2021年3月7日、『DRAGON BALL』のオンラインイベント「DRAGON BALL Games Battle Hour」が全世界に向けて同時生配信されました。合計12時間を超える本イベントについて、前後編にわたり特集します。
担当者が語るイベントへの思い、舞台裏に迫ります!
2021年3月7日に行われた『DRAGON BALL』のオンラインイベント「DRAGON BALL Games Battle Hour」は、昨年から多くのリアルイベントが開催中止を余儀なくされる状況のなか、既存のリアルイベントの魅力を最大限守りながら、“世界同時生配信”という新たな試みを実現し、世界中の『DRAGON BALL』ファンが楽しめるイベントとして誕生しました。
イベント当日の様子をたっぷりレポートした前編に引き続き、後編となる本記事では、イベントのプロジェクトマネジメントを担ったバンダイナムコエンターテインメントの伊藤麻里さんと花井雄二朗さんにインタビューを行い、舞台裏でのエピソードやイベントにかけた思いについて伺います。
伊藤 麻里
第1 IP事業ディビジョン第1プロダクション1課
ビジネスサポート スペシャリスト
花井 雄二朗
第1 IP事業ディビジョン第3プロダクション1課
アシスタントマネージャー
観客の心を動かし、手に汗握るオンラインイベントを目指した
――まず、プロジェクトの中でお二人の役割について教えてください。
伊藤:私たちはプロジェクトマネージャーで、企画から準備・運営など幅広く担当しています。コアチームは私たちを含め5名でしたが、スタッフ全体ではバンダイナムコグループ内だけで100名を超え、さらにエージェンシーや海外のプロモーション、配信担当者として多数のスタッフが関わっていました。
――とても大きなプロジェクトだったのですね。
伊藤:このような規模の配信ですと、かなり多くの人手が必要ですね。英語配信を含めると7チャンネルもあり、テロップや演出も生配信で入れていましたから、かなりの人数になりました。
――プロジェクトはいつから始まり、どのように進んでいったのでしょうか。
花井:発足したのは2020年の3月です。新型コロナウイルス感染症の拡大が始まった時期で、世の中では日に日にリアルイベントが減っていきました。それでも私たちは、ファンの皆さんが求めるものをしっかりと提供したかった。だからこそ、プロジェクトが始まった当初は「どのようなニーズがあるのか」を徹底的に議論しましたね。
――そのうえで、どのようなコンセプトを掲げたのでしょうか?
伊藤:実現したかったのはファンの皆さんにとにかく楽しんでいただくことです。ファンの皆さんのニーズにおこたえし、満足いただくためには、ライブやグッズ展開、キャンペーンなど様々な施策が必要です。また、ユーザーが腕前を披露する場も必要だと思いました。たとえば大会やエキシビションマッチを開催すれば、スポーツの試合のようにファン同士が交流できます。
花井:現に、今回のイベントで取り上げた『ドラゴンボール ファイターズ』はこれまでも毎年大規模な大会が開催されていました。会場には何千人ものファンが集まり、隣同士で肩を組んで交流することができ、ファン同士が接することで、作品への愛情が深まるサイクルが生まれていたんです。しかし、感染拡大後はファンの皆さん同士のコミュニティの場も含め、リアルイベントの実現が難しくなってしまっていました。
伊藤:リアルイベントはファンの熱気がすごいんです。例えば「ドラゴンボール ファイターズ」の世界大会決勝戦では、セルが登場すると観客が一斉に登場ポーズに合わせて「ハァァァ!!!」と雄叫びをあげます。かめはめ波を打てばみんなが「かーめーはーめー波―!!!」と叫んでくれるんです(笑)。
――本当にすごい熱ですね。
伊藤:そうなんですよ! ファンの皆さんにはできる限りリアルな会場のように楽しんでもらいたかった。自宅で観戦しながら画面に前のめりになるような、試合に興奮して「うぉぉ!」と思わず机を叩いてしまうようなものを、皆さんに届けたかった。ファン一人ひとりの心を動かすために、関連するすべての運営側の1人1人に我々の実現したい事を丁寧に話し、多くの時間をかけて意識の統一をしました。それは技術側のチームであっても同様で、多くの時間をかけてすり合わせを繰り返しました。
リアルな会場に近い熱狂をつくるためにバーチャル会場を実装。さまざまな工夫を盛り込んだ
――今回はイベントの目玉としてオンラインアリーナが用意されましたね。ユーザーがそれぞれ自分のアバターを作り、バーチャル会場で観戦できる機能でした。これはリアルイベントの再現を意識していたのでしょうか。
花井:まさしくオンラインアリーナは、「どうすればリアル会場のように楽しんでもらえるだろう」と考えるなかで生まれたアイデアです。アバターの外見を自由に設定できるだけでなく、ファン同士で盛り上がれるよう、エモート(感情を表す機能)とスタンプも用意しました。
――かめはめ波やギニュー特戦隊のポーズ、フュージョンなど、多彩なエモートが用意されていましたね。スタンプも悟空やベジータなど主要キャラが揃っていて、とても賑やかでした。また会場には観戦ブースのほかに、名シーンを再現した撮影スポットやグッズの展示コーナーもありました。これはなぜ設置したのでしょうか?
