リアルとバーチャルを問わず広がる『電音部』のサウンド。制作陣と振り返る2022年の舞台裏

2020年6月に始動し精力的に発信を続けてきた『電音部』。活動開始から3周年を迎えるにあたり、統括プロデューサーの子川拓哉さん、統括ディレクターの石田裕亮さんが2022年を振り返ります。カブキエリアの登場や各種大型ライブイベントへの出演など、大きな出来事を振り返りつつ、新たに行った挑戦やプロジェクトの展望をお話いただきました。

音楽配信をコンテンツの主軸に据え、そこに付随するキャラクターたちの物語をノベルやコミック、そしてキャスト陣による歌唱やDJプレイをライブイベントで届けている『電音部』。2022年には新規エリアとなる「カブキエリア」が登場し、「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル2nd」(以下、「バンナムフェス 2nd」)などの大型イベントにも参戦、VRコンテンツでも『電音部』の世界を作り上げるなど、幅広い分野で展開してきました。

今回は統括プロデューサーの子川拓哉さん、統括ディレクターの石田裕亮さんにインタビューを行い、2022年を振り返っていただくとともに、その舞台裏について語っていただきました。

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子川 拓哉

バンダイナムコエンターテインメント
第3IP事業ディビジョンニュービジネスプロダクション

『電音部』統括プロデューサー、『ASOBINOTES』レーベルプロデューサー。『電音部』の立ち上げ、総合プロデュースを担当。ナムコ(現バンダイナムコアミューズメント)入社で、コンセプトカフェの運営や、新規事業企画などを経て、2019年よりバンダイナムコエンターテインメントにて『電音部』の統括プロデューサーを務める。

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石田 裕亮

バンダイナムコエンターテインメント
第3IP事業ディビジョンニュービジネスプロダクション

『電音部』統括ディレクター。『電音部』の立ち上げ、総合ディレクションを担当。アニメーションの制作や新規事業企画などを経て現職。『電音部』の配信番組ではMCを務めることが多い。

リアルイベントや声出しの解禁……、プロジェクト始動時から変化する景色

――今回はもうじき3周年を迎える『電音部』のこれまでを振り返ってお話を伺いたいと思います。まず、3周年を迎えるご感想はいかがでしょうか。

石田:もう3年も経ったのか、という気持ちですね。毎年いろんなことにチャレンジしてきているので、あっという間だったな、というのが率直な感想です。

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『電音部』統括ディレクター 石田さん

子川:3周年を目前に控えて、やりたかったことがようやく見えはじめたかな、という気がします。最初のころはコロナ禍が直撃したこともあってイベントなどもできませんでしたが、それもようやく本格的にできるようになってきました。この記事が出るころには、声出しも解禁になっていると思います。

3周年を迎えるというタイミングではあるんですけど、僕としては今年が1年目くらいのつもりですね。本格的にライブをはじめられたのも今年からだったので、むしろここからがスタートだな、という感覚です。

窓の前に座る少年

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『電音部』統括プロデューサー 子川さん

――ライブイベントなどの開催頻度も増えてきましたが、ファンからの反響はいかがですか?

子川:『電音部』には5エリアあるので、せっかくならエリアごとに違うライブ形式にしてみたいと思ったんです。配信のものもあれば、DJがいるもの、いないものがあって、ファンの皆さまの反応を見ながらいろいろとやってきました。そのなかで、「『電音部』はこういう興行がやりたかったんだ」みたいな感想をいただけることもありました。

ちょっとイベントを詰めすぎて、ファンの皆さまに大変な思いをさせてしまったかもしれないんですが、毎月開催しても足を運んでくださる方も多く、とても感謝しています。完全なクラブにはならないんですけど、ライブイベントとはまた違った、クラブチックな遊び方を提供できはじめているのかな、と思います。

