今回の【SPOTLIGHT】シリーズでは、バンダイナムコエンターテインメントのプロデューサー 田中耀平さんに焦点を当てます。
「『ONE PIECE』が好きな人たちのためにゲームを作っているのに、自分がその当事者じゃなかったら、ファンと同じ気持ちになれないんじゃない? と思っています。」
自らもファンだという『ONE PIECE』のゲームをプロデュースしている田中さんに、未経験でプロデューサー職として入社した後のキャリアアップ、たなPとしてファンと交流する裏にある思い、自分の「好き」をかたちにする仕事について伺いました。
【SPOTLIGHT】とは?
ファンファーレ編集部が、今気になるバンダイナムコエンターテインメントの社員に話を聞く連載企画。仕事に取り組む社員の素顔に【SPOTLIGHT】を当てて、これまでの経験や思い、本人のキャラクターを紐解きます。本シリーズを通して、これからのエンターテインメントが作る未来を照らします。
『ONE PIECE』に登場するキャラクターたちのリアルタイムアクションバトルが楽しめる、スマートフォン向けゲームアプリ『ONE PIECE バウンティラッシュ』(以下、『バウンティラッシュ』)。全世界で1億ダウンロードを突破し、2023年7月にリリース4.5周年を迎えてなお勢いづく本作のチーフプロデューサー 田中耀平さんにインタビューを行いました。
田中 耀平
バンダイナムコエンターテインメント
第1IP事業ディビジョン 第3プロダクション2課 アシスタントマネージャー
バンダイナムコエンターテインメントで働きたくて、ホームページから直接応募した
――まずは現在のお仕事について教えてください。
田中:『バウンティラッシュ』のチーフプロデューサーとして、ゲーム全体の戦略や開発、運営方針などを決める役割を担っています。また、先日開催されたイベント「ONE PIECE DAY’23」など、『バウンティラッシュ』に限らず『ONE PIECE』全体の取り組みにも携わっています。
――どのような経緯でバンダイナムコエンターテインメントに入社されたのでしょうか。
田中:僕は2017年にキャリア採用で入社したのですが、それ以前は別の会社のゲーム事業部で、自社がもつプラットフォームにゲームを展開してもらうための座組を作るアライアンス担当をしていました。ゲームに仕事として関わるなかで、営業だけでなくプロデューサーという役割に挑戦したいと思うようになったんです。
その会社を辞めたいというよりも、「バンダイナムコエンターテインメントで働きたい」と思っていたので、いわゆる転職活動らしいことはしていません。求人情報サイトも使わずに、公式ホームページにある採用ページから直接応募しました。
当時はスマートフォン向けゲームアプリが著しい成長を見せていたころで、たくさんのタイトルが世に出ていたんですよね。そのなかで特定のIP(※1)に固執せず、さまざまな作品を出せる会社が今後伸びていくだろうなと感じていて。
バンダイナムコエンターテインメントは当時『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』や『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』など、IPを活用した展開をしていたので、僕もそうした仕事に携わりたいと思って応募しました。
※1 IP:Intellectual Property=キャラクターなどの知的財産
未経験で不安というよりも、やってみたいからとりあえず受けてみよう、くらいの気持ちでした。
先輩のサポート役を経て、『バウンティラッシュ』チーフプロデューサーに
――ここからは未経験入社から『バウンティラッシュ』チーフプロデューサーになるまでを伺っていきたいと思います。入社直後はどのようなお仕事をされていたのでしょうか。
田中:まずはサブプロデューサーとして、メインプロデューサーのお手伝いをしながら経験を培っていきました。基本的には、版権元に監修を依頼したり、社内でのさまざまな調整をしたりしていましたね。
『ONE PIECE』で一緒に仕事をしている花井(※2)という人間がいるんですけど、当時から彼の版権元との交渉や信頼関係の構築の仕方はすごく勉強になっていました。版権元とパートナーとして信頼関係を築いていて、そのうえで自分たちのやりたいことを実現するんです。
※2 花井雄二朗:「ONE PIECE DAY’23」イベントプロデューサーなどを担当
原作があるゲームを制作する側である僕らにできることは、作品のもつ魅力をさらに広げることだと思うので、重要なポイントを押さえながらいかにファンを広げていくか、そこが大事かな、と。僕たちが関わることによって『ONE PIECE』の新しい価値を届けられるとうれしいです。
――メインのプロデューサーになる際は、ご自身で立候補されたのですか?
