エンタメ企業の法務知的財産部で働くという選択肢。活躍の場は業界全体、そして世界へ!【SPOTLIGHT】

第9回となる【SPOTLIGHT】シリーズでは、バンダイナムコエンターテインメントの法務知的財産部マネージャーで弁護士でもある瀧本咲希さんに焦点を当てます。

「ゲーム実況ポリシーの制定は、YouTubeでゲーム実況動画を楽しんでいるメンバーがいたから、ファンの思いを汲み取ることができたのだと思います。」

民間企業に就職しますが、一念発起して司法試験に挑戦。弁護士として法律事務所に勤めた後、自分の人生に影響を与えてくれたエンタメ業界に関わりたいとバンダイナムコエンターテインメントに入社します。

インタビューは、リトアニアで毎年開催される、ゲーム業界の法務担当者が集まるカンファレンスから帰ってきたばかりのタイミングで行われました。

瀧本さんのお話から見えてくる、外交的で、事業側と並走する法務部の姿とは? 

エンタメ企業において法律の専門家たちが果たす役割を伺います。

【SPOTLIGHT】とは?
ファンファーレ編集部が、今気になるバンダイナムコエンターテインメントの社員に話を聞く連載企画。仕事に取り組む社員の素顔に【SPOTLIGHT】を当てて、これまでの経験や思い、本人のキャラクターを紐解きます。本シリーズを通して、これからのエンターテインメントが作る未来を照らします。

「法務」というと、リスク回避やガバナンス強化のためにブレーキをかける役目がイメージされがちです。ところが、バンダイナムコエンターテインメント法務知的財産部のマネージャーが語るのは、グローバルな目線も踏まえてファンがより安心して楽しめるように事業側と並走してサポートする役割でした。

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瀧本 咲希

バンダイナムコエンターテインメント
経営管理室 法務知的財産部 マネージャー

弁護士。民間企業に勤めた後、退職して法科大学院に通い司法試験に合格。現在、バンダイナムコエンターテインメントの法務知的財産部でマネージャーを務め、マネジメントや法律相談などに携わる。エンターテインメントユニット デジタル事業の事業統括会社としてグループ会社の法務もサポート。株式会社バンダイナムコ島根スサノオマジック 監査役。株式会社ディースリー・パブリッシャー 監査役。

次々に誕生するビジネス領域で、グローバルなリーガルサポートを行うプロ集団

――まずは、バンダイナムコエンターテインメントの法務知的財産部がどのようなお仕事をしているか教えてください。

瀧本:ゲームや各種サービスに関する業務委託の契約書や、自社IP(※1)を取引先さまに貸し出す際の利用許諾契約書、逆に他社IPをお借りするための契約書の作成やチェック、各種サービス・施策にまつわる法律相談対応が業務としては一番多いです。私は管理職として、業務全般のマネジメントをしています。

瀧本咲希

瀧本:弊社が提供している事業はゲームにとどまらず、ライブイベントやスポーツビジネスなど非常に幅広いのが特徴です。

また、グローバルに展開しているため、日本の法規制だけではなく、世界中の法令や政府の動き、判例・裁判例に照らして検討する必要があります。高水準のサポートを安定して提供できるスキーム構築に注力している最中です。

※1 IP:Intellectual Property=キャラクターなどの知的財産

――法改正や重要な判例等が出ることで、それまでの相談傾向にも影響を及ぼしそうですね。

瀧本:そのとおりです。例えば、最近では個人データの取り扱いです。世界的なSNS企業で、個人データの取り扱いが不適切だったとして数千億円規模のペナルティ(罰金)が課されるケースが発生しています。事業そのものに影響を与えるため、慎重に進める必要があるんです。

また、ブロックチェーンゲームなど新しいビジネス領域においては、今までにない法的問題の発生が予想されるだけでなく、法整備が追いついていない状況があります。そのなかで、何を守らないといけないかを論理的・合理的に説明することはけっこう大変です。

プライバシー周りの相談以外にも、知的財産、ゲームマネタイズ、AI、未成年者保護などさまざまな論点があります。日本だけではなく、海外の状況やプレーヤーの動向も把握して「こういうやり方ならできます」とアドバイスするため、常にニューストピックにアンテナを張っていますね。

日々、業務が変化する。ハードですが刺激的な毎日です!

