【鉄拳8】「勝ちたい」と「負けたくない」のせめぎ合いに注目!GENERATIONS数原龍友がプロゲーマー・実況者・プロデューサーと学ぶ、eスポーツ観戦の醍醐味

動きの派手さやアグレッシブに攻撃するシーンが増して、初心者や、しばらくプレーから離れていた人でも楽しみやすくなった3D対戦格闘ゲーム『鉄拳8』。2024年12月には、『鉄拳8』の世界大会の決勝「TEKKEN World Tour 2024 Global Finals」も東京・渋谷にて開催されます。

今回のテーマは、「eスポーツ観戦をどう楽しむのか?」。初心者にありがちな「試合のどこに注目したらわからない!」という悩みを、GENERATIONSの数原龍友さん、『鉄拳』シリーズ(以下『鉄拳』)プロプレーヤーのノビさん、実況解説者のゲンヤさん、『鉄拳8』アシスタントプロデューサーの青山さんの4人による座談会を通して紐解きます。

『鉄拳8』の進化した魅力や、意外にも高くないeスポーツのハードルについて語られた記事もあるので、そちらもチェック!

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数原 龍友

GENERATIONS ボーカル

2012年にGENERATIONS from EXILE TRIBEのボーカルとしてメジャーデビュー。2019年以降はソロでも楽曲をリリースし、そのほかにも朗読劇の公演やフォトエッセイ「ついてきて」の出版など、幅広く活動を行う。2024年12月4日にソロ名義“KAZ”として自身初のオリジナルアルバム「STYLE」を発売。好きな『鉄拳』のキャラクターはポールとジャック。

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ノビ

TeamYAMASA所属 プロプレーヤー

トップクラスのドラグノフ使いとして活躍するプロの『鉄拳』プレーヤー。“World Cyber Games 2011”の『鉄拳6』部門にて優勝を果たし、その後も“THE KING OF IRON FIST TOURNAMENT 2015”などで優勝し、プロゲーマーとなる。

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ゲンヤ

eスポーツイベントMC/実況解説

『鉄拳』シリーズを中心に、eスポーツイベントや各種大会でMC、実況解説を行う。『鉄拳』の実況といえばゲンヤとも言われており、公式大会からコミュニティ大会まで幅広く活躍している。

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青山 早紀

バンダイナムコエンターテインメント
CE事業部 第3プロダクション

『鉄拳8』アシスタントプロデューサー。2017年に入社し、家庭用ゲームソフトのプロモーション業務を経て、入社6年目からアシスタントプロデューサーを務める。

アシスタントプロデューサー青山さんの場合:「胸にくるものがあります」。選手それぞれのストーリーに着目して観戦!

――今回は、eスポーツ観戦のポイントについて語っていただこうと思います。青山さんは、eスポーツの大会ではどんなところに特に注目していますか?

青山:私は、選手それぞれのストーリーに注目しています。大会があるごとにドラマが生まれて、それぞれの選手のストーリーが紡がれていく様子は、観ていると思わず感情移入してしまいますし、選手の勝ち負けに心を揺さぶられるんですよね。

青山:個人的にすごく心に残っているのが、2024年5月、アメリカで行われた北米で2番目に大きい格闘ゲーム大会「Combo Breaker 2024」決勝でのAK選手とArslan Ash選手の戦いです。

ゲンヤ・ノビ:あれは良かったですよね〜!

「Combo Breaker 2024」決勝でのAK選手とArslan Ash選手の戦い
(再生ボタンを押すと、AK選手とArslan Ash選手の優勝を決める最後の1戦の場面から動画が始まります)

青山:AK選手は小さい頃からずっと『鉄拳』をプレーしてきて、eスポーツシーンを走り続けてきたひとりなんですけど、フィリピンを代表するトッププレーヤーでありながら、惜しくもこれまで優勝に1歩届かずという場面が多かったんですね。本人が何度も悔しい思いをしていることを観客も知っていたので、会場でも、AK選手を応援する熱量はすごく高かったんですよ。

