に浮かんだのがコラボのメインテーマである『シンフォニア』のアルタミラだったので、ガイド役として主人公のロイドは外せないなと思ったんですよね。
ほかのキャラクターたちはきっと各々園内を回っているだろうなと思って、そういう時に仕切ってくれるのは『アライズ』の主人公アルフェンかな、と。ふたりのやり取りを見せつつ、ほかのみんなのことにも触れるようにして、聴きごたえのあるアナウンスが作れたかなと思います。
――さまざまな反響があったかと思いますが、特に印象的だったものはありますか?
石川:私が印象的だったのは、『シンフォニア』のシナリオライティングを行っている実弥島巧先生が遊びに来てくださったことですね。『テイルズ オブ アスタリア』のAR機能を使って、ジェイドがひとりで観覧車に乗っている写真を載せてくださっていたんです!
岩野:私はコラボがはじまる前から発表していたイラストへの反応を見て、絵の中に込めた思いや衣装の細かな設定など、「そこに気づいてくれるんだ!」とうれしくなることが多かったです。
熱意によって作り込まれた『アナザーエデン』と長崎角煮まんじゅう
――2022年12月には、スマートフォン向けアプリゲーム『アナザーエデン 時空を超える猫』との第2弾となるコラボが開催されました。
石川:第1弾の前から、私が『アナザーエデン』のチームの方とたまたま面識があって、いつかコラボができたらいいね、なんて雑談をしていたんです。そうしたら、『アナザーエデン』チームにも『テイルズ オブ』シリーズが好きだと言ってくださる方がいて、ぜひコラボを、という話になりました。
――『アナザーエデン』サイドの熱量もかなり高かったとか。
石川:本当に、監修する物量がすごかったですね、いい意味で(笑)。メインシナリオだけでなく、サブイベントやスキット(冒険の途中で楽しめるキャラクター同士の会話)まで作っていただけたんですよ。
『テイルズ オブ』シリーズはRPGのなかでも屈指のテキスト量だと思うんですけど、本編さながらのボリュームで組んでいただけて、非常にありがたいと同時に「今週中に確認できるかな」みたいなうれしい悩みもありました(笑)。
岩野:シナリオだけでなく、「こんなミニゲームを実装したい」「原作のあの部分をオマージュしたい」など、たくさんのご提案をいただきました。実際に落とし込むうえでどうするか、いい意味で悩みましたね。
石川:『テイルズ オブ』シリーズ用に作られたゲームではないので、どうしても仕様とバッティングしてしまう要素もあるんですよね。でも、『アナザーエデン』さまはコラボ用に調整してくださって、「こんなことができたらおもしろいですね」と話したことを全部実現してくださったんです。ユニゾンアタックやブーストストライクなど『テイルズ オブ』の技も再現していただいて、本当にいいコラボになったと思います。
岩野:『アナザーエデン』とのコラボは第1弾、第2弾ともに現在も配信中です。ぜひ機会があれば遊んでみてください!
――2022年12月には、岩崎本舗さまの長崎角煮まんじゅうとのコラボも行われました。こちらはどういった経緯ではじまったのでしょうか。
岩野:岩崎本舗さまとは過去にパックマンでコラボしたご縁があったんです。それと、私が『アライズ』のプレイ中に「角煮まんじゅう」のお世話になっていたのがきっかけですね(笑)。せっかくだから現実でコラボできないかなと思って、私のほうから岩崎本舗さまにご提案しました。
「長崎角煮まんじゅう」×『テイルズ オブ アライズ』
— テイルズチャンネル+ (@tales_ch) December 19, 2022
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――監修はどのように行われたのでしょうか。
石川:コラボカフェなんかでもそうなんですけど、味監修というものがあるんですよ。
岩野:そうなんです。今回も私のほうでおいしく監修させていただきました。
石川:ちなみにですが、『テイルズ オブ』シリーズにはおもしろメニューが登場するじゃないですか。サイダー飯(※2)とか。コラボカフェではそういったメニューの味監修もあるんですよ。
※2 サイダー飯:『テイルズ オブ エクシリア』に登場した、ご飯にサイダーをかけた料理(?)。食べると取得経験値が30%アップする。
岩野:岩崎本舗さまにはマーボーカレー風長崎角煮まんじゅうを作っていただいたんですけど、マーボーカレーは作品によって設定やテキストの表現が違ってくるので、どういう味が正解なんだろう? と迷いました。
