世界中のファンとIPを「アソビ」でつなげる。心を動かすエンターテインメントを生み出す「アソビエンターテインメント」とは?

『パックマン』や、『アイドルマスター』シリーズ、『テイルズ オブ』シリーズ、『鉄拳』シリーズ……さまざまなIP(※1)の可能性を拡大することを目指しているバンダイナムコエンターテインメント。

中でもゲームに限らず、ライブ、音楽、グッズなど、さまざまな事業を通じて「アソビ」を届ける部署として、AE事業部が存在します。AEとは「アソビエンターテインメント」の頭文字です。

今回、その事業部長を務める、執行役員の田中快さんにインタビューしました。多様なIPを軸として、新しいエンターテインメントをどう創出するのか。事業部名に織り込まれた「アソビ」という言葉に込められた思いとは――。遊びを文化に、文化を未来へ。これからのファンの心を動かす体験について伺います。

※1 IP:Intellectual Property=キャラクターなどの知的財産

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田中 快

バンダイナムコエンターテインメント
執行役員 AE事業部 事業部長

1995年、ナムコ(当時)に入社し、『テイルズ オブ』シリーズをはじめ家庭用ゲームソフトの営業・宣伝を担当。“ベンジャミン田中”の愛称でファンから親しまれる。その後、バンダイを経てバンダイナムコエンターテインメントでIPの権利管理・運用などに携わり、2017年にゲーム以外のエンターテインメントを扱うLE事業部(当時。AE事業部の前身)が発足すると、事業部長に就任。現在はプロバスケットボールチーム「島根スサノオマジック」の代表取締役CEOや、音楽事業を手がけるバンダイナムコミュージックライブの取締役、映像事業を手がけるバンダイナムコフィルムワークスの取締役も兼ねる。

論理だけではない「アソビ」のパワーが、文化を生み出す

――AE事業部についてご存じない方も多いと思います。ズバリ、どのような事業部なのでしょうか?

田中:「『アソビ』で世界とつながろう」というビジョンのもと、IPからさまざまなエンターテインメント事業を広げて、世界中のファンの皆さまとコネクトする部署です。ゲームだけでないマルチな事業を展開し、ファンとつながっていきます。

この「アソビ」という言葉を世界に向けて説明するのはなかなか難しいので、“Emotional Entertainment(エモーショナル エンターテインメント)”とも表現しています。PLAYだけじゃない、心が動く体験が「アソビ」だよという意味ですね。

執行役員でAE事業部 事業部長の田中快さん

――事業部の名前に「アソビ」という言葉が織り込まれているのが、とても印象的です。「アソビ」にもいろいろありますが、田中さんが好きなのはどんな「アソビ」ですか?

田中:何か特定の遊戯や作品が好きというよりは、「生活そのものを遊びたい」と意識して楽しんでいます。というのも、バンダイとナムコ(当時)という、1950年代からエンターテインメントに携わってきた会社同士が統合してできている弊社にとって、「アソビ」は重要なキーワード。僕も大切にしているんですよ。

ナムコ(当時)創業者の中村雅哉さんは、「人間は遊ぶ存在である」という言葉をよく口にしていました。これは、オランダの歴史学者ヨハン・ホイジンガが、著書『ホモ・ルーデンス』で記した言葉。遊びこそが創造の根源で、例えば、料理という文化は、食材を焼いてみたらおもしろそうだぞ、という昔の人の遊びからはじまったのではないか、といった考え方です。……ちょっとお堅いですかね(笑)。

――企業として「アソビ」を掲げているのはユニークですね。

田中:これは多くのビジネスに共通することだと思いますが、戦略的、論理的な思考は必要ですが、それだけでは驚くものは生まれない。感性や感覚のような側面も必要なんです。だから、生活のすべてを「アソビ」と捉えて、心の感性を磨きたいと僕は思っています。結局、人の心を動かすのはそういった感性の部分ですから。

――AE事業部では、具体的にどんな事業を管轄しているのでしょうか。

田中:「ゲーム事業」「アソビ事業」「ライセンス事業」という3つの柱があります。

ゲームの制作と運営を手がける「ゲーム事業」では、5月からスマートフォン向けゲームアプリ「学園アイドルマスター」のサービスを開始しました。「アソビ事業」には、イベントやグッズ販売をはじめ、ゲーム以外の多岐にわたる事業が存在しています。「ライセンス事業」は、他社さまとのコラボなどで、IPを活用していく事業です。

