ゲームクリエイター×朗読劇で生まれる“没入感”。『ライブドラマシアター 天つ風、飛鳥に散る花』

9月1日(日)に上演されるバンダイナムコエンターテインメントの“見ても楽しめる朗読劇”、『ライブドラマシアター 天つ風、飛鳥に散る花 ~蘇我入鹿の物語 陽/月~』。ゲームクリエイターが制作を担当した朗読劇の魅力/工夫について、プロデューサーの菱山里美さん、企画・ディレクション担当の伊東愛さん、キャラクターデザイン・イラストレーション担当の悌太さんに聞きました!

担当P×ディレクター×イラストレーターが作品に込めた想い

「ライブドラマシアター」とは?

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バンダイナムコエンターテインメントによる本格派朗読劇プロジェクト。ゲームクリエイターをメインスタッフに起用し、劇中にイラストを使用することで耳だけでなく目でも楽しめる朗読劇をコンセプトに展開しています。

「魅力的なキャラクターづくりのプロ=乙女ゲームのスタッフ」が集結した新たな朗読劇

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左から悌太さん(手のみ)、伊東愛さん、菱山P

――『ライブドラマシアター 天つ風、飛鳥に散る花 ~蘇我入鹿の物語 陽/月~』は、ゲームクリエイターの方が制作を担当した“目でも楽しめる朗読劇”になっています。まずは菱山さんにうかがいたいのですが、この企画が生まれた経緯はどんなものだったのですか?

菱山:私は去年の4月にD3 PUBLISHER(D3P)からバンダイナムコエンターテインメントに異動してきたのですが、異動する前はコンシューマーゲームを担当しながらイベントや舞台等プロデュースをしていました。そこで、「今までやってきたことを活かせないかな」と思い、まずは私が社内でプレゼンをしました。と同時に「伊東さんと悌太さんと一緒にやりたい」と思っていたので、既にお2人にもお声がけをしていました。

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現在、バンダイナムコエンターテインメントのLE事業部イベント部プロデュース課に所属する菱山P。異動前のD3Pでは様々な人気乙女ゲームを担当

――みなさんはD3Pの乙女ゲーム『百花百狼 ~戦国忍法帖~』でもお仕事をともにされていたメンバーですよね。

伊東:はい。そういえば、菱山さんはD3Pにいたときにもすでに朗読劇もプロデュースされていて、その公演を私と悌太さんで観に行ったこともありました。

菱山:あのときの朗読劇は今回とは少しコンセプトが異なるものだったのですが、今回企画するにあたり、これまでのゲーム制作の経験をより生かせないかと思いました。朗読劇には様々な登場人物が出てきますよね。乙女ゲームもキャラクターを魅力的に感じていただくことが大切なタイトルですから、その制作陣に協力していただければ、そういったキャラクターの「強さ」や「弱さ」を魅力的に表現できるんじゃないかと考えました。

――つまり、ゲームのキャラクターづくりのノウハウを使って、朗読劇をより魅力的なものにしようと考えられた、と。「飛鳥時代」をテーマにしたのには理由があったのでしょうか?

伊東:今回の蘇我入鹿の場合は、歴史上では「悪者」とされることも多い人物ですが、「実際はどうだったのか?」と考えると、とても面白いものになると考えました。また、飛鳥時代は100年ちょっとしか続かなかった時代です。だからこそ、「その間に何があったんだろう?」と想像することは、とても魅力的だと思ったんです。とりわけ、今回テーマにした「乙巳の変」(いっしのへん/中大兄皇子、中臣鎌足らが蘇我入鹿を暗殺した「大化の改新」に繋がる飛鳥時代の政変)を題材にすると、飛鳥という時代をドラマチックに描けるのかな、と思いましたし、悌太さんならキャラクターも魅力的なものにしていただけると感じていました。

