運動不足や偏った食生活などから、生活習慣病にかかる人の増加も問題視されている現代。継続的な運動が生活習慣病を予防し、健康寿命延伸につながるといいますが、正しい運動はなかなか習慣化しにくいもの。そこで、アソビで運動の習慣化を目指す3社のアプリ開発が始まります!
運動嫌いな人へのお助けツール!運動を正しく、楽しく継続できるアプリの開発とは
「運動ツラい…」という人を「運動楽しい!」という気持ちに変えたい、という想いで、アステラス製薬とバンダイナムコエンターテインメント、ヘルスケアのIoTスタートアップ企業・Moffがタッグチームを組むことになりました。共同開発が始まった経緯や今後の展開について、プロジェクトメンバーのみなさんに伺ってきました!
“アソビながらヘルスケア”に、3社が本気で挑む!
3社は以下の役割で、Moffバンドの使用を前提とする運動支援アプリの開発を行います。
●アステラス製薬
「運動プログラムの立案・提示」
●バンダイナムコエンターテインメント
「運動ゲームコンテンツの企画やデザインの方向性など、多くの人に受け入れられて、運動プログラムを継続したくなる仕掛け作り」
Moffには、アプリケーション開発業務全般の統括・企画・進捗管理、運動計測システム制御、運動実行ログ表示サイトなどのインフラ開発等の業務を委託します。
━━3社はそれぞれ事業領域も展開するターゲットも違いますが、どんなきっかけでコラボすることになったんですか?
アステラス製薬・金山基浩さん(以下、アステラス製薬・金山):アステラス製薬は医療用医薬品(Rx)事業が中核ビジネスですが、2018年に戦略目標の一つとして、新しいヘルスケア領域への事業拡大を掲げました。これまでに医療用医薬品事業で培ってきた強みを生かし、最先端の医療技術と異分野の先端技術を融合させ、新たなヘルスケアソリューション(Rx+TM)を創出することが狙いです。
私は、現在、新規事業の立案に携わる立場であり、もともと私自身が医療用医薬品以外のヘルスケアソリューションに興味がありました。周りの人たちから“トレーニングマニア”と言われるほどの運動好きで、しかも子どもの頃からゲーム好きです。
そこで、以前から興味を持っていたヘルスケア・IoT・ソリューション企業のMoffと、エンタメ会社でゲームを使ったコンサルティングノウハウがあるバンダイナムコエンターテインメントに新規事業のアイデアを相談してみました。
Moff・高萩昭範さん(以下、Moff・高萩):お声がけいただいたのは2016年後半。Moffはちょうどヘルスケア事業に力を入れる直前でした。お話を受けて、自社の持つ3Dモーション認識技術を活かすことができますし、これまでに蓄積してきた運動能力データをアステラス製薬の研究に活用いただくことで、運動効果の科学的根拠や裏付けが可能になると考えました。これは社会的メリットがあり、インパクトがあると思ったんです。
バンダイナムコエンターテインメント・岩崎覚史(以下、バンダイナムコ・岩崎):新しいエンタメを作り出すということで、2015年4月にバンダイナムコゲームスから「バンダイナムコエンターテインメント」に社名変更しました。そこで、“身体を動かすエンタメ”という方針で新たにヘルスケア領域にチャレンジすることになり、同年9月にMoffへの出資させていただき、コラボが始まったんです。
これまでも身体を動かすゲームは開発してきましたし、私が長年携わってきた「ゲームメソッドコンサルティング」の事業では、ゲームのノウハウを、ゲーム以外の他社へ数多く提供してきました。携帯情報端末、業務システム、研修プログラム、教科書などの設計をはじめ、感情を盛り上げる演出や、継続させる仕組みなどゲームメソッドを応用してきた実績があります。
Moffとの協業で、もっとヘルスケアの領域に本気で取り組んでいこう! という段階でした。そんなタイミングで、アステラス製薬からお声がけいただき「医療系から話が来た! しかも製薬会社!」 と、まさか製薬会社から我々に話が来るとは思っていなくて、当時はびっくりでした(笑)。
でも、改めてアイデアを聞いて「そんなアプローチがあるのか!」「この路線、面白そうだな」と共感したんです。
“アソビ”は人の健康をサポートできる。その想いは同じだった
アステラス製薬が医療用医薬品以外のヘルスケアソリューション、それも運動の領域に取り組むことは、当時は社内でも驚きを持って受け止められたそうで、この新規事業は手探り状態。また、バンダイナムコエンターテインメントとMoffのヘルスケア領域への取り組みは、まだまだ始まったばかりの時期です。
しかし、3社が実現したいことの方向性や、世の中の人に提供したい体験や価値は同じだったようです。
ゲームは人の行動を変え、継続させることができる優秀な装置
━━アステラス製薬がきっかけで始まったプロジェクトですが、どんなアイデアだったんですか
アステラス製薬・金山:このアイデアを思いついたのは、私が大学時代の頃のこと。先ほど“トレーニングマニア”と言いましたが、私は当時、トレーニングを一生懸命やっていました。今よりも。
アステラス製薬・金山:薬学部に所属していたこともあって、自分なりにトレーニング効果についても勉強していました。学部の授業で糖尿病について学んだとき「本気でトレーニングを流行らせたら、2型糖尿病ってなくなるのでは?」と、ふと思ったんです。
冷静に考えれば、糖尿病は色々な要素で発症するので、なくなることはないんですが、トレーニングは非常に多くの人の症状改善に貢献できることは疑いの余地がないなと。そういった考えがあって、ずっとこのアイデアを温め続けていたんです。
「やりたくないこと」を「楽しいこと」に変えたい
━━金山さんの構想はなんと、15か年計画! 相当思い入れが強いプロジェクトですが、バンダイナムコエンターテインメントとどんなふうに協力していくんでしょうか?