そんなAK選手が決勝で対戦したのが、パキスタンのArslan Ash選手。昨年の世界王者(「TEKKEN World Tour 2023」 優勝者)で、最強のプレーヤーです。

実は、この2人の対決は「EVO Japan 2019」(『鉄拳7』)の決勝戦でも繰り広げられ、当時はAK選手がAsh選手に敗れて優勝を逃していました。今回の対戦は、まさに“あの時の雪辱を果たすリベンジマッチ”でもあったのです。

数原:(大会の映像を見ながら)すごい! めっちゃエキサイトしてるじゃないですか。

青山:AK選手はふだん感情をあまり表に出さないタイプなんですけど、勝負が2対2にもつれこんだ最後の1戦、勝って優勝を決めた瞬間、喜びの雄叫びを上げたんです。

AK選手が歩んできたストーリーを知ったうえで、最強と言われているパキスタンの、そして過去に決勝戦で負けた相手である強敵を倒して悲願の優勝をつかんだ姿を観ると、すごく胸にくるものがありました。その時の会場の歓声もものすごかったです。「AK! AK!」というコールが会場中に巻き起こっていました。

優勝の瞬間、喜びの雄叫びを上げるAK選手

プロプレーヤー・ノビさんの場合:「よくこの場面でその選択できるな」。選手のメンタルに注目して観戦!

――プレーヤーであるノビさんとしては、試合のどのような点に注目されるのでしょうか。

ノビ:プロ目線で語ると、全キャラクターの知識がほぼあるので「自分ならこうするけどこの人はこうやるんだ」というように、観戦を通して研究していますね。

特に注目するのは選手のメンタル面です。eスポーツの大会は海外に行くことも多いんですけど、何時間、何十時間もかけて海外に行って、体調的にも万全ではない、しかも“負けたらすぐ帰国”という状況で、各選手がどんな選択をするのかはつい気になってしまいます。

数原:そうか、リスクが分かるぶんそういう目線になっちゃいますよね。

ノビ:本当に「この攻撃、ガードされたら帰国(=敗戦)だぞ!」というシーンがよくあるんですよ。でも、体力が残りわずかでも、臆さずに攻撃の姿勢を崩さなかったことで逆転できた、みたいなこともあって。「この人、よくこの場面でその選択できるな」と思うと同時に、「そういう冒険をしないといけないんだな」と勉強にもなります。

数原:ちなみに、試合前の選手たちはどんな雰囲気で過ごしているんですか?

ノビ:控室の空気はすごいですよ。気楽な大会ならみんなでワイワイやっていますけど、大会の規模が大きくなるとみんなギラギラしています。

数原:バチバチなんですね。

ノビ:大会のプレッシャーは本当に大きいですよ。日本のゲームシーンのためにも僕が世界一にならなきゃ、という気持ちもありますし。

青山:そういう面もまさしく“アスリート”だなと思っていて。選手によっては試合前に絶対ランニングをしたり、いわゆるルーティンで気持ちを落ち着けたりする人もいるんですよ。

ノビ:ここ最近は本当にスポーツ選手と同じような境遇になってきましたね。

ゲンヤ:それこそ今日着ているユニフォームもね、いろんな企業の広告が入っていて、スポーツ選手っぽいもんね。

ノビさんが着用しているユニフォームにはさまざまなスポンサーのロゴが

ノビ:プロプレーヤーはこれを着て世界中の配信に映って、スポンサーの認知度を上げるのも仕事の1つですからね。

青山:ノビさんご自身は、メンタル面をどのように整えていらっしゃるんですか?

ノビ:プロのeスポーツプレーヤーって、メンタルを鍛えるために筋トレをしたり、ジムに行ったりする人が多いんですよ。僕もめっちゃ鍛えて、キックボクシングとか、格闘技系は全部やりました……やったんですけど、何も効果がなかったですね。

一同:(笑)

ノビ:いろいろ試しましたけど、最終的にはやっぱり自分の心なんですよね。

数原:長くやられていても、そこは変わらないんですか?

