【ドラゴンボール ファイターズ・広木P】仲間の実力を最大限引き出すため、最善の決断を探す

現在『ドラゴンボール ファイターズ』のプロデューサーとして活躍する広木朋子さん。チームとコミュニケーションを取るときやプロデューサーとして判断力を問われるときには、新人の頃の配属先である営業職での学びや経験が役立っていると語ります。

『ドラゴンボール ファイターズ』プロデューサー・広木朋子。プロフェッショナルたちを集め、仲間が実力発揮できる働きやすい環境を整える

世界規模で大ヒット中の『ドラゴンボールファイターズ』(2018年2月発売)をプロデュースするにあたり、広木さんはどのようにプロジェクトチームをまとめ、ユーザーのニーズを作品に反映していったのでしょうか。世界で戦うタイトルを生み出した背景には、営業で培った「お客様の声を大切にする姿勢」、そして「チームの力を最大に引き出すための決断力」がありました。

2年間の営業経験で「お客様を見る」ことを学んだ

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――広木さんがプロデュースを担当した『ドラゴンボール ファイターズ』が今年(2018年)の2月に発売され、ワールドワイドで200万本以上出荷されているそうですね。

おかげさまで日本国内を越えて、世界中のユーザーのみなさんに遊んでいただいています。

――今日はそんな大ヒット作のプロデューサーを務めた広木さんの等身大の姿に迫りたいと思います! 驚いたのですが、入社当初は営業職をされていたそうですね。

元々、人と話すことが好きで就活のときから営業職を志望していたんです。入社してから2年間は国内営業部門に所属していました。入社3年目になるときに上司から「違う仕事で世界を広げるのも重要」とアドバイスを受けて、プロダクション部門に異動になったんです。異動は私だけでなく、バンダイナムコエンターテインメントはジョブローテーションが盛んなんです。いろんな仕事にチャレンジできたり、専門性を高めたり。自分が成長できるチャンスがたくさんある環境ですね。

――営業の経験は、プロデューサーの仕事でどのように活きていますか?

営業の経験があったからこそ、今の私があると思っています。
なぜかというと、営業は、売り場はもちろん、商談の席なども含めて、さまざまなお客様の反応を間近で見て、肌で感じることができるからです。営業の現場にいられたことで、プロデューサーとしての判断力が養われたんだと思います。

――お客様のリアルな反応を間近で見られたことが、広木さんのキャリアに大きく影響しているんですね。

以前、弊社の大下(代表取締役社長)が言っていた「会社の利益が出てお給料がもらえるのは、お客様が買ってくれるからこそなんだ」という言葉が、ずっと心にあるんです。お客様をちゃんと見るのが大切だという当たり前のことなんですが、営業経験を通じてそのことを現場でダイレクトに学べたと思います。

――プロデューサーとして活躍する今、お客様の姿はどのようにリサーチしているんですか?

長いプロジェクトの中では、つい目先のタスクに追われてしまって、一番大切なお客様のことが見えなくなってしまう瞬間もあります。そうやって行き詰まったり判断に迷ったりしたときには、営業の現場だったゲーム売り場やマンガコーナーによく足を運んでいます。現場でお客様の生の反応を見てアイデアやヒントが浮かぶことは、本当に多いんです。
今プロデュースを担当している『ドラゴンボール ファイターズ』のプロジェクトでも同じですね。

「操作が簡単、かつ戦略に深みのあるバランス」。ゲーム初心者にも楽しんでもらいたい

――『ドラゴンボール ファイターズ』は世界で人気の作品がベースとなっていますから、お客様からの要望もさまざまだったのでは?

以前から、ドラゴンボールの対戦格闘ゲームに対するご要望は世界中のお客様から寄せられていました。ただ同時に「対戦格闘ゲームは難しそうでハードルが高い」というご意見も少なからずありまして。
本作では、「どうすれば、普段は対戦格闘ゲームをプレイしないお客様にも楽しんでもらえるゲームを作れるだろうか?」というのが大きなテーマになったんです。

――ゲームコンセプト自体にお客様の声が反映されているんですね。

その通りです。そこで、「アニメの悟空を動かしているようなグラフィック」を導入し、かつコンボや必殺技も簡単にすることで、「対戦格闘ゲームは操作が難しい」というイメージの払拭を目指しました。「操作が簡単、かつ戦略に深みのあるバランス」が目標でした。

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――ドラゴンボールのキャラクターは子どもから大人まで親しみを持っていますからね! 必殺技がどんどん出せる楽しい感じも、PVから伝わってきます。

まさにそう言っていただきたくて、操作性にはとことんこだわりました! 以前イベントを開催したときに、「ゲーム初心者でも、大人と上手く戦えている」という声をたくさんもらったんです。狙い通り、さまざまなゲームユーザーが楽しめる対戦格闘ゲームになったことに気づいてとても嬉しかったですね。

「悟空になって闘いたい!」。面白いと思うポイントは世界共通だった

――海外ユーザーの意見は、どのように集めているのでしょうか?