悌太:ただ、私としては、最初は戸惑いました(笑)。というのも、私自身に飛鳥時代の知識がありませんでしたし、飛鳥時代は聖徳太子時代のすぐ後なので、髪型も角髪(みずら/髪全体を中央で分け、耳の横で括って垂らす髪型)のようなものになる可能性があるのかな、と思い……。「かっこよく描くにはどうすればいいだろう?」という不安を感じていました。

伊東:その辺りは、「ある程度ファンタジーに寄せて、ビジュアルを重視しよう」という話をしていきましたよね。悌太さんの場合は、大まかな設定をお伝えすると、そこから自身で想像力を膨らませてくださるんです。ですから、キャラクターデザインだけでなく衣装もすべて考えてくださっているので、とても大変な作業になってしまったと思います(笑)。

悌太:ユーザーさんによっては歴史の考証を細かくされる方もいらっしゃるので、「どこまで当時の要素が入っていれば飛鳥時代のキャラに見えるのか」、逆に言うと、「どこまでならファンタジーに寄せても飛鳥時代として認めてもらえるのか」という部分は、特にユーザーさん目線で考えていきました。その最終的な舵取りは、お2人に助けていただきました。

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キャラクターデザインを担当した人気イラストレーターの悌太さん(右/手のみ)。当日はキャラクターデザイン時の設定画も見せていただきました

想像力を補完しつつ、想像する余白も忘れない。“見ても楽しめる朗読劇”の工夫

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――みなさんは魅力的な男性キャラクターを生み出すプロ中のプロだと思うのですが、そこにはどんな工夫やノウハウがあるのでしょうか?

菱山:それは作品の方向性によって変わるので、一概に言うのは難しいんですが……。

伊東:ただ、ひとつあるのは、それぞれのキャラクターの性格や魅力がばらけるように考えていくことですね。たとえば、今ここに並んでいる3人のキャラクターを見比べても、それぞれ全然違うタイプになっていると思うんですね。穏やかなキャラクターもいれば、好戦的なキャラもいて、同時に陰のあるキャラもいて……。

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悌太:そんなふうに、人によって「かっこいい」と感じるポイントは様々だと思うので、色々なタイプの「かっこよさ」を出すことはいつも大切にしています。そうすると、それぞれにお気に入りのキャラクターを見つけていただけると思うので。そういう意味でも、私は今回、あえてゲームを作るときの感覚のままでキャラクターを描いていきました。ゲームの場合、画面にキャラクターが出てきたときに立ち絵が華やかに見えることが重要ですが、今回も朗読劇でありながらキャラクターの立ち絵が登場するので、その部分を大切にしています。

――キャラクターデザインの面で、具体的に試行錯誤をした部分はあったでしょうか?

菱山:そういえば、蘇我入鹿は当初、髪を下ろしたタイプのイラストもありましたね。

悌太:そうですね。ただ、最終版のように髪を上げた方が、蘇我入鹿の「男らしさ」が出ると思い、最終的にはワイルドでかっこいい雰囲気にしています。他のキャラクターも、たとえば山背大兄王は穏やかな雰囲気なのでたれ目にしたりと、それぞれの個性を意識しました。衣装に関しては、伊東さんとも相談しつつ、その人物の役職も踏まえて考えました。

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伊東:また、私の方では、今回の物語用に登場人物の年齢を変えていく作業もしました。
入鹿の年齢を最初に決めて、そこから、彼との関係性で年齢を設定しています。通常、乙女ゲームの場合は、ヒロインとの恋愛が描かれることが多いですが、今回の朗読劇で焦点が当たるのは、「それぞれのキャラクター同士の関係性」です。

そこが物語の肝なので、その関係性や起こる出来事にしたがって、「この人は好戦的なタイプだな」「逆にこの人はこうだな」という形で、それぞれの登場人物を設定していきました。

菱山:背景にもこだわりたいと思っています。耳からの情報のみで観客のみなさんにゼロから想像を広げていただくのではなく、「こんなところで話しているんだ」ということが想像しやすい、臨場感が感じられることも大事にしています。印象的なシーンでは、立ち絵の表情が変わったりもするので、「こういう世界で、こんなキャラクターが動いているんだ」ということが、想像しやすいものになっていると嬉しいです。