ノビ:若い頃は平気だったんですよ。僕は20歳のときに世界大会で優勝したんですけど、決勝戦の開催地が韓国で、最後に戦ったのが僕と韓国のプレーヤーだったので、完全アウェーの状態で。

韓国の選手に向けた大声援を聴いたときは、心の中で「絶対に勝ちたい」って思ったんです。それで実際に勝ったときに、会場がシーンとなったのは超気持ちよかったですね。

数原:めっちゃカッコいいじゃないですか。

ノビ:でも年を取れば取るほど、「やべー、アウェーだ、早く帰りたい」って思うようになってきたので、自分の心って本当にわからないんですよ。いくら大会に出ても慣れないですね。ずっと緊張しています。

青山:数原さんも大舞台に立つ機会は多いと思うのですが、どのように平常心を保っていらっしゃるんですか?

数原:僕は、ライブが始まるとすごくにぎやかな時間が続くので、雨の音とか、川のせせらぎとか、焚き火の音を聞いて、気持ちを落ち着かせてからステージに上がるようにしています。

ただ、僕らのライブでは、eスポーツのように誰かと戦っているわけではないので、ノビさんが言っていたアウェーな環境にはまずならないんですよね。基本、観客の方々は盛り上げてくれて、気持ちもどんどん乗っていくので。プロプレーヤーの場合は、同じ大舞台に立つといっても、また違ったタイプの精神力が必要だなと思いました。

eスポーツ実況者ゲンヤさんの場合:“負けたくない”と“勝ちたい”のせめぎ合いに注目して観戦!

数原:ゲンヤさんは、eスポーツの実況をされるときはどんなことを意識しているんですか?

ゲンヤ:画面で起きたことをわかりやすく話すことは意識しています。ただ、わかりやすく話すだけでは味気ないので、詳しさとわかりやすさのバランスは常に調整しながら話していますね。マニアックな話をした後はわかりやすさに振る、みたいなことも考えながら試合内容をお伝えしています。

――ゲンヤさんが、実況者目線で試合を見ていて注目されるのはどのようなポイントでしょうか?

ゲンヤ:僕の場合、“どっちが勝ちそうか”ではなく、“どっちが負けそうか”という視点で観るんですよ。体力バーが残り1ミリしか残っていない状態で、こらえる時間が長ければ長いほど、どんどん引き込まれていきますね。

さらに言えば、そこから逆転をしたときには僕の観戦ボルテージはマックスになります。

数原:やっぱり逆転はアツいですよね。

ゲンヤ:さっきノビさんが言っていた、「この攻撃、ガードされたら帰国だぞ!」っていう瞬間って、実は先ほど動画で観たAK選手対Arslan Ash選手との試合の中にもあったんです。でも、AK選手が「ここでガードされたらヤバい」って瞬間に「それでも攻撃する」という選択をとったからこそ、勝っているんですよね。

このとき、AK選手は“負けたくない”ではなく“勝ちたい”と思っていたんだと思うんです。「ここでガードされたらヤバい」っていう思考は、“負けたくない”からこそ出てくるものであって、ガードされるリスクを負ってでも技を撃つと決めたときの思いって、“勝ちたい”なんですよ。

数原:深いなあ。

ゲンヤ:“勝ちたい”が伝わってきた瞬間はすごく気持ちいいですし、逆に“負けたくない”を観るのも、選手に感情移入できて良いんです。そういう“勝ちたい”と“負けたくない”がせめぎ合うシーンも個人的には興奮ポイントなので、実況者としてはそういった部分を言葉で伝えていきたいなと思っています。

ノビ:今の話を補足すると、『鉄拳8』は基本的に、リスクを負ってチャレンジしたほうが勝つゲームになっているんですよ。昔はリスクを負った側が不利だったのが、今はリスクに踏み込んだ人が、最終的は大会で優勝しているんです。

ゲンヤ:“勝ちたい”が勝つんだよね。“負けたくない”ではなかなか勝てない。

数原:ゲームを知ってから大会を観に行くことで、そういう今までは分からなかった駆け引きが分かって、より試合がおもしろくなりそうですね。

数原龍友の『鉄拳』熱が再燃!?「TEKKEN World Tour 2024 Global Finals」は史上初の国内開催!

