次世代のエンターテインメントを作るために、企業はどんな領域を開拓していくのか? 近年では、企業が優れたアイデアや技術を持つベンチャー企業に投資し、ともに未来を開こうとする“CVC(※1)”という活動があります。バンダイナムコエンターテインメントに発足したCVC「021 Fund(ゼロトゥワンファンド)」もその1つです。今回、「021 Fund」が主催した国内外の投資家や起業家に向けたビジネスイベントのレポートをお届けします。
※1 CVC:コーポレート・ベンチャー・キャピタルの略。事業会社が、主に自社の事業に関連する社外のベンチャー企業に対し投資を行い、協業などを通じて本業との相乗効果を目指す活動。
目次
「021 Fund」から見る、エンタメ企業における投資活動の意義
セガサミー、バンダイナムコ、ソニー、スクエニ……それぞれの投資活動は?
海外ベンチャー企業に積極的に投資。ゲームユーザーの存在感が増しているのはアフリカやインド!?
「021 Fund」から見る、エンタメ企業における投資活動の意義
2024年9月、約230人の参加者を集めて開催されたビジネスイベント「THE NEXT ASOBI」。定員をはるかに超える申し込みがあった本イベントでは、未来のエンターテインメントと投資をテーマとしたパネルディスカッションや、参加者交流会などが行われました。
イベントの主催はバンダイナムコエンターテインメントの「021 Fund」。『パックマン』や、『アイドルマスター』シリーズ、『テイルズ オブ』シリーズなどのIP(※2)やエンターテインメント創出・IP価値最大化のノウハウと、ベンチャー企業の持つアイデアや技術などを掛け合わせ、次世代のエンターテインメントの創出を目指しています。
※2 IP:Intellectual Property=キャラクターなどの知的財産
そもそも、なぜエンターテインメント企業が、社外のベンチャー企業に投資を行っているのでしょうか?
エンターテインメント市場全般を見ると市場そのものは年々拡大していますが、それと相まってユーザーの趣味嗜好の多様化や競争の激化により、既存の延長だけで勝ち抜いていくことが難しい環境となっています。そのような中で、スタートアップのユニークな強み・ノウハウとバンダイナムコグループのアセットを組み合わせるこの活動が、多くのファンが喜ぶ新しいエンターテイメントを創出するための手段の1つになり得るのではないかと考えたからです。
ここからはイベント当日に実施された「ゲームに関わる会社のCVC戦略」というセッションをレポートしていきます。
登壇いただいたのは、バンダイナムコエンターテインメント、セガサミーホールディングス、ソニーベンチャーズ、スクウェア・エニックス・ホールディングスの方々。モデレーターを務めたのは、バンダイナムコエンターテインメントの021 Fundの松田さんです。
セガサミー、バンダイナムコ、ソニー、スクエニ……それぞれの投資活動は?
最初に話されたテーマは、「各社が考える投資戦略の概要」。
トップバッターとなったのは、セガサミーホールディングスの下東さんです。
下東さんは、セガサミーホールディングスのCVC活動について、「既存事業とのシナジーを生み出そうというのが、大きな目的の1つ」と説明しました。一方で、既存事業で扱うことのできていない領域に「新しいエンターテインメントの種やビジネスの種を探す」ことも、目的にしているとのことです。
さらに、「投資活動を続けるためには、ファイナンシャルリターン(投資に対する金銭的な収益)も重要」という考えのもと、IPO(新規株式公開)が目指せるフェーズにある“プレIPO”という段階の企業にも投資。利益を確保しつつ、起業前や起業直後という比較的リスキーな段階の企業への投資も行っていると語りました。
続いて登場したのは、バンダイナムコエンターテインメント「021 Fund」の池田さん。自社グループ事業について、「IPの世界観や特性を活かし、最適なタイミングで、最適な商品・サービスを最適な地域に向けて提供することにより、IP価値の最大化を図ること」と説明します。
こうしたIPを軸とする既存事業とのシナジーと、新しいエンターテインメントの創出がCVCの目的であり、下東さんが語ったセガサミーホールディングスの投資目的とも共通するところがあると話しました。
021 Fundが現在注目している投資領域は、主に3つとのことです。1つ目は、独立系ゲーム開発スタジオやVTuber、2.5次元アーティストなどを含めた、流行を素早く捉えた内容や新しい遊びを提供するようなエンターテインメントコンテンツ。2つ目は、Z世代やα世代といった、今後マーケットの主役となるユーザー層に向けたコンテンツ。3つ目は、いまだ参入できていない、今後伸びるであろう国・地域のゲーム開発・パブリッシングです。
