バンダイナムコエンターテインメントを支えるプロたちの神髄を、“3つの要素”から探る連載企画の第7回目は、家庭用ゲームソフトを展開するCE事業を担う内山大輔氏が登場。内山氏が持つのは、エンターテインメントを作る上でとても重要な「こだわりぬく」資質と、好きなものにとことん没頭することができる「こじらせ」体質。内山氏を表す3つの要素とは?
自分の好きなものを徹底的に「こじらせ」よう
内山大輔氏にお持ちいただいた3点は、「世界史関連書籍」「ゲームブック」「ご自身が手掛けたゲーム作品」と、内山氏が過去に没頭したものだそう。それぞれの品への思いとエンターテインメントを作る上でのこだわりを語っていただくなかで見えてきたのは、「こじらせる」というキーワードでした。
1:世界史関連書籍。「歴史が持つ縦軸・横軸の魅力」
――今回お持ちいただいたのが、陳舜臣さんの『小説十八史略』と、高校の世界史の教科書ですね。世界史がお好きだったのでしょうか。
内山:はい。もともと歴史が好きになったきっかけは、小学校の図書館に置いてあるような日本の歴史マンガだったんです。中でも最初のインパクトとなったのは源氏と平家について描いた章。壇ノ浦の戦いでの源義経の活躍を読んで、武将の生き様がすごくかっこいいぞと感じたんです。そこから歴史が面白い、と思うようになったんです。
――源平の物語をきっかけに歴史の面白さや深さに興味を惹かれたのですね。
内山:源平の物語って、源氏が正義、平家が悪、といった描かれ方をしていますよね。そんな物語を動かしていく源義経という存在に小学生は夢中になる。今でいうヒーローものですからね。そこから僕の歴史好きは深まっていったんです。
――でも、今回お持ちいただいた『小説十八史略』は中国の話ですよね。中国史にも興味を持たれたんですか?
内山: 中国史に興味を持ち始めたのもマンガがきっかけで、横山光輝さんの『三国志』だったんです。このマンガには本当に夢中になりました。とにかく三国志が好きで、三国志について語りはじめると止まらなくなるような子どもでした。そんなときに出会ったのがこの『小説十八史略』。中国には二十四の正史があるんですが、『小説十八史略』は、伝説や神話の時代からその18番目までの時代を舞台にしたものです。
内山:マンガ『三国志』では、物語は黄巾の乱によって幕を開けるんですが、この『小説十八史略』はそれだけではない。三国志に至るまでの歴史、その発生前と発生後も描かれているんです。これで『三国志』の冒頭の一揆に至るまでの経緯を知りました。その時に学んだのが、歴史上の一揆や戦いには前と後ろの出来事というのがあって、その原因というのは前時代にある。そして、その事象が終わったあとにはもっと壮絶な歴史が幕をあける。
――もともと読んでいた物語の前後を知って、どんどんハマっていかれたんですね。
内山:時代の前後での因果関係が面白くなっていって。歴史が紡がれて出来る「縦軸」の流れですよね。それと同時に、また違う歴史を紡いできたトルコやヨーロッパとの交流も「横軸」として面白い。
――お仕事にも通じるお話になりそうです。
内山:ピンポイントの事象だけじゃなく、原因と結果があるんだ、ということですよね。そのことに僕は小学生のときになんとなく気づいた。その後、高校のときには歴史の世界で生きていくような、研究者になりたいと思っていた時期もあって。それくらい長年夢中です。
2:ゲームブック。「影響されて初めて作ったストーリー」
――これはゲームブックですね。ノベルで道を選択しながら指定されたページへと飛んで読み進めていく、いわゆるアナログなRPGゲーム。
内山:いま、アナログゲームの『マーダーミステリー』などのテーブルトークRPG的なゲームがブームになっているけれど、ゲームブックはそれらの変形といえるものですね。
――テレビゲームではなく、アナログゲームの方がお好きだったんですか?
内山:いえ、テレビゲームは親がどうしても買ってくれなくて(笑)。当時はゲームをやると馬鹿になるし、スポーツをしなくなるし、目が悪くなるし、悪い影響しかない、と大人たちに思われていた時代でした。ファミコン(ファミリーコンピュータ)は近所にあるいとこの家でしか遊べなかった。だから、当時流行っていたゲームブックを買いました。スティーブ・ジャクソンさんの『ソーサリーシリーズ 魔法使いの丘』は挿絵も本格的で、日本にはないようなダークファンタジーでワクワクしました。こういうイラストが想像力を広げてくれるんです。
――いとこのお家ではどんなゲームで遊んでいたんですか?
