2022年9月にPCで、同年12月に家庭用ゲームでサービスを開始した『ガンダムエボリューション』。6対6のハイスピードバトルが楽しめる本作について、開発・制作を行う4名にお集まりいただき、作品に込めたこだわりやesports展開を広げていくうえでのコミュニティ醸成を支援する施策などについて伺いました。
『機動戦士ガンダム』(以下、『ガンダム』)シリーズの機体で6対6のチームバトルが楽しめるFPS(一人称視点シューティング)ゲームの『ガンダムエボリューション』(以下、『ガンエボ』)。
国内外で展開し、公式大会も開催されるなどesports展開も広げている本作について、制作担当の塚中健介さん、金澤瑠伊さん、プロデューサーの丸山和也さん、そしてバトルディレクターの穂垣亮多さんにインタビューを行いました。
塚中 健介
バンダイナムコエンターテインメント 第2IP事業ディビジョン 第2プロダクション
金澤 瑠伊
バンダイナムコエンターテインメント 第2IP事業ディビジョン 第2プロダクション
『ガンダムエボリューション』制作担当。グループ会社のバンダイにてTCG(トレーディングカードゲーム)の運営業務に携わる。その後バンダイナムコエンターテインメントにて『機動戦士ガンダム バトルオペレーション2』の運営や『ガンダム』タイトルのesportsコミュニティ施策に携わる。
丸山 和也
バンダイナムコオンライン 事業本部第1プロダクション
『ガンダムエボリューション』プロデューサー。バンダイナムコオンライン設立時より本作や『機動戦士ガンダムオンライン』などオンラインゲームのプロデューサーを担当。
穂垣 亮多
バンダイナムコオンライン 開発本部企画部
『ガンダムエボリューション』バトルディレクター。本作では、主に各モビルスーツやマップのゲーム的なコンセプト設定やバランス調整などを行う。esports黎明期からオンラインFPS『クロスファイア』で複数回の国内優勝、世界大会出場。
FPSのコアな部分は残しつつ、『ガンダム』の知識がなくても楽しめるように
――『ガンエボ』がリリースされて数か月経ちました。現在のお気持ちをお聞かせください。
塚中:まずは無事にサービスインできたことをうれしく思っています。『機動戦士ガンダム』シリーズのゲームタイトルは日本やアジアのユーザーの皆さまにたくさん遊んでいただいておりますが、本作は北米や欧州の方にもどう遊んでもらうか、というのがひとつの課題でした。結果として、ゲーム性の部分でFPSのファンを巻き込み、そのうえで『ガンダム』シリーズのファンにも楽しんでいただけているので、その両方を達成できているのは非常にうれしいです。
金澤:自分はSNSなどを頻繁にチェックしていて、「『ガンダム』知らなかったけど、『ガンエボ』からハマった!」という声も多かったので、それは本当にうれしい限りでした。
本作は6対6のハイスピードなシューター系タイトルということもあって、これまでにない『ガンダム』ゲームになっています。これからも『ガンダム』ファンの方とFPSファンの方の架け橋のような役割になっていければと考えています。
――『ガンエボ』は『ガンダム』シリーズ初のFPSとのことですが、どのような部分にこだわって開発を進めたのでしょうか?