――2022年の下半期には、公式主催、ファン主催ともに多数のイベントが開催されましたが、リアルイベントの魅力とは何でしょうか。

石田:やっぱり、「人」がいることですかね。その場で一緒にお酒を飲んだり雑談したりというのは、何気ないことなんですけど魅力だと思います。

あと個人的にリアルイベントで一番うれしいのは、ファンの方々が『電音部』のグッズを着てくれていることですね。『電音部』が始動したころには見られなかった光景なので、Tシャツやパーカーを着てくださっている方がいると、個人的にはすごくうれしいです。

ベッドの上にチラシが置かれている

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子川:配信イベントとリアルイベントで明らかに違うのって、例えば会場までの移動だとか、スタンディングでずっと立ちっぱなしなのがちょっと身体にキツいとか、そういう肉体的な負荷がある部分だと思うんですよ。

普通だと負荷はただの負荷なんですけど、イベントが楽しいとそれが転化されて良い思い出になっていく。それがリアルイベントならではの良さかな、と思っています。行き帰りも含めての体験になるというか。あとは、会場で同志の存在を確認できる、コミュニティ的な部分ですね。そこも配信イベントと違うところだと思います。

リアル&バーチャルでさらに広がっていく『電音部』

――2022年の『電音部』を振り返って、特に印象的だった出来事をひとつ選ぶとしたら何でしょうか。

子川:『電音部』として一番大きいのは、やっぱり新エリアである「カブキエリア」が登場したことですかね。おかげさまでファンの皆さまからもすごく良い反応をいただけました。時間をかけたぶん設定もしっかりと練ることができましたし、音楽作りにこだわれて良かったかなと思います。

石田:「カブキエリア」はヒールユニット、つまり悪役的な立ち位置ではあるんですけど、だからといってファンの皆さまに嫌われることもなく、本当に音楽的にもキャラクター的にも受け入れてもらえました。それはうれしかったですね。

窓の外を見ている人たち

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――おふたりから見て、個人的に印象的だったイベントは何ですか?

石田:一番はやっぱり、「バンナムフェス」ですね。あそこまで大きなライブに出るのは初めてのことでしたから。あれ以降、外部のイベントにご招待いただいて実演することもかなり増えました。また、去年は「イナズマロック フェス 2022」にも出演させていただいて、いわゆる乗り込みイベントだったのですが、とても楽しかったですね。『電音部』を知らない方々の反応も新しくて、すごく印象的でした。

直前まではキャストも含めて、「(普段の活動と異なるので)完全にアウェイだね」みたいな雰囲気だったんですよ。でもいざステージに立ったらお客さまもたくさん集まってくれて、皆さんノってくれたのでうれしかったですね。

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――さまざまな場所での出演が増えたことで新しいファンも入ってきたのではないでしょうか。

子川:それは実感としてもありますね。「バンナムフェス 2nd」では『アイドルマスター』のファンの方々、いわゆるプロデューサーさんたちにも『電音部』の曲を聞いていただいたんですけど、そこからファンになってくださった方もいて、本当にありがたいです。

新しいファン層という意味でいうと、昨年くらいからバーチャルライブなどのお話をいただくことも増えましたよね。

石田:バーチャルライブは今期だけで6回ほど出演させていただきました。VTuberさん系のイベントだけでなく、「J-WAVE イノベーション ワールド フェスタ 2022」というテック界隈のフェスでもお声がけいただけて、いろんな方に『電音部』を知っていただけたかなと思います。

――『電音部』は新しいことにも積極的に取り組んでいる印象ですが、特にこれは苦労した、というものがあれば教えてください。

石田:バーチャルまわりではいろいろと試行錯誤しましたね。去年は初めてコミックマーケットにも出展したんですけど、実験的に、DJブースでスクリーンにキャラクターを映し出して動かしたんですよ。『電音部』を知らないお客さまも含めて、ブースがいっぱいになるくらい人が集まったので、やってみて良かったなと思います。