この3本柱をまとめて「アソビエンターテインメント事業」としています。さまざまなIPを扱っている弊社だからこそ、個々のIPを軸に、その価値をどんな形でファンの皆さまに伝えていくかを考えていますね。

ファンとIPがつながり、ファン同士もつながる場の創出

――ここからは、AE事業部の事業に踏み込んでいきます。まずは、「アソビ事業」が手がける、ゲーム以外のエンターテインメントについて伺います。ファンの楽しみ方にどんな影響がもたらされるのでしょうか。

田中:「アソビ事業」は、イベント興行、動画配信、自社のサウンドレーベル、グッズ販売、会員サービスなど多岐にわたります。そこで、これらをつなげる「ASOBI」プラットフォームを、ファンの皆さまに提供しています。「ここにアクセスすれば、自分の好きなIPのさまざまなエンターテインメントに触れ合える」という“場”です。

グッズはここで買って、動画は別のところで探して……では手間がかかります。好きなIPのグッズを「ASOBI STORE」で買って、「ASOBI CHANNEL」で動画を見て、「ASOBI TICKET」でイベントのチケットを予約して、「ASOBI STAGE」でオンラインライブにも参加して……とシームレスになれば、便利だし、IPとつながっている安心感があると思うんです。その“場”作りに力を入れています。

――「ASOBI」プラットフォームが、ファンとIPがつながる“場”になっているのですね。

田中:ファンの皆さまが集まる場でもあり、集まったファン同士がつながる場にもしたい。そして、ただ受け取るだけより、自分でクリエイトして発信できたらもっと楽しみが広がりますし、そこに「アソビ」が生まれればハッピーです。

「アソビ」って、本来自由なものなんですよ。企業が提供するものには、ときに押しつけがましさを感じることもありますよね。だから、ファンの皆さまが自由に楽しめる場になることが大切です。我々が提供する「アソビ」は一片でしかないので、そこから広がっていくことが必要なんじゃないかな、と。

――そうした構想は、どこまで進んでいるのでしょう。何か具体的なお話はありますか?

田中:今年8月23日からスタートした「ASOBI STORE LABO」という、3Dプリンターでフィギュアを出力するサービスは自由度があり、またファンの皆さま同士のつながりに発展する可能性があります。

ここでは、弊社のゲームのキャラクターモデルなどを活用し、ファンの皆さまがポーズや衣装を選んで、自分好みのデザインに仕立て、出力することができるんです。既製品のフィギュアを買うのとは、また違った楽しみがあります。

また、ファンメイドという点では、2024年12月14日~15日に開催される「THE IDOLM@STER M@STER EXPO」には、ファンメイド作品の展示や頒布が行われるエリアも準備します。プロデューサーさんが愛車の外装にアイドルをあしらった、いわゆる“痛車”の展示スペースもあるんですよ。

企業の用意した展示を見るだけでなく、ファンの方々にも能動的に参加いただいたほうがより楽しんでいただけるイベントになるでしょうし、同じ趣味の仲間と出会って「アソビ」を広げられる“場”を提供したいとも思っているんです。

「THE IDOLM@STER M@STER EXPO」にはファンの痛車が展示される

『アイドルマスター』シリーズや『パックマン』、そのIPだからこそできる広報・PRを

――続いて、「ライセンス事業」では、どんなプロジェクトを手がけているのでしょうか。

田中:IPの魅力を広げるため、他社さまの商品やコンテンツとのコラボレーションを行っています。最近は商品とのコラボだけでなく、キャラクターが広報大使に就任したり、自治体や行政と組んでPRを行ったりするケースも増えてきました。

具体例として、『アイドルマスター』シリーズのアイドルが、東海道新幹線の沿線地域の応援宣伝隊長として活動する、JR東海との大型コラボ「TR@VEL MEDLEY!!!!!!~あなたの旅をプロデュースしちゃいマス♪~(旅マス)」などがあります。

田中:そのほか、2025年に45周年を迎える『パックマン』や、『ギャラガ』『ディグダグ』といった「ナムコレジェンダリーIP」も世界中でよく知られているので、グローバルに展開していきたいと思っています。