それぞれに対応する投資先として、2.5次元IP開発、運営を行うウタイテやSNSショートアニメの制作・配信を行うPlott、UGC(User Generated Content)ゲームプラットフォームにおけるコンテンツ開発やパブリッシングなどを展開するLook North World、インドのゲーム開発兼パブリッシャーであるSuperGamingなどに今年に入り投資を実行している(追加の投資も含む)ようです。
続いて、CVCファンド「ソニーイノベーションファンド」を運用する、ソニーベンチャーズの松島さんにマイクが向けられました。
金融や半導体など幅広いソニーグループの事業。松島さんご自身も、異動でさまざまな職務を経験なさったそうです。投資する領域も幅広く、エンターテインメントだけでなく、スポーツやフードテック(食料・食品関連の最先端技術)分野まで及ぶとのこと。
投資先を探すにあたっては、その会社のユニークネス(独自性)も重視していて、「担当者がワクワクするかどうか」というのも、大事な投資先の選定基準だと語りました。
「技術に関するものであればグループ内のエンジニアに、またエンターテインメント領域であればソニーミュージックやソニー・ピクチャーズなどの有識者に、さまざまな角度からのレビューをお願いする」など、ソニーグループならではの手法も紹介されました。4人目として登壇したのは、スクウェア・エニックス・ホールディングスの植原さんです。
スクエニは、既存事業とのシナジーを前提に投資を行っていて、投資しているベンチャー企業の多くは、起業前の“シード”、起業直後の“アーリー”といった段階。その理由を、「ステージが早いうちから連携した方が、二人三脚で進んでいけるから」と植原さんは語りました。
海外ベンチャー企業に積極的に投資。ゲームユーザーの存在感が増しているのはアフリカやインド!?
モデレーターの松田さんは、「4社に共通しているのが、海外のベンチャー企業へ積極的に投資していることと、濃淡はあるもののシナジー創出を投資意義としているところ」と、共通点を分析。
具体的には、バンダイナムコエンターテインメントの021 Fundやスクウェア・エニックス・ホールディングスでは半分以上が海外への投資。また、ソニーベンチャーズは、海外のさまざまな地域に支社があり、各地で投資を行う方針だそうです。
中でも、ソニーベンチャーズはアフリカにも注目しているのだとか。松島さんは、アフリカではゲームが浸透していくのはこれからとしながらも、「潜在的なユーザーはいると考えています。やがて、アフリカが世界人口の1/4を擁するとの予測もあります。この段階からきちんと種をまいておくという発想は、あるべきだと我々は考えています」と、アフリカのモバイルゲームパブリッシャーに注目していることを明かしました。
一方、バンダイナムコエンターテインメントの021 Fundが視線を注いでいるのはインド。「人口や各種経済指標の期待値だけでなく、IPOの件数や金額の株式マーケットの成長も著しい。それらに加えて、日本IPの高い認知度や人気からも我々はインドに注目している。インドのゲーム開発兼パブリッシャーであるSuperGamingという企業へも、インド市場の開拓という文脈で投資しています」と語りました。
インドに拠点のあるソニーベンチャーズも、もちろんインドを気にしているそうで、松島さんは「インドではゲームも人気がありますが、クリエイターエコノミーといった、個人がインフルエンサーとなって配信する系のプラットフォームもすごく伸びている。ゲーム配信も人気なんですよ」と補足しました。
最後に、バンダイナムコエンターテインメント021 Fundの池田さんに、どのようなスタートアップとつながりたいかお聞きしました。
「イベントで挙げた注目する投資領域3つに当てはまると思った企業はもちろんのこと、我々とともに“エンターテインメントで「夢・遊び・感動」を世界中に届ける”、というグループの考えに共感くださる方がいればぜひともご連絡ください!」とのことでした!
【取材後記】
今回のイベントには、ゲームやエンターテインメント関連のベンチャー企業の方々も多数参加していました。ちょうど「東京ゲームショウ2024」の開催期間だったこともあってか、海外から来ていた参加者も多く、同時通訳も用意され、英語で行われたセッションもありました。皆さん、積極的に交流を図ったり、最新の情報を吸収したりする場として活用されていたようで、会場が熱気に溢れていたのが印象的です。これをきっかけに、世界を席巻するようなエンターテインメントが生まれるかもしれない……そんな予感を与えてくれる、エキサイティングなイベントでした。
取材・文/櫛田理子
その昔、パソコンゲーム誌『ログイン』でバイトしていた時に、ナムコ(当時)のゲームが大好きだったことから、深く考えず“くしだナム子”のペンネームを名乗ってしまいました。許可を得ているわけでも、特別な縁があるわけでもありません。ゴメンナサイ。
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