『電音部』というジャンルを開放する。公式以外の新エリアも独自に展開する未来とは?

プロジェクト3周年を迎え、新たな動きを見せている『電音部』。他企業によるプロデュースまでも行う本プロジェクトの挑戦について、統括プロデューサーの子川拓哉さん、統括ディレクターの石田裕亮さんにお話いただきました。

オリジナル楽曲の配信を中心に、ノベルやコミックなどではキャラクターたちの物語を描くなど、ユニークな展開を見せる『電音部』。2023年に入ってからは、パートナー企業に新エリアを託しての新たなIP(※1)の戦略も発表され、その展開における独自性はさらに加速しています。

※1 IP:Intellectual Property の略で、キャラクターなどの知的財産のことを指します。

統括プロデューサーの子川拓哉さん、統括ディレクターの石田裕亮さんにインタビューを行い、前述の施策を中心に今後の『電音部』について語っていただきました。

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子川 拓哉

バンダイナムコエンターテインメント
第3IP事業ディビジョンニュービジネスプロダクション

『電音部』統括プロデューサー、『ASOBINOTES』レーベルプロデューサー。『電音部』の立ち上げ、総合プロデュースを担当。コンセプトカフェの運営や、新規事業企画などを経て、『電音部』の統括プロデューサーを務める。

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石田 裕亮

バンダイナムコエンターテインメント
第3IP事業ディビジョンニュービジネスプロダクション

『電音部』統括ディレクター。『電音部』の立ち上げ、総合ディレクションを担当。アニメーションの制作や新規事業企画などを経て現職。『電音部』の配信番組ではMCを務めることが多い。

ファンが作った曲も『電音部』のオリジナルソングになっていく世界

――今回は2023年以降の『電音部』に関してお聞きできればと思います。さっそくですが、先日発表された『電音部』のキャラクターである「りむる」の『CeVIO AI(※2)』が出ることになった経緯を教えてください。

※2 『CeVIO AI』:AI技術によって人間の声質や癖、話し方を高精度に再現する音声創作ソフトウェア。

石田:ファンの方々が『電音部』の素材を使って、いろんなものを生み出してくれたら良いよね、という考えが発足当初からあったんです。我々が作れる曲には限りがあるので、『電音部』の声を使って『電音部』の楽曲をファン自身が生み出せる環境を作ることが大切だと考えました。

子川:その状況に一番ふさわしいキャラクターというのが、りむるだったんです。彼女は人造人間で、年齢も苗字もないキャラクターなので、ファンが自由に扱いやすいという意味でも適役だったんですよ。

――りむるの設定自体は、今回の動きとは関係なく考えられていたのでしょうか。

子川:そこは偶然でしたね。『CeVIO AI』のお話をいただいたのが2022年の6月ごろで、りむるの設定ができたのはもっと前でした。最初に『電音部』から『CeVIO AI』を出すとなった時は、主人公の日高零奈(ひだか れいな)にするのが良いかなとも思ったんですけど、設定の活かしやすさも考えてりむるにしました。

カブキエリア所属のキャラクター りむる

――『電音部』は過去にリミックスコンテストなども開催されていましたが、『CeVIO AI』の登場で楽曲自体をゼロから作れるとなると、ファンメイドの作品もさらに増えていきそうですね。

子川:増えてくれるとうれしいですね。これまでは我々の作った曲がオリジナルでしたけど、今後は皆さまに作っていただける曲も『電音部』としてのオリジナルソングになっていくんです。それは両方存在していても良いと思うんですよ。

――『CeVIO AI』を使った楽曲制作は、リミックスとはまた違った技術が必要になるかと思います。そのあたりのレクチャーなどは行われるのでしょうか。

子川:僕も歌声を聞いたんですけど、本当にすごいんですよ。人じゃん、みたいな(笑)。

『電音部』にも参加してもらっているトラックメーカーにも、既存の曲で『CeVIO AI』を使ってみてもらったんですよ。そうしたら、頼んで10分くらいで曲が送られてきたんです。

石田:ちょっと載せてみました、くらいの勢いだったんですけど、実際に聞いてみたらすごく自然にりむるバージョンの曲になっていたんです。『CeVIO AI』は一度楽曲用にデータを作ってしまえば、別の歌声に切り換えるのも簡単らしいんですよ。本当にすごい技術だと思いましたね。

子川:その後、公式デモソングとして『CeVIO AI』を使用した『電音部』のカバーMVをクリエイターの皆さまに作成いただきリリースしました。

CeVIO AIソングボイス「分散型自律ゴーレム りむる」MV

2023年は『電音部』というジャンル自体を開放する

――今後『電音部』は新しいかたちのIPとして展開していくという発表もされましたが、こちらについての簡単な説明をお願いします。

石田:まず、我々が公式として『電音部』を広げていくというのは変わらず行っていきます。そのうえで、クリエイターさんやパートナー企業さんにもエリアをお渡して、それぞれの力で『電音部』の世界を広げていこう、ということです。

子川:僕らは今5つのエリアをプロデュースしているんですけど、ここから5つのエリアを増やしていきます。この新エリアは僕らではなく、それぞれに異なる特徴やブランドを持つレーベルやアーティスト、事務所などにプロデュースを行っていただこうと考えています。

そういうふうに、中央集権型ではないかたちでIPを広げていこう、というのが今回の新しいかたちですね。

――新しい5つのエリアに関しては、音楽の方向性やキャラクター、キャスティングなどについても公式が関与しないということですね。

子川:基本的にはノータッチです。『電音部』というジャンル自体を開放して、ファンと一緒に盛り上げていこうと考えています。みんなで共有する世界観を活用して、自由に盛り上げてください、みたいな方針ですね。ライセンスアウトやフランチャイズなど、こちらからコンテンツをお貸しする方法とはまた違って、ボランタリーチェーン(※3)に近いかなと思います。