丸山:FPSというジャンルは対戦面で実力がハッキリと出るので、実際に競技レベルで触れている人の手が入っていないと受け入れてもらえないと思うんです。ここにいる穂垣も含め、タイトルを発表するよりもだいぶ前の段階から、競技シーンで活躍していたような人を積極的にチームに取り入れています。
バトルディレクターを担当した穂垣も、オンラインFPSの『クロスファイア』で世界大会にも出場しているプレイヤーです。インゲームの部分については、そういったメンバーにある程度任せるかたちで作っていますね。
穂垣:窓口を広げるためにも、入りやすさの部分は特に注力していました。FPSというジャンル自体、やっぱりコア寄りなゲームだと思うんですよね。『ガンダム』は国内外でも認知度が高いので、FPSだからプレイしない、みたいなことがないようにハードルは下げたいと思っていたんです。
例えば、FPSというジャンルではアタッカー(攻撃役)やタンク(盾役)、サポートなどのロール(ゲーム内での役割)を定めている作品が多いんですけど、そうなると人気のロールに偏りが出たり、チーム内で必要なロールを誰も使わないからしょうがなく自分が使う、みたいなことが起きやすいんですよね。なので本作ではロールの要素を薄くして、自分の好きなモビルスーツで好きなように遊べるようにすることを意識しています。実際、大会でもチームによって編成がバラバラなんですよ。
――この機体に合わせるならこの機体、みたいな暗黙の了解を気にしないでいいというのは新規のプレイヤーにとっても入りやすいですね。
穂垣:逆に、相手の頭に弾を当てるとダメージが増える、といったFPSのお作法と呼べるような部分はそのまま残しています。原作に準じて、コックピットに弾を当てないといけない、とした場合は∀ガンダムやマヒローは股付近にコックピットがあることを知らないと対応できないじゃないですか。
ゲーム内の『ガンダム』要素が原作にあまり触れてこなかったFPSユーザーの壁にならないようにしつつ、『ガンダム』ファンが初めて触れるFPSとしても遊びやすいように作り込んでいるのはこだわっている部分ですね。
――いわゆるロールの要素を薄くすると、バランスをとるのも難しくなるのではと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
丸山:ロールがまったくないわけではなく、機体ごとのロールに幅があるようなイメージなので、組み合わせの数が多いんですよ。他社さまのタイトルだと、このマップならこの組み合わせ、といった定石がハッキリしがちなんですけど、そこにバリエーションがでるように意識しています。
穂垣:『ガンダム』が好きな人って、例えばサザビーが好きだったらどのマップでもサザビーに乗りたいと思うじゃないですか。それなのにこのマップではサザビーを使うべきではない、というのは避けたかったんです。機体の組み合わせ次第で、どんなマップでも活躍できるようにしたのが本作ならではの部分ですね。
――本作は使用できるモビルスーツのラインナップがいわゆるメジャーどころだけでなく、意外なチョイスも多い印象ですが、機体はどういった基準で選択されたのでしょうか。
丸山:今回はほかのゲームに比べて出せる機体の数が少ないので、機体選出ではFPSゲームとしての特徴を重視しました。まずはどういうアクションをさせたいかを考える。そこから原作を紐解いて、一番しっくりくる機体を選んでいます。そして、『ガンダム』を知らない方がプレイした時にも、パッと見で判別できるような機体をピックアップする、というのを意識しました。
TVアニメやガンプラ、コミック、ゲーム……世代を超えた『ガンダム』との出会い
――ちなみに、制作チームの皆さまの『ガンダム』との出会いはどのようなものだったのでしょうか。
丸山:僕はギリギリ『ガンダム』のリアルタイム世代で、子どもながらにそれまで見ていたアニメとは違うなと思っていましたね。ガンプラはシャア専用ズゴックが欲しかったんですけど、やっぱりどこも売り切れていて、やっと手に入ったと思ったらアッグガイ(※1)だった、みたいなこともありました(笑)。その後もずっと身近に商品があって、バンダイに入社したのも『ガンダム』が好きだったことの影響があります。
※1 アッグガイ:テレビアニメ『ガンダム』本編には登場せず、プラモデルとして登場したモビルスーツのひとつ。のちに『機動戦士ガンダムZZ』にてアニメにも登場した。
塚中:自分が最初に触れたのは『機動戦士Vガンダム』が放送していたころですね。当時は頭身が異なる『SDガンダム』シリーズも人気で、騎士(ナイト)ガンダムや武者ガンダム、コマンドガンダムといったBB戦士シリーズのプラモデルをよく買っていました。最初の入り口としてもアニメより先にコミックで『ガンダム』シリーズを知りましたね。
穂垣:僕は世代としては『機動戦士ガンダムSEED』ですね。本格的に触れるようになったのはゲームがきっかけでした。『機動戦士ガンダムSEED DESTINY 連合vs.Z.A.F.T.II PLUS』を友達の家で触って、1対1のゲームとしてのおもしろさから惹かれていきました。毎日友達の家に集まって、6人くらいで順番に交代しながら対戦して、一番得意な機体は禁止にする、みたいなローカルルールで遊んでいました(笑)。
金澤:自分も最初はアニメよりもゲームやマンガから『ガンダム』に入っていきました。穂垣さんと同じで小中学校のころは家庭用の『機動戦士ガンダム VS.』シリーズをよく遊んでいました。また、学校の授業でプラモデルを作るという課題があって、家電量販店でプラモデルを探していた時に、フォビドゥンガンダムにひと目惚れして買ったのを覚えています。作るのには苦労しました(笑)。
楽しみ方が変化する「esports」にあわせたファンコミュニティをつくる
――本作は『ガンダム』がesportsに挑戦するタイトルにもなるかと思いますが、ここ数年で注目度などが大きく変化したesportsというものに対してどのように感じてらっしゃるかを教えてください。
塚中:FPSというジャンルを選択した時点で、「esports」というキーワードは当然出ていました。ただ、いきなりこれはesportsです、と言ってどうにかなるものではなく、ゲームに競技性があって、実際にプレイされるファンが賞賛されたいと思えるような環境があるかどうかが大事だと思っています。
金澤:配信プラットフォームの増加などに伴い、esportsは視聴コンテンツとしても楽しめるものになってきています。現在は大会をストリーマーと一緒に視聴するような文化もある程度浸透しているので、観戦を楽しむ方や選手のファンなど、ゲームをプレイしていないようなライト層も含めて外部の層をどう巻き込んでいくかは今後の運営でも意識していきたい点ですね。
塚中:実際、競技シーンのゲーム実況者の方などにも、実況者目線でゲーム観戦にどんな仕様が欲しいかをヒアリングしているところです。こういう要素があればこういうふうに喋れます、みたいに細かくお題を出していただけるので、そういった方々とすり合わせをしつつ、対応可能な部分の検討を進めています。
――先日も「GGGP(ガンダム・ゲーム・グランプリ)2023」にて『ガンエボ』の公式大会が開催されましたね。今後もこういった大会などを開催していくのでしょうか?