今回はコラボにアルフェンが登場するので、アルフェンだったらけっこう辛くしちゃうだろうなと思う反面、そうすると食べにくいと感じる方もいらっしゃると思い、味の調整は悩みましたね。
石川:長崎角煮まんじゅうに入れたフルルの焼き印もバランスに苦労しましたよね。顔立ちがシンプルだからこそ、パーツが少しズレるだけで違和感が出てしまうんです。
岩野:「こういうふうに調整したら再現できるかも」と岩崎本舗さまからもご提案いただいて、一緒に作り上げていきました。
こういった1回1回の取り組みにおいて、コラボとパートナー企業のビジネスがどちらも成功し、その積み上げが次のコラボにつながっていく。この点はライセンスビジネスの醍醐味だと思います。
長年愛されるタイトルだからこそ、軸をぶらさず展開したい
―さまざまな事例について伺ってきましたが、ライセンスアウトを通して今後、『テイルズ オブ』シリーズをどのように盛り上げていきたいかをお聞かせください。
岩野:『テイルズ オブ』シリーズは歴史が長いので、新しい作品の魅力を伝えていくと同時に、発売されて10年、20年経った作品のまだ見せていなかった側面や魅力を出していけたらと思っています。
例えば、カラオケのDAMさまとの取り組みでは家庭用ゲーム作品のオープニングをアニメ映像付きで歌えるように配信したんですけど、これも以前からカラオケ映像を望まれていたファンの方の声を見てきてのことです。
これからも、そうした「こんなコラボをやってほしい、これを待っていた」という思いから切り口を見つけて、パートナー企業と一緒にいいものを作っていきたいですね。引き続きイベント会場や配信番組、SNSなどで皆さまのお声を拝見しながら、自社だけではできないことに注力していこうと思います。
石川:シリーズとして一本の軸をもち続けることを意識していきたいですね。我々も会社ですから部署異動や担当変えも当然あるのですが、監修のポイントも含めて後任に引き継いでいくことは意識しています。迷った時には、当時作品を開発したバンダイナムコスタジオのメンバーに相談することもありますね。
『テイルズ オブ』シリーズは積み上げていくものだからこそ、プレッシャーは感じます。誰か個人のブランドではないので、作品によってプロデューサーやディレクターも変わっているじゃないですか。そのなかでどうやって一本の軸をもち続けるかというのは、難しくもあり、楽しくもあるところですね。
――最後に、今後のコラボやイベントについて教えてください。
岩野:マンガ・アニメ・ゲームからさまざまな作品が登場するカードゲーム『UNION ARENA』に『アライズ』が5月に参戦するので、ぜひ遊んでみてください。
石川:今年は「テイフェス」が2年ぶりの開催、かつ15周年という節目の回になります。今回も豪華なキャストさんが登場するので、皆さまと一緒に盛り上がっていければと思います!
ファンファーレでは皆さまのご意見、ご感想を募集しております! 編集部にて拝見させていただきました上で、今後の改善のための参考にさせていただきます。記事に寄せられた声を「Fan’s Voice」として紹介させていただく場合もございます!
【編集後記】
JRPGを代表するシリーズのひとつといえる『テイルズ オブ』シリーズ。今回はコラボ展開についてのお話でしたが、コラボメニューなどの味監修も行われているというのは個人的に驚きでした。たしかにシリーズ恒例のユニーク系料理の味は、どう再現するのが正解か迷うところ……! 『テイルズ オブ ゼスティリア』にも登場していましたが、個人的にはゲームやアニメで見ると無性に食べたくなるのはアユの塩焼きです。
取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。
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『テイルズ オブ アライズ』を紐解くインタビュー記事まとめ
©WFS Developed by WRIGHT FLYER STUDIOS
TALES OF™Series & ©Bandai Namco Entertainment Inc.
©いのまたむつみ ©藤島康介
『テイルズ オブ アライズ』アシスタントプロデューサー。リマスタータイトルの宣伝業務に関わるほか、IP総合プロデューサーの富澤祐介とともにプロモーションにおけるIPとしての監修作業を行う。初めてプレイしたシリーズ作品は『テイルズ オブ ジ アビス』。