伊藤:リアルな会場の雰囲気をファンの皆さんに味わってもらいたかったからです。大きなリアルイベントではさまざまなブースが用意されていて、来場者は「隣が賑やかだから行ってみよう」とブースからブースへ移動していきます。5つのチャンネルを用意したのも、「ブースのはしご」を再現したかったからです。
――ブースの数だけ楽しみ方が増える、ということですね。オンラインアリーナ以外にも、配信や演出面で多くの工夫が施されていました。「DRAGON BALL SUPER CARD GAME」のエキシビショントーナメントは演出も派手で、プレイしたことがなくても楽しむことができました。
伊藤:カードゲームの配信は囲碁や将棋と同じく、特に初心者の方々は対戦の流れが分かりにくいと感じる部分もあるかとも思いましたので、画面越しで初心者が見ても楽しい配信になるようにカード事業部と話し合いながら工夫をしました。選手の頭の中ではすごく高度な心理戦が行われているのに、カードに触れたことがない方には盤上で何が起きているか分かりません。
そこで、どのカードが何を攻撃しているか矢印でエフェクトを出し、攻防が発生した時はキャラクターを表示して対戦を盛り上げました。さらに、カードゲーム特有の心理戦は解説でカバーしています。選手の戦略が分かるよう、解説者には「なぜこのタイミングでこのカードを出したのか」「どちらが有利なのか」など選手の行動を全て説明してもらいました。
花井:全てのチャンネルで臨場感が生まれるよう意識しました。例えば選手の表情。勝って嬉しそうな表情、負けて悔しそうな仕草などを見逃さないように、一画面ですべての選手を映しています。
――画面で一喜一憂する選手の表情は印象的でした。そのような工夫の積み重ねがバトルの臨場感を生んでいたんですね。
全世界から届いたファンの「ありがとう」。ライブではコメント欄で合唱が起きた
――入念な準備を経て開催された「DRAGON BALL Games Battle Hour」でしたが、開催中に印象的なことはありましたか?
伊藤:ファンの皆さんのコメントがとても嬉しかったです。皆さん、SNSですぐコメントしてくださって。
花井:日本語でのコメントはもちろん、他国の言語で書き込まれたコメントを翻訳してみると「開催してくれてありがとう」「こんなイベントを待っていた」「またやってほしい」と温かい意見をいただきました。
伊藤:嬉しかったですよね。イベントを準備している間は「どうすればもっと満足していただけるだろうか」と探り探りで準備してきたので不安だったんです。けれど、SNSを見ると多くのファンが満足してくださっていました。ここはオンラインイベントの良いところですね。反応がすぐ目に見えるので。
――観客の熱気が運営側にも伝わってきたんですね。
花井:ハーフタイムショーの影山ヒロノブさんのライブもすごかったですよ。影山さんが『WE GOTTA POWER』と『CHA-LA HEAD-CHA-LA』を歌うと、ファンの皆さんが合唱するように、コメント欄に歌詞を打ち込んでくれたんです。コメント欄は埋め尽くされ、しばらくはスクロールが追いつきませんでした(笑)。
伊藤:テーマソングは国/地域や言語の垣根を超えて、誰もが歌えて一緒に盛り上がれるコンテンツです。でも、それができるのは世界的なヒット作だからこそ。改めて『DRAGON BALL』の人気を実感した出来事でした。
ジオラマ制作やゲームクリアチャレンジなど、地道な挑戦が続いた3つのサブチャンネル
――「DRAGON BALL Games Battle Hour」では大会やライブのほかに、プロデューサー陣が挑んだゲームクリアチャレンジや、ジオラマ制作などが配信されていました。こちらの反響はいかがでしたか?