海外の販社を通じて、外国のお客様の意見もヒアリングしていましたし、今ももちろん、続けています。『ドラゴンボール ファイターズ』はこれからも、世界にいるユーザーのみなさんからの声やニーズを取り込みながら進化していきます。お客様に長く遊んでもらい、バンダイナムコエンターテインメントの新しい定番タイトルとして大事に育てていきたいです。

――お客様だけでなく、スタッフのみなさんも世界各地にいらっしゃいますよね。

海外のスタッフとやり取りをするうえで、「日本と海外で考え方は違って当たり前」だと思っていたんですが、ゲーム内の駆け引きについての考え方や「こうした方がおもしろい」と思うポイントなどの“感じ方”が予想以上に同じ点も多かったのは、いい意味での驚きでした。それらを海外スタッフと共有しながら進められたことで、世界に通用するタイトルになってくれたと思っています。

もちろん、「ドラゴンボール」という作品や世界観が“共通言語”になっているのも大きかったですね。やっぱりみんな、悟空になってド派手に戦いたいですから!

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プロデューサーは、プロジェクトメンバーが仕事をしやすいように動く

――プロデューサーの仕事では、お客様を見るだけでなく、プロジェクトメンバーをまとめることも重要かと思います。広木さんが大切にされているのは、どんなことですか?

ゲーム制作のプロジェクトにおいては社内外に本当に多くの関係者が存在します。その中でのプロデューサーの一番の役割は、彼らプロフェッショナルが100%の実力を発揮できる環境を作ることです。関わっているメンバーがどうすれば仕事をしやすくなるか、最高のパフォーマンスを発揮するための最善の決断とは何か、 いつも考えています。

例えば、「この検討事項は早く決めたほうがメンバーは動きやすい」と思ったら即決断する。反対に「もっと条件がそろってから方針を決めないと無駄な作業をさせてしまう」と思えば、しっかり時間を使って情報収集してから決断する、という風にです。

――「プロデューサー」という言葉には周りを力強く導くリーダーのイメージもありますが、それだけではないんですね。

プロデューサーは、仲間に協力してもらって初めて仕事を前に進めることができるんです。スタッフがいかに気持ちよく仕事ができるかが大切です、チーム内のコミュニケーションにも、営業でお客様の気持ちに向き合ってきた経験が役に立っているんですよ。
そしてもうひとつ、「誰に助けてもらうか」を決めることも大切な仕事です。つまり、いかに才能ある人材を獲得できるかがプロデューサーの力でもあるんです。

人に恵まれることは本当に大事です。『ドラゴンボール ファイターズ』のプロジェクトでも、本当に多くの人に助けてもらいました。その力があったからこそ、世界で認めてもらえるゲームが生み出せたんだと思います。

――開発プロジェクトが進行していく中で、チーム力の大切さを実感した経験を教えてください。

実は開発初期の社内レビューで満足のいく評価を受けられず、プロジェクトの存続自体が危ぶまれたことがありました。
自分としては精一杯やっていたつもりだったのですが、「世界のファンにゲームを届ける」という重さを真剣に考え抜いていなかったかもしれないと反省しましたね。社内の指摘は納得がいくものでしたから、「もう少し時間をください。絶対にいいものを仕上げてきます」と頼み込んで、仕切り直しました。

そんなピンチで力を貸していただき、クオリティを引き上げてくれたのは、もちろんプロフェッショナルなプロジェクトメンバーです。本当に仲間に恵まれました。

――長いプロジェクトの中で困難もあったんですね。

『ドラゴンボール』の悟空たちサイヤ人は「一度瀕死になると、その後よりパワーアップする」という設定がありますが、まさにそのような形で復活した、って感じですね(笑)一度倒されてからパワーアップして復活したんです(笑)。そういう局面で、チーム一丸となって踏ん張れる精神力も、プロデューサーには必要かもしれないですね。

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――最後に、プロデューサーとしての今後について聞かせてください。

『ドラゴンボール ファイターズ』のプロデュースを通じて、世界中のお客様に感動を届けることの大切さや、その意味をこれまで以上に感じました。そして、プロデューサーとして常に世界を意識していかなければいけないという気持ちを新たにしました。

それから、お客様とコミュニケーションを継続して取ることの重要さも実感しています。1つの作品を長く楽しまれる方は世界的に増えていますから。

ワールドワイドなお客様に目を向け、どんなニーズがあるのかを肌で感じながら、新しい遊び、新しい楽しさを提案していきたいと思います。

――本日はありがとうございました!

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【取材後記】
「プロフェッショナルであるプロジェクトメンバーが最高のパフォーマンスを発揮できるように最善の決断を探す」という“流儀”からは、共にプロジェクトを進める仲間への大きな信頼が伝わってきました。

「プロデューサーというポジションは一人だけでは何もできないから、みなさんに力を貸してもらうことも仕事の一つ」と語る広木さんですが、それこそがプロジェクトを成功に導く鍵になっていたのだと感じます。仲間と共に闘い、今までの自分を超えて、より強くなっていく。それはまるで、ドラゴンボールのキャラクターそのものだという気がしますよね!

本格対戦格闘ゲームというジャンルに“初心者でも気持ちよく駆け引きができる”という新しいコンセプトを吹き込んだ『ドラゴンボール ファイターズ』。世界のファンを巻き込んで、これからどんなタイトルに成長していくのでしょうか。一人のゲームファンとして、注目していきたいと思います。

取材・文/高田陸(shiftkey)
1991年生まれ。週末になるとマンガが増えます。ゲームもHDD内でこっそり増えます。

写真/スタジオアトム