金澤:制作チームとしては、これからさらにファンコミュニティの醸成に注力していきたいと考えています。12月から3月まで実施された「GGGP」では、とてもハイレベルで熱い戦いが繰り広げられました。6人以上のチームでエントリーということで心配していた面もあったのですが、予選から日を追うごとにさまざまなチーム戦術が繰り広げられ、見ていても手に汗握る白熱した大会を開催することができました。
これまでも、これからも進化を続ける『ガンエボ』
――今後、アップデートを予定しているものについて教えてください。
丸山:4月のアップデートでは、初めての新ルールMAP「埋没都市」やバトル中に特殊な演出やエフェクトが再生される新ユニットスキンが実装されました。今後は、プレイヤーの皆さまからもリクエストが多い原作キャラクターのボイス要素も提供していきたいと考えています。さらに、『機動戦士ガンダム 水星の魔女Season2』もはじまりましたので、そこに関連したアイテムも出していく予定です。
これまでは『ガンダム』ゲームというよりも、FPSとして入ってもらう人に向けたバランスを強く意識してきました。リリースから半年以上経ったということもあり、今後は原作ファン向けアイテムのバリエーションも増やしていこうと思っています。
――最後に、本インタビューを読んでいる読者の方へのメッセージをお願いします!
塚中:家庭用の『ガンダム』ゲームのラインナップとしても、無料プレイ・プレイヤー同士のオンライン対戦・6vs6のFPSというジャンルは『ガンエボ』だけです。これからプレイをはじめてももちろん間に合いますので、ぜひプレイしていただきたいです!
丸山:最初から一貫して、世界中で、『ガンダム』ファンだけでなくもっと広い層に届けるという方向性でやってきました。リリース当時と比べるとかなりブラッシュアップできてきましたし、新たなルールの登場や、新しいモビルスーツの追加など、バランス調整についてもファンの声とデータをしっかりと見ながら行っていきます。現在も楽しんでいただいているファンの方々はもちろん、リリース初期に触れていただいた方やまだ触ったことがない方も、無料でプレイできるゲームですのでぜひお試しの気分で気軽に手に取っていただけるとうれしいです。
ファンファーレでは皆さまのご意見、ご感想を募集しております! 編集部にて拝見させていただきました上で、今後の改善のための参考にさせていただきます。記事に寄せられた声を「Fan’s Voice」として紹介させていただく場合もございます!
【編集後記】
既存の『ガンダム』ゲームにはなかったジャンルとして注目を集めた『ガンエボ』。ペイルライダーにマヒロー、マラサイ(『機動戦士ガンダムUC』仕様)などシブい機体チョイスには驚かされましたが、FPSとしての視認性、判別性と言われるとたしかにと納得しかありません。自分も『SDガンダム ジージェネレーション』シリーズから『ガンダム』に入ったクチなので、本作から『ガンダム』の世界に足を踏み入れる人が増えることに期待です。個人的に参戦してほしいモビルスーツはブルーディスティニー2号機!
取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。
©SOTSU・SUNRISE
『ガンダムエボリューション』制作担当。『ガンダム』シリーズの家庭用タイトルなどをプロデュース。プロデュースを担当した最新作は「SDガンダム バトルアライアンス」。