伊藤:ゲームクリアチャレンジはとても好評でした。チャレンジ中、何度も海外のユーザーの皆さまから「がんばれ!」とコメントが届いて。想像以上に、プロデューサー個人に対する認知度がとても高いんです。海外でもゲームプロデューサーをリスペクトする文化が強いのを感じました。
――ジオラマ制作やゲーム画面のスクリーンショットを使ったモザイクアートチャレンジも見応えがありました。12時間で見事に作品が完成していて、ジオラマで再現された悟空と悟飯の「親子かめはめ波」には心躍りました。
伊藤:ジオラマを制作していただいた情景師アラーキーさんはすごい熱意で取り組んでくださり、「ファンの期待を裏切りたくない」と原作マンガも全巻読み直してくれました。運営サイドからは、モデリングの専門的な知識がなくても過程が分かるよう、材料や道具の解説をお願いしました。
――運営サイドや出演者のさまざまなこだわりが詰め込まれたからこそ、見応えのある配信ができたのですね。
オンラインの制約はある、けれどファンの期待を越えるコンテンツを届け続けたい
――「DRAGON BALL Games Battle Hour」は無事に初回を終えました。オンラインイベントの運営を経験して、そこから学んだことや気づきを聞かせてください。
伊藤:基本は変えず、ファンの皆さんにより満足いただけることを目標にしていきたいです。とはいえ、もっと工夫できることはあると思っていて。リアルなイベントのように、ファン同士が「今のライブや試合はすごかったよね!」と体験を共有できる機会をもっと増やすため、努力を続けていきたいです。
――リアルイベントに比べるとオンラインイベントは制約も多いと思います。どうすればオンラインでファン同士が体験を共有できるのでしょうか?
伊藤:まだ明確な答えはありませんが、やりようはあるはずです。例えば「ファン同士が肩を組みたくなる状況ってなんだろう?」と突き詰めれば、それに代わる仕組みを生み出せるはず。ファンの心と心が繋がれる仕組みと場を提供すれば、きっと新しいエンターテインメントが生まれるはずです。
花井:期待を超えるコンテンツや体験を提供し続けられれば、ファンの皆さんはきっとゲームのみならず作品を好きでい続けてくれるはず。ファンの愛情が深まるよう、良い循環を生み出していきたいです。
――最後に、「DRAGON BALL Games Battle Hour」をご視聴くださった方へ向けてメッセージをお願いします!
伊藤:私たちからは「楽しんでくださってありがとうございます」としか言えないです。『DRAGON BALL』は版権元様やファンの皆さんをはじめ、さまざまな方の存在で成り立っている作品です。私もファンの一員として、一緒にこの作品を楽しんでいけたらと思っています。
花井:私からも「ありがとうございます」と伝えたいですね。加えて、ファンの皆さんには、色んなご意見を頂ければ嬉しいです。こんなことがしてみたい、こんな楽しみ方があると伝えていただければ、もしかしたら実現できるかもしれません。その過程も一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
前編では、終始ファンの熱気で包まれたイベント会場の様子を詳しくレポート!
「DRAGON BALL Games Battle Hour」レポート:
全世界のファンが熱中したオンラインイベントの全容
前編はこちらから!
取材・文/鈴木 雅矩
1986年生まれのライター。ファミコン時代からゲームを遊び、今も毎日欠かさずコントローラーを握っている。