田中:そうですね。チームにもよるとは思いますけど、基本的には「このタイトルを担当してほしい」という話をもらってスタートしています。ただ、好きなIPや作品に関するヒアリングはされていましたね。
――そんな田中さんから見たバンダイナムコエンターテインメントらしさはどんなところにありますか?
田中:弊社は著名なIPや大規模なエンターテインメント事業を取り扱っていますが、それでも現場に任せてくれる風潮があるんですよね。僕が入社して1年くらいでメインプロデューサーになれたのも、ふつうだとあり得ないと思っていて。そういう意味で、現場に裁量を持たせてくれる文化があるのではないでしょうか。
ファンと同じ気持ちでいたい。SNSで寄せられる声は励みにも、反省材料にもなる
――田中さんはかなりの『ONE PIECE』ファンだと伺っています。好きな作品を仕事で扱うにあたり、何か意識していることはありますか?
田中:やはり、常にファンの気持ちと同じじゃないといけないなと思います。例えばルフィはマンガやアニメでこう表現されているのだから、ゲームでもこうあってほしい、みたいな部分は一致していないといけません。だから、とにかく作品理解を深めるようにしています。
『ONE PIECE』が好きな人たちのためにゲームを作っているのに、自分がその当事者じゃなかったら、ファンと同じ気持ちになれないんじゃない?と思っています。作品を好きかどうか、理解しようとしているかどうかで、施策の精度一個一個に明確な差が出てくるはずなんです。
――ファンと同じ視点に立つからこそ、施策が魅力的になる。
田中:例えば、登場回数がそこまで多くないキャラクターについても、もし『バウンティラッシュ』に実装されて動かせたら楽しいよな、みたいなことは日々制作陣と話しています。出番の少ないキャラクターは難しくないですか、という意見ももちろんあるんですけど、やっぱりファンの喜ぶことをしてあげたいんですよね。
それが短期的な結果には結びつかなくても、中長期的に見ればそのキャラクターがいることで、より『バウンティラッシュ』の世界が深いものになってくれる。そういう目線で考えています。
マニアックな例を挙げると、ドレスローザ編に登場するエリザベロー2世ですね。
彼のキング・パンチはビッグ・マムなどの四皇をも打ち沈めると言われているんですけど、放つには1時間の精神集中とウォーミングアップが必要なんです。
それを『バウンティラッシュ』でも原作どおりに再現して、打つのに3600秒待たないといけないんですよ(笑)。でも、発動すれば本当にワンパンで相手を倒せる、といったピーキーな性能になっています。そういう風に、原作でおもしろいなと思う点を取り入れて、「そんなところまで拾うのか」と感じてもらいたいんです。
小学校低学年のころ、父親と一緒にマンガを読みはじめてからは『ONE PIECE』と一緒に育ってきました。
――ちなみに、『ONE PIECE』だけでなく、ゲームファンの視点を意識している点もあるのでしょうか?
田中:ファンに求められている情報はできる限り共有したいと考えています。例えば不具合が起きてメンテナンスを行った際に、メンテナンスが延長してしまうことがあるんです。
その時には、何が起きているのかをできるだけ伝えるよう意識しています。なかなかすべてをお伝えするのは難しい部分もあるのですが……「今日は復旧しません。明日以降になりそうです」といったようにですね。ファンとしては、いつ遊べるようになるのかが知りたいじゃないですか。
――ファン視点を大切にされている田中さんですが、公式生放送で「たなP」としても登場されていますね。どういったきっかけで自ら出演されようと思ったのでしょうか。
田中:僕が表に出たいというよりかは、誰が『バウンティラッシュ』を運営しているのか、その象徴となる存在を出したかったというのがあります。ポジティブなこともネガティブなことも、そういう人がいると気持ちのやり場がはっきりするじゃないですか。運営型のコンテンツだからこそ、矢面に立つ存在は必要だと思うんです。
――作品を背負って前に出るときびしい意見をもらうことも多いのではないですか?