※3 ボランタリーチェーン:同じ目的の小売店同士が組織を結成し、お互いに協力しつつ組織として展開していく団体。フランチャイズ型に比べて横のつながりが強い。

石田:将来的には、新たな5エリアを運営する5社とともに情報共有や連携を固めていって、企業の枠を超えた合同ライブなども実現できたら良いな、と考えています。

――IPをパートナー企業に明け渡して展開してもらう、という動きは業界の中でも珍しいかと思います。そもそもどういったきっかけで今回の取り組みが始まったのでしょうか。

子川:発想のきっかけは2つあって、まずは自分たちの頭だけで考えるとプロデュースの幅が限られてしまう、と思ったことですね。何か違うことをやろうと思っても、どこかしらに自分たちらしさが出てしまうので、ある意味で似たものになってしまいます。もっと違う『電音部』が見てみたい、と思ったんですね。

もうひとつは、弊社だけでなく別の企業さまにも運営してもらったらおもしろいんじゃないか、と思ったんです。製作委員会などに例えるとわかりやすいんですけど、あれはひとつのIPを宣伝担当や商品企画担当、映像担当、音楽担当などの業種で切り分けて作り上げていきますが、これをもっと別の分け方ができないかなと思ったんです。業種ではなく、「エリア」で分けて運営したらどうだろう、という発想ですね。

石田:制作側のコンテンツに対する愛みたいなものの強さって、ファンの皆さまにも伝わると思うんですよね。ただライセンスを取ってコンテンツを借りるよりも、自分のコンテンツとして発信しているほうが、確実に愛着が生まれるじゃないですか。

最近、バーチャル施策関連でキャラクターのモデルを作ることが多いんですけど、既存IPのモデルを作る時って、声優やアクター、作っているエンジニアが持つキャラクターへの愛情や、キャラクターがそこにいてほしいという気持ちが強いほど、最終的な仕上がりも良くなると感じます。

もちろん我々もそういった愛情を持って動いていますけど、熱量の高い人が増えていってくれたら、作品全体の熱も高まっていくんじゃないかと思うんですよね。今回の動きはそういうふうに、『電音部』全体を盛り上げてくれるものになるんじゃないかな、と考えています。

『電音部』という地盤のうえで新たなコンテンツが作られる世界に

――『電音部』の戦略も新しくなっていくなかで、今後どんな展開を期待されていますか?

子川:新しいエリアを運営していただく5社は、いずれも流通経路をもっていたり、芸能の人脈に強かったり、アイドル運営のノウハウがあったり、あるいはアニメやゲームを作るのが得意だったりと、僕らが持っていないものを持っているんですよ。

そこで新しい『電音部』のかたちを作ってもらえたら、それが広がりになって、僕らがプロデュースするのとはまた違ったものが見られると考えています。これも『電音部』らしいやり方かな、と思うんですよね。

石田:本当に、ここからどんなことが起きるか、何が生まれるかはまったくわからないので、そこが逆に楽しみですよね。既存のエリアとのコラボだけでなく、新しいエリア同士でのコラボもあると思います。

子川:そのために自由度の高いガイドラインになっています。YouTuberもそうですけど、正直、収益がまったくなかったらここまで広がらなかったと思うんですよね。なので、そこはそれぞれが利益を得られるようにしたいなと。

――実際にコンテンツがさまざまな場所から作り出されるようになったら、昨年を振り返ったインタビューでお話に出た「『電音部』自体がハードウェアになる」という言葉どおりになりそうですね。

子川:ゲーム機で遊べるソフトが出たり、スマートフォンなどのデバイス上で使えるアプリが出たり、というのが一般的なハードウェアですけど、僕らはIPがハードウェアになるような概念を提唱していきたいですね。

『電音部』というハードウェアがあって、そのうえでエリアや楽曲などのソフトを作って盛り上げたり、収益を上げたりしてもらう。そういう考え方もアリなんじゃないかと思います。

石田:そうなれば、想像もしていなかった『電音部』が出てくるんじゃないかと思います。もしかしたらミュージカルや演劇になるかもしれないし、AIになるかもしれない。全然わからないですけど(笑)。そういうふうに、予想だにしないことが起きて、それも『電音部』だよね、と受け入れられるようになってきたらおもしろいと思います。

『電音部』という世界はみんなで共通のものとして理解しつつ、それぞれがその世界を守りながら広げていくようなことができたら良いかな、と。

――本記事の最後に、これからの『電音部』への意気込みをお聞かせください。

石田:3周年という意味では、シナリオ第2部をがんばって作っていきたいと思います。今回お話した内容も大事ですけど、コンテンツ制作まわりも非常に大切な部分です。これまで以上に気合を入れてやっていくので、今後もよろしくお願いします!

子川:ここまでの約3年間でやってきたことは、『電音部』らしさの地盤固め、ブランディングになっていたと思います。これからは、その地盤を活かしてもっと多くの人を巻き込んでいきたいですね。今後の『電音部』にご期待ください!

『電音部』2022年の活動の舞台裏が語られた記事はこちら↓

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【編集後記】
公認のリミックスコンテストの開催やファン主導のイベントの積極的な受け入れなど、中央集権型のIP展開とはまた違った動きを見せる『電音部』。そこからもさらに一歩踏み出し、ファンやパートナー企業が独自の世界を描けるようにしていくというのはシンプルに驚きです。創作の場としてIPを開放するという手法がどのように実を結ぶかも楽しみです。そして、この動きがIP展開の方法として新たな「エリア」を拓くのではないかとも感じています!

村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのインタビューや攻略記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。

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