アステラス製薬・金山:元々ゲームが好きで、20歳前後の頃はほぼ毎日『鉄拳4』をやっていました。今でも色々なジャンルのゲームで遊んでいますが、ゲームには、やりたくないことでもやらせてしまう仕掛けがたくさんあります。
真面目に言うと、“人間の脳の報酬系をうまく刺激する装置”だと思っています。
どんなにいい薬も、いい運動プログラムも、いい栄養管理のマネジメントも、正しく服用し、正しく行わないと効果がありません。「正しく行う」には、人の行動変容を起こさせる必要がありますが、その行動を変化させるプロセスで、ゲームのメソッドが非常に有効だと考えています。
バンダイナムコエンターテインメント・西本泰大さん(以下、バンダイナムコ・西本):僕自身も元々、家庭用ゲーム機の開発で複数の身体を動かすゲームタイトルに携わってきた経緯から、ヘルスケア領域にチャレンジしたいと思っていました。
ですが、ちょうどKinectの「体で答える新しい脳トレ」プロジェクトが完了し、別のプロジェクトを検討していたときに強く感じたことがあって……。「バンダイナムコエンターテインメントって面白いものを提供するイメージは強いけど、真面目に効果があるもの提供するイメージがあるか問われると、正直ちょっと厳しいんじゃ……。」という(笑)。開発に携わる僕もそう感じていましたし、世間からの認識もそうだと思うんですよね。
でも、何となく「身体を動かすゲームを遊び続けると、身体にとって良い効果がある」ということは分かっていたんです。
━━西本さんはバンダイナムコゲームスの『We Cheer』という身体を動かすゲーム作品の開発中にデバッグ作業で、周りから「痩せた?」と言われたことがあるそうですね。
バンダイナムコ・西本:そうなんです! 息が上がってしまうほど激しいダンスゲームでしたけど、どれだけの運動量によって体重が変化したかなど、科学的に検証したわけでもないので、運動の効果がどれだけあったとは言えません。ただ、楽しくゲームで遊んでいると、夢中になって身体を動かしていることを忘れてしまう、ということは肌で感じていました。
今回このプロジェクトで、運動の強度や量といった科学的根拠を示せるアステラス製薬と、正しく身体を動かせているかを測定できるMoffと一緒に「運動はツラいこと」というネガティブな気持ちを変えたい。ポジティブなイメージに変えて、楽しく自発的に運動できる仕組みを作っていきたいと考えています。
「正しく運動し、楽しく継続できる」。見える化で継続のモチベーションアップ
━━Moffもゲーミフィケーションを取り入れて、体験者を楽しく健康にさせたいという企業理念があるそうですが、どんなふうに関わるんでしょうか?
Moff・高萩:モーションセンサーの技術を使って、運動強度やバランスを測定し、運動やアソビの効果を見える化します。
ただ運動してもらうのではなく、「正しく運動する」ということをサポートしていきたいと考えています。例えば、スクワット一つにしても、やり方を間違えると腰痛につながりますよね。それに、効果のある回数も人それぞれ異なりますから、ツールを使ってちゃんとガイダンスしてあげたいと思っています。
━━運動後に定量的なデータに基づいた評価が見える化され、ちゃんと体験者にフィードバックされるということですね。
Moff・高萩:リハビリは、あまりやりたくないと思っている人が多いのが現状です。Moffは2017年8月からこの領域でサービスを行っていて、現場の知見も実際に使用している方たちの声も集まってきています。
高齢者の方が集まるリハビリ現場では、リハビリの結果や効果を数値で見せているのですが、そうすると、やはりみなさんのやる気が出るようなんです。楽しんで続けられるという声もいただいています。
“継続的な運動が必要な方”を対象に、アプリの実用化を目指す
それぞれが想い描いていたことが、いいタイミングでつながったようです。3社の“継続的な運動が必要な方”を対象とした運動アプリ開発が、2020年度の実用化に向けて動き出しました。
━━科学的根拠を有する運動プログラムを作るそうですが、どのように運動効果の裏付けをしていくんですか?
