マーケティングや営業の経験はゲームプロデュースにどう活きる?『NARUTO』ゲームのプロデューサーが考える、異職種を経て得た武器【SPOTLIGHT】

今回の【SPOTLIGHT】シリーズでは、バンダナムコエンターテインメントのプロデューサー 須藤穂高さんに焦点を当てます。

「ゲームは最終的に宣伝や営業を通してお客さまに届くじゃないですか。だから、それらの経験があれば、お客さまに届けるまでの流れから逆算してゲームを作れると思うんです。」

130以上の忍が登場し、アニメやマンガで描かれた物語の追体験やオリジナルストーリーが楽しめる『NARUTO X BORUTO ナルティメットストームコネクションズ』(以下、『ナルティメットストームコネクションズ』)。

本作の制作を担当する須藤さんですが、実は営業やマーケティングをはじめとするさまざまな職種を社内で経験してからプロデューサーとなったといいます。他職種の経験はゲームプロデュースにどう活きるのでしょうか?

【SPOTLIGHT】とは?
ファンファーレ編集部が、今気になるバンダイナムコエンターテインメントの社員に話を聞く連載企画。仕事に取り組む社員の素顔に【SPOTLIGHT】を当てて、これまでの経験や思い、本人のキャラクターを紐解きます。本シリーズを通して、これからのエンターテインメントが作る未来を照らします。

営業やマーケティング職を経験した視点で語られるプロデューサーの特徴とは。人気作品の新たな一面を見せる企画の立て方も語っていただきました。

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須藤 穂高

バンダイナムコエンターテインメント
第1IP事業ディビジョン 第2プロダクション アシスタントマネージャー

『NARUTO X BORUTO ナルティメットストームコネクションズ』プロデューサー。マーケティング部門でもシリーズ過去作に携わり、2020年からはプロダクションチームに加わって作品のプロデュースに携わる。

プロデューサーとは、タイトルの全責任を負う仕事

――まずはプロデューサーというお仕事について教えてください。

須藤:抽象的な言い方になりますが、タイトルの品質やお客さまに提供する価値に関するすべての責任を負う仕事です。お客さまのニーズを拾い上げて、きちんと利益が出せるかどうかの目算を立てたうえで資金調達を行って、ゲームに落とし込む。それを最初から最後まで責任を持ってやり切ります。言ってしまえば、何でも屋ですね。

須藤穂高さん
『ナルティメットストームコネクションズ』プロデューサー 須藤さん

弊社では開発機能を有していないので、外部の制作会社さまと制作を進めます。社内でも製品品質管理を担当する品質保証部や、各拠点毎の宣伝・販売方法を調整するグローバルマーケティング部、更には海外デバッグや音声収録等を対応するリリースマネジメント部等、他にも様々な部署の方の協力を得ながら作品を固めていくんです。

――「どこにどれくらいお金をかけるか」といった予算管理も行われるのでしょうか。

須藤:はい。僕が担当する事業は既存のIP(※1)と紐づいているので、完全新規の作品に比べるとファンの数が想像しやすいんですよ。そこから売上を想定して、その中で使える資金を考える、そういった収支計画を立てています。

開発費も、依頼した内容に対する費用は目算が立てられるんです。そういった試算を重ねつつ、ローカライズ費など開発以外にかかる費用も考慮して作り方を考えていきます。

※1 IP:Intellectual Property=キャラクターなどの知的財産

――須藤さんから見て、どんな人がプロデューサーに向いていると思いますか。

須藤:さまざまな方との調整を重ねていく中で厳しいお言葉をいただくこともありますし、最終的にゲームでお客さまに喜んでいただけなければ自分の責任です。だから、意見や責任を引き受けられる心の強い人が向いていると思います。

宣伝、営業、マーケティングなどの部署を経て、ついにプロデューサーへ

――入社時に遡ってお話を伺っていきます。まず、入社を決めた理由をお聞かせいただけますか。

須藤:土日が待ち遠しくない社会人になりたくて、もともと好きだったエンタメの業界を目指しました。その中でも当時この会社を選んだ決め手は、転勤がないことですね。親が航空自衛隊員で小学生のころは頻繁に転校していたので、自分の子どもが同じ思いをしないよう、転勤のない仕事に就きたかったんです。

就活氷河期まっさかり。就職浪人が怖くて、130枚以上のエントリーシートを提出しました。

――実際に入社されて、会社のどのような部分に魅力を感じましたか?