――拡大する業務領域をサポートする人材がますます必要になりますね。

瀧本:個人データの取り扱いが厳しくなったのは2020年ごろからです。配慮しなくてはいけないことが増えたため、社内の法律相談件数がおよそ3倍になりました。

年々事業を拡大しているのに加えて、他社とのアライアンスや異業種間のビジネスも増えています。

そのほかの分野でも法改正は毎年行われますし、弊社はエンターテインメントユニット デジタル事業の事業統括会社なので、ほかのグループ会社の法務も、弁護士法などに配慮しながら幅広くサポートする必要があります。

現在(2023年10月時点)弊社では、変化が激しいエンタメ業界でスピード感をもって働ける法務経験者を募集中です。

「死ぬ前に挑戦しないと後悔する」――仕事を辞めて司法試験にチャレンジ

――それでは、瀧本さんが弁護士になり、バンダイナムコエンターテインメントに入社した経緯を伺っていきたいと思います。

瀧本:大学を卒業して民間企業で働いていましたが、ある日『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』というマンガを読んだことが、人生のターニングポイントとなりました。実際に起きた事件を題材にしているのでリアリティがあり、夢中になって全巻を一気読みしたんです。そして興奮冷めやらぬまま、徹夜状態で裁判所へ傍聴に行きました。

瀧本咲希

――もの凄いエピソードですね! なぜそのマンガを手にしたのでしょう。法曹界への憧れのようなものがあったのですか。

瀧本:そうですね……思い返せば小学生の時から、図書館にあったFBI捜査官に関する本が好きでした。高校生の頃、検事を主人公にした人気ドラマ『HERO』の影響で、法曹という職業に興味をもったこともあります。ですが、司法試験の勉強は大変そうに思ったので、企業に就職したんです。

そのマンガを手に取ったのは、封印していた法曹界への思いが頭をもたげた瞬間だったのかもしれません。当時の仕事は、専門性がある業務とは言い難かったんです。自分のどこかに、知識や経験に基づいて“その人にしかできない仕事”をしていないことの不安があったのでしょう。

傍聴席から仕事に向き合うプロフェッショナルたちの凛とした姿を見て、法曹界への思いが溢れてきました。「死ぬ前に挑戦しないと後悔する、やろう!」。直感的にそう思って。それまで勤めていた会社を辞め、貯金を崩し奨学金も利用して、法科大学院へ通った末に弁護士となりました。

民藝も好きなので、巡り合わせによっては家具職人を目指していたかもしれません。

日本企業では珍しい外交的な法務? 国内外でゲーム業界の法律関係者と意見交換をする

――エンタメ企業法務のスペシャリストとして、やりがいを感じるのはどのような時ですか。

瀧本:タフな交渉が必要な案件も多いのですが、それをチームや会社全体で乗り越えた時は達成感がありますね。例えば、あるゲームの契約交渉は2年半もかかりました。あまりに難航したので、正直「もうダメだ……」と弱気になったことも。

諦めずに続けられたのは、上司や部下が「こう交渉したらどうか」とアイデアをくれたり、関係する部署と打ち合わせを重ねたりして進められたおかげだと思います。

あとは、ロースクール時代に弁護士の方から言われた「明日やれることは今日やらない」という言葉があったからですね。

100%で頑張り続けると、いつか折れちゃうと思うんです。私の経験上も、100%の力でやったからといって100%のアウトプットが出るわけではなかった。できない時はそれを受け入れる柔軟さが、根気良く続けるために重要だと思っています。

――製品やサービスの裏には、法務メンバーのサポートがあるのですね。

瀧本:2022年に弊社がゲームの実況ポリシーを制定したのも、ファンの皆さまに安心して楽しんでいただきたかったからです。2019年に着手してから、社内調整などにかなりの時間を割き、何度も議論を重ねて完成させることができました。これも他の法務メンバーや他部署によるサポートがあって達成できたことです。

先行して実況ポリシーを発表していた他社のご担当者さまと面識があったので、ポリシーを発表するに至った経緯を伺い、参考にさせていただきました。

さまざまな調整で苦労はしたのですが、SNS上で弊社の取り組みを評価してくださる声を見つけた時は、「喜んでいただけて良かった」と熱いものが込み上げてきましたね。

――他社のご担当者と交流があったとのことですが、社外の法務関係者と出会う機会はあるのですか。

瀧本:弊社の特徴の一つかもしれませんが、積極的に社外の法務関係者と交流をしています。毎年リトアニアで開催される法律カンファレンスにも参加して、各国ゲーム業界の法務担当者と業界に関連する法律、判例、ニュース、課題などについて情報共有や意見交換をしています。このようなカンファレンスに、日本から参加するエンタメ企業は珍しいようです。

リトアニアで行われた法律カンファレンス(FY22)に登壇する瀧本咲希
リトアニアで行われた法律カンファレンス(FY22)では、“日本の法曹業界とゲーム業界”というテーマでプレゼンした(※バンダイナムコエンターテインメントのロゴは旧ロゴです)

昨今、各国の情報を効率よく得て、業界全体でスピード感ある対応をすることが望まれています。そこで、今年(2023年)も弊社が主催となって、VGLC(Video Game Law Conference Tokyo)というカンファレンスを11月に開催予定です。