田中:そこはもう、覚悟を決めるしかないですね。僕は『ONE PIECE』という作品が本当に好きですし、『バウンティラッシュ』というタイトルを本当におもしろくしていきたいからこそ、そのリスクは背負わないといけないのかな、と思っています。
ただ、ファンからのメッセージを直に受け取れるので、そこはモチベーションにもなりますね。X(旧Twitter)でアップデートを喜ぶ投稿などを見ると、もっとがんばろうと思いますし、本当に励みになります。ネガティブなコメントについても、なるほどこうしたほうがよかったのか、と学ぶことも多いです。
ネガティブな意見をいただいても、それ以上にうれしいコメントが多いので、そっちを見て緩和するようにしています。自分を必要としてくださっている人がいるんだ、というのを意識するだけですごく励みになりますね。
好きなものに関わり続けることで、ファンに喜んでもらえたら
――田中さんと同じように未経験から入ってプロデューサーとして活躍したい人にとって、大事なことは何でしょうか。
田中:難しい質問ですね。知識というのは、正直後からついてくると思います。大事なのは、自分が何をやりたいのかを明確にもっていることですね。
僕なら『ONE PIECE』にずっと携わっていきたいという部分ですけど、それがオリジナルIPを作りたいでも、ほかの作品のゲームを作りたいでもいいんです。ただ、何を成し遂げたいかというのは自分のなかで明確にあったほうがいいと思います。
実務に関しては、プロデューサーという役割を担う以上、関係各所の方々と協力関係を築いていかないといけません。なので、信頼関係を構築できるようなコミュニケーションスキルが必要ですね。ただ、プロデューサーにはいろいろなタイプがいて、交渉に強い人、開発に強い人、プロモーションの知見を活かしてどう届けるかまで考えられる人もいます。
僕は後輩育成に関わるうえでも、好きなことや得意なことを伸ばしてもらうことを意識しています。言ってみれば、火がないところに油を注いでも、燃えないじゃないですか。
――そう考えると、自分が何に対して熱を持っているか知ることが大事なのかもしれませんね。
田中:僕の場合は『ONE PIECE』という作品に携わっていること自体が大きなモチベーションになっていますし、スマートフォン向けゲームも元々好きなので、自分の好きだったものに関われていることがすごくうれしいんです。だから、熱量を糧に、これからもファンの皆さんに喜んでもらえるコンテンツをお届けしていきたいと思っています。
【あなたは未来のエンターテインメントをどのように照らしますか?】
田中:世界中でどんどんエンターテインメントの力が広がっていると思います。そして、作品には作品を支えるファンの方々がいらっしゃるので、その方々と一緒に新しいエンタメを作り上げていきたいです。
バンダイナムコエンターテインメントで働くことに興味のある方はこちらをご覧ください。
すべての『ONE PIECE』ファンに感動を。「ONE PIECE DAY’23」の舞台裏に迫る!
【取材後記】
小さなころから『ONE PIECE』とともに育ってきたと語っていた田中さんですが、インタビューのなかでも『ONE PIECE』の話にはいちだんと力が入っており、純粋にファンとしての熱の高さを感じました。矢面に立ってファンからの声を受け止めることを覚悟の一言で語っていたのも、その強い愛ならではという感があります。
エリザベロー2世のような、ゲーム的には扱いが難しい能力も原作そのままに取り入れているところにも、ファンとしてのこだわりが伺えます。単純にピーキーな能力として実装するだけでなく、スキルなどの組み合わせでゲーム的に工夫できるようにしているあたりにも、しっかり遊べる、楽しめる存在にしたいという誠意が感じられて素敵!
取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。
©尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション
©Bandai Namco Entertainment Inc.
『バウンティラッシュ』チーフプロデューサー。ゲームの開発から運営、戦略立案に至るまで全体のプロデュースを行う。好きな『ONE PIECE』のキャラクターはペローナ。