アステラス製薬・金山:アステラス製薬の考える運動プログラムが、運動を必要とする人たちにとって「安全に実施できるのか」「運動習慣がない人に完遂できることなのか」「期待する効果が表れるのか」という、主にこの3つのポイントで確認していきます。研究を行い、また、様々なアプローチでデータを収集して解析してゆく予定ですので、フェーズが進んでいくにつれて、科学的根拠はどんどん厚くなります。
また、この運動プログラムは運動習慣がない方でもできるよう考慮しています。内容は、有酸素運動とスクワットなどのレジスタンス運動のコンビネーションとする予定で、自宅でできるように検討を進めています。
━━楽しく継続できるアプリとは、どんなものですか?
バンダイナムコ・西本:運動したことに対する報酬への期待感や体験の価値を感じてもらうのに、ゲーム性をうまく取り入れられたらと思っています。
単調な運動にどんなアソビの要素を加えるのか検討中ですが、アソビの仕組みや設計、必要であればキャラクターを取り入れることもあると思います。
ゲームのデジタル的な報酬と、身体の変化の数値的な報酬をうまく掛け合わせたいと考えています。
バンダイナムコ・岩崎:運動で一番モチベーションが高まるのは「自分の身体の変化を感じたとき」ですよね。「ちょっと痩せた!」と感じると「もっと痩せたい!」気持ちになり、マインドが次のステージに進みます。でも変化ってなかなか見えにくいですし、変化が見えるまでが大変。その変化と変化の間、停滞期に入ったときにどうやってモチベーションを保ったまま続けさせるのか、演出でどう楽しませのるかが、腕の見せ所だなと思っています。
━━『Moff Band』の機能や介護・リハビリでの知見を、どのように活用するのでしょうか?
Moff・高萩:運動の継続には楽しさも、目に見える結果としてのデータも必要だと考えています。『Moff Band』の身体のすべての動きを数値化できる技術を使って、フォームの正しさや運動強度などの関連性を分析し、運動効果の評価を行います。それを体験者に見える化してフィードバックできるプラットフォームも整えていきます。
また「楽しく身体を動かしてもらいたい」というMoffの原点を大切に心掛けていきたいですね。
━━世の中の運動嫌いの人たちから「早く出してほしい!」と言われそうなアプリですよね。
アステラス製薬・金山:アステラス製薬が持っている「医療」という価値を「運動」につなげて、新しい価値を生み出すことで、多くの“継続的な運動が必要な人”をサポートしていきたいと考えています。
Moff・高萩:介護やリハビリの現場にいますから、病気やケガになってから治すのはとても大変ということを実感しています。いかに軽度の段階でカバーするか、重度であればいかに楽しく元に戻せるかが大切です。
健康な身体で長生きできるかは、日本の社会にとって重要な課題です。今回のコラボで、社会を明るい方向にできればと考えています。
バンダイナムコ・岩崎:ゲームをもっと社会のために活かして、病気予備軍の方に使ってもらえるサービスにしていきたいと思います。
今回はかなり大きな取り組みになるので、ワクワクしています。
バンダイナムコ・西本:僕自身、ゲームを楽しく遊んでいたら、いいことがたくさんありました。「楽しく遊んでたら、いつのまにかよくなっていた!」ということを、今回の取り組みによって実証したいですね。
コーポレートスローガンにもある「アソビきれない毎日を」の領域をこの分野にも広げて、新しい面白さの開拓をしていきたいと思っています。
━━ありがとうございました!
【取材後記】
「楽しくて科学的根拠がある、信頼性の高い運動アプリをお届けしたい」。アソビながら健康になれる未来は遠くなく、本当にすぐそこまで来ていました!
病気になりたくない人、痩せたい人、筋肉ムキムキになりたい人など、運動する理由はいろいろ。ですが、それぞれの人が抱える課題に向き合い、運動嫌いだけど運動せねばならない人たちの心配や不安を、明るく救ってくれる運動アプリになりそうですね。