『ドラゴンボール』ごっこにのめり込んだプロデューサーが語る、原作ファンをアツくさせるゲーム表現【SPOTLIGHT】

今回の【SPOTLIGHT】シリーズでは、17年ぶりに登場する「ドラゴンボールZ Sparking!」シリーズ最新作『ドラゴンボール Sparking! ZERO』のプロデューサーを務める古谷純さんに焦点を当てます。

「『ドラゴンボール』をはじめとするさまざまな作品を預からせていただく以上、皆さまの期待にはしっかりと応えなければならないです。その作品が魅力的であるからこそ、多くのお客さまに楽しんでいただけるという大前提を常に意識していますね。」(古谷)

『ドラゴンボール』の登場キャラクターに憧れてごっこ遊びをしていた幼少期や、『ドラゴンボール Sparking! ZERO』制作におけるこだわり、他社版権作品のゲーム化において重視しているポイントなどを伺いました。

2024年10月10日にリリースされた『ドラゴンボール Sparking! ZERO』。17年ぶりの発売を迎えたシリーズ最新作のプロデューサー古谷純さんに、『ドラゴンボール』との出会いから本作のプロデュースにおけるこだわりまでを伺いました。

Recipe Image

古谷 純

バンダイナムコエンターテインメント
CE事業部 第1プロダクション アシスタントマネージャー

プロモーションや経営企画を経て、現在はプロダクション業務を担当。『ドラゴンボール Sparking! ZERO』のプロデューサーを務める。

原作という「正解」のもつアツさを、ゲームならではの表現に落とし込む

――まずは古谷さんのお仕事について教えてください。

古谷:主に家庭用ゲームの制作を担当しています。簡単に言うと、お客さまにどんな楽しさをお届けするか、それをいかにゲームとして表現するかを考え、開発会社さまをはじめとした多くの方々と協力して形にする仕事です。

私が所属している部署だと、版権元さまからお借りした作品をゲーム化するタイトルが多いですね。私は『ドラゴンボール』のゲームのプロデュースを担当しています。

『ドラゴンボール Sparking! ZERO』プロデューサーの古谷さんは、物心ついたころからの『ドラゴンボール』ファン

――他社からIP(※1)をお借りしてファンの方々に届けるプロデューサーとして、普段から意識していることはありますか?

古谷:やはり原作へのリスペクトですね。原作がもつアツさをしっかり理解して、それをファンの方々が楽しめる形でゲーム化することが一番大事だと思っています。

『ドラゴンボール』をはじめとするさまざまな作品を預からせていただく以上、皆さまの期待にはしっかりと応えなければならないです。その作品が魅力的であるからこそ、多くのお客さまに楽しんでいただけるという大前提を常に意識していますね。

※1 IP:Intellectual Property=キャラクターなどの知的財産

――「パックマン」などの自社IPではなく、他社IPを扱う仕事ならではの特徴は何ですか?

古谷:他社の著名IPを扱う場合、もともと原作が大好きなお客さまに遊んでいただくことがほとんどなんです。だから作品の魅力を、自分自身も楽しんでみたり、身の回りにいるファンに話を聞いたりしてリストアップするようにしています。

原作という1つの「正解」があるうえで、それをゲームならではの表現としてどう落とし込むかを考え、さまざまなファンに喜んでいただくことを目指すのは、他社IPを扱う際の特徴かなと思います。

――「ゲームならではの表現」というお話がありましたが、例えばどのような部分がゲームならではの味になってくるのでしょうか?

古谷:今回の『ドラゴンボール Sparking! ZERO』で言えば、悟空を操作するなら悟空の気持ちでバトルに挑んでほしい、と考えました。自分が悟空ならどんな闘い方をするか、という部分を自らの手で演出することに重きを置いています。

『ドラゴンボール Sparking! ZERO』に登場する悟空

――自分で操作する、というのはアニメやマンガにはない体験ですね。

古谷:例えば、戦闘中に自分のタイミングで超サイヤ人になれたり、あえてピンチになるまで1人で頑張って闘ってからベジータとフュージョンして一気に逆転するなどの展開を作れるのは、自分で操れるゲームだからこその楽しみ方じゃないですか。本作で言うとこのように、自分でドラマを作っていけるのが、ゲームの醍醐味だと思います。

また、闘いの中で悟空たちの持つ超パワーがいかにすごいかをプレーヤー自身が体感できるように、工夫しました。気を溜めたら草木が揺れたり天気が変わったり、闘いの余波で周囲が激しく壊れたりなどの演出にこだわっています。超パワーをもったキャラクターへの深いなりきり体験をお届けできればと考えていましたね。

幼少期のごっこ遊びではリアリティーを追求。「かめはめ波」ではなく「ビッグバンアタック」を撃っていた

――古谷さんは幼い頃からの『ドラゴンボール』ファンだと伺っています。シリーズとの出会いはいつ頃でしたか?

古谷:一番古い記憶にあるのは、アニメ『ドラゴンボールZ』で「セルゲーム」が放送されていたあたりですね。友達とごっこ遊びで必殺技を真似していたことを覚えています。悟空やベジータになりきるのはもちろん、レンガの壁の模様を魔人ブウに見立てて、ボールを使って攻撃する、みたいなこともしていました。

みんなはボールで「かめはめ波」を撃っていたんですけど、「かめはめ波」ってどちらかと言うとエネルギー波が伸びていくタイプの技じゃないですか。よりリアルにしたいなと思って、球状の気弾を発射するタイプの「ビッグバンアタック」を使っていた記憶があります(笑)。

「かめはめ波」を撃つ悟空
「ビッグバンアタック」を繰り出すベジータ

――なかなかにマニアックですね(笑)。当時、特に惹きつけられたポイントなどは覚えていますか?