内山:『スーパーマリオブラザーズ』や『ゼビウス』を、週に一回だけやらせてもらっていました。ファミコンが発売されて、僕がそうしてプレイしていた頃って、まだゲームの「ジャンル」というものが生み出される瞬間の時代でもあったんですよね。まさに創世記。『スーパーマリオブラザーズ』の横スクロール、『ゼビウス』のシューティングが本当に新しくて「天才!」と思っていたところに『ドラゴンクエスト』でRPGと出会い、「ぎゃー! おもしろすぎる!」と感動して。
――良い時代にゲームと出会ったんですね。
内山:とにかくゲームが大好きでした。でも自分のゲームは買えない。そこでゲームブックで遊んでいくうちに、「自分でも作ってみよう」と思い立って、自分でノートに手書きで、たくさん作りましたね。
――ご自身で! 簡単には作れないですよね。どうやって作っていたんですか?
内山:はじめにテーマとストーリーを決めて、プロットやフローチャートを作って、そこに文章を足していって作ります。全部出来上がったところで、フローチャートの分岐に番号をふり、番号順にノートにストーリーを書いていきました。今回持ってきたのは最初に作るプロットです。総分岐でいうと100ないくらいで、ノートにすると10ページもいかないやつです。でも物語に沿ってその世界の地図を書いていって、友だちにプレイしてもらって感想を聞いたりしました。ゲームを買ってもらえないが故のクリエイトでしたね。
――いまこうしてエンターテインメントをお仕事にされている原点といえるかもしれませんね。
3:『北斗の拳 世紀末救世主伝説』。「こだわりはファンに届く」
――懐かしいPlayStationソフト「北斗の拳 世紀末救世主伝説」と……ジャギ様の胸像ですか!?
内山:そうなんです。これは僕の夢を形にした商品でもあるので、ぜひ、と持ってきました。この『北斗の拳 世紀末救世主伝説』は色々な意味で問題作でもあるのですが、本当にこだわって作った作品です。当時もよく売れましたし、いまもネットで「名作」「迷作」のどちらとしても評価していただいていますね。僕はPlayStation3くらいまで現役でゲームを作っていたのですが、ゲームの作り方やこだわり方が大きく変わったのはこの作品でした。
――思い入れのある作品なんですね。そしてこのジャギ様の胸像は……?
内山:このジャギ様の胸像はゲームの初回版につけた抽選応募券の賞品です。これもかなりこだわって作ってあって、金属製でしっかりしているんです。当時、「なぜ主人公のケンシロウではなく、ジャギ様を特典に?」という疑問を持っていた方もいらっしゃったのですが、この胸像は単純に作品のキャラクターをモチーフにしたグッズではなく、原作に登場する胸像を再現したものなんです。原作ファンの方からは、「わかってる〜!」「ただものじゃない」というお声をいただけました。
――賛否があるからこそ話題になったんですね。
内山:ほかにもゲームの容量が限られている中で、メインキャラクターではないけれど印象深い「でかいババア」「ミスミのじいさん」を作り込んだりと、「くだらない」と思われてしまいそうなこともしっかりとこだわって作りましたね。そしてすごく売れた。この作品を通して、こちら側がこだわって作ったものは、ファンにもしっかり届くんだなぁ、と思いました。その後のプロジェクトにも生きた経験になったと思います。
――この作品の制作経験は内山さんのキャリアにとって大きなものだったのですね。ほかにも、本日挙げてくださった3つの要素がバンダイに入社されてから生きたな、と実感したことはありましたか?
内山:世界史をこじらせたことは大きいと思います。小学生では現地には行けないし、もちろん終わった歴史を体験することは出来ない。つまり、手の届かないものに憧れていたのですが、歴史にハマっていたことは、自分作りのために重要だったと思います。
――「自分作り」ですか。どうすれば上手に自分作りができるでしょうか?
内山:よくこの業界では「アンテナを高くしなさい」「どんどん遊びに行きなさい」と言うけれど、興味のないものを勉強のために見ても面白くないと思うんです。むしろ、もともと自分の好きなものをこじらせてみればいいんじゃないかと思います。こじらせた先に、人には負けないようなこだわりのポイントが生まれて、それがいつか役立つのではないでしょうか。だからこれを読む人たちには、おおいに自分の好きなものをこじらせて欲しいですね。
【取材後記】
こだわりの強い内山さん。「こじらせている」のは事実で、世界史の話が横道に逸れた際には世界各国が保有している兵器についてのお話から、「機動戦士ガンダム」での武器の歴史など止まることをしらない。ぜひいつか、もっと深い「世界」のお話を聞きたいです。
取材・文/ えびさわなち
リスアニ!、リスウフ♪を中心にアニメ、ゲーム、特撮、2.5次元の雑誌やWEBで執筆中のエンタメライター。息子の学校が休校になってしまい、勉強など、どのようにしようか迷っていたら、東大生の有志による動画配信授業や、ほかにも理科の実験を見せてくれる化学者のみなさんなどの登場で楽しく勉強できました。学びもまたエンターテインメントになっているのですね。