須藤:自社や他社さまの多種多様な人気作品に携わり、新たな魅力を引き出せるところですね。仕事をきっかけに触れる機会がなかった作品と出会えますし、社内制度などを活用して新しいプロジェクトの創出もできます。グループで連携することによって、ゲームだけでなく、フィギュアやアニメなど、さまざまな媒体で展開できる点が魅力ですね。

――入社してからは、どのようなお仕事を経験されてきましたか?

須藤:家庭用ゲームソフトの販促・宣伝活動を担当したあと、2年目からは「東京ゲームショウ」や「次世代ワールドホビーフェア」など、ファンと直接つながるイベントの運営に関わっていました。

その後、プロモーション担当としてさまざまな作品の宣伝などを行いました。営業に異動してからは販売企画担当として、小売業者さまとの商談時に使用する営業資料を作成したり、家庭用ハードメーカーのSony Interactive Entertainmentさまとの営業窓口業務をしたりしていました。

そこから今度は海外のマーケティングを担当する部署に移動し、まずはアジア地域と日本、その後北米や欧州も含めて宣伝業務・販売企画などを経験しました。そして、ようやくプロデューサーに……という流れですね。長くてすみません(笑)。

若手のころ、関係各所に送る年賀状700枚の肩書を間違えて、すべて「副部長」で刷ってしまったことがあります。

――ほかの部署で培った経験は、プロデュース業務にどう活きてくるのでしょうか?

須藤:個人的には、お客さまの体験や販売本数に大きな影響を与えられるのは制作で、その次が宣伝、そして営業だと考えています。でも、お客さまに近い順で並べると営業、宣伝、制作だと、各セクションを経験した自分は感じています。

ゲームは最終的に宣伝や営業を通してお客さまに届くじゃないですか。だから、それらの経験があれば、お客さまに届けるまでの流れから逆算してゲームを作れると思うんです。ゲーム制作の経験は少なくても、そういった部分で自分なりのスタイルを出せると思います。

――異なる業務経験が強みになる、と。

須藤:例えばマーケティングに関わっている人は、どういう風に伝えて、どう売り出していけばより多くの方に購入いただけるかを考えているんです。これはゲームを作っているのと大きくは変わりません。そのゲームがもつ一番のセールスポイントをどう宣伝していくか、どうアウトプットしていくか、その違いでしかないんですよね。

須藤穂高さん

宣伝やプロモーションの戦略を練る人を“マーケター”と言いますけど、弊社の場合はプロデューサーがむしろマーケターに近い存在だと思っています。僕らは開発会社が制作する製品にどれくらいのお客さまが見込めるか、何本売り出せるか、どんな宣伝をしてどこで販売するかをマーケティング担当と一緒に考えるんです。

――プロデューサーという肩書でも、その意味ではマーケターといえますね。

須藤:はい。なので、宣伝領域の経験はかなり活かせると思いますよ。プロデューサーとの一番の違いは、開発会社と直接相対して製品の品質をチェックするかどうか。逆に言えば、それ以外の範囲に関しては、プロデューサーとマーケティング担当者の得意分野などによって棲み分けが変わってきます。

僕はプロモーション・マーケティング部時代に、製品内容のチェックや、PV用の画像撮影をしたことがありました。そういった意味でも、プロデュース業務とマーケティング業務の線引きはタイトルによって異なるんです。

――他部署を経験したプロデューサーはむしろ歓迎だと。

須藤:僕のチームには、自分以外にも営業出身のプロデューサーがいますしね。もちろん、長年プロデューサーをしている方には実績や肌感覚、経験値といった強みがあります。でも、いくつかの職種を挟んでプロデューサーになると、他部署と円滑に連携を進めやすいと考えています。

相手側の事情が理解できれば「わかるよ」と歩み寄りやすいですし、そうしたら向こうも応援してくれるじゃないですか。人間くさい話にはなりますけど、コミュニケーションの部分でも過去の経験は活きてくると思います。

須藤穂高さん

「A×B」の組み合わせで独自性をつくる。アイデアは試して、捨てての繰り返し

――プロデューサーとして、良いゲームを生み出すために大切なことは何だと思いますか?