ただ、朗読劇の魅力は、観客のみなさんが自由に想像を膨らませられるところでもありますから、情報を提示しすぎるのではなく、みなさんが想像する余白を残すことも意識しました。また、キャストのみなさんも、主人公の蘇我入鹿役を演じてくださる鳥海浩輔さんを筆頭に、魅力的なお芝居をしていただける方々にご参加いただけることになり、とても素晴らしい舞台が出来上がると思っております。

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写真中央は乙女ゲーム雑誌『B’sLOG 8月号』での特集記事。様々な人々に作品の魅力を伝えるため、宣伝面でも通常の朗読劇とは異なる可能性を探っている

“作品への没入感”を大切にすることで、飛鳥時代の歴史ロマンを感じてほしい!

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――また、「昼公演」と「夜公演」で、同じく入鹿を題材にしながら異なる物語を用意するというアイディアは、エンディングが分岐していくゲームの感覚に近い気がしました。

伊東:エンディングが変わる、という意味ではおっしゃる通りですね(笑)。蘇我入鹿は、歴史上では悪いイメージの人物として登場することが多いですが、文献を辿ってみると「実はそうじゃないよ」というものも結構あるんです。そこで、昼公演は一般的にイメージされることが多い史実に忠実なものを用意して、夜は「でも、もしかしたらそうじゃないかもしれない」という公演を用意すれば、どちらも楽しいものになると思いました。

ただ、お客さんの中にはどちらかだけを観る方もいるでしょうから、「それぞれの公演が独立したものとして楽しめる。けれども両方観るとより楽しめる」というバランス感覚はとても大切にしています。もともと「歴史」は様々な解釈があるものなので、夜の部では学術書などに登場する解釈を取り入れた部分もありますし、昼の部では見えなかった本当の動機が明かされることもあるかもしれません。そういったところを、楽しんでいただけたら嬉しいです。

悌太:結構、男性も楽しめそうですよね?

菱山:歴史の授業で一度は耳にしたことのある人物・事件ですし、きっと楽しんでいただけると思いますよ。

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――会場に来られる方々には、どんなところを楽しみにしていてほしいですか?

菱山:今回の朗読劇は“目でも楽しめる”ということをテーマにしている通り、作品の世界観への没入感を大切にしているので、ぜひその世界に浸っていただきたいです。キャラクターそれぞれの魅力も背景もそうですし、「日本にかつてこういう時代があったんだ」ということ自体を、楽しんでいただけるととても嬉しいです。そのために、今回伊東さんにも最初にお話ししたんですが、緊張感のある部分は緊張感を持たせていただきつつ、中にはちょっとほっこりするような、人柄が感じられるシーンも用意しています。本番に向けて鋭意制作中ですので、ぜひ、公演を通して色々な魅力を感じていただけたら嬉しく思います。

悌太:私はイラスト面でかかわらせていただきましたが、舞台は色々な要素が集まってできるものなので、そうして生まれる全体の世界観を楽しんでいただけたら、とても嬉しいです。

伊東:そのうえで、昼公演と夜公演では違う物語が展開しますので、勝手な希望としては両方観ていただけると嬉しいです(笑)。とにかく『ライブドラマシアター 天つ風、飛鳥に散る花 ~蘇我入鹿の物語 陽/月~』の世界観を楽しんでいただけると嬉しく思っています。

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 【取材後記】
今回お話をうかがって感じたのは、魅力的なキャラクター/コンテンツを生み出すための想像力の大切さ。それを様々な場所に連れ出すことで、面白いエンターテインメントが生まれる可能性はまだまだありそうです。
朗読劇の魅力と、キャラクターコンテンツの魅力が融合した『ライブドラマシアター 天つ風、飛鳥に散る花 ~蘇我入鹿の物語 陽/月~』は、果たしてどんなものになっているのでしょうか。9月1日の上演が、ますます楽しみになりました!

取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。