数原:今回お話を伺ってみて、『鉄拳』のeスポーツシーン、生で観てみたくなりましたね。

青山・ノビ・ゲンヤ:おおー!

数原:僕もあのオーディエンスの中に入って盛り上がりたいです。

ゲンヤ:それはそれで違った意味で大騒ぎになりそうですが(笑)。

ノビ:なんなら、大会のオープニングで歌ってほしいですよね。

数原:でも本当に、『鉄拳』は自分にとっても子どもの頃の思い出が詰まっているゲームなので、『鉄拳』を広めるために協力させていただけることがあったら、ぜひ盛り上げていきたいなと思いました。

あとはやっぱり、生であの熱狂を体験したいと思いました。自分でも久しぶりに『鉄拳』をプレーしたいです!

青山:実は、そんな数原さんにピッタリのイベントがございまして。

数原:なぬ。

一同:(笑)

青山:4月から10月にかけて予選が行われた『鉄拳8』の世界大会の決勝、「TEKKEN World Tour 2024 Global Finals」が12月にあります。その舞台がなんと、東京・渋谷なんです!

ゲンヤ:例年、決勝は海外で行われていたんですけど、2024年は史上初となる日本での決勝大会なんですよ。

数原:マジっすか!

青山:決勝大会は12月5日(木)から8日(日)の4日間で開催されます。5日(木)・6日(金)の2日間は配信のみですが、7日(土)と8日(日)は渋谷にある「ベルサール渋谷ファースト」で、どなたでも入場無料で観戦できるんです! 生で観ると緊迫感が全然違いますし、応援にも熱が入ります。またとない機会だと思うので、ぜひ気軽に遊びに来ていただけたらと思います。

数原:これは本当に気になる。観に行きたいな。

――改めて数原さん、本日は『鉄拳』のeスポーツシーンに触れて、どのように感じられましたか?

数原:eスポーツって、スマートフォンやゲームセンターでゲームをやる程度の自分からは遠いものだと感じていたんですけど、自分が思っていたよりもハードルは高くないんだなと、印象が180度変わりました。初心者でも楽しめるとわかったので、すごくうれしかったです。

数原:これからeスポーツをやってみよう、っていう人にはどんどんトライしてもらいたいですよね。今はエンターテインメントの選択肢も多い世の中なので、eスポーツというジャンルで夢を叶えたり、新しい自分に出会ったり、そういうチャレンジもしてみたらおもしろいんじゃないかと思いました。僕も、『鉄拳』を久しぶりに「やろうかな」から、「やる!」へ変えたいと思います!

本日はありがとうございました!

前回の記事では、『鉄拳』歴10年を越えるノビさん・ゲンヤさんが、初心者でも楽しめる『鉄拳8』のすごさを徹底解説。これを読めば、『鉄拳8』とeスポーツを2倍楽しめる!

【取材後記】
プロプレーヤーのノビさんや実況者のゲンヤさん、そしてアシスタントプロデューサーの青山さんの視点から見た『鉄拳』のeスポーツシーンについて語っていただいた今回の座談会。メンタル強化のために手を尽くしたが結局は自分の心次第、というノビさんのお話も興味深く、プレーヤーの“負けたくない”と“勝ちたい”の気持ちが勝敗を分けるというお話もアツいものがありました。

選手のストーリーを追うことで観戦がより楽しいものになる、というのは自分の好きなプロレスでも常々思っていることだったので、お話を聞いている最中はうなずきが止まりませんでした。それぞれのお話を聞きながらテンションが上がっていく数原さんの姿にこちらも楽しく取材を進められたのも印象的です。渋谷で行われる決勝大会の盛り上がりにも期待!

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。

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