【ゲームと特許の話】バンダイナムコ・知財部の恩田明生さんに聞いてみた

常に新しさが期待されるゲーム。新発明が詰まった ゲームも多く、ゲームの進化を語るうえで欠かせないのが特許の話。特許制度が健全なものづくりに貢献しているって、どういうこと? ゲームと特許の関係に詳しい専門家、知財部の恩田明生さんに聞いてみました!

特許制度があるからこそ「新しいアソビ」が生み出され、かけがえのない財産になる

バンダイナムコエンターテインメントの知的財産部にて、特許に関わる仕事を手がけている恩田明生さん。いろいろな特許技術が使われているゲームは、発明の宝庫です。そしてゲーム業界は、特許制度があるからこそクリエイターの権利が守られ、健全なものづくりができるとのこと。特許の専門家である恩田さんに、ゲームと特許の関係や、仕事、クリエイターたちとの向き合い方について伺いました。

特許はさまざまなメリットをもたらし、さらに新しいアイデアと仕組みを生み出す

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――いきなりですが、恩田さんは「新しいアソビが生み出されるのは、特許制度があるからこそ!」とお考えだそうですね。それはなぜなんですか?

ゲームはいろいろなスタッフが多大な知恵や時間、お金、そして想いを込めて作り上げるものです。もし製品に採用されず試作で終わっても、特許を取得しておくことで、そこで考えられた新しいアイデアや仕組みは、形に残る財産として確保できるんです。

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アソビの取り組みを財産化

特許のおかげでせっかくの発明が無駄にならずに済みますし、他社さんとライセンス契約を結んだりもできるので、新しいアソビ作りの環境を広げていくことができると言えますね。

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特許制度の目的

――世に出ないものでも財産になるのはいいことだなと思います。でもその分、他社の特許のせいで自由な開発を妨げられてしまう、なんてことはないんですか?

確かに特許は、自分の発明を自分だけが独占できる権利なので、「特許があるとゲームが自由に作れなくなる」とマイナスにとらえられがちです。でも、せっかく面白い仕様やアイデアを考えたときに、特許がないとみんながそれをマネしちゃって、世の中のゲームがすべて同じようなものになってしまう事態もあり得ますよ。

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――確かにそうかもしれません……! 特許がなくてパクリがOKだと、似たゲームばかりになって、すぐ飽きちゃう恐れがあるってことですね。

「他社の権利を侵害しないで済む、面白い方法がないかな」と、それぞれのメーカーが他社の特許を避けてゲーム開発をすることが、ゲームをもっと面白くすることにつながります。そのため、「特許は新しいアソビを生み出すのに貢献する」と、私は考えているんです。特許があることで、各メーカーはチャレンジしたことが形に残りますし、ゲーム業界は類似のゲームに偏らず、新しいゲームが生まれて盛り上がるというメリットがあります。「特許のせいでゲーム業界に新規参入できなかった」という事例はないと思いますしね。

――なるほど……! では、ゲームクリエイターの方にとって、特許はどんなメリットをもたらしますか?

先行して「面白さ」を考えたことに対する、一種のインセンティブになります。また、企画者や開発者が手がけたことを、国が特許として認めた実績として、自身のキャリアとして明確に残せるので、モチベーションにもつながると思います。

【知っておきたい、著作権と特許の違い】
ここでよく聞く「著作権」と「特許」について、筆者はそれぞれの意味や違いをまったく理解していないことに気づきました……。そのため、よく混同してしまいがちな著作権と特許の違いについて、簡単にまとめてみました!

●著作権
「表現」(ゲームの場合、例えばキャラクターや音楽、画面構成、ストーリーなど)を保護するもの。創作時に自動的に権利が発生する。

●特許権
「仕様や仕組み・アイデア」(ゲームの場合、例えばコントローラーやタッチパネルを使った操作方法、ガチャのシステムなど、ゲームに関わる仕組み全般の発明技術)を保護するもの。発明後に国家(特許庁) に申請して、審査を経て、お金(維持年金) を収めたりしないと権利が発生しない。

特許は、新しい仕組みやアイデアを発明した人に、それを一定期間独占できる権利を国が与えるもの。その発明の使用を制限したり、使用の対価を要求したりできるという強い効力を持つ、文字通り「特別な許可」なのです。

新しいアソビをお客様に安全に届けるための、重要な知財戦略

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――特許はゲーム開発の縛りや障害になっているのかなと思っていましたが、そんなことはないんですね。恩田さんが携わっている特許のお仕事は、どのような仕事なんでしょうか?

1つ目は先ほどお話ししたように、バンダイナムコエンターテインメントの新たな取り組みを財産化する作業として発明を発掘、創造し、特許化することです。
2つ目は、「既存の特許を尊重しつつ、どのように新たなアソビにつなげるか?」という検証を、クリエイターの方たちと一緒に行っていくことです。
いずれも、特許を通じて、お客様により面白いエンターテインメントを提供し続ける環境を構築していくことが主な仕事です。

――それって、ゲームに関する膨大な数の特許を調べたり、ある程度の特許の知識を頭に入れておいたりする必要があるってことですよね……? めちゃくちゃ難しくて大変そうなのですが……。

確かに、近年はソーシャルゲームのシステムなどに関する特許も増えていて、毎年1000以上もの特許が取得されているので、なかなかハードルが高い仕事でもありますね(笑)。
とはいえ、ゲーム制作にかかる膨大な開発費を考えると、特許申請でアイデアを財産にできるのは素晴らしいことです。それに、他社さんの特許権を侵害しないようしっかりチェックし、現場に情報共有を行ってリスクヘッジをしています。

――つまり、恩田さんが取り組んでいる知財部のお仕事は、安全に新しいアソビを生み出せる環境作りや、そのお手伝いをしているということでしょうか。

そうですね。バンダイナムコエンターテインメントは、ゲームだけにとどまらず、あらゆるエンターテインメントをお客様にお届けする企業です。事業内容が多岐にわたりますし、時代に合わせて変化もしていくので、新しいアソビをお客様に安全に届けるため、知財戦略は、常に経営戦略にしっかりと寄り添っていくことを意識しています。
特許がゲームやエンターテインメントの発展に貢献するということ、そして知財戦略の重要性を、たくさんの人に知っていただけると嬉しいですね。

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【取材後記】
ゲームと特許との関係について教えてくださった恩田さん。個人的には、特許と聞くと「囲い込み」「独占」などのイメージが先行し、クリエイターの方々の障害になっているのかな……と考えていましたが、「特許があるからこそ新たなアソビが生まれ、ゲーム業界の発展につながっている」と知り、目からウロコが落ちる思いでした。

さらに、バンダイナムコエンターテインメントの場合は、会社のサービスや戦略と特許が密接に関わっているそう。なんと知財部は、実際のゲーム開発の現場においても、企画の初期段階から関わっているとのこと。
次回は、バンダイナムコエンターテインメントの知財発掘の取り組みや、新しいアソビが生まれた代表作についてお話を伺います!

【ゲーム特許5選】太鼓の達人は企画段階、人間キャラ!バンダイナムコのゲーム発明

【取材・文 矢郷真裕子】
フリーランスの編集者・ライター。さまざまなゲームキャラクターの感情に触れて感動しながら成長。