国内外を問わずゲーム業界関連の法務担当者や弁護士を対象とした日本初のゲーム業界の法律カンファレンスで、有益かつ実践的な情報を提供することに重点を置いています。

――法務のお仕事は社内や国内にとどまる印象がありましたが、かなり外交的なのですね。

瀧本:そうですね。バンダイナムコグループ内でも1年に1回リーガルサミットを開催し、海外グループ各社の法務間でトレンドトピックスを共有しています。オンラインミーティングも定期開催していますが、対面でのコミュニケーションを大切にしています。

リトアニア出張では、「現地でプレゼンをして!」と羽田空港で言われ、機内で必死に準備(笑)。なんとか乗り切ることができました。

――出張に行ったり、業務の幅が広がったりとお忙しい中で、法務知的財産部の皆さんはプライベートとの両立をどのようにされていますか。

瀧本:たしかに、人材募集をしているようにリソースが増えてほしいと思う状況です。しかし、休みが取れないかというとそうでもありません。リフレッシュ休暇や育児休業など、男女問わず、かなり取りやすい環境にあります。

子どもが生まれてから、時短勤務でなくとも18:30には業務を終了する社員も。フレックスタイム制で朝早めに仕事を開始するシフトに変更するなど各自の裁量でライフスタイルに合わせた働き方ができるので、パフォーマンスはむしろ向上しています。時間の融通が効きやすいのは利点ではないでしょうか。

瀧本咲希

蓄えた専門知識で挑戦し、事業側と並走する

――バンダイナムコエンターテインメントの法務知的財産部にはどんな方がいらっしゃいますか。

瀧本:いろいろなタイプのメンバーがいますが、アニメやゲーム、マンガなどのエンタメ好きが多いですね。さきほど話したゲーム実況ポリシーの制定は、YouTubeでゲーム実況動画を楽しんでいるメンバーがいたから、ファンの思いを汲み取ることができたのだと思います。

私自身も、もともとマンガやドラマ、スポーツ観戦が大好きです。島根スサノオマジックの監査役になったことで、バスケットボール観戦という楽しみが新たに加わりました。

出雲大社がある島根では、偶然の出来事を「ご縁」と言うんです。このような「ご縁」をいただけたのも、弊社がスポーツビジネスなど、広い領域でビジネスを展開しているからですね。

いちエンタメ好きとして目の前で起きていることの本質をつかんでこそ、事業側と並走して、ファンに支持される製品やサービスを届けられるのではないでしょうか。

瀧本咲希

――リスクの説明など「ブレーキ」的なお仕事をイメージしていましたが、ファン目線も併せ持っているのですね。

瀧本:もちろん、ビジネスにおいてリスク回避やガバナンス強化は必要です。でも、それだけではなく、業界トレンドや世界の状況に合わせて、時にビジネスを加速させる「アクセル的」な役割を果たすこともできるんです。先ほどお話ししたゲーム実況ポリシーの制定は、まさにこの役割による成果です。

エンタメ業界は、目まぐるしく変化しています。国内外でのリーガルリサーチ(法律調査)や知識習得は欠かせませんが、身に付けた専門性で業界や世界を牽引できる仕事です。弊社では海外出張があり、各国の法務担当者と積極的に交流しているので、語学力や専門性を高められる環境もあります。

成長するビジネス環境に身を置き、自分の世界を広げたいという方をお待ちしています!

【あなたは未来のエンターテインメントをどのように照らしますか?】
瀧本:世界に誇る日本のゲーム、マンガ、アニメなどコンテンツの提供を継続し、事業成長を叶えられるよう、攻守を見極めながら、お客さまを夢中にさせるサービスの提供を後押していきたいです。

バンダイナムコエンターテインメントで働くことに興味のある方はこちらをご覧ください。

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【取材後記】
弁護士、法務という言葉から「厳粛な」イメージを抱いていましたが、瀧本さんはさまざまなエピソードを快弁にお話しいただけました。強さとしなやかさを併せ持つ方だからこそ、法規制すらない新領域で、行く先を灯すことができるのだと思います。

エンターテインメントは日本が世界をリードできる事業です。瀧本さんのような根っからのエンタメ好きでプロフェッショナルな方が、強いチームを作り、盤石なリーガル体制でサポートすることで、世界中のファンを熱狂させる製品やサービスが世に送り出されると感じました!

取材・文/小林純子
長野県出身。航空会社CA、監査法人コンサルタントを経てフリーランスライターに。キャリアコンサルタントの資格も有する。CAの接客スキルと監査法人のビジネススキルを活かしたインタビュー記事が多い。旅と読書が好き。各停の電車でのんびり読書をするのが至福の時。北欧で見た夜空を舞うオーロラの美しさが忘れられない。

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