子川:そもそもバンダイナムコエンターテインメントとしてコミックマーケットに出展したのは『電音部』が初めてなんです。

コミックマーケットは、ファンメイドな文化で、創作を楽しむイベントだと思うのですが、その点で『電音部』は、発足当初からファンメイドコンテンツポリシーを出してたり、公式から素材を提供していたりとファンの創作を「文化」としてきたので相性が良かったのかなと思います。出展方法から書類の書き方まで、全部手探りだったのでそこは大変でした。ただ、やっていないことを実験的にやってみるのが『電音部』のスタイルですからね。

全部を追うのではなく、好きな部分だけを好きでいて良いのが『電音部』

――2022年の3月から4月にかけては大日本印刷さん主導の「バーチャル秋葉原」が公開され、11月には秋葉原のイベントスペース・エンタスとのコラボで実施されたVR施策「秋葉原仮想倶楽部」が開催されるなど、バーチャルに関連した動きも展開しました。外部から『電音部』を使ったバーチャル系の施策を行いたいという声は多いのでしょうか。

石田:まだ公開していないものも含め、他社さまが展開するメタバース案件はさまざまなところからお声がけをいただいています。

子川:僕らもお声がけいただいたらもう、「やります!」っていう感じですからね(笑)。

ただ、今ってCGの世界にさまざまなものを取り入れるのがメタバース、と思っている方が多いのではないかと感じています。でも、個人的には必ずしもメタバースをCG空間だけに限定する必要もないのかなと思っています。Web3.0(※1)的な考えは今後も残っていくと思うので、『電音部』としてはもっと概念的にバースを築いていこうと思っています。

※1 Web3.0:インターネット黎明期の一方通行的コミュニケーションが行われていたWeb1、動画投稿サイトやSNSの普及により相互コミュニケーション的になっていったWeb2に続く、プラットフォームに依存しない分散型のインターネットのあり方。

石田:そうですね。CGの世界に限定してしまうと、コンテンツやコミュニケーションがそこにしか広がらなくなってしまうので、例えばCGのない、チャットルームのようなものも複合的に絡めていって、そのなかでバースを作っていくのもひとつのメタバースなのかな、と思います。

子川:正直、VRを使ってどんなことをしたら喜んでもらえるのか手探り状態なので、僕らも現在進行形で考えているところです。なので、そういったところは社内の若いメンバーの力も存分に借りていこうと思っています。彼らは仕事に関係なくVR Chatなどで遊んでいて、より慣れ親しんでいますからね。

でも、チャレンジを続ける姿勢は変わりません。VRを当たり前に触っている若いメンバーがプロデュースしやすいよう、環境を整えるのが僕の仕事かなと思っています。

――本記事の最後に、『電音部』を応援してくださっているファンの方々へのメッセージをお願いします。

石田:今後も『電音部』らしい楽曲がたくさん出ると思うんですけど、シナリオまわりもがんばって制作していきますので、音楽と合わせてノベルの展開も引き続き楽しんでいただけたらうれしいなと思います。

子川:引き続きコンテンツはしっかりと作っていきますし、良いものだと言っていただけるような音楽も制作していきたいと思います。『電音部』は新しいことに取り組むことが多いため、ファンの方々も戸惑うことが多いと思いますが、それぞれ好きな部分だけをお楽しみいただければと思っています。

エリアが増えていくと、すべてのコンテンツを追い切るのも大変になると思うんですよ。なので、自分の好きな部分だけを見ていただいてもかまいません。もちろん全部見ていただいたら最高なんですけど(笑)。軽い気持ちで楽しんでもらって大丈夫、ということは伝えたいですね。無理に全部を好きになる必要はなく、好きな部分だけを好きでいてくれれば、と思います。

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3周年を迎えた『電音部』の今後の展望が語られた記事はこちら↓

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【編集後記】
新エリア「カブキエリア」の登場や、リアル&バーチャルなイベントに多数出演と幅広く活動する『電音部』。今回特に興味深かったのは、IP自体をハードウェアとし、そのうえでソフトウェアたるコンテンツを発展させていくという考え方。「いわゆるメタバース」に留まらない、まさにメタ(超)なこのアイデアが実現したらどうなるのか、そのあたりも気になります!

村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのインタビューや攻略記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。

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