古谷:「魔人ブウ編」で、当時の自分と年齢が近い悟天とトランクスが登場したんですよね。自分と大して変わらない子どもなのに超サイヤ人に変身できたり、超パワーを持っていたりしたことに強烈な憧れを抱いて、小さい頃は本当に、悟天になりたいと思っていました

『ドラゴンボール Sparking! ZERO』に登場する悟天

ごっこ遊びで友達と「フュージョン」もやっていたんですけど、全然指が合わなくて。一度も成功しなかったです(笑)。

『ドラゴンボール Sparking! ZERO』では、大人にとってのごっこ遊びを目指した

――『ドラゴンボール』をゲーム化するにあたり、特に意識したポイントはありますか?

古谷:『ドラゴンボール Sparking! ZERO』では、大人になってからのごっこ遊びを目指しました。幼少期のごっこ遊びって、勝つことだけを考えるのではなく、あえて無駄なことをして楽しむ部分があると思うんです。本作でも、原作があるからこそ、良い意味でストイックに勝つことだけにこだわらないアクションを大事にしています。

例えば相手プレーヤーのベジータが「ギャリック砲」を撃ってきたとき、単に勝ちを求めるゲームなら避けてしまえばいいじゃないですか。でも、原作のように悟空が「かめはめ波」を撃ち返して、そのうえで競り勝つのがアツいんです。だからゲームでも撃ち合いを楽しめる演出を入れています。

――今回の『ドラゴンボール Sparking! ZERO』において、ご自身がファンだったからこそ思いつくことができたアイデアはありますか?

古谷:『ドラゴンボール Sparking! ZERO』は『ドラゴンボール』のゲームであるとともに、「ドラゴンボールZ Sparking!」」シリーズの作品だということも大事なポイントなんです。このシリーズは前作もすごく楽しまれていて、多くの方から「続編は出ないのか」と言っていただいていました。本シリーズの魅力は、先ほどまで述べていたようなストイックに勝ちにこだわる闘い方ではなく、いかに『ドラゴンボール』らしく、そのキャラクターらしく闘いを楽しむか、という部分にあったと思っています。

今作ではその魅力をより深められるように、原作のシチュエーションでのバトルを楽しめるモードがあり、その中でも一部、プレーヤーの選択や闘い次第で違った展開が楽しめる要素があります。そのほかにも、プレーヤー自らの手でオリジナルのシチュエーションのバトルを作るモードもあります。

自分自身が、原作を見ながら「もしここで違う展開があったら、どうなっていたんだろう?」なんて想像したり、ごっこ遊びでいろんなシチュエーションを楽しんだりした経験が、少しは活きているのかもしれないです。

老若男女に楽しんでもらうために、具体的な個人を想像しながらゲームを作る

――『ドラゴンボール』は作品自体の歴史も長く、老若男女問わず多様なファンに愛されているIPかと思います。それゆえの難しさはありますか?

古谷:やはりどんな作品に対しても、おもしろいと思う部分、好きなポイントは人それぞれで、自分とは違うところに惹かれている方もいらっしゃると思います。

自分とは違う楽しみ方をされている人にも楽しんでもらえるように、というのは今作に限らず常に意識していることです。人の気持ちになりきるのは難しいので、自分の場合は特定の人物の人柄を理解して、「この人だったらこういうのが好きそうだよね」といった分析を行うようにしています。

――相手になりきるのではなく、理解を深めることで感じ方を推測できるようにすると。

古谷:例えば家族にプレゼントを買うときに、「これをあげたら喜びそうだな」みたいなことはなんとなく想像できるじゃないですか。自分の趣味とは違っていても、相手を理解しているからこそ、そういうことも考えられると思うんですよ。具体的な個人を想像して、その人が喜んでくれそうなことを考えてゲームに落とし込む、というのは意識している部分です。

――ご自身の「好き」という気持ちだけでなく、さまざまな方の「好き」に共鳴すること意識されているんですね。何かを「好き」な感覚を仕事に活かすうえで、一番大切なことはなんだと思いますか?

古谷:いろいろな作品に触れるうえで、ファンの感覚だけでものを消費しないようにすることは、大切かなと感じます。もちろんファンの気持ちをもつことも大事なんですけど、「このアクションがどうしてこんなに気持ち良いのか」「このシーンで感動できたのはなぜだろう」みたいに考えを巡らせることで、多くの方に楽しんでいただけるものを作れると信じています。

【あなたは未来のエンターテインメントをどのように照らしますか?】
古谷:お客さまの「好き」を、ゲームだからこそできる「遊び」にしていきたいです。

【取材後記】
『ドラゴンボール』を見てごっこ遊びに励む、というのはかなり多くの人が経験してきたことではないかと思いますが、リアリティー重視で「ビッグバンアタック」を選ぶ子は自分の周りにもいなかったので驚きました。幼少期にごっこ遊びで夢中になっていた作品のゲームを制作している、というのもアツい!

映像を見るだけでも原作へのリスペクトを感じる作り込みですが、古谷さんのお話にも原作に対する誠意があふれていたのも印象的でした。大人になっても楽しめるごっこ遊びに最適な本作、遊べば小さな頃に詰め込んだ夢が久しぶりにあふれ出すはず!

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。

©バードスタジオ/集英社・東映アニメーション
©Bandai Namco Entertainment Inc.