須藤:エンタメ業界はトレンドの移り変わりが激しいので、予測が難しく、何がヒットするかは正直わかりません。

そこで、大事なのは既存のゲームとは違う遊び方や見た目であることだと思います。もちろん、ただ違っていればいいのではなく、既存作品のコアな魅力を考えて、それをどんなゲーム体験と組み合わせたら楽しそうか考えるのが大事かな、と。

――既存作品と差別化を図るうえで、ほかの作品をベンチマークにすることもあるのでしょうか。

須藤:ありますね。抽象的な言葉だけで考えてしまうとイメージも固まらないんですけど、具体的なベンチマークがあれば想像しやすいし、人にも伝えやすくなります。

自分としてはゼロから何かを生み出すのは難しく感じていて、だからこそ何かと何かの掛け算で新しい体験を提供したいんです。最終的に見せ方や遊び方がおもしろいと感じられれば、独自性があると言えるのではないでしょうか。

須藤穂高さん

例えば、『NARUTO-ナルト-』(以下、『NARUTO』)の新しいゲームを制作するとします。『NARUTO』は何よりもまず忍者であることがユニークですし、いわゆるバトルものの主人公と違って、好戦的ではないけれど戦う部分に特徴があると思うんです。

それをゲーム体験と組み合わせて、仕様に落とし込んでおもしろいと感じてもらえるような工夫をします。ただ、よく考えてみると上手くいかないぞ、ということも。そこは、アイデアを試しては捨ててを繰り返していくしかないですね。実際に遊べるモック(試作)を作るとコストがかかってしまうので、頭の中で試したり、疑似的にその環境を作るようにしています。

原作をリブートするようなゲームを

――『ナルティメットストームコネクションズ』が発売を迎えて一段落したところかと思います。今後、須藤さんがやりたいことを教えてください。

須藤:いくつか運営中のタイトルがあるのですが、それらに対してお客さまからご要望をいただいているので、現行タイトルを改修していきたいです。その積み重ねが長年愛されるタイトルを生むのかな、と。

並行して、これまでのタイトルとは違った感じ方ができる新しい作品も考えていけたらと思います。『NARUTO』ならば、別のゲームジャンルなのか、違ったゲームエンジンを使ったものなのか……まだどんなものかはわかりませんが、まっさらな状態から企画していきたいです。

須藤穂高さん

『NARUTO』はすでにお話が完結していますけど、それをリブート(再起動)するようなことができたら良いですよね。「ハリー・ポッター」シリーズは原作や映画が完結した後も、スピンオフ映画の『ファンタスティック・ビースト』シリーズやゲーム『ホグワーツ・レガシー』がヒットして、人気が再燃しているじゃないですか。

ゲームが牽引してIPの認知を広げていければ版権元さまも大事なIPを預けてよかったと思ってくださいますし、僕らとしてもその実績を残したうえで次の作品に取り組めます。今後、もっともっと弊社に声がかかるような、あれもやってくれ、これもやってくれとお願いされるような状況にしていきたいですね。

【あなたは未来のエンターテインメントをどのように照らしますか?】
須藤:
原作を知らない人にも、純粋なゲームとしてのおもしろさで手に取ってもらえるようなゲームが作るのが究極目標だと思っています。それを実現し、さまざまな会社さまから「この作品も扱ってくれ」といわれる、そんなスポットライトが当たり続けている未来を作りたいです。

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【取材後記】
ゲームの開発だけでなく、その広め方や売り出し方についても見ていくプロデュース職。その仕事がマーケティングに近い、というのは今回お話を聞いてなるほど確かにと目からうろこでした。他職種に就いていてプロデューサーになりたいと思っている方にとっても、心強い情報ではないでしょうか。

ゲームをリリースしてもそこが終わりではない、IPを牽引できるようなゲームによって会社によりスポットライトが当たるように、という考えには先を見据える須藤さんのスタンスが見えるようでした。プロジェクトを運営するにあたって、目先だけを見ない考え方は非常に頼もしく思えます。

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。

©岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ
©劇場版NARUTO製作委員会 2012
©劇場版NARUTO製作委員会 2014
©劇場版BORUTO製作委員会 2015
©Bandai Namco Entertainment Inc.