田中:例えば、『パックマン』は2024年9月から2025年3月にかけて、愛知県事業で「食」や「観光」の体験プログラムを集めた「旅ろっ!愛知」とタイアップします。『パックマン』は、ゴーストから逃げながらすべてのクッキーを食べつくすゲームなので、食との相性が良いんです。海外での認知度の高さを活かして、訪日外国人観光客の誘致にも貢献できたらと考えています。

田中:海外を意識したIPといえば、『鉄拳』もそうですね。2024年の秋には、『鉄拳』のキャラクターからインスパイアされたデザインのスニーカーを、「NIKE」で発売予定です。さらに、そのモデルがゲームにも登場します。こういう形もアリですよね。

田中:コラボしたことによって、そのIPファンが喜んでくれることはもちろん、IPを通してコラボ先のモノや人、場所がより身近なものになれば良いなと思っています。

デジタルとリアルを掛け合わせ、心が動く体験を創り出す

――AE事業部の特徴として、ゲームをはじめとするデジタルなエンターテインメントと、ライブなどのリアルなエンターテインメント、両方を提供していることが挙げられると思います。このふたつを組み合わせることで、さらに「アソビ」が広がりそうです。

田中:そうですね。例えば、昨今の実写映画は、表現としてデジタルを使うことで、作り込んだ映像による感動をプラスしていると思うんです。スポーツもそう。リアルならではの試合の感動と、ハーフタイムでの映像によるデジタル演出の掛け合わせが会場を一段と盛り上げる。

作り手側としては、このリアルとデジタルの掛け合わせが、ファンの皆さまにとってシームレスな体験となることが大事だと思っています。ハッキリとした区切りがあると、そこで気持ちが切れてしまうかもしれません。

――ふたつの掛け合わせに挑戦している事例をご紹介いただけますか?

田中:『電音部』はまさにそうです。デジタルでの世界観があって、デジタルで流すキャラクターライブがあって、リアルに集まるイベントがあって……と、両方を掛け合わせているコンテンツですね。

2024年8月に開催した電音部 ハラジュクエリア 1st LIVE『なつそらとわたし』では、LEDやポエトリーリーディングを掛け合わせて没入感ある体験をお届けしました。また、namco TOKYO(新宿区歌舞伎町)でキャラクターによるDJプレーを放映したのですが、公演が終わった後に見に来る人も多かったようです。

田中:でも、「ライセンス事業」だって同じです。デジタルのキャラクターが、リアルの世界で商品の宣伝をしているんだから。全部、リアル×デジタルの掛け合わせじゃないか、とも思います。

――最後に、「アソビエンターテインメント事業」を通じて、ファンへどんな感動や未来を届けていきたいですか?

田中:「アソビ」を通じて心の栄養になるものをお届けできて、「アソビ」で皆さまの生活が潤ってくれればうれしいです。

そして、みんなで「アソビ」を追求する、新しいことに挑戦する世の中になっていけば良いですよね。最初にも言いましたが、我々の生活を支える文化というものは、遊びから創造されてきたと考えています。「アソビ」がないと、そこで発展が止まってしまうのではないかと僕は思うんです。みんなで「アソビ」を広げていくことで人生を豊かにし、新しい価値を見出す。そうして先へ、未来へつながっていくのだと思います。

【取材後記】
筆者の心を動かしたのは、「生活そのものを遊び」と捉える田中さんの「アソビ」との向き合い方です。“遊びは創造の根源”と、文字にするとなんだか小難しいですが、大げさに言えば人類が、そして私たちも、これまでに自然と経験してきたこと。ちょっとした思い付き……遊び心が変化を生む、そんなシーンは生活のあちこちにあるんだなと、改めて気付かされました。

また、人気IPを多数抱える企業側が、ファンメイドコンテンツを応援するという構図にも驚きました。「アソビ」を一方的に提供するだけでなく、ファンと一緒に作っていきたいという、AE事業部の目指すところがハッキリ、クッキリ見えるお話でした。

取材・文/櫛田理子
その昔、パソコンゲーム誌『ログイン』でバイトしていた時に、ナムコ(当時)のゲームが大好きだったことから、深く考えず“くしだナム子”のペンネームを名乗ってしまいました。許可を得ているわけでも、特別な縁があるわけでもありません。ゴメンナサイ。

PAC-MAN™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
Tales of ARISE™& ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
Taiko no Tatsujin™Series & ©Bandai Namco Entertainment Inc.
NAMCO LEGENDARY™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
TEKKEN™8 & ©Bandai Namco Entertainment